第21話


 前を攻略班が歩き、俺たちはその後ろをついていく。

 だが、先程からルファンが不安そうにちらちらと前に視線を向けている。


 その理由は簡単だ。

 ……俺たちを守る人がいないのだ。

 本来、荷物持ち班の後ろに二名くらいはつけるものなのだが……イソルベがそのような指示を出すことはない。


 一応、ギルド職員も言っていたと思うんだけどな。

 忘れているのだろうか?

 まあ、いざとなれば俺は戦えるからいいんだけど、ルファンたちは不安を抱えたままになるだろう。

 一度でもゴブリンと交戦して俺が自衛程度はできると分かれば、ルファンたちの不安も払拭してやれるかもしれない。


 ……一番は、攻略班の人たちが気付いてくれることなのだがイソルベにお願いするつもりはない。彼のように自尊心が高い人間に指摘をすると、面倒なことになりかねないし。

 第一、後ろについた人もぶつぶつ文句言ってきそうだしな。


 集団はどんどんと進んでいき、ギルドが定めた第二層区域に突入する。

 途中何度かゴブリンとの交戦もあったが、攻略班がぼこぼこにしてくれたので問題なかった。


 そんなことを考えながら歩いていたとき、再び魔物が出現してきた。

 第一層とは違い、ゴブリンは六体も出現した。その内の二体が俺たちの背後へと現れた。

 第一層はゴブリンも一~三体程度しか出てこないが、ここからは三~六体ほどで出てくる。


「い、イソルベさん! こっちにも魔物が!」


 ルファンが悲痛な叫びをあげ、助けを求めたが、


「ああ!? 自分の身くらいは守れよ!」


 ……ええ。

 イソルベが怒鳴りつけ、前方にて交戦を続ける。

 前のほうにも四体のゴブリンが出たので、そちらの相手に忙しいようだ。

 後ろに現れた二体のゴブリンはじりじりとこちらによってきて、ルファンとミーナが逃げるように後退する。


「あぐ!?」


 その時、ルファンは何かに躓いたようで転んでしまう。

 ゴブリンたちは馬鹿にするようにケラケラと笑って、さらに近づいてくる。

 隙だらけだ。


 やはりGランク迷宮なだけはある。魔物は目の前しか見えていないようだ。

 荷物をその場に置いた俺は、すぐに左腰に差していた剣の柄を握り、走り出す。


 そして、【ブラッドレンジ】を発動する。

 振りぬいた剣から黒色の衝撃波が放たれる。


 一撃で二体のゴブリンを仕留めた俺は、鞘へと剣を戻した。


「す、凄い……」


 驚いたような声はルファンから漏れたものだ。

 転んでいた彼に手を差し出す。


「怪我はしてないか?」

「う、うん……助かったよ」

「悪いな。確実に倒すために囮みたいに使ってしまって」

「そ、それはいいんだけど……凄いね。君も戦えるんだ」

「まあ、そこそこは」


 俺は確かに再効率でステータスを強化してこそいるが、だからといって上を見ればキリがないほどに下位の存在だ。

 こんな魔物を倒せたぐらいで調子に乗っている暇はない。

 荷物を置いた場所へと戻ると、攻略班の戦闘も終わっていた。……まったく。もっと早く倒してこちらへ助けに来てくれればいいのに。

 イソルベたちも後ろのゴブリンが倒されていることに気づき、訝しげな視線を向けてきた。


「なんだよ。後ろに出たゴブリンは弱かったのか?」

「まあ、そうみたいですね」

「てか、誰が倒したんだ?」


 イソルベは俺が戦っていたのを見てはいなかったようだ。彼の視線を受け、ルファンとミーナが俺を見てきた。


「俺です」


 答えると、イソルベを含め全員が笑った。

 

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