第54話 参戦の準備
ご褒美をたんまり貰った俺はお城を子爵様と共に後にした。
「それで、あれからどうなったんだ?」
「それが大変だったんですよぉ……」
連れて行かれた後の事を話せば「馬鹿野郎、それは極秘事項だ! 俺に教えてんじゃねぇ!」と怒られた。
解せぬ。そっちが聞いてきたのに。
「そんで、お前はこのままベルファストに行くのか?」
「一度オルダムに行ってから、ですかね。
陛下に許可証も頂いたし、子爵様とあそこの魔物を卸す約束もしましたから」
「おお、そりゃ助かる。あの猿の皮は良い物だ。あればあるだけありがてぇ。
お前にとっても今は強さがいくらあっても足らんだろうから最善だな」
彼は満足そうにうんうんと頷く。
そんな子爵様に「じゃあ、一足先に帰ります」と荷車に褒美の荷物を積んで走り出す。
余りの即行さに目を丸くはしていたものの「気をつけろよ」と旅の無事を祈ってくれた。
それから俺は少しでも魔力を増やしておこうと王都の魔石をありったけ買い集めて吸収した後、人気の無い場所で褒美で貰ったお金や荷物を収納魔法に入れ、さっそくハンター証を使い王都の外に出た。
来る前は謁見が終わったらユメに会いに行こうかとも思っていたが、こんな状況下だ。連れてもいけないし時間も掛けられない。
だからもし無事に済んだら顔を見に行こうと今回は見送ることにした。
王都から少し離れた場所で温めていた秘策の魔道具を取り出す。
と言ってもただの風魔法の陣が刻まれただけの物。
それを噴射出来るように筒状の魔装に取り付けて背中から巨大な翼を生やし、腰を落として前傾姿勢で走り出す。
勢いが乗ってきたら風魔法を起動して下げていた体を少し起す。
本来、魔法陣は空間に固定される物だが、魔道具であれば移動しながらの発動が可能となる。
固定されない魔道具であれば推進力も得られるのは実験済み。
これで恐らく飛べる筈、との試みだ。
予想通り、勢い良く空へと舞い上がりどんどん地上が遠ざかっていく。
高い所は奈落のお陰で慣れたもの。落ちてもどうとでもなるとそのままぐんぐんと上がっていった。
ある程度上がった所で少し降下気味に翼の角度を下げれば、速度がどんどん上がる。
やっばっ、これめっちゃ速い。
余りの速度に息苦しさを覚えフルフェイスのヘルメットを作り顔をカバーしたり、動作確認として少し旋回してみたりと試行錯誤を入れたが、それでも二時間もかからなかった。
学院近くの門へと回りこんで降りて、その足でそのままダンジョンへと入る。
今回の俺の目当ては恐らくミスリルだと思われるゴーレムだ。
子爵には申し訳ないが、今回はどれだけ必要になるかはわからないので報告せずに全て持って行かせて貰う。
その代わり、猿と恐竜はガッツリ卸してあげよう。
後で全部帳尻を合わせるので勘弁してください。
そんな企みをもって奈落の底へとダイブする。
もう慣れたもの。穴底の部屋には居なかったので、そのまま着地し強化された聴力で音を探りながら通路を確認すれば見える距離ではないが一匹だけ割りと近い場所から音が聞こえる。
やべ、もっと慎重に索敵するべきだった。
距離的に全然余裕だが、この微妙な油断が死を招く場所だと思い直す。
それを呼び寄せレーザーガンで即殺し、魔装で銅鑼を作りガンガン打ち鳴らす。
そうして大量に誘き寄せたのをレーザーガンで駆除するだけだ。
通路はかなり長いので狙い放題。
どんなに重なって集まってきても最悪は光が通路を埋め尽くす大きさの魔法陣を作れば全てが消滅する。
まあ、そうなったら素材も全て消滅するんだけど。
背に腹は代えられないので常にその選択肢を頭に入れて行動しているが、今回もそんな手を使う必要も無く階層の殲滅が終わった。
次は恐竜だがやることは変わらない。というかこっちの方が数が少ないので楽だ。
首をレーザーガンで横に切り付ければ首が落ちるのでそれで終わる。
銃の時は消費の問題で首を落とすほどの弾を飛ばす訳にはいかなかったが、光魔法なら切り付けられるので問題無い。
効かない魔物が居る事を鑑みてもチート級の魔法だ。
そしてやってきた光魔法の効かないゴーレムの階層。
ここに来たのは久々だ。
何故なら、どうにか上手く攻略してやろうと二度チャレンジしたがどちらも失敗したからだ。
一度目は離れた所から魔力を引き伸ばして死角に居る存在を感知しようとしたが、その魔力に反応してゴーレムは動き出し襲ってきた。
巨大な銃というか大砲を二つ用意していたので連射により接近前に倒せたが、その日はそれで諦め引き返した。
二度目の挑戦は鏡で死角を覗くというもの。これは成功することも多々あったが、余りに近いと魔装に反応して起動することもあった。
偶に襲い掛かってくるなんて逆に危険だと即座に終了した。
その日から俺はチャレンジすることを止めていた。
だが、それは素材が持ち帰れなかった時の話。
素材を持って帰れるなら利は大きい。
光魔法で魔石を狙うのであれば倒すのは簡単なのだ。魔石吸収を諦めれば良いだけの話。
幸い、光魔法で体が消失することは無いので好き放題照射できるから狙いを合わせるのも楽だ。
最悪、魔石に光が当たらない状態にされた場合を考えて大砲の準備をしつつ魔力を部屋の入り口付近まで伸ばせばしょっぱなからヒットした。
飛ぶ様に突っ込んでくるゴーレムの魔石に即座に光を当てれば、床に倒れこみ、床を削りながらこちらに突っ込んでくる。
最初はこの一撃で死に掛けた。
いや、慣性のままに突っ込んできただけのものを一撃って言っていいのかわからんが。
何にせよこれはこれでかなり危険なのでしっかりと止めてやる。
硬いゴムの性質を持たせた魔装を三角形に作り上げ、上に弾かせ天井にぶつけることで完全に勢いを殺す。
その後、部屋の奥の方に居たゴーレムは銃で駆除して収納魔法に入れ、これで一応攻略法は成立したと階層を回る。
そうして始めてみればそれほど掛からずに討伐が終わった。
その足で蜘蛛もサクッと討伐する。
もう明らかに深夜になっているだろうというくらいに時間が経っているが、今日は徹夜で狩りをする予定だ。
最初に行った爬虫類っぽい魔物が出てくる階層までは種が割れているので、舐めたことをしなければ危険は少ない筈だと慎重に、だけど素早く歩を進め続けた。
緊張していたからか忙しくしていたからか、感覚では予定階層まであっという間だった。
だが、疲れは溜まっているだろうと下へと戻った。
ついでにと宝箱も殲滅する。こいつは驚くほどに安全だ。油断する気はないが触れるほどに近づいて漸く動き出すらしいので一撃必殺すれば問題ない。
何かに使えるかなと魔石を銃で狙い綺麗に倒して収納魔法に沢山しまいこんだ。
そんなこんなで外に出てきてみれば案の定、昼になっていた。
まあ、昨日の夕刻からだったしこれでも大分早いけどな。
収納魔法は明かしていないので、荷車に猿と恐竜を出来るだけ積み込むが、圧倒的に載らな過ぎた。
いいや入るだけで、と積めるだけ積んで解体場へと持ち込む。
猿は第三魔道具愛好会の奴ら呼ばないとどうにもならないことは解体場の奴らは知っているので呼びに行くのは任せろとその場を後にする。
やることは沢山あった。
先ずは第三の連中の勧誘。無理なら無理でベルファストで雇えばいいが、皮の加工から何から俺の出す素材を知っている面々が望ましい。
てな訳で第三魔道具愛好会へと訪れ、三人を勧誘する。
勿論全部正直に告げた。
危なくなる前に逃げて貰って構わないと。
「ぼ、僕は行こうかなぁ……一人大金貨十枚ってマジ?」
「当然俺も行く。この条件で始まったらいつ逃げても良いなら行かない方が馬鹿だ」
「それで、出立はいつ?」
「俺は今日にでも立つが、そっちは準備が出来次第でいいよ」
来てくれるなら今すぐ到着予定日と合流場所の目処を付けてくれとお願いした。
そして旅費を渡して落ち合う約束をした後、先ずは解体の方をお願いと俺は次の場所へと直ぐに立ち上がる。
「ちょっと待て、俺達が作る物はなんだ?」
「戦争で役に立つ物はなんでも。
猿の魔物の付近の階層の素材、ありったけかき集めてきたからな」
「はは、いいねいいね。実入りだけじゃなく面白そうだ!」
はしゃぐ彼らを尻目に第三を出た俺は職員室でオーウェン先生の居場所を尋ねた。
「ああ、オーウェン先生なら長期休暇を取ってるよ。身内に不幸があったとかで」
えっ……そっか。挨拶くらいしたかったけどそりゃしゃーない。
「キサラギ先生、従魔の買取手続きをしたいんですけどお願いできませんか?」
「ああ、勿論。その程度お安い御用だ。金貨十枚とこの書類にサイン。
従魔テストは……クリアしているな。じゃあ、後は飼育場でこれを出して、そこで貰う通行証を守衛に見せれば連れ出しても大丈夫だ」
おお……オーウェン先生よりも手際が良い。
あの人『お前なら大丈夫だろ? 後は適当にやれ』とか直ぐに言い出すからな。
お礼を告げて書類を受け取り、それからアキトの部屋へ。
「あ、もう戻ってきたんだ。お帰り。
そうだ、聞いてくれよルイ! 僕にも夢が出来たんだ!」
会って早々言い出すということは相当良い事があったんだろうなと、苦笑しながらもどうしたんだと問いかける。
「僕ね、ヒーローを目指すって決めたんだ!」
余りに好い顔で言うアキトに驚きを隠せない。
アキトは自分のことに関しては常に現実を見ている側の人間だ。ヒーローなんて言葉が出てくるとは思わなかった。
ちょっと、何があったの!
お兄さんに相談してみなさい!
と言えば、珍しくムッとした顔で「冗談じゃないんだけど」と返された。
それならば余計だよ。と真顔で返せばため息を吐きながらも説明するアキト。
あの輪に一人残してしまった所為か常識を忘れてしまったのか?
そんな心配をしながらの進路相談だったが、別におかしな事じゃなかった。
『強くなりたい。尊敬する領主の騎士を超えるくらいに』というものだ。
彼のヒーロー感は現実的なものだった。
このままの速度で強くなればその願いは普通に叶うだろう。
「アキトなら成れるだろうな。だから俺から言う事は唯一つ。
ダンジョンでは絶対に油断するな。その当たり前の鉄則を忘れないでくれ」
俺はそれで三度死に掛けた。と続ければ「自分は忘れてるんじゃないか」と笑われた。
「ああ。その所為で両足を捥がれた。肋骨をバキバキに折られて腕が逆に折れ曲がったり、全身毒に侵されて死の淵まで行った事もある。
確かに三度もなんて馬鹿らしい話だけど、その時心のどこかに油断があった。
冷気は魔装で防いだから安心だ、と足が凍り付いているなんて思いもしなかったし、魔石を砕いた後に滑ってきた魔物と激突しただけで腕と肋骨をバキバキに折られるなんて思わなかった。ましてや倒した後の魔物に軽く触れただけで猛毒に侵されるともな」
アキトには死んでほしくないので真剣な顔で告げる。
「それは……油断なのかい……?」
「ああ、英雄になるほど深い階層へ行くなら油断だ。
少なくとも俺が今行ってる階層はその程度の間違いで死ねる」
彼は地頭が良い。言いたい事をすぐに理解し表情を改める。
「確かにそうだね。
死んでしまえば全てが終わり。ならその程度の油断も駄目か……」
「まあ、あのポーションがあれば生きていれば完全回復するけどな。
仮に胴体真っ二つにされても飲めさえすれば……」
「……本気?」
「ああ。だからエリクサーって呼ばれてる」
彼は狩りの時に持ち運ぶ袋に視線を向けて少し固まった。
「まっ、アキトは俺ほど馬鹿じゃないから理解さえすれば大丈夫だろ。
それより心配なのはヒロキとアミだな」
ナオミはそんな場所には行きたがらないし元々慎重派だ。
そう思って口にしたのだが、思いも寄らない言葉が返ってきた。
「ああ、ヒロキとアミはラズベルに行ったよ。
お母さんの実家がそっちの人で戦争に参加する事になっちゃったみたいで……」
「マジかよ……」
聞けばオーウェン先生まで付いて行ったと言う。
身内の不幸って……いや確かに不幸だが。物は言いようってやつか。
何にせよ、こりゃあっちに着いたら直ぐ帰れって伝えに行かなきゃだな……
「わかった。あいつらとはあっちで話すよ」
「やっぱりルイも行くんだ?」と困った顔を見せるアキト。
「ああ、今日にでも町を出るつもり。状況次第で何度も帰ってくるけどな」
ダンジョンに篭りに。
子爵にも余り人目に触れない方がいいからここの解体場に卸せと言われている。
その許可も出されてるから学院にも普通に入れるし、いつでも会いに来ることは可能だ。
俺が生きていれば。
そんな思い言葉は胸に仕舞い、今度はナオミたちの元へ。
寮監さんにお願いして呼んで貰おうと頼めば、リアーナさんたちとキョウコちゃんは留守の模様。
出てきたナオミに連れられ表のベンチへと移動。
どうやら部屋には入れたくないらしい。まあ別にいいけども。
ラズベルへ行くと告げれば淡白に「あっそ」と返され、アキト同様にダンジョンでは油断をするなと告げれば「お前が言うな」と怒られた。
話が続かなくなったので「じゃあ、俺行くから」と背を向ければ後ろから抱きしめられて足が止まる。
えっ、何でこの流れで……?
「無事、帰ってきなさいよね……」
「ああ、頑張るよ。全力で」
「あっそ! じゃあ勝手にしなさい!!」
バチンと背中を叩くように押し、彼女は寮へと走り去った。
心配してくれるなら普通にしてくれよ……なんで一々怒るんだよ。
そう思うものの彼女なりの心配を感じて少し頬が緩んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます