第83話




 小さな一軒家を見上げ、私は頬をばちんと叩いた。

 ここは『仮面の英雄』のクランハウスであり、ダムマイアー家の屋敷でもあった。

 昔は大きな屋敷を持っていたダムマイアー家だったけど、あんまり評価されなかったこともあって、どんどんお金が厳しくなっちゃって、今はこの小さな屋敷で過ごしていた。


 私が入口の扉を開けると、からんからんと鈴が鳴った。


「あらいらっしゃ――って、オルエッタ? どうしたのかしら?」


 扉を開けて私は驚いた。

 そこには、体調を崩して休んでいたお姉ちゃんが赤い顔のまま装備に身を包んで依頼書と睨み合っていたから。

 一瞬、「あっ、元気になったんだ!」と思ったけど、そんなことない……っ!

 だって、まだ顔が赤いから。


「お姉ちゃん! なんで休んでないの!?」

「……休んではいられないわ。まだ、うちのクランを信頼して依頼を出してくれている人もいるの。……行かないといけないわ」


 畳む、とは言っていたけど、お姉ちゃんだって可能性を模索していないわけではないんだと思う。

 『仮面の英雄』もダムマイアー家も。

 私たちにとっては大事な守るべきものだから。


「駄目だよお姉ちゃん! 休まないと! また体調が悪化しちゃうよ!」

「でも、せめて最後に依頼をしてくれた」

「それは私がやるから!」

「……え?」

「私、ちょっとの間お暇をもらって今のパーティーからは離れたんだ。お姉ちゃんが元気になるまで、私がこのクランを守るから!」


 私が自由に冒険者としてレベル上げをしていたのは、成長してダムマイアー家とこのクランを支えるためだ。

 お姉ちゃんは私のステータスが優秀なほうであると理解していたから、少しでも成長できるようにと私を自由にしてくれたんだと思う。

 だから、今こそその力を発揮しないと。


「そんな……あなたには、あなたの時間があるのよ」

「私にとって大切な時間は、お姉ちゃんのためにもあるのっ。だから、お姉ちゃん……お願いだから休んで。……もう私とお姉ちゃんしかいないんだから」


 この世界に、血の繋がりがあるのはもう私とお姉ちゃんしかいない。

 お父さんも、お母さんも……何とか家を盛り返そうと無茶をして、体を壊してしまった。

 同じように、お姉ちゃんも失うのは嫌だった。


「……分かったわ。ごめんなさい。そうね……私もあなたのことは大切だわ。だから……お願いしてもいい?」

「うん、分かった。この魔物の討伐だけでいいの?」

「……ええ、そうよ。でもきをつけてね? 相手はDランクの魔物よ。かなり、手強いわ」

「任せて! 私、強くなったんだからね」


 ばちんと胸を叩き、それから私は依頼の詳しい流れについて確認する。


 ふんふん、魔物を討伐したら魔石と討伐証明部位をちゃんと持って帰る必要があるんだ。

 その後、依頼書と一緒にギルドへと持っていけばいいみたい。

 初めてのことにちょっとワクワクしていると、お姉ちゃんに驚かれる。


「……オルエッタ。依頼とかって受けてないの?」

「うーん……迷宮の攻略とかはしてたけど、それ以外はしてないかな?」

「え!? 迷宮攻略に参加していたの!?」

「うん」

「……それって、やっぱり荷物持ちで?」


 私は自分とレウニスさんの冒険を思い出す。

 ……確かに、荷物持ちみたいな部分はあったかな?

 実際、道中は【女帝の威光】を使ってあとはレウニスさんがほとんど戦っていただけだし。

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