第37話 いざ、ユリんちへ!
到着した時には既に人が集まっていた。
御者台に座る男に声を掛けて割符を見せる。
「あんちゃん、荷車を持って来られても流石に運べねぇぜ?」
「ああ、大丈夫です」と手荷物とポーションの箱を出して荷車を消した。
「荷物はこれだけです」
「へぇ、魔力で作ってたのか。器用なもんだ」
その後彼に俺が使っていいスペースを教わり荷物を置いた。
もう中で座っていれば良いだけだが、ハンターの仕事がどんな感じか気になって護衛であろう人たちを観察した。
男三人女二人の五人パーティーだ。
年の頃は二十代前半くらいだろうか。
予想と違い、皆体型はすらっとしている。
「どうした坊主」
「いえ、俺ハンター学院の学生なもので仕事内容が気になってですね……」
「へぇ、私たちの後輩ね! いいよ。キミもこっちにおいで!」
綺麗……ではないが優しそうなお姉さまに呼ばれたのでとことこ彼らの輪に加わる。
「今何年よ?」
「一年生です。今年で卒業が決まりましたのでお出かけする所です」
「いやいや、最速で二年だぞ。お前本当に学院生か?」
彼らに疑いの目でジロジロ見られたが、腰に掛けているバックパックを見てギョッとしている。
そして一人がハッと視線をこちらに向けた。
「……ちょっと待った。もしかして特待生の評価超過?」
「ああ、それです」と彼らに返せば「おおぉ!」と拍手をくれた。
どうやら気の良い人たちの様だ。
折角なので外はどの程度の魔物がどれくらい出るのかを尋ねてみた。
「頻度は少ないが、オルダム学院のダンジョンなら三十階層程度までの魔物は出ると思って置いた方がいいな」
「あぁ、よかった。丁度自分が行ってる所ですね」
「マジかよ……まあどちらにしても今回はお客さんだ。気楽に乗っててくれ」
その声に返事を返し、出発と同時に乗り込む。
これなら次にラズベルに向かう時は護衛はいらないな。
なんて思っていたのだが、時間が経ち日が落ちてきて一人じゃ野営ができない事に気がついた。
まあ二日で着く行程らしいし、一晩徹夜で走るつもりで行けば大丈夫か?
それもこれも距離次第だけど、割とゆったり走らせているからいけそうだな。
そう考えていると隣に座る女の子から声を掛けられた。
「あの、Aクラスのルイさんですよね?」
「えっと、そうだけど……」
「私は先日転入してAクラスに入ったキョウコといいます」
へぇ、そんな子と乗り合い獣車で隣の席なんてそんな偶然もあるもんだな。
「一緒のクラスの人だったのか……でもごめん。
授業なくなっちゃったから同じクラスの人も把握できてないんだ。
後数ヶ月で卒業に成る予定だけど宜しくね」
「え? 卒業決まったんですか?」
「うん。あの特別評価なんちゃらってやつで。
もう学校行かなくても大丈夫らしい。まあ行く予定ではあるけど」
「うわぁ、凄いなぁ。優秀なんですねぇ」
おお、褒められた。
護衛の人といい、隣の人といい、人が良さそうな感じでラッキーだ。
楽しく旅ができそうだ。
そう思いつつも、キョウコちゃんとお話しながら車に揺られて居れば日が暮れてきた頃獣車が止まった。
「今日はここで野営します」
御者の男が声を掛けると皆外に出て体を伸ばす。
夜の食事は保存食でも出るのかなと思っていたのだが、普通にお吸い物とパンだった。
流石に美味しくはないが不味くもないまともな食事ができた。
そっちは良かったのだが、寝る場所が厳しかった。
車の中で座ったまま寝るか、外で野ざらしで寝るかの二択を迫られた。
仕方がないので外にベッドを作って横になる。
「おい、お前……なんでそれ柔らかそうなの?」
と、護衛の人に声を掛けられた。
「具現化する時に柔らかい素材に変換してるんですよ」
「ちょっと待てそんな事できるのか……お前これ、マジかよっ!?」
彼が騒ぐと護衛全員が集まってきて皆でベッドを揉み揉みし始めた。
「ねぇ、これ弾力作る為に編み込んであるわよ。中まで全部……」
「これは無理。貴方、恐ろしい制御能力しているわね」
全員で集まってきてしまったものだから不安になって「警戒は大丈夫なんですかね」と尋ねれば「当然しているわ」と言いつつも女性の一人が馬車の反対側へと歩いていった。
音を聞くに結構遠くだとは思うけど一応何かいる音がしている。
わかっているのだから前もって教えたい所だが、ユリとの約束でこういう時にも危機的状況下じゃない限りは言わない様にお願いされているので知らない振りをしている。
「なぁ、もう一つ作れないか?」
「僕らの寝る番なんだよね」
別にもう一つベッドを作るくらいはわけないので数メートル離れた所にもう一つ作れば男三人がくっ付いて一つのベッドに横になる。
なにやら不憫さを感じ、ダブルベッド程度の大きさに拡張する。
「助かるよ。これ予想以上にいいね! 宿のベッドより快適だぁ!!」
「お前、騒ぐなよ。お客さんに迷惑だろ」
「悪い悪い。驚きすぎてさ」
あっ、今の声で魔物が動いた、と思わず体を起こす。
やっぱりこっちに向かってきている。
お姉さんは気が付いているのかなと視線を向けるがあさっての方向を見ている。
仕方がないとトイレに行く振りをして魔物が来る方向へと歩く。
少し木陰に入り、音を頼りに魔物が目視できそうなラインで走って戻る。
「何か来てます!」
「えっ? どこ?」
指を差せば彼女は即座に声を上げた。
「敵襲! ミゼ、あいつら起こして!」
「いや、流石にまだ起きてるぜ。数は!?」
「まだわからないわ。けどあそこの背の高い草むら、居るのはわかるでしょ?」
聞き返されて嘘だろって思ったけど全身隠れてたのか。
草原だから普通に見えるものだと思ってたわ。
「坊主、大丈夫だとは思うが馬車の近くに居てくれ。
守る範囲が広がるのは困るんでな」
彼の声に頷いて指示の通り下がれば、乗客も出てきていて不安そうに視線を送っていた。
始めて見るダンジョンの外での戦闘に少しドキドキしながらも観戦する。
草むらから飛び出して来たのは一匹の巨大ムカデだった。
かなり大きい。八メートル近くはありそうだ。
夜の背景も相まって余計に気色悪く見える。
「チッ! 厄介なのが出てきやがった。即、殺すぞ!」
リーダーであろう男が一声掛けると返事もなく二人が飛び出し、伸ばした剣で薙ぎ払う。
狙いは足だ。
声を掛けた彼が飛び上がり胴体の繋ぎ目部分に大剣を突き刺す。
「ミゼ、後は任せた」
「了解!」
彼が声を掛けると同時にゆっくりと魔方陣が魔物の下に描かれていき離脱と共に火の柱が上がると、ギチギチと虫が鳴らす嫌な音からパチパチと火の粉が弾ける音へと変わっていく。
それを見届けた乗客は感謝や労いの言葉を掛けて獣車へと戻っていく。
耳を澄ましてみても遠くからの音は聞こえなくなったので再びベッドに横になれば誰かに頭を撫でられた。
「教えてくれてありがとね。
あれに奇襲されてたら怪我くらいはさせられた可能性もあったわ」
「あはは、耳はいいんです。静かになったので寝させて貰いますね」
「ええ。警戒は任せなさい。お休み」
彼女はそう言いながらも優しく頭を撫で続けた。
「あれ……そういえば、お前どうしてあの距離まで離れてベッド出したままで居られるんだ?」
少し離れた所で寝ているリーダー格の男が疑問を投げかけていたが、お姉さんに撫でられてご満悦な俺はそれをスルーして寝に入った振りをした。
次の日の朝、目が覚めれば少し離れたベッドには女性二人が寝ていた。
ふむ。もう少し近くに作っても良かったかもしれない。
そう思いつつも自分の寝ていたベットを魔力に戻してバックパックにしまう。
女性が寝ている所をじろじろ見続ける訳にもいかないので、警戒を続けている彼らへと近づき声を掛けた。
「おはようございます。ご苦労様です」
「おお。お前、寝てても魔装残せるんだな。多才過ぎてビックリだわ」
「そうそう。起きてから気が付いて笑ったよね」
「まあ、魔力が霧散してベッドから落とされてもそれはそれで笑えただろうがな」
そう言って彼らは「ははは」と笑う。
そんな彼らを見てヒロキたちと何事もなくハンターになっていたら俺たちもこうなれたのだろうかと思うと少し羨ましく感じる。
「坊主はどこまで行くんだ?」
その問いかけに、ラズベル辺境伯爵邸までと返せば急に畏まられた。
「いえ、俺は普通の平民です。
学院で友人になったご令嬢に挨拶に行くだけですよ」
「ああ、そういう事か。そのコネは大事にしろよ。早々得られない繋がりだからな」
「ええぇ……友人をコネとか考えられないですよ」
「はっはっは。わけぇなぁ! いや、実際若いんだった!」
話している間に朝食ができて、それを頂いたら直ぐに出発となった。
昨日とは違い、護衛の彼らも獣車に乗りかなりの速度で走らせている。
どうやら一番警戒が楽な平原で一晩を明かす為にわざと歩かせていたらしく、こうして護衛が乗るのは割と普通な事らしい。
まあ、このスピードでずっと付いて来いなんて言われてもきついもんな。
かなりの速力で走らせた獣車は日が傾く頃、目的地へと到達した。
門を潜る時に学生証を見せて短期滞在と告げれば猶予一月の滞在許可を得た。
理由がありその理由が認められればかなり長く伸ばせるらしいが今の俺には必要ない。一月でも大分余裕があるくらいだ。
それほど長期滞在するつもりもないけど余裕があるのは気楽でいい。
そんな感想を浮かべているとハンターギルドへと到着して降ろされた。
御者の男が「お疲れ様でした。またのご利用をお待ちしております」と言って護衛と共にギルドの中へ消えていく。
何故ハンターギルドで降ろされるのかと少し疑問に思ったが、護衛依頼完了の手続きでもあるのだろうと納得した。
俺も一応中へと入り、帰り便の金額と日程を確認してからギルドを出る。
「坊主、宿は取るのか?」
「ええ。流石に押しかけて泊めてもらう訳にもいきませんから」
実際のところ会えるかどうかすらもわからんし。
「んじゃ、良い宿紹介してやろうか?」
そんな彼の言葉に甘え、紹介して貰った宿で一晩を明かした。
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