第41話 討伐祭③
慌てて後を追い、ついでにゴブリンを叩き伏せながら進めばすぐに合流できた。
荷車に怪我人が大勢横たわっていて、瀕死な人も見受けられる。
「こちら学生部隊引率のキサラギ。状況報告を頼みます!」
先生が状況を尋ねている間にポーションを出して瀕死の人に口に少し含ませる程度の量を飲ませていく。
気絶してしまっているので全快したかはわからないが傷口はふさがった。
恐らくこれで命は助かるだろうとホッとしていたが、現状が更に酷い事を知る。
「オーガを押さえ切れず本陣は後退するとの判断が下った。
今は騎士たちが遅滞戦闘により時間を稼いでいる。
一刻も早く学生たちは下がらせてくれ!」
うは。それはヤバいな。
遅滞戦闘って、要するに撤退戦だろ。
かなりの被害が出てるんじゃ……
まだ三本しか使ってないけど、もっとポーション持ってきた方が良かったかもな……
「いや、待て。ルイって奴を呼んでくれ! オーウェン殿からの指名だ!」
えっ、俺?
いやいや、こっちは大人の部隊だぞ。
俺程度じゃそこまで役に立たないだろ。
そう思うものの一応名乗り出れば、このまま前進してオーウェン先生と合流しろと指示を受けた。
待って。俺一人に行けと?
と、先生の方へと視線を向けたが、彼は一つ頷いて返す。
なるほど。行けと……
ここで嫌だとも言えないし行くしかなさそうだな。
切り札を切らされそうで気が重いなぁ。
そう思いつつも進行方向のゴブリンだけを切り伏せ前進した。
然程離れていなかった様で、すぐに別の集団が見えてきた。
かなりボロボロだ。これは本当に拙い。
しかも戦っているオーガの上位種はかなり強そうだ。
前衛じゃ強化を強めても一体相手するのがやっとだぞ?
なら俺の役目は回復だなと、倒れている連中にポーションを一口ずつ飲ませていく。
意識がある人はすぐに立ち上がり感謝を示すと前線に戻っていった。
それを十数回繰り返せば近場にはもう動けなそうな人は見当たらない。
「大怪我負っている人はもう居ませんか?」
「こっちに頼む!」
あ、まだ居たのか。
「これ、最高級品なので少し口に含む程度にして下さい。
分けて飲まなければ足りなくなりますから」
「そんなせこい事言ってる場合か! いいから寄越せ!」
奪おうと伸ばしてくる手を押しのけて口に差し込み少し流して引き抜く。
「飲んで……治ったでしょ?」
「あ、ああ……これはいったい……」
鋭い視線が困惑に変わり、この期に及んで意味のない問いかけをして来そうだったので先手を打って問いかける。
「そんな事よりオーウェン先生は何処ですか?」
「オーウェン殿はオーガキングとやりあってたが相当の痛手を負っていた。
恐らくもう……」
はっ、マジ?
いや、先ずは確認からだ。
近くにある大きな岩の上に登り、離れて戦闘をしている人を探した。
すると大分離れた所に数人居るのが見えた。
他に戦闘をしている様子は見受けられないので装備持ちオーガが居ないラインを狙ってその場へと走る。
そして到着した瞬間、人の頭が潰される瞬間を見せ付けられた。
「クソッ!! なんとか耐えろ! こいつの治療が終わるまで時間を稼げ!
出来なきゃどっちにしても死ぬだけだ!」
回復魔法が多重起動されている。
その回復を受けているのはオーウェン先生だった。
急いで近寄り声を掛ける。
「最高級ポーション持って来ました。こちらも飲ませて下さい」
「おお、良くやった! 急げ。無理やりにでも流し込め!」
流し込み、喉を無理やり動かした瞬間、先生は飛び起きた。
周囲を見渡した先生と目が合う。
「――っ!? もうルイが来ているだと!? 状況は!」
「オーウェン! 起きたなら加勢しろ! 死んじまうだろうが!!」
その声に先生は一瞬で専用武装を纏うと飛び出した。
「これも渡して置きます。分けて飲んで下さい」
と、ポーションを騎士たちに一本渡し、雑魚討伐へと加わる。
「なんだこのポーションは! 一口だけで落とされた指が生えたぞ!?」
「んな事はいいから今は戦え! 今度は命を落とすぞ!」
「おい! 早くこっちにも寄越せ! 意識が飛びそうだ!!」
戦いながらも回し飲みして怒鳴りあう彼ら。
一番の激戦区に居るだけあって全員強い。
だが、オーガジェネラルの数が多すぎた。
百と聞いて居たが今この瞬間ですらもっと居る。
「もう無いのか!?」と問われたので追加で周辺の人に一本ずつ投げ渡す。
まだ半分は残っているが、劣勢は変わらない。
間も無く全滅するというところから、ギリギリの攻防ができるまで持ち直した程度だ。
多勢に無勢じゃなければこれでどうにかなったんだろうが、こんな攻防ずっとは続けられない。
魔力も残り少ない人が多いだろう。
こりゃ、切り札切らなきゃ終わるな。
どっちを使う。
銃か光魔法か……
銃なら火薬が俺にしか出せないから他の奴には出来ないと言えるが、どうやって製法を学んだと聞かれても答えられない。
光魔法なら全てを話せるが、教えなきゃならないだろう。
いや、良く考えたら教えても別によくね?
だってここで問われるとしたらオルダム領主だろ。
町を守ろうとした奴に攻撃なんてしないだろ。
うん。説明可能な光魔法にしよう。
っと、その前に。
「すみません! 切り札使うんで俺の周辺守って貰ってもいいですか!?」
「こいつはただの学生じゃない。言う事を聞いてやってくれ!」
大声で問いかけた瞬間、間髪入れずオーウェン先生が口添えしてくれて俺を守る様に騎士が配置についた。
「ありがとうございます」とお礼を言いつつ、高台を用意する。
高台を用意したのはスコープを覗くので安置が欲しかったのと、フレンドリーファイアしない為だ。
流石に突き抜けた光線の先までは見てられないし、敵も味方も動きが速いのだ。
「おい、ルイ! 切り札使うならこいつにやれ!
少しでも隙を作って貰わんとやってられん。早めに頼む!」
そう言われて覗き込んだオーガキング。
黒く大きく羊の様な顔。頭に大きな角を二本生やした二足歩行の魔物。
イメージ的にはバフォメットとか言われた方がしっくりくるかもしれない。
オーガジェネラルとは違い装備を一切付けていないが、見るからに巨大で鋭利な爪がありそれが既に凶器だ。
防具は完全に無い状態だが、普通に考えてジェネラルより耐久力も高いはず。
少しマヌケそうにも見えるのに見ているだけでとんでもなく重圧を感じる。
だがビビッて居る時間などない。
オーウェン先生は本当に一杯一杯だ。回避に徹してもギリギリな程。
急いでレーザーガンを作成してスコープを覗く。
先ずは試射だ。ピントがしっかり合っているかの確認を周辺の魔物で手早く行い、キングに狙いを定めた。
瞬間的に強化魔法に魔力をいつもの十倍程送り込み、尚且つ少し先読みの起動で一秒ほど出力全開で照射する。
案の定、打ち込んでいる間にその斜線上を通り、肩に命中した。
その瞬間、オーガキングは金切り声の様な叫び声を上げた。まるで声が重さに変換されたかの様な圧を受けオーウェン先生を除く騎士たちが膝を突く。
ヤバい!
このままじゃ、援護してくれてる騎士たちがやられる!
そう思って即座に周辺のオーガジェネラルに切るようにレーザーを照射する。
するとレーザーが通った後、数体のオーガジェネラルの体が半分に割れてズレ落ちた。
キングは肩が少し抉れる程度だったがジェネラルにはしっかり利く様だ。
ならばとそのままレーザーを滑らせ、ジェネラル優先で仕留めていき、キングにも動きを妨害する程度に牽制を入れる。
その間に立ち上がってくれて、再び騎士たちの戦闘が再開される。
オーガキングはこっちかなり警戒している様で、合間合間で唸り声を上げる。
こちらに飛ばされる威嚇がかなり恐ろしいが、今の所は陣形を保っている。
「ルイ! ポンポン撃ってるが、それまだまだ撃てるんだろうな!?」
「このテンポなら一刻は大丈夫! 先生はどうなの! もう魔力限界近い?」
「勿論大丈夫ではない。五分の一ってところだ。バックパックも使い切った。
援護無しじゃ四半刻も持たない」
「了解。ここからは先生への援護射撃のみに切り替えます。
下の守りは任せました」
「「「おう!」」」
とは言ったものの、先生とオーガキングの戦いに合わせるのは難しい。
強化を強めて能力を引き上げてもまだ足りていない状況だ。
あの深層のゴーレムを思い出す。
動いたと思った瞬間にはもう目の前まで来ているあの恐ろしい感覚。
こんな場所で穴底の深層でやるのがどれだけ危険かを改めて思い知るとは。
先生も本当にヤバいな。これが上級騎士の力か。
確かにあのカールスが雇った暗殺者とは比べるのが馬鹿らしい程に差がある。
大人と子供というレベルじゃない。
赤子と精鋭兵以上の差がある。
だけどそれでもそろそろ当てないとな。
集中しろ。集中。
狙い所は下がって着地した瞬間。あいつのバックステップの幅は大体掴んだから後は予測地点に狙いを定め、撃つ準備をしておくだけ。
「先生、下がらせられる?」
「ちっ、無茶言いやがる! 次のタイミングだ。ハズすなよ!?」
む、そう言われるとプレッシャーが……
一応知覚の感覚を上げる為に魔力を薄く広げて置こう。
これで視覚だけじゃなくて魔力による感知でも動きを察知できる筈だと視線を向けながらも己の魔力へも意識を集中させる。
すると先生が動き仕掛けたのを感じた。
凄い直線的で綺麗な動きだ。
見えないけど感じる事は出来そうなことに安堵してオーガキングの後方に狙いを定め続ける。
あっ、動く。
そう感じた瞬間には照射を始め、後は魔力で感じた動きの斜線状に微調整を行う。
よし! 取った!
知覚上では完全に頭を捕らえていた。
丁度中心。頭だ。
そう思った瞬間、片腕を失ったオーガキングが目の前に居た。
はっ?
これは終わった。
そう思いながらも俺は反射的に両腕で顔と心臓を守り魔装を全力で前に壁を作っていた。
ゴーレムの時の恐怖か、猿の時の恐怖かはわからないが、意識する前に既に魔力を具現化させていた。
ヤバいと思うと同時に良くやったと自身を賞賛するが、魔装が弾けた瞬間、意識が飛んだ。
地に落ちた衝撃で目を覚まし、とりあえずポーションを取ろうと意識したところで両腕が逆に折れ曲がっている気がついた。
「う、うああああぁぁぁぁ!!」
叫び声を上げれば、目の前にジェネラルが立っていた。
魔物が散乱している中で吹き飛ばされたのだ。
そりゃいるだろうが……
死ぬ。これは死ぬ。
今この瞬間にあの花弁でも口に含んでいなければ助からない。
ポーションを飲もうにも腕は完全に折れていうことをきかない。
花弁……花の魔物……
そう思った瞬間、光魔法の魔方陣を己を中心に地面に描いていた。
だが、流石に間に合わないだろう。
そう思っていたのだが、確実に取ったと思っていたのだろうか、ジェネラルは振り下ろす前の溜めを作った状態で口元を歪め余裕を見せた。
その一瞬の間が生死を分けた。
自分をも巻き込んだ光の柱が駆け寄る他のオーガをも巻き込んで消滅させた。
猿皮の黒いロングコートも一緒に消滅したが気にしている状況ではない。
現状打破に思考を全て持っていく。
「小僧! 生きてるか!?」
「なんとか! ですが両腕が折れてポーションが飲めません!!」
騎士が救援に来てくれてぎりぎりの所で命を繋いだ。
急いで回復魔法を複数起動させて片腕だけの回復に全力で魔力を注ぐが、騎士の一人がポーションを口元に当ててくれて急いでそれを飲む。
「ありがとうございます……」
「馬鹿野郎! こっちのセリフだっ!
もう一度だ! もう一度あれをやれれば生きて帰れるぞ!」
もう一度の言葉に先ほどの一瞬で移動してきたオーガキングがフラッシュバックして足が震えるが、やれなければ死ぬ。
恐怖に、絶望に負けてはいけないとバックパックに手を掛け魔力を引き出す。
再び高台に上がりキングへと視線を向ければ再び目が合った。
その目を見ただけで理解した。俺だけへと殺意を向けていることに。
だが、今回はオーウェン先生が仕掛ける方が早かった。
オーガキングは先生を無視してこちらに飛び上がろうとしたが、先生の剣戟により叩き切られ、うつ伏せに倒れた。
即座に追撃に走り首に先生の剣が突きたてられる。
「うおおおおおおお!!!」
誰かが歓喜の声を上げている。
それに自然と追随して俺も声を上げていた。
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