第42話 討伐祭④
オーガキングが地に伏せ、勝ったと気を抜きそうになった瞬間、誰かの悲鳴により我に返った。
まだ、戦いは終わっていないと。
レーザーガンを構えて瞬間的にレーザーを発射し、ジェネラルの頭を貫いていく。
秒間三匹くらいのペースで打ち抜き続ければ、すぐに重鎧を着込んだオーガジェネラルは見当たらなくなり、殲滅速度が一気に上がる。
「ルイ! お前はもういい! 一応魔力を残しとけ!」
「了解! でも魔力残量は平気なの?」
「こんな雑魚には強化もいらん!」
「馬鹿野郎! オーウェン! それはお前だけだぁ!」
先生に言い返す騎士の声も少し弾んでいる。
本当に窮地を抜けたんだと高台の上でへたり込み、力が完全に抜けてしまった。
「先生、ヤバい! 腰が抜けて立てない!」
「おいおい、そんな女子生徒みたいなこと言ってていいのか?
ユリシアにバレたら笑われるぞ」
いや、冗談じゃないんだって……
これ、どうやって動いたらいいの。
ああ、魔力で動けばいいか。
と、魔装から蜘蛛の様な足を伸ばし高台を消して着地する。
魔装鎧にぶら下がりながらカサカサと動き回って動作確認すれば何故か先生が剣を向けてきた。
「うおおおお!? 何やってんだお前! 魔物じゃないよな?」
「なに馬鹿言ってんすか! 魔装ですよ! 立てないんですって……」
手を動かすだけでも震えるほどだ。
猿に殺され掛かった時は平気だったんだけどな。
まあ、あれは一瞬で倒せたし、直接立ち会った感じはなかったけど。
魔力を温存と言われた俺は魔装にぶら下がったままカサカサと虫の様に動き、騎士たちの背に隠れる。
「おいおい、魔装はそこまで自在に動かせるものなのかよ。オーウェンの弟子はヤバいな」
「オルダム子爵、俺の弟子じゃありませんよ。あの神童ユリシアの弟子です」
「あん? そりゃ昔は騒がれたが、こいつの方が強いだろ?」
「いえ、前衛としてはからきしなそうですよ。自称ですけどね」
うん?
ちょっと待って。オルダム子爵?
嘘だろ!? 何でそんな人がこんな死地に残ってんだよ!?
そう言えばこの人だけ先生を呼び捨てていた。
マジで領主様なの?
「ちょっとちょっと、先生……なんで領主様がこんな最前線に居るの?」
「はっはっは!
俺もこんな所居たくはねぇんだが、これが本来の領主の仕事なんでな」
「いや、領主は後ろで指揮するもんでしょ。信じるなよ。この人が特殊なんだ」
先生と領主様は気安い間柄の様で軽口で雑談しながらもオーガやゴブリンを切り伏せていく。
「俺だけじゃねぇよ! ラズベル辺境伯とかランドール侯爵も先頭に立ってんぞ!」
「いや、ラズベル辺境伯は枠に入れちゃダメでしょう。
あの方は元々国防を担う将軍で何度も戦争に出てんですから。
ランドール侯爵はまあ、そうですが……」
ランドール侯爵ってリアーナさんの親父さんかな?
それにしてもオルダムの領主様が良い人そうで良かった。
「よし! そろそろいいだろ。戻って報告しねぇと死んだ事にされちまう!」
彼は快活に笑い「討伐完了だ! 雑魚は先に戻った奴らに任せんぞ!」と騎士たちに指揮を執り終了を告げる。
「おいルイ、キングの死体運べるか?」
「いや、俺歩けないんですけど……荷車作ったら俺も運んでくれます?」
「おう。それくらいはしてやるよ。限界まで大きいの作ってくれ」
俺の無様を楽しそうに笑う先生に少しムッとしながらも最後のバックパックから魔力を取り出し、限界まで大きな荷車を作りだした。
そこにキングのみならずジェネラルもポンポン積まれていく。
「ちょ、ちょっと! 俺の乗る場所!!」
そんなに積んだら俺も死体の上に積まれることになるだろ!
「そのくらい我慢しろ。お前の儲けにもなるんだぞ!」
むぅ。確かにこのまま残せば他の魔物に食われるだろうけど……
「わかったわかった。俺が担いでやるよ!」
そう言ってきたのは領主様だった。
「いや、その、大丈夫です……」
「遠慮すんな。もうオーウェンがそれを見越して積んじまったしな」
視線を向ければ芸術的に積みあがっていた。
おいこらぁ!!
いや、今ならもう立てるんじゃないか?
そう思って必死に立ち上がるが生まれたての小鹿を再現しただけだった。
そうしている間にもひょいっと肩に担がれ、十数人の騎士を引き連れて町へと引き返した。
俺たちの最初の拠点には誰も居らず、そのまま通り過ぎて見慣れた学院前の門へと辿り着いた。
そこには大勢の人が居てゴブリンの殲滅を続けている。
こちらに気が付くと声を上げて数十人が走り拠ってきた。
「キングは、キングはどうなりましたか!?」
「おいおい、俺の帰還を祝うのは後回しかよ?」
後ろ向きに担がれながらも声に嫌味が含んでいることが良くわかった。
荷車に積みあがってる死体見ればわかると思うんだけど……
いや積み上げ過ぎてキングは見えないな。
「いえ、その、ご無事で何よりです……それで、討伐の方は……」
「おう。キングとジェネラルは殲滅してきたぜ。この少年のお陰でな」
いや、そういうのいらんから。
討伐したのはオーウェン先生だし。
「お、お、お、おおおおおおおお!!
キングが、オーガキングが討伐されたぞぉぉぉ!!」
その後、ジェネラルも殲滅させたとの声が上がり再びお祭り騒ぎになるが、先生たちは「後は任せた」と騒ぎを素通りして町の中へと戻った。
当然担がれている俺も一緒に。
ハンターギルドへと立ち寄り「これ、換金しとけ」と子爵が一言告げるだけでギルド総出かってほど人が出てきて一瞬で運ばれていった。
彼は中にも入らずに踵を返す。
「おっしゃ。このまま俺ん家で宴会やるぞ。
お前らには二週間の休暇と半年分の給料を出してやる。
死んでいった奴の分まで飲んで騒げ!」
「おおおおぉ!」
や、ヤバいこのままだと俺も連れて行かれる。
「えっと、魔力が戻ったんでもう大丈夫です。俺はこれで……」
「馬鹿野郎、お前に褒美ださなきゃ俺が笑われちまうだろうが。
大人しくそのまま乗っとけよ」
おおう。拒否権は無いのね。
もう、流れに身を任せるしかなさそうだと脱力すれば、俺はいつの間にか眠っていた。
ざわざわとした声に目を覚ませば応接間の様な場所に居た。
ソファーの上で寝かされていた様で肌掛けがかけてあった。
やばっ領主邸で眠りこけてたの俺!?
バッと起き上がりまわりを見渡せば三つ並べられた対面テーブルに料理がずらっと並んでいて、ソファーには身なりを整えた騎士たちが座っていた。
なんか、領主邸って感じじゃないな。まるで居酒屋の様な……
「お、起きたか! 相当俺の肩は居心地が良かった様だな?」
「ひぇっ!? すいません。緊張が解けた所為でつい……」
「はっはっは、もうちっと大きく出てもいいんだぜ。
お前のお陰で今があるんだからよ!」
騎士たちは彼の声に大きく頷いた。
だが、それは無理だ。
彼らの方が冒険者に似合うと言える程にいかつい集団であり、その上権力もあるのだから……
「あれ、先生は……?」
「ああ、あいつは女の所へ行ったぞ。
死闘の後におっさんに囲まれて飯食うのはごめんだってな」
うはっ、それ絶対ヒロキのお袋さんの所だよな。
それはちょっと聞きたくなかったかも……
「なんだよ。へんな顔して……」
「いえ、多分友人の母の所だと思うので……」
「っ!? そうか、同じクラスか! はっはっは! そりゃ気まずいなぁ!」
どうやら領主様も事情を知っているらしい。
まあ、食え食えと食事を勧められながらも話を振られる。
「お前、辺境伯の娘を狙ってるんだって?」
「ぶはっ!! なっ! あの教師デリカシーがねぇ!!」
「「「ははは、確かにない!」」」
ああ、やっぱりそこは共通認識なんだ。
しかし、何と返したら……
いや、何か許されそうな空気だし相談してみるか?
「やっぱり、平民の男なんて無理ですよね……」
「普通は無理だ。しかしお前の強さは普通を大きく超えている。
やり方次第で状況を色々変えれるだろうから不可能とまでは言えねぇな」
そうは言うものの少し難しい表情を見せる子爵。
彼の声に騎士たちも続いて自らの見解を述べる。
「あのお方は相当親馬鹿だって聞きますし、相手が誰でも嫌がるのでは?」
「ああ、あの事件もありましたしね」
うん? あの事件?
「それってユリシア嬢が関わる事ですか?」
「ああ。幼少期の話だがな。その娘が神童って言われていたことは知っているか?」
えっ、そうなの?
知らなかったので首を横に振ったが、確かにそう言われてもなんら不思議はない。
続きが聞きたいと領主様へと視線を向ける。
「ラズベルではハンターにするなら道場に入れるのが一般的でな。
ガキの頃から剣術や魔力操作を磨くんだが、相当突出していたらしいんだ」
「まああれは辺境伯も悪いですよねぇ」
「おい、話の腰を折るんじゃねぇよ!」
早く続きが聞きたくて「彼女が強すぎて何か問題が起きたんですか?」と問いかける。
「ああ、子供の嫉妬ってやつだな。
道場内で化け物だなんだって苛められてたらしくてな。
それを知った辺境伯がぶち切れて道場ごと物理的に潰したってのは有名な話だ。
その所為で悪い噂が立っちまってなぁ。悪い人じゃねぇんだが」
えっ、道場の人は関係なくね?
てか、そんな感じの親父さんなのかぁ。
確かにユリも過保護だって言ってたけど。
「そんな過去があるから力を隠しているんだろうが、お前とどっちが強いんだ?」
「えっ、いえ……俺は後衛で剣術がからっきしなので……
それに多分俺も本気は見せて貰った事がないと思います」
多分、あの暗殺者事件の時に相手が強ければ見せてくれたんだろうけど、一瞬で終っちゃったからなぁ……
「そうか。まあバックパックを二つも貰う程だ。
何かしらの思い入れはあるだろうが、お前はどうすんだ。狙うのか?」
そりゃ、望みがあるなら当然……
でもだからと言って大切にしている実家を捨てさせる様な真似もできないし。
その前に死んだって思われたままかもしれないし……
と、いつの間にか全ての事情を一から説明してしまっていた。
「ほぉ。評価超過の十倍稼いでポーション手土産に実家に突撃するほどかよ。
それほど動けるんなら、もう爵位を狙っちまったらいいんじゃねぇか?」
「へっ!? いや、爵位なんて狙えるもんなんですか?」
「狭き門だが、お前なら楽に狙えるな。士爵位までなら確実だろう」
はっ?
確実なの?
「それってどこかの家に入るって事ですよね?
そうなるとユリとどうこうって余計に無理になるんじゃ……」
「ちげぇよ。お前、あのポーションを国に献上する気はあるか?」
「えっ、別に構いませんけど……魔法じゃなくてですか?」
「魔法陣は普通、登録して自分の家の利権にするもんだ。秘匿する家も多いが」
あれ、なんかこの口ぶりだと教えなくても許されそうな感じだな。
もしかしてビビり過ぎてた?
「出せるなら士爵位は先ず確定だ。あのポーションは後どのくらいあるんだ?」
「ええと、百ほどなら」
「そんなあんのかよ……それなら上手くやれば男爵までいけそうだな」
「はっ? いやいや、そんな事でですか?」
ちょっと待って。
男爵ってそんなに軽いものなの?
「言っておくが、部位欠損を一瞬で治すポーションなんてエリクサー以外に存在しない。そしてこの国にはエリクサーは無い。
王族ですら喉から手が出るほど欲しい物だ」
「その……俺、そんなに強くないんですが、それでも大丈夫なんですかね?」
「アホか! オーガジェネラルをポンポン倒す奴が何言ってやがる!」
あ、ジェネラルの方でもいいんだ。それなら安心だ。
んじゃ、狙ってみるか?
色々不安もあるが、ユリと一緒になる未来を掴めるかもしれないのなら頑張ってみる価値はある。
「その程度でもいいなら、是非顔繋ぎをお願いしても宜しいでしょうか?」
「おう。お前は恩人であり戦友だ。
顔繋ぎくらいは喜んでやってやる。面白そうだしな」
よし、じゃあ念のためポーションをもっと作って貰って置こう。
材料的にまだ数百は余裕で作れるからな。
「あっ、でも卒業したら兵士に志願しに行くって言っちゃいましたよ俺!」
「ああん、そんなの爵位を得たら援軍として参戦要請すればいいんだよ。
あれほどの物を貰って家にも入れず帰す阿呆をまともに相手にするんじゃねぇ!」
ああ、そうか。
ユリが守りたいものを守れればいいんだから、参戦できれば結果は一緒か。
俺も一生ラズベルの兵士やるのかって聞かれても頷けないしな。
となると後は領主様へのお礼を何にするかだよな……
「その……お礼はポーションでいいですかね?」
「お前、結構ズレてるよな。お礼を渡すのはこっちだぞ?」
「まあ貰えたら有り難いが……」と言うので後で持ってきますと約束した。
それからも暫く続いた宴会も終わり、帰り掛けに金貨二百枚も頂いた。
これとキングの素材は別だと言うのだから恐ろしく稼いでしまったと少し戦々恐々としながら寮へと戻った。
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