第59話 将軍たちとの夜駆け
説得を断念してお城に帰れば、付いてきたルーズベルトさんに連れられて応接間へ。
そこでエリクサーを救護所で使ったことを注意された。
あれがあれば上級騎士を何度も前線に送れる。それは他の兵士たちの命をどれだけ救うかわからない程戦果があがるのだと。
ここを乗り切るにはそれが必須なのだと。
そういうことならと追加で百本差し出した。
後、分量を医師と相談して使う事を奨めると伝えて。
そんな話をしている間に将軍が知らない人を数人引き連れて部屋へと入ってきた。
誰だろうかと思っていればこちらに向かって膝を付いた。
「お初にお目に掛かります、陛下。私は先王陛下より侯爵位を授かっておりましたロンター・フォン・アーベインと申します。
陛下もご存知のメアリの父に御座います」
「えっ、メアリ叔母さんの!? 頭を上げてください!
俺にとっては祖父みたいな方じゃないですか!」
「おお、なんと勿体無いお言葉!」
立ち上がったものの、再び頭を下げる侯爵。
「お初にお目に掛かります陛下、コナー・シュタールと申します。
シュタール家は伯爵位を授かっておりました。どうかお見知りおきを」
数人のベルファスト時代に爵位を持っていた人たちが順に挨拶してくれたが、先ず最初に訂正しなければいけない言葉がある。
「ええと、私は陛下ではありません。継ぐ気はないので。
コーネリア様かユノン様に君臨して貰った方が良いと思うんですよね」
「ですが、王女殿下がルイ様の他に居ないと……」
えっ……嘘。それで構いませんって言ってたじゃん。
裏切ったなぁ!
「ええと、それは後で話し合って置きます」
そう言えば「以降は取り合えず殿下と」と改めてくれた。
いや、殿下もいらないんだけどね。
「それで……俺にですか? それとも騎士団長に?」
「ははは、この錚々たる面々が揃って私の所に来てどうするんです。
殿下に会いに来たに決まっているでしょう」
マジか。
俺は一刻も早くユリの捜索の結果を聞きたいんだけど……
いいや、聞いちゃえ。待つなんて無理。
「その前に将軍、結果はどうでしたか?」
「ハッ! ご明察通り、ユリシアはあの村に居た様です。
その、会うことは叶いませんでしたが……」
聞けば、あの村の兵士たちと戦場へ出ているらしい。
身分を隠しての参戦だったとか。
同じダールトンと戦う志士として行動を共にしているらしく、名前もそのままユリシアと名乗り背格好も同じだった為間違いないそうだ。
居ないのならばどうしようもない、と戻ったら帰らせるように頼んで戻ってきたそうだ。
「その兵士たちの足取りはわかりますか!?」
「いえ、作戦行動の詳細は身内にも明かしてないらしく……
しかし現在は情報収集をしていて交戦はしてないだろうとの事です。
仮に戦いになったとしても先王陛下の近衛騎士が大半を占めております故、上級騎士の集団です。
ユリシアは後衛扱いだそうですから早々危険は無いかと」
うぐぐぐ……まだ会えないのか……
村を一周して匂いを追って貰うか?
いや、明日は魔道具愛好会が来る。
その対応を引き延ばすことは出来ない。
でもユリが危なくなったら意味がない。
そうだよ。
ここで止まったら何しに来たんだって話だよ!
今から行って明日までに見つければいいだけだろ!?
「すみません。俺、行きます。連れ帰って来ますから……」
「なりません! 娘を想ってくれることはありがたい事ですがそれで殿下が危険に晒されるなどあってはなりません」
「俺、最初に言いましたよね?
ユリの為に命を賭けに来たと。貴方まで伝わってませんか?」
「存じております。
ですが、それでもし殿下に何かあってはロイス陛下に顔向けできません。
信じてください。彼らは数十年ずっと戦ってきた精鋭中の精鋭。
その後衛であれば死ぬことはまずありません」
何言ってんだよ。大切だから俺を遠ざけたんだろ?
禁じ手の様なものをバンバン使って!
そのあんたが何故そんな不確かな理由で止める!
「彼女が戦場に出ている、というのであれば俺は止まるつもりはありません」
絶対に止まらんぞ。
その気概を言葉に乗せて将軍を見据える。
「では致し方ありません。私が付いてお守りしましょう」
彼はホッとしたかのように頭を下げる。
なんだよ。やっぱり自分も行きたいんじゃねぇか、と呆れた視線を向けた。
まあ、俺にとっては願ってもないことだ。
さっさと話を纏めて出ようと「お願いします」と頭を下げた。
「ほほう。将軍と王子殿下が揃って夜駆けですか。なんと感慨深い。
捜索ともなれば人の目が多い方が良い。私も同行致しましょう」
「そうですね。軍議の前に夜を駆けるというのも粋なものだ」
えっ、まさか皆して手伝ってくれるの?
何それあったけぇ……
「ありがとうございます。ですがその、軍議の方は後回しでよろしいのですか?」
そっちも疎かに出来る問題ではない。
国の重鎮が一度にこれほど集まったのだ。
一刻も早く意思を纏め上げ動き出さなければならない筈。
「ははは、ルイ殿下がご帰還なさっただけでなく齎して下さった恵みの報を聞き、一筋の希望が見えたと居ても立ってもいられなくなり来たものですから。殿下がいらっしゃいませんと!」
「さようさよう。憎きダールトンに打ち勝てばベルファスト再興が叶う、というこの好機に最高の巡り合わせ。神の采配としか思えませぬ。かっかっか!」
皆どれほどの危機かはわかってるだろうに。
いや、だからか。もっと前から危機はわかっていただろうし。
資金はある程度持ち直した。
レスタール王はめっちゃ大盤振る舞いしてくれたのだ。日本円で換算すると二十億とかそういうレベル。
ベルファストの小さな国土を考えるとそれは少なくはない筈。
でもこの危機に希望の光が差すほどじゃないような……
もしかしてミスリルの方がでかいのか?
ルーズベルトさんも後ずさるほどに驚いてたし。
何にせよ、ユリシアを連れ戻せるならそれでいい。
戦争の話を進めるのはそこからだ。
そうして、従魔に乗り夜を駈けたのだが、ラクとふぅの鼻でも探し切れなかった。
どうしても村まで戻ったラインで見失うらしい。今回は中に入れて貰えたがそれでもダメだった。
広範囲でぐるっと周って再び匂いに辿り着けないかをやって貰ったがそれも上手くいかなかった。
数時間かけて探し回ったが結局何も出来ず帰ることに。
そして帰るなら帰るで気持ちを切り替えることにした。
見つけるのに時間が掛かる可能性を鑑み、出来るだけ遠くでダールトン軍を叩く方向で話を持って行きたいと考えこのまま帰って軍義をと持ちかけた。
勿論、不利になるならその方向は諦めるがその辺を話し合いたい。
砦への兵の増援。
敵を嵌める罠。
旧ベルファスト兵士たちへの帰還願い。
戦闘用魔道具の作成。
奈落素材の運用。
俺からだけでも話すことは多々あった。
勿論、高位貴族の方々からも色々な申し出があり、それに対して俺は資金が許す限り順位付けしてやれることは全てやろう、と何が優先されるべきかを話し合う。
その話し合いは明け方まで行われた。
話す事が大量にあり過ぎた。
それは主に俺がダールトン軍のことを知らないことが大きかったのだが、嫌な顔をせずに率先的に奴らの戦術を説明してくれた。
砦攻めでは物理的な打撃。つまりはロックバレットを主に使ってくるが、平野での合戦ではファイアーボールがメインとなる。
火の方が純粋な対人戦では有効なのだそうだ。
そこで俺は着ている毛皮のコートを渡し、これが奈落素材の防具ですと耐火性を見せた。
腕を炙り続けても熱を感じない程の耐火性に湧き上がり、これを量産することになった。
他に攻撃に使えそうな雷の魔法を見てもらったがこちらは既にある模様。
火力は高いが制御範囲内までの射程しかない為、有用性の低い魔法とされているそうだ。
一般的な制御範囲は長くても二十メートル程度らしい。
相手が同格ならば相手からも近接攻撃の射程内という話になる。
一瞬で魔法陣を起動できなければ運用は難しいかもしれない。
ただ、これの凄いところはある程度だが、誘導が利くところだ。
勿論打ち出してから曲げるなんて不可能だ。速度が速度だもの。
だが魔法の向きをある程度変えることはできる。
そう、着地点を弄れるのだ。
本来魔法は陣が出された面の前方に飛んでいくだけだが、雷の魔法は自分の魔力に添って流れていく性質がある。
魔法陣を出した後に弄れると知って俺的にはかなり重宝すると思っていたのだが、使えないと言われてガッカリしてしまった。
魔力を相手の元まで動かしてからの起動など時間が掛りすぎて実戦では間に合わないのだそうだ。
だが、光魔法については意外にも好評だった。人には効かないのだが魔法陣や魔力を消せるのであれば有効だと。
しかし複雑過ぎて開戦までどころか年単位の時間を掛けないと発動させることすら難しいと言われてしまったので魔道具として用意することにした。
「じゃあこれも無理ですか?」と収納魔法を見せたのだが、制御が得意な者でも十年掛けて片方を覚えられるかどうかというレベルらしい。
大魔導師だの賢者様だの大分よいしょされてしまった。
そうして色々なことを話し終え、これからは各々各自で動いて報告を上げるという手筈になった。
役割分担は主に二手に分かれた。
魔道具、罠関連は俺が引き受けた。
奈落素材、主にミスリルの販売はロンターさん。叔母さんのお父さんが引き受けてくれた。
コナーさんは俺の補佐に付いてくれると言う。
名の知られていない俺では市井で苦労するだろうからと。
その他の人たちは人材集めだ。ベルファストを去った古い友人に片っ端から声をかけると息巻いて帰っていった。
俺とコナーさんは夕方まで睡眠タイム。
部屋を用意して貰い、また夕刻と別々に休息に入った。
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