第60話 新兵器開発部隊発足
待ち合わせた宿、夕刻に到着すれば彼らはちゃんと着いていた。
凄い行動力だ。
到着日を見るに、お願いした次の日に乗り合い獣車に乗ったのだから。
そんな彼、彼女らにお礼を告げ、先に契約金を渡した。
「おいおい、先に渡していいのか?」
「三人のことは信用してるよ。面白い仕事ならやってくれるだろ?」
「「当然!」」
「えっと、私はちょっと方向性違うかなぁ。裏切らないけどね?」
と何時もの感じの三人。
後ろに立つコナーさんが彼らを見てボソッと声を漏らす。
「随分若いんですね。こちらでも他の職人を集めて正解でした」
「いや、舐めない方がいいですよ。彼らは多分一線級です。
この杖、少し試してみてください」
聞こえない様に言ったとはいえ、認識違いは宜しくない。
少なくとも奈落の魔物を一撃で屠る物を作ったのだから役に立ってくれることは間違いない筈だ。
とは言え俺も大人の技師がどこまでのレベルか知らない。
魔法陣があれば誰でも作れる物の可能性もある。
杖の彼に作って貰った威力増幅の杖を試しに使って貰う。
彼は小さな土の柱を作り上げた。その長さを測り息を吐く。
「ほう。低級素材一つでこれは確かに。
失礼しました、子供と侮れる技術ではなさそうだ」
何やら褒められていると知った杖の彼はムフーと鼻息を荒くする。
「という訳で早速行こうか。
危なくなったら避難して貰うと考えると時間が無いんだ」
そう伝えれば真剣な顔で頷き、獣車に乗り込む。
引き手はラクとふぅだ。ワフワフと発車を心待ちにしている。
そんな二匹の期待に応え「ゴー」と告げれば結構な速度で走り出す。
「こら、街中でそんなに出しちゃ駄目でしょ!」と叱り付ければ嫌なのか地団駄を踏む様な変なステップを刻んだが速度はちゃんと落としてくれた。
そうして辿り着いたは兵舎の訓練場を挟んだ反対側にある倉庫の様な大きな建物。
先日魔物を出した場所だ。
中に入れば数人の職人であろう人たちが奈落素材に悪戦苦闘していた。
「皆手を止めて集まってくれ。この方が今回の雇い主だ。
高貴なお方だから失礼の無い様に」
紹介のされ方に多少気後れしながらも「よろしくお願いしますね」と挨拶を交わす。
時間が無いので、皮の彼に猿の魔物の解体と同時に兵士が使う完全耐火防具の作成をお願いした。
今回は格好はいいから実用性を重視して欲しいとお願いし、同じ皮を専門とする職人さんもそっちに付いて貰った。
仲違いされても困るので一着目は皮の彼の思想で。
二着目は各自で作成し己の思想を貫いてくれと頼んだ。
その後に互いの良いところを掛け合わせた物をとお願いする。
「好きにやれってことか。技量を引き出す良い注文の仕方だ。全力でやってやるぜ」
「ふっ、俺も個人技が得意なんだ。技術も盗めそうだし最高な職場だな」
大人の職人に挑戦的な視線を向け、なにやらバチバチとした空気を醸し出す。
喧嘩しないでくれな?
そう声を掛けつつも話を終わらせ宝石の入った袋を握り締め杖の彼へ。
「これ、売れるかな? 価値とかわかる?」
と、宝箱の魔物に付いていた装飾の宝石を、杖の彼に見て貰おうとテーブルの上に置けば同じ専門であろう爺さんも一つ手に取った。
杖は宝石を触媒として使うので彼らの専門分野だ。
彼らは当然の様に懐から道具を出して調べ始める。
「「ふむ、どれどれ」」
「「お? おお!?」」
「「……これをこのまま売るなんてとんでもない!!」」
「「――――っ!?」」
ずっとシンクロしていたことに気が付かず、何だこいつはという視線を向け合う二人。
「凄いの?」
「「僕に(わしに)使わせろ!」」
「いや、何に?」
そう問いかければ我先にと説明しようとして張り合い始めたが、どうやら魔力増幅器として使えるらしい。
三十五階層で取れる宝石の上位版だと杖の彼は胸を張る。
「馬鹿もん! そのまた上位だ。これほどのは初めて見たぞ!」
「ふひひ、これを僕の構想で連結したらどうなるんだろうなぁ……」
「ふん、お前みたいな小僧に任せるよりもわしがやるべきじゃ!」
ああ、始まると思った。うん。こいつなら絶対始める思った。
そう、二人は服を掴み合い子供の様に喧嘩を始めた。
「実はこの宝石、たーくさんあるんだよね。
使いたいなら喧嘩している暇なんてないんじゃない?」
「「――――っ!?」」
そう言いつつ、宝箱を大量に放出した。
「全部使っていいものだけど、出来れば箱が壊れたのを優先して消費して。
瓦礫は捨てちゃいたいし」
そう伝える前から彼らは素材チェックに取り掛かっていた。
杖の彼は、傷つけようが壊そうがお構いなしだ。
なるほどな。主に第三の悪評はこいつか。
そんな問題児から視線を外し魔道具の彼女に視線を向けると、待ってましたと言わんばかりに寄って来る。
「私は?」
「当然専門の魔道具なんだけど……
こっちは素材ってより構想から話さないとだなぁ。
先ずは腰を落ち着けようか」
そう告げて、大勢居る魔道具専門の技師たちと席について話し合う。
先ずは多対一の攻撃手段の作成。
今回は戦争だ。しかも相手は十倍。銃で一人一人倒せばいい人数ではない。
砦の防衛線という状況を鑑み、その中で考え付いたのが地雷型爆弾の作成。
銃が出来たのだからこちらも出来るだろうと思われる。
だが、大きな問題もある。
魔法とは違い己を巻き込むので遠隔で起動させる必要があるのだ。
踏んだ時に魔力が魔法陣に行く仕組みを作れないかと相談する。
「えぇ、流石に私その技術は知らないなぁ……」
「無理だな。厳密には出来るが、素材が厳しすぎる」
魔道具愛好会の彼女の代わりに答えてくれた技師は、どうやらバックパックの原料があれば可能だが、それはそう簡単に手に入るものじゃないので無理だという結論を出した。
燃料を予め中に入れて置けないのであれば残る可能性は有線式で魔力を送り込む事。
幸いミスリルは売り出してるほどある。地中に隠したミスリル線を延ばせば遠隔爆発は可能なんじゃないかという相談だ。
出来れば二百メートル程度離れた所で爆発させたいと伝えた。
「はぁ……また厳しい事を。
そこまでの距離だと、純正ミスリルじゃないと絶対に無理よ?」
「そうだね。純正を使えば……大凡ファイアーボールの射程くらいまでなら延びるだろう。計算上はね。だけどそれだけのミスリルを消費するのは現実的じゃないね」
「いくらミスリルは一瞬で魔力を伝えると言っても適量だけを送ることは出来ない。魔力消費も大きくなるぞ」
彼らの発言は実用性に否を唱えていた。
「つまり、出来るには出来ると」
彼らは揃って頷いた。
であれば取り合えず作ってみて欲しいと作成依頼を出し、ミスリルゴーレムを二体ほど出した。
「こりゃおったまげたぁ……」
「おい、これ本物だぜ?」
ちなみに、ミスリルは高価過ぎるからと別の場所に保管しているので彼らが見るのは初めてだ。
「あはは、どこから出したのとか疑問は膨らむけど、やっぱり聞くべきじゃない?」
「いや、今の見たんだからわかってるでしょ。収納魔法を使っただけだって」
魔道具の彼女は「いや、そんなもん聞いたことも無いわよ!?」と強く言い放つ。
「んな事より魔道具関連もやって貰いたいこと満載なんだ」
そう言って先日決まった戦闘用魔道具で有用性が高い物、それを一先ず百ずつ作って貰うと告げた。
「相変わらず、貴方の依頼は数が半端ないわ。
またポーションと言われなかっただけマシだけど……」
「ごめんて。でも仕方ないじゃん。兵士に装備させる為なんだから」
魔道具の彼女がだるそうにしたので他の職人の顔を伺ってみたが、特に気にした様には見えない。
「ふっ、兵士の装備を任されるなんて光栄なことさ。なぁ皆!」
「「全くだ!」」
「是非、これからもうちをご贔屓に!」
「おい、抜け駆けするんじゃねぇ! うちも大歓迎ですよ!」
よかった。乗り気になってくれて助かった。
「これはまだ極秘なんですが皆さんの奮闘にベルファストが国として再び立ち上がれるか否かが掛かってます。よろしくお願いします」
そう告げると、ラズベルの人間全員が動きを止めた。
「殿下、いいんですか?」とコナーさんが耳打ちをしてきた。
「いや、身内に隠す意味あります? そもそも隠してる理由も聞いてませんし」
「他国への流通や我らが戦力集めにレスタール内を飛び回る時のタイムロスを減らす為だと思いますが、確かにここで隠す必要は無さそうですね」
やっぱりそういう理由か。
ラズベルとしてなら同じ国だからすんなり通れるもんね。
なら説明しちゃっていいだろ。
口止めは一応するけども、と彼らに向けてレスタールから返還されベルファストへと戻ったことを告げた。
「――――――――――――ってな訳で、今再誕したばかりのベルファストは危機に陥っています。それを救うか否かはあなた方の腕に掛かってます。
これは乗せる為の言葉ではありません。偽りのない事実です」
おっと、静まり返っちまった。発破かけ過ぎたか?
と心配になりかけたが「ふ、ふふふ」と笑い声が木霊する。
なんだ武者震い的なあれかと思っていたら笑っていたのは問題児だった。
「ふははははは、僕の完成品をお披露目するには最高の舞台じゃないかぁ!!
威力増幅は僕に任せてくれ!!
それが最高の出来の魔道具なら最高の出来の増幅器を付けてあげるからさぁ!」
ラズベルの技師たちに向かい「僕に任せな!」とドンと己の胸を叩く。
お前、彼らと初対面だよね……どうしてそんなに強く出れるの?
苦笑せざるを得ない状況になったと思ったが、どうやら彼らもぼそぼそと自身の考えを口にしながら目算を立て始めた。
うちの技術からだとあれにならば、これならば、と思考に耽っている。
「あと魔道具の彼女は俺と来て。最初に言った地雷作成を頼みたい」
「ねぇ、それはいいんだけど、そろそろ名前覚えない? 私だけでも……」
「いや、いいけど、流石に名前告げてから言ってよ」
「えっ……」と固まった後、笑い出す。
「あはははは、言ってよぉ。
貴方が来る時って何時も衝撃的過ぎてそれどころじゃなかったんだもの。
ミズキよ。フォーマル魔道具店のミズキ。覚えてね?」
「おう。俺はルイだ。改めて宜しくな」
そうして俺はミズキとコナーさんとその従者たちの五人で再びラクとふぅの引く獣車に乗り、町を出て森の中へと足を運んだ。
「こんな何もない森の中で仕事はできないわよ?」
「いいのいいの。先ずは威力調査だから。絶縁体だけは持ってきてくれたでしょ?」
「うん、言われた通り持ってきたけど……?」
じゃあ大丈夫とミスリルゴーレムを溶かしてミスリル線を作成していく。
これを試しで爆発地点から八十メートルほど引っ張り、ラクたちの待つ街道の方へと伸ばす予定だ。
これ以上は無理だ。今の俺の制御でも本当にギリギリライン。
「あんた、良くそんな躊躇いもなく純正を……」
「戦争はお金が掛かるんだよ。全くやーねー」
「全く持って仰る通り……めまいがするほどだよ?」
コナーさんも乗っかって嘆いている。俺と違ってガチなやつだ。可哀想に。
それはそうと魔道具を作成せねばと爆発の魔道具を作成して、絶縁体を塗ってもらう。
「玉にする方は持ってきてないわよ?」
「あー、大丈夫。どっちにしても全部弾けると思うし剥き出しでいいよ」
「確かに爆発の魔道具は技量が無い技師が作ると直ぐ壊れるけど、下手糞が作っても固めて置けば流石に一発ってことはないわよ?」
いや、完成品にも保護する物を一切つけるつもり無いから。
逆に壊れて欲しいんだ。
そんな言葉に驚く彼女だが、それでも作業は進めてくれた。
塗り終わり、今度は俺の魔装で玉にしてその周りに弾丸となる小さな球体を敷き詰め、それを閉じ込めるように囲う。
これで爆発させれば中の弾丸が飛び散る筈だ。
ラクたちの方へと戻りながら周囲に人が居ないのを確認した。
離れる度にコナーさんたちが後ろを確認している。
大丈夫。多分成功するからと自信を持ってミスリル線を手に取った。
一応念のため、魔装で防壁を作り上げる。
「流石にこの距離じゃ要らないでしょ」
「そりゃ失敗すればね? 成功したらどうなるかなぁ?」
「ちょっと、あいつみたいな言い回ししないでよ。イメージ最悪よ?」
彼女の言うあいつが直ぐに誰かわかり、少し落ち込んだ。
そんな杖の彼の事は忘れようと頭を振り「いくよ」と声を掛けてミスリル線に魔力を全力で注ぐ。
ドーンと爆発音と共にパァンパァンと防壁に弾だか破片だかが当たる。
防壁を大きく作ってよかった。ラクたちを巻き込んだら洒落にならん。
ああっ!?
怯えて頭を手で押さえて伏せてしまっている……耳までぱったり閉じて……
煩かったね、ごめんね。次回からは居ない所でやるから。と二匹を撫で回す。
「ちょっとちょっと!! そんな場合じゃないでしょ!!
この分厚い防壁、思いっきり欠けてるんだけど!?」
「これは驚いた……殿下、現地を見てきても問題ありませんか?」
「いいけど……」殿下は止めて下さいよと続けそうになりミズキに視線を送る。
「えっ、あっ、あの……もしかしてベルファスト王族の方……でしたか?」
「いや、一応そうだけど、何時も通りでお願い。
俺は平民として育って今後もそのつもりで居るから」
友人に畏まられても悲しいだけだし。
そういう思いを感じてくれたのか「えぇぇ……わかった。けど、無礼者とか言い出されたらちゃんと助けてよ?」とミズキは困った顔で笑う。
「当然だろ。大丈夫。絶対に助けるよ」
そう告げて安心して貰った後、俺も現地を見に行くと結構凄い事になっていた。
「おお、流石全力で魔力を注いだだけはある」
「いやあんた、爆発魔法はここまで凄いものじゃないってば!」
彼女は地面はいいとしてもと周りを指差す。近場の木々を薙ぎ倒すほどだった。
バスケットボールを一回り大きくした程度でこれなら十分使えるだろう。
コナー伯爵はどうやら少し距離のある大木を見て周り戻ってきた様だ。
「殿下、これは間違いなく使えます!
これほどの広範囲魔法は初めて見ましたよ!」
ああそっか。魔法陣を大きくは出来るけども上位魔法とかは無いもんな。
人が制御できる範囲内まで魔法陣を大きくするのが限界だもの。
流石に百メートル以上の範囲魔法なんて存在しないわな。
「じゃあ、これを金属で作り増幅器とかで強化して貰ってからもう一度試しましょうか」
そう、俺の魔力で作ったものじゃ意味が無い。
制御外の安全地帯までミスリル線を引いて遠くから爆発させるのが目的だ。
そういう意図で発した言葉だが、別の疑問を投げかけられた。
「はっ!? まだ威力上げるの?」
「そりゃそうだよ。だからこれだけの職人を集めたんだから。
それにもっともっと威力上げて大量に設置しないといけないんだ。
敵はこっちの十倍居るんだよ?」
「えっ……十倍も居るの!!?」
ピンチの具合を理解してくれたのはいいが、目を見開いて固まってしまった。
「殿下の言った通り、本当に彼女たちにベルファストの未来が掛かってるんだな」
ははは、とコナーさんも乾いた声で笑い、御付きの人たちもなにやら呆然としている。
俺一人だけが取り残されたかのような気持ちになった。
「いいから帰ろう。やることは沢山あるんだから」
「ハッ! 直ちに!」
伯爵が胸に手を当て敬礼すると御付きの人たちもそれに慌てて続く。
いや、伯爵にはこんな雑な言い方しないよ?
ミズキに言ったつもりだったんだけど……まあいいか。
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