第2話 魔獣のあかちゃん育成会議



 担任の先生が教室を後にしたのち、机の上に居る魔獣の赤ちゃんとにらめっこしながらユリに疑問を投げかけた。


「そういえば、魔力の供給ってどうやるんだ?」


 そう問い掛けたが、言葉を返したのはいつの間にか近寄って来ていたナオミだった。

 振り向けば後ろに立っていた彼女が腕を組んでいて、溜息を吐いていた。


「はぁ……あんた、魔獣成長は詳しい癖にそんな事も知らないの!?

 形を作る前の魔力をそのまま魔獣の魔石に流し込めばいいだけよ」


 なるほど。兵装の様に変化させずに純粋な魔力を出せばいいのか。


「おい、お前魔獣に詳しいのか!?」


 よく質問をしていた生徒が立ち上がり大きな声を出した。

 その所為で大勢の視線がこちらに向く。

 俺は天を仰いだ。


「全然詳しくないぞ。育成に関してもド素人だ!」


 本当に素人なのだから、話を聞きに来られても困るとこちらも多少大きな声で否定した。

 その甲斐あって大半の生徒は帰り支度に取り掛かった。

 知り合った者同士、声を掛け合い教室を後にして行く。

 ユリはどうするのかなと視線を向けていれば、彼女もこちらに顔を向けていた。

 途中まで一緒に帰ろうと声を掛けようと思ったのだが、数人の男女でグループを組んでいる奴らに声を掛けられた。


「なぁ、暇なら親睦を兼ねてここで魔獣育成の対策会議でもしないか?」


 確かにこの可愛い生き物を愛でられるのはそう長くないだろうし、手間をかけるなら可愛いうちの方がいい。

 俺は特に問題はない。ユリに視線を送ってみれば彼女も頷いていた。

 ならば断る理由もない。


「それはありがたいけど……俺、本当に知らないよ?」

「ああ、大丈夫。聞いてた。けど人数多いほうが知恵も出るだろ?」


 彼はそう言って自己紹介を始めた。

 声を掛けてきた彼はヒロキで、その隣に居る女の子がアミ、二人は兄妹だそうだ。

 兄妹で二人ともAクラスに入るなんて凄いな。貴族じゃ無さそうなのに。

 この世界は平民は和風の名前を付ける風習があるから恐らく合っているはず。 


 この対策会議の輪にはあと二人居る。

 品行方正そうなアキトという少年と、腕を組んでむすっとしているのはナオミだ。

 こちらは俺たちと同じく今日が初対面の様子。


 俺がナオミと会話していたから話しかけ易かったのだろうな。

 そうして自己紹介が一段落して俺たち六人は肩を寄せ合う様に座り、机の上に魔獣の赤ちゃんを並べた。


「取り合えず、名前付ける?」

「えっ? でも、付けちゃっていいのかな……」


 アキトがした提案にアミが疑問を投げた。そこで一同の顔がへの字に曲がる。

 どうせ成長したら取り上げられるし、愛着が沸きすぎるのも問題だと懸念して。


 とはいえ必要だろう、と口を開く。


「俺は付けるべきだと思うよ。叱るときも褒める時も必要だろ?」

「えっ……人を襲わない様にするんだろ? 超可愛がれば良いんじゃないの?」


「いやいや、それこそダメだろ」そう言って回りを見渡せば、どうやら皆は俺の方に驚きの視線を向けている様子。


「ちょっと待ってくれ。

 褒めたり叱ったりしてちゃんと教え込まなきゃ、子供のまま大人になっちまうぞ?

 従魔になれるという事は一応は知性ある生き物でもある。

 小さい頃から躾けておかないと危険だと思う」

「そっか。アミと一緒か……」

「はぁ? こっちのセリフだけど!!」


 ヒロキの呟きにアミがキレて笑いが走った。

 そう言えばユリが黙ったままだな。ちょっと話を振ってみるか。


「ユリはどう思う? 偉そうに言ってみたが、俺も素人だからさ」

「問題無いと思います。調教師の人はかなり激しく叱りつけますから。

 叱られる必要が全く無いくらいにしてあげないとこの子が可哀そう……」


 おお。俺より詳しい子居るじゃん。


「俺の人選に狂いは無かった」

「待ちなさい。声を掛けたのは私よ!」

「そんな事より話し聞こうよ……」

「ユリさん、躾ってどういう風にやってた?」


 彼らは功績の奪い合いをしたのち、早くもグループの中の良心的存在になりつつあるアキトが彼女に本題を問い掛けた。


「ええと……鎖で繋いでムチで叩いてました。鳴き方が呻き声に変わるまで……」


 その最後の一言に絶句した。


「まああれだ。伏せさせたり、指示した通りに歩かせたりと訓練すれば大丈夫だろ」


 うん。要は馬の代わりが出来れば良いのだ。そこまで高等な事を仕込む訳じゃない。

 そう思って言ってみたのだが、返ってきたのは渋い顔だ。ナオミなど、魔獣の赤ちゃんを泣きそうな目で見つめていたと思ったらキッっとこっちを睨みつけた。


「そ、そんなのどうやって躾ければいいのよ。お手本見せなさいよ!」

「そんな事言われてもなぁ。伏せって言いながら無理やり座らせるのをくりかえしたりして従った時褒めてやればいいんじゃないの?

 後は名前呼んで来たら褒めてやったり……」

「なるほどな。これからどうするかと思っていたが、少しは先が見えて来たな」


 そこから特に意味のない雑談へと切り替わっていく。

 どうやら俺たちは彼氏彼女に思われていた様なので柔らかく否定したりする一幕を挟み、将来の展望などを話し合った。


 ヒロキは一攫千金狙うハンター。

 彼は俺と考えが近い。冒険をしたいお年頃の男の子的な願望を語った。


 アミは玉の輿を狙っているらしい。

 ここの裕福層の男とお近づきになってそのまま結婚して楽な生活をしたいと言う。

 金持ちは金持ちで貴族層とも関わるだろうから楽じゃないと思うが……


 ナオミは自分のお店を持ちたいと熱く語った。

 予想外な事に飲食店、料理人だ。

 それならハンターにならなくてもと言ってみれば、色々な所に行って色々な魔物の肉で料理修行をしたいし、開店の為の軍資金も必要だからと返ってきた。

 ヒロキから「買えば良いじゃん」と突っ込みを受けたが「売ってない魔物の肉も全て一度は料理してみたいのよ。他の町の料理屋とかも気になるし」と語る。

 確かに町の移動は護衛を雇わなければならないので金がかかる。

 自分がハンターに成ってしまう方が理に適っているな。


 アキトは実家の家計を支える事だ。

 兄弟が多く、元々貧乏だからと寂しそうに笑ったのが印象的だった。

 立派な事だと思うが、苦労も多いだろうな。


 そしてユリの番になる。

 彼女は何を目指しているのだろうか。

 全員の視線が集まると、彼女は俯き顔を隠す。

「ほらほら言っちゃえよ」とヒロキから催促が飛ぶと彼女は小さく呟く様に言葉を返した。


「――ぃきょうのハンターの……です」

「えっ? なんだって!?」


 本当はギリギリ聞き取れていた。

 だが、彼女が言うには違和感しか感じない言葉だった。


「最強のハンターのお嫁さんになる事です。

 ははは、こんな見た目で何いってんだって感じですよね……」


 自傷が混ざっていて、叶いそうに無い事わかっていると気落ちしていた。


「まあ相手次第だが、不可能ではないと俺は思う。

 それならもう少し飯食って肉つけないとダメだな。

 細いのは良いが、ガリガリはダメだ。

 後は前髪を切って顔を出すべきだ。まあ、これは肉が付いてからでもいいが……」


 反論を待たずにユリに向ってまくし立てた。元々言いたかった事だ。

 こんな話が出た今ならば不自然は無い。 


「へぇ、ルイ君は顔見たことあるんだ。なんか、私も見たくなってきた……」

「そうね。隠されると見たくなるわね。勿体振ってないで見せなさい!」


 手をワキワキしながら這い寄る二人を静止して言葉を続けた。


「無理やりはダメだって。出来るだけそうなるように促すの。

 って、それも本人を前に言う事じゃないか」

「ううん、あ。ありがと。そ、その……本当に変だと思ってないの?」

「確認したいなら、手頃な相手が目の前に居るけど……?」


「う、うぅ……」と尻込みをしつつも彼女は少しだけ髪を掻き分け片目を見せた。

 見せろと這い寄っていた二人は驚いた風に目を見合わせ、ユリにジト目を送る。


「何でそれで隠すの?」

「あれね? 注目させる為に今まで引っ張って居たんでしょ?」


 二人の反応がちょっと思わぬ方向へと進んだ。

 ヒロキやアキトもなるほどと言わんばかりに納得している。


「待て待て。彼女が気にしているのは目じゃない。眉毛だ。

 俺は可愛いと思うが、気にしてるみたいなんだ」


 と、二人に訂正を入れれば「あー」と一応の納得を示した。


「確かに独特だけど、別に気にするほど変じゃないわよ?」

「うん。そこを気にしてるって気が付かなかったよ」

「ほ、本当? 本当に本当?」


 キョロキョロと全員の顔を見回して、深呼吸を一つしたユリ。


「わ、わかった。じゃあ、怖いけど……切ってみる」

「ちょっと待て。どうせならもうちょっと引っ張ろうぜ?

 肉付けてからのほうが良い。

 その方が『えっ!? この子こんなに美少女だったのか!?』ってなるだろ?」

「あー、ユリも玉の輿狙っているのだものね」


 そう言われてみれば、アミと被っている。彼女の方へと視線を向ければ『あちゃぁ』と言わんばかりの顔をしている。


「た、玉の輿ではないです。

 その、最強クラスの人じゃないとダメなだけなんです」

「なるほど。お金持ちを狙うのではなく、戦う能力があれば良いのだと……」


 アキトのフォローにコクコクと頷くユリ。

 ヒロキが「何でだ?」と問い掛けた。


「それは、その……親の言い付けというか、何というか。

 あ、因みに後ろの席の人たちは除外です。あれは色々と無理なので……」


 なるほど。そっちにアピールしないでくれと言う事だな。

 いや、アミに対する言葉かもしれない。バッティングはしませんよと。


「べ、別にいいよ?

 私も思っていたのと違ってたし……ああいうのを旦那にしたら疲れそう」


 アミは「あれなら、まだヒロキに貢がせた方がマシ」と溜息を吐いている。

 そんな彼女を見て「いや、貢がないから……お前、何言っちゃってんの?」と呆れた視線を送るヒロキ。


 うーん、実際アミは結構可愛いんだけど、こういうお金目当てで男選びますって話聞いちゃうとあれだな。

 彼女は欲しいと思うけど、この中の子達に入れ込んでしまう事にはならなそうだ。


 しかし、玉の輿ねぇ。


 確かに後ろの席の奴らは傍から観察しただけでも虚栄心が強く、出会いがしらに相手をあからさまに値踏みをする奴らだった。

 と言っても俺が何かされた訳ではなく、同種の奴らが値踏みし合っていたのを傍から見ていただけだが。

 お互いに上から下まで舐めるように見て「へぇ」とか「フッ」とか言うのだ。

 きっと装飾品のお値段を見て格付けでもしていたのだろう。


「んじゃ、そろそろ帰る準備するか」


 丁度会話も止まっていい時間になって来ていたので、そう提案してみた。

 子犬たちにもういらないと首を振るまで胸元に付く魔石に魔力を送り、皆で外まで歩いて行き、校舎の外の小屋の中にある檻へと入れる。


「ラク、また明日な」


 指で頭を優しく撫でてその場を離れる。

 名前はラクにした。ラックと楽を掛けて苦労の少ない一生を送れる様に、と願いを込めて。


 皆で校門を出れば、帰り道が合うのは俺とユリだけだ。

 行きとは違い話題は一杯出来たので、それらをぽつりぽつりと話しながら帰路に着く。


「そ、その……今日は色々ありがとうございました」

「うん? ああ、こちらこそ」

「え?」


 いやいや、お陰で学校生活は好調な滑り出しになったし、ブリーダーの話しとか聞かせてくれたじゃんと説明する。


「そんなの、大した事じゃ……」

「それもお互い様だな。こっちも大した事なんて一つもしてないぞ」


 顎に手を当てて一杯考えて居るのが見て取れる。今日一日を振り返っているのだろう。

 うん。考えればわかるはずだ。本当にたいした事はしていないと。


「やっぱり私の方が助けられた気がします。何かお礼をさせて頂きますね」


 考えた結果、どうやらそちらに傾いたらしい。流石に僅差だとは思うけど。


「そ、そう? じゃあ、俺が学校で困った時はほんの少しで良いから助け舟宜しく」


 これなら大変な思いはさせないだろうし、問題あるまい。


「はい、わかりました。

 でも良かった。ルイさんのお陰で今日から一杯ご飯が食べられます」

「え? 頬こけてるのってダイエットでなったの?」

「ええ。気を抜いて太ってはいけないと母から指示が出されてまして、鍛錬をしながら食事の量を減らしたらこうなりました」


 すげぇ親だな。いくら玉の輿に乗らせたいからって……

 いや、強ければ良いなんて言ってたし、そういう人を雇う様な職にでも付いてるのだろうか?

 どちらにしても顔隠してたんじゃ意味ないだろうに。


「親と一緒に暮らしてないの?」

「えっ? どうしておわかりになったのですか?」

「いや、モテる様になれと指示出してるのに痩せ過ぎても止めなかったみたいだし、髪型はもろ顔が隠れるものだし」


「あー」と深く納得した様子だが、その事に関して話す気は無さそうだ。

 彼女は足を止めて少し思案に耽った後、こちらを見上げた。


「あの、今日は色々元気付けて頂きましたが、もう一度お願いをさせて頂いても宜しいですか?」

「え? 別にいいけど、喋り方丁寧過ぎだよ? 無理せず自然体でいいって」

「あっ、はい……あの、その……

 わ、私なんかでも本当に可愛くなれますか?」


 なるほど。親の期待に応えたいけど、彼氏彼女の問題は理屈じゃないし不安なのだろうな。

 そういうリップサービスならドンと来いだよ。


「ああ、大丈夫だ。ユリは可愛く成れるぞ。俺に任せろ」


「これだけ素材が良ければ楽勝だろ」と髪を掻き分けて目を合わせてみれば、彼女の顔は真っ赤になっていた。

 あら、調子に乗りすぎたか……?


「た、鍛錬! 明日から鍛錬に付き合ってくれませんか!?」

「えっ!? 入寮の準備終わってからならいいけど……いきなりどうした?」

「え? いえ、その……折角このようにお話する様になれたのですから、同じクラスに居たいですし……」

「ああ、そういう事ね。けど俺才能ないみたいだしなぁ。

 まあ一緒に鍛錬するのは了解したよ。Aクラスキープ出来るかはわからんけども」


 ここまで言っておけば、大丈夫だろう。

 知り合ったばかりだし、純粋な好意で言ってくれているのだろうけど、どちらにしても期待させて落ちてしまえばがっかりさせてしまうからな。


「いいえ。もし、ルイさんが私の鍛錬に付いて来てくださるのであれば、Aクラスキープくらいはお約束します! ですから!」


 おろ? 食い付きが強い。鍛錬参加の了承はしているのだけど……

 ってかAクラスキープを軽く約束するとか大きく出るなぁ。


「お、おう。頑張るけども、お手柔らかにな?」


 俺の為にもなるしやる気もあるが、こう言われてしまうとものすっごい怖い。

 まあ話しの分からない子じゃなさそうだし、すべては明日の鍛錬をやってみてからだな。


 そうして話をして居れば、いつの間にか彼女と出会った桜の木の並ぶ道へとたどり着いていた。

 ここからは彼女とも帰り道が分かれる。


「あっ、ここまでですね」

「そうだな。それじゃまた明日」


 彼女は「はい……また明日」と言葉を返しながらも足を止めている。


 こうした態度を取られれば鈍感な俺でも好意を持って貰えた事はわかる。

 だが彼女のお相手は最強でないといけないらしいし、同じAクラスとはいえ何年も努力を続けてきて尚クラス内でドンケツの俺には土台無理な話しだ。

 とはいえ、それも共に訓練をして貰えれば嫌でもわかる話し。今ここで無理に伝えることでもない。

 ただの友人的なものだったら大恥じだしな。


 そう考え、軽く手を振るに留めて踵を返した。


 そして、少し歩けば宿泊している安宿へと辿り着く。

 不味い飯を搔きこんで、いつもの様に訓練に勤しむ。

 別に彼女の事を意識してではない。これは日課であり、好ましい趣味でもある。 

 ベッドに転がりながら兵装の一部を具現化させていく。


 今取り掛かっているのは手甲の部位の改造だ。


 手甲から鉄の棒が飛び出るパイルバンカーを作れないかと試行錯誤している所だ。   

 魔力で生成した火薬によっての射出。

 結構な威力が出てそうだが如何せん音が煩い。音で寄ってくる魔物も多いそうなので常用は出来ないだろう。


 パイルバンカーは男のロマンなんだがなぁ……


 これならまだチェーンソーの様な武器をつけた手甲の方が有用そうだ。

 こちらも煩いといえば煩いのだが、火薬を爆発させるよりはマシ。


 今の所、一番の成功品と言えばやっぱり銃だな。対魔物品なのでかなり大きいタイプのライフル銃だ。

 何故か火薬も魔力で生成できるから魔道具を必要としない。

 ゴムのような物質とかも作れたのでもしかしたら火薬もと試したら作れてしまったのだが、これはこれで難点がある。すぐに魔力が切れるのだ。

 原因は一つ。魔力で具現化した物体を飛ばさなければいけないからだ。具現化させているそれらは自分の魔力の塊なのだ。

 本来なら体に戻せるはずの魔力だが飛ばしてしまえば全て失う。

 兵装を銃のみにすれば百発以上は楽に撃てるが、フル武装していると十数発で息切れしてしまう。 

 命中精度はかなり高いから身を隠しての狙撃であればかなり有用と言えるが、校内では使い道はないだろうな……

 威力が結構あるのに人に向けて撃って試すなんてできないし。

 ダンジョンでの活躍に期待なのだが当然これも音が響く。

 有用性もわからないし不安は満載だ。

 

 外見で言えば銃のスタイルが一番カッコいいんだけど……

 消費量を加味すると普段使いに出来るものじゃない。

 使い勝手が良く俺の手札の中では火力が一番高いので切り札として考えている武装だ。


 だから基本はチェーンソーを使う感じになるのだろうか?


 かと言ってチェーンソースタイルで長時間戦えるのかと問われれば答えはノーだ。

 刃を高速回転させ続けるのも割りと魔力を取られる。

 恐らく、二十分も回し続ければ魔力が切れるだろう。当然こちらはフル武装したままでの計算だ。近接武器で防具を付けないなんて有り得ないしな。

 とはいえ、オンオフが出来るから使う時だけ回せばいいので二十分しか戦えないわけではいない。

 せめて半分でも科学の力の方で作れれば大分魔力消費を軽減させられるんだが……


 この世界は魔力がある分、科学が発達していない。

 普通に鉄やらガラスやらは作れらて居るのだが、高い強度を誇る防弾ガラスなどは無い。

 火薬なども発見されているかいないかは知らないが見たことも聞いたこともない。


 具現化した魔力は変幻自在な為、手元に置いておけるものは魔力で作るという発想しかないのだ。


 それも当然だろう。

 俺程度の熟練度でも高威力の銃として耐えられる強度を持った鋼鉄を作り出せる。

 当然、鉄だけじゃない。

 その素材の質感から強度までイメージを出来れば大分幅広く作れてしまう。

 魔法学と比べ大幅に劣っている工学を伸ばそうという発想にはならないのだろう。


 一番燃費がいいのはやはり剣とか槍スタイルで戦う事だろうが、この世界の奴らにそれで勝つのは至難の技だ。俺みたく科学の力に逃げたりせずそれだけを極めようとしている奴らには簡単には追いつけない。


 いや、取り繕うのは止めよう。

 絶対に無理だ。


 試験の時に見たけどヤバかった。

 同じ学生でありながら『あんな動きは俺には不可能だ』と素直に思わされるほどだ。

 もしかしたら転生してきた俺とは体の作りが違うのかもしれない。


「明日、大丈夫かな。ちょっと不安になってきた……」


 ユリの訓練がどれほどの密度で行われるのか。そこに不安を募らせて溜息を吐いた。

 だが俺も全くやらなかった訳じゃない。

 独学ながらも割と頑張って練習した方だ。試験の得点内容の九割は魔力操作と座学の方だと思うけど。


 まあ、なんだかんだ言っても悪い話じゃない。授業に入る前に友人と自主訓練が出来るだから。

 そうそう、相手はユリだ。怖がる必要はない。


 そう考えて魔法の訓練を切り上げて作ったものを魔力に戻すとベットに入り眠りに付いた。

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