第32話


 振りぬいた一撃は、黒いホブゴブリンの手首を切り裂き、その首を跳ね飛ばした。


 噴き出した血をかわすことはできず、俺は顔を覆う程度でどうにかやりすごす。

 体にかかる血が収まったところで手をどけ、眼前を見る。


 そこには首をが取れた死体だけが残っていた。やがて、ゆっくり溶けるようにして黒いホブゴブリンの体は消滅していった。

 

 後に残っていたのは魔石と、ネックレスだ。

 手に持ってみると、ホブゴブリンのネックレスと書かれていた。

 ユニーク化したとはいえ、ドロップアイテムの名前はそのままなのか。


 どのような効果があるかは、鑑定系のスキルを持つ者に調べてもらう必要がある。


 俺は剣を鞘にしまい、その戦利品を握りしめる。

 

 ――始まりだ。

 前世の俺では獲得できなかった勝利。

 それを、俺は初めて経験した。

 変えられる。変われるんだ。

 それなら、


「……未来だって、変えてやる」

 

 ネックレスを握りしめ、友の悲惨な未来を思い浮かべる。

 意識がふっと緩み、俺は倒れそうになる。

 その体が何者かに支えられる。

 かすんだ視界に映ったのは、血相を変えたルファンとミーナだった。


「よかった、無事かい!?」

「あ、ああ」

「すぐに止血するからね! 待っていて!」


 左腕は怪我をしたままだ。よく見れば、出血もある。

 いくら【根性】で耐えられるとはいえ、俺の肉体までも同じように耐えきれるかどうかは別の問題だ。

 戦いが終わると、興奮状態もなくなって途端に全身が痛みだす。

 

 俺の体、こんなにボロボロになっていたのか……なんて他人事のように考えていると、ポーションをかけられた。

 それで、出血は治まったが、痛みは残っている。

 下級のポーションだし、これが限界のようだ。

 それから、包帯で縛ってもらう。


「二人も怪我はないか?」

「うん……キミのおかげでね」

「それなら良かった」


 俺はそう答えてから、目を閉じた。




 僅かに休憩を挟んだ後、俺たちは迷宮を脱出した。

 ボスモンスターを倒せば、迷宮内に魔物は出現しなくなるため、帰りはそう時間もかからず戻ることができた。


 迷宮から出ると、外は明るかった。時計を見ると、昼だった。

 軽く伸びをしていると、こちらに武装した男性たちが向かってきていた。

 何者だろうか? そう思っていると、彼らは慌てた様子でこちらを見てきた。


「き、キミたちは……まさか迷宮攻略に共に入った荷物持ちの人たちか!?」

「うん、そうだけど……えーと、あなたたちは誰ですか?」


 ルファンが首を傾げると、先頭にいた男性が安堵の息を漏らした。


「僕は、『ハンターブロー』の冒険者のルーベルクです。、ギルドからの依頼で迷宮攻略に来ました。リーダー、イソルベ率いるパーティーが失敗に終わったためなのですが――」

「あっ、そうだったんですね。えーと、そのどこからどう説明すればいいか……」


 ルファンは頬をかきながら、一つ一つ丁寧に説明をしていった。

 ルーベルクは、驚きながら俺をちらちらと見て、頷いていく。


「……な、なるほど。それにしても、ユニーク化したホブゴブリンをキミが一人で仕留めたとは……にわかには信じがたいな」

「まあ、信じるかどうかはともかくとして……俺もかなり疲れているんでできればあとの話は街に戻ってからでもいいか?」


 俺としては早いところ横になりたかった。

 俺の提案にルーベルクは頷き、何名かを迷宮に向かわせる。

 彼らはスキルを用いて迷宮が攻略されたかどうか調べに行ったのだろう。


 どちらにせよ、すぐに合流できると踏んだのかルーベルクは俺たちに並んだ。

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