第25話 巨大魔石
「よし! 回収できるなら外さなければ一先ずは凌げる!」
少し気持ちを取り直した俺は、寄ってくる魔物を撃ち殺し続ける。
足場の位置を調節し狙える角度を増やせば狙いを合わせる難易度が少し下がった。
鳴り響く心臓音に頭がおかしくなりそうだったが、数をこなすごとに落ち着いていく。
魔物が中を確認する為に立ち止まる場所を完全に把握できて、ぐっと難易度が下がってからはある程度平常心を保てるようになっていた。
そのサイクルを長い事繰り返していれば漸く近場では音が聞こえなくなる。
「どんだけ寄ってくんだよ!」
突っ込みを入れつつも足場から下に降りれば、そこには猿の様な魔物の死骸で山ができていた。
この魔物は人より一回り大きい程度だが、相当な数を倒した様で通路の半分を塞ぎ背丈を越えそうな程の山となっていた。
降りて早々にいそいそと魔石の吸収を終わらせてすぐに上へと戻り息を吐く。
これほど楽に倒せるなら正規ルートで上を目指す事も視野に入れるか?
そんな考えも浮かぶがアホかと直ぐに頭を振って考えを改める。
狙った場所に当てるという名目なら下に降りて普通に狙った方が断然楽なのだ
が、それだと魔力回収ができない。
運よく即行で階段を見つけられても一つか二つ階層を上がったら魔力が切れるだろう。
その周辺で安全地帯を見つけられなければそれで終わりだ。
逐一足場を作って銃弾回収が出来る様にして進めばとも考えたが、よくよく考えればそれも難しい。
回収できるから撃ち放題だと思っていたがそんな事もなかった。
消費しているのは火薬だけなのだが、五十発程度で二日分の魔力が飛んだ。
台に乗れる場所をある程度残したまま五十発近く撃てたのだからよくよく考えればこんなものなのだが、この状況では魔力残量の大幅な減少は死に直結する。
もう来ないでくれ、と願いながらも銃を消して上に登る手段を模索する。
「何か、何かないか」と周囲を確認する。
直径三十メートル程度の部屋。
その大きさのまま不自然なほど綺麗に上に伸びる穴。
通路も同様に上層とは違い凹凸のない綺麗に切り取られた作りとなっている。
地面には共に落ちてきた鉄板と黒く大きな玉がいくつも転がっている。
「……なんだこれ」
人工かと思われるほど綺麗な作りのフロアには不釣合いの物。
焦っていて気がつかなかったが、壁の色とは大きく異なる黒ずんだ岩。
人の頭ほどある同じ大きさの岩が所々にいくつも落ちている。
それが気になり、再び降りて手に取ってみた。
被った埃を手で払ってみればそれは魔石と全く同じ色合いをしていた。
「はっ?」
思わず声が漏れた。
これほどに大きな魔石など聞いた事もない。
この階層の魔石ですら拳程度だ。それですら今まで見たことないレベル。
「これが本当に魔石だったとして、こんな大物売ったらいくらになるんだ……」
そんな考えが頭を過ぎるが学校経由で売らなければ成らない為隠す事は出来ない。
こんな物を売りに出したら騒がれ面倒に巻き込まれるのはわかり切っていた。
強者と勘違いされても、弱者が運よく富を得たと思われても、弱い俺には危険だ。
って、何を考えてるんだ俺は。
それ以前に閉じ込められていて魔力がいくらあっても一つのミスで死ぬ状況なんだぞ……
これがもし魔石なら吸収一択だろ。
一瞬の迷いを打ち払い、魔石の様な岩を拾い即座に吸収を試みた。
本当に魔石なのかはこれでわかる。
両手で持って吸収を始めてみればいつもの感覚がある。
それは確かに魔石だった。
「マジかよ……本物だ」
高揚し吸収速度を上げていくと突如体が熱くなり立ち眩みに襲われた。
一体何が……と困惑させられたが直ぐにその原因がわかった。
魔力が全回復している状態でバックパックから取り出した時の感覚と同じものだ。
だからこれは魔力超過。
だが、魔石から吸収できる魔力は微々たるもののはず。
どれだけヤバイ代物なんだと冷や汗が流れるが、もたもたしていて良い状況ではない。
魔力が補充できるなら万々歳だとバックパックに魔力を移して再び吸収を開始する。
そしてバックパックに移しながら三つほど吸収し終わると魔力上限に達した。
「待て待て! 俺の五日分の魔力がたった三つ!?」
魔石はまだまだ落ちている。
だが、魔力を使わなければこれ以上は吸収できない。
魔力を具現化させた分は吸収する事はできるが持ち運ぶなら魔石の方が小さくて済む。
どうする?
強い迷いが生じる。
これを持って探索するか、それともこのまま上に登る方法を考えるか。
巨大魔石を拾い集め数を数えてみれば後五十九個もあった。
という事は今俺は百日分以上の魔力を保持しているということになる。
もしこのまま登るなら魔力を霧散させて吸収を続け、魔力総量を増やすべきだろう。
この大きさの岩を六十個近く持って登るのは落ちるリスクが上がるだけだから。
待て待て。
本当に良いのか?
百日分の魔力だぞ!?
落ちても死ぬわけじゃないし総量が上がっても登る助けになる訳でもないなら……
――――っ!?
そう考えた時、一つの重大な事実を思い出した。
「そういや上がるわ。制御距離」
そう。上がるのだ。魔力総量によって。出力と同時に制御距離も。
それがどれほどの距離に伸びるのかまでは知らない。
だが、確かに伸びると教科書に書いてあった。
ああ、それでユキナさんが宮廷魔術師を目指せると言っていたのか。
魔力が少ないのに距離が長いから。
そう考えると尚更迷うが、その前に検証が先だ。
一体どれほど伸びたんだろうかと限界まで棒を伸ばしてみると確かに伸びていたが一メートル以下だった。
先ほど、限界まで伸ばして杭を打とうとしたりと色々やっていたので間違いない。
全部吸収しても二十メートル以下と考えると現状を打開できそうなものではないな。
だが心持ちは大分軽くなった。
考えたらこれはチャンスでもある。
もし……もしもだ。
正規ルートで上手く切り抜けて地上に戻ってみろ。
そうなればとんでもない事になるぞ。
これほどの深層の敵。経験値量は莫大なものになる。
魔石の大きさからしてここがかなり深いのはもう間違いない。
十五階層ですら小指の先程度の魔石なのだ。
そして百日分の魔力。
数年間討伐で鍛えたくらいの強さになって帰還できるって事になるよな。
それならユリとも肩を並べられるんじゃないか?
そう考えると欲が生まれ、気持ちが僅かに探索して上がっていく方向へとシフトした。
しかし、本当にいいのか?
ワンミスで死ねるだろうからかなりの高確率で死ぬぞ?
けど、ここで延々と立ち止まってても意味は無い。
とりあえず、上る方法を考えつつやれそうなこの階層だけやってみるか?
「よし、そうと決まれば即行動だ」
魔力を無駄にさせない為にも足場を変形させて銃と荷車を作成し、巨大魔石を荷台に積み込み移動を開始する。
幸い、近場の魔物はすべて引き寄せた後。
音はしないので急いで次の部屋へと歩を進める。
通路を進み長い事走ると広い部屋が見えたが、作りを見て顔を顰める。
ここはダメだな。通路が多すぎる。
この部屋から繋がる通路は来た道を入れて五つ。
下手をすれば四方向から魔物が押し寄せるからここで迎え討つのは危険だ。
幸いまだ足音がする場所は遠く微かに聞こえる程度。そっちの方向を選ばなければまだまだ移動できそうだった。
まあ策敵が出来てる以上、消費を気にしなければ強行もできるんだけどな……
だがこんな状況な以上、節約は必須。
できるだけ銃弾を回収できる状態での戦闘を行いたいから部屋を移動して最初と同じやり方をする事に決めた。
良い立地を得る為にと魔物が居ない方向へとマッピングをしつつひた走る。
部屋を一つ越え、二つ越えと、移動した所で良い立地を見つけた。
通路は一つ。要するに行き止まりだ。
聴力の強化を多少強めれば音はあちこちで聞こえるくらいに魔物は居る。
流石に天井はそこまで高くないが、通路から見られず霧散しないラインで弾が止まれば良いと、貫通した玉が壁に刺さるだろうラインを取った。
準備完了と通路に向けて爆発魔法を使う。
魔物が慌てて動き出しこちらの方向へと殺到しているのがわかるが、全てがここに向かっている訳でもない。
音で場所が完全にわかるということはなさそうだという事実にホッとする。
そうして正解を引いたいくつかの魔物を撃ち殺し、それを聞いた魔物が再びこちらを目指して走り出す。
そんな繰り返しを数回こなせば再び足音が聞こえなくなった。
流石に爆発音を何度も聞けば場所は把握できる様だ。
討伐した魔石の吸収をして、再び移動する。
それを繰り返していくと漸く階段を発見したのだが、皮肉にも降りる階段だった。
その階段は上層のものとは違い、人工物の様にしっかりと一段一段均等に段差ができている。
降りるほど丁寧な作りになっているとか普通逆だろ、と思いながらも先へ進む。
部屋を移動しては隠れながら気付かれないままに撃ち殺す。
やはり、身を隠していれば瞬時にバレる事はなさそうだと安堵して続ける。
それを何度も繰り返すがやってもやっても登り階段が見つからない。
そして巨大魔石を五つ消費した頃、とうとう目的のものを発見した。
誘き寄せて殲滅した後はマッピングして分岐の通路は全て潰して確認してきた。
この部屋に分岐がない以上、正真正銘この部屋がラスト。
当然そこには登り階段があった。
だが最後の最後まで見つからなかった事に深い溜息が漏れる。
「はぁぁ……漸く見つかったのか」
数時間ぶりに声を上げた。
極度の緊張によりどっと疲れが出て上の様子を見る気すら失せてしまった。
「一度戻って休むか」
次が沸くまでには早くても二日はかかると聞いた。
魔力回復もしておきたいし、睡眠も取って置きたい。
当然食事も……
「猿肉って食えるよな?」
肉は階層が深くなるほど美味なものが増えると言う。
だが全てが美味しいとは限らないそうだ。
例えばコウモリ。あれは上位種でも美味しくないらしい。
ただ食料を持っていない以上、美味い不味いで嫌煙していい状態ではないので食べるしかない。
顔を顰めつつも解体を始める為に、作業台、ナイフ、テーブル、イス、食器、給水タンクなどを作成する。
魔法にてタンクに水を入れてコップに注ぎ喉を潤す。
「ぷはっ、こんだけ何でも揃うなんて魔法様様だな」
そう一人ごちて解体に手を付けようとしたが、刃が通らない。
触った感じ中は柔らかそうなのだが白い体毛も硬ければ皮膚も硬い。
仕方ないとチェーンソーでガリガリやるがそれでも首を落とすは大変だった。
あの威力の銃弾が貫通しないで頭に残る事もあるくらいだからめちゃくちゃ硬いのは知ってたけど、普通死んだ後は刃が通りやすくなる筈なんだが……
逆さ吊りにして血抜きをしながらもこの先どうしようかと悩む。
「このまま焼くか」と腕をチェーンソーで丸まる切り落としてファイアーウォールの魔法で燃やすが、何時まで経っても白い毛が燃えてくれない。
いやいや、おかしいだろ!?
何て思っていたが切断面を見れば黒焦げになっていた。
ナイフで焦げを削り取っていくと中の方は生。
そこで漸く理解した。
「火耐性が付いた素材って事か……」
という事は間違いなく高級素材だが、持って帰る算段がつかない以上食うのが大変なだけだ。
冷めた目で腕を見つめながらも仕方がないとチェーンソーで切り込みを入れ、フル強化して皮を剥ぎ取った。
「あ、意外と剥く事は普通にできるのか」
そうして剥き出しになった肉を一口サイズに切り再び焼けば問題なく焼けた。
結構な空腹状態だった為、そのまま齧り付けば臭みは強いものの美味しかった。
「よし、これで一先ず生きていける! 絶対に生き残ってやるからな!!」
腹が満たされ気力が沸くと元気も出て決意表明に立ち上がって声を荒げた。
すると、階段の上からズンズンと振動と共に足音が聴こえてきた。
その音はとても近く、明らかにこちらに向かってる。
「はっ? うそだろっ!?」
俺は冷や汗を掻きながらも壁際に退避し壁と銃を作り、寄ってくる魔物を待ち構えた。
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