第36話 新装備
あれから三週間。
一番最初に出来たのはポーション三百本だった。
お金が入り花弁を持ち込んで新たにお願いする度にレーザーガンの進捗を聞いたが『まだだね』と当然の様に返された。
一週間欲しいと言っていたがもう三週間である。
『なんでだよ!?』と突っ込んだが、それほどに触媒結晶の扱いは奥が深いんだと力説されてもう少し待つことを約束したのが先週の事。
だが皮の彼はきっちり仕上げてくれた。
猿の皮装備は完成し、かなりカッコいい装備となっていて俺も大満足の品だ。
魔力伝導率を上げる接着性の強い樹脂に黒い塗料を混ぜて櫛を通しながら塗りつけてある。
軽く縦に線が入りながらも艶めかしくシュッとしたフォルム。
前を止めるボタンも多少耐火性の高い物となっている。
懸念していた繋ぎ目も一切見当たらないレベル。
秘密の薬品で繋ぎ合せたと言う。
それらのお陰で金貨二枚は返ってこなかったが大満足だ。
満足過ぎてお礼として大銀貨五枚を支払ってしまった。
高級感溢れる毛皮のロングコートが手に入った。
これを纏えば炎もほぼほぼ効かなくなるから対人にはかなりの強みになるだろう。
火だけじゃなく冷気、風にも結構な耐性があるらしく恐ろしいほどの高級装備の製作者になってしまったと皮の彼はテンションが上がっていた。
難点は俺の専用武装と外見が合わないことだなぁ。
正直そのくらいとも思うが、ユリにかっこ悪いなんて思われたくない。
だが調子に乗ってコートだけで戦場を駆けても即死するのが落ちだ。
まあ、そこは後々考えるとして。
漸く今日で評価が規定値の十倍まで到達した。
いつでも卒業できる準備が整っている。
だが本当にこのままユリの所に行っても大丈夫なのだろうかと不安になってくる。
先生に出して貰った伝言に返事がないのだ。
ユリの事だから知ればすぐに返事を出してくれるものだと思う。
もしかしたら彼女に届いていないのではないかと疑念が沸くが確かめる術などない。
そうした不安を抱えながらも評価が溜まった事をオーウェン先生の所へと報告に来たのだが……
「確かにクリアしているな……相当無茶をしただろ。しかし卒業は三ヶ月後だぞ」
「はいっ? いやいや、なんでよ?」
「半年に一度だと説明してあっただろう?
先日の区切りに越えてなかったのだから次の時まで待つのは当たり前だ」
お、おおう。言われてみればそうだった。
十倍なんて無茶を言ったんだからそのくらい負けてくれてもいいのに……
そうは思うが決めるのは先生ではなく校長なので彼に言っても無駄だろう。
「一応、基準をクリアした時点で学業は終わりにしても構わない。
ただ、ハンターの資格は三ヶ月後だ」
「つまり、どういう事ですか?」
「このまま学校を出て自由にしても構わないって話だ」
とは言うものの、学校を出てしまうとダンジョンには資格を得るまでは入れないらしい。
資格がないので町を移動するのも護衛を雇わなければいけない。
そして三ヵ月後にここに戻って手続きが必要となる。
「そ、そんなの出る意味ないじゃないですか!」
「それは人に寄る。
お前だってユリシア嬢に会いに行くか迷っているだろう?」
それはそうだけど……
「あの、顔を出して戻ってきてまたここでダンジョン入ったりできます?」
「そりゃ、在学中はできるさ。
いくら休んでも卒業は決まっている状態だと思えばいい」
じゃあ、会いに行っちゃうか?
正直、評価基準十倍のお陰でかなり懐は暖まった。
短期の滞在なら市民権を買う必要はないし、顔を出してくるのはマジでありだ。
あんな状態で別れたままなんて嫌だったし。
ついでにポーションとかも持って行けないかな?
でもここまで来て退学も嫌だし先に聞いておくか。
「先生、ダンジョン用に用意したポーションとかって持ち出し不可ですか?」
「いや、武器防具は勿論、ポーションや戦闘用魔道具は没収されないから大丈夫だ」
装備や魔道具関連は個数に制限があるらしいがポーションは素材が出るダンジョンじゃない所為か制限がないらしい。
助かった。それなら安心して持ち運べる。
「わかりました。あと、従魔の買取もお願いしたいんですよね」
「お前もか。色々制約かかかる上に金貨十枚だが、大丈夫か?」
聞けば、従魔にするのもテストがありそれをクリアしないと登録できないらしい。
それをしないで連れ出すには檻を用意してそれで持ち運ぶ形を取らないとダメなのだそうだ。
躾がなってないと人を襲う生き物なのだから当然っちゃ当然だな。
それと従魔が人を傷つければ責任は飼い主にいく。
そこらへんは理解しているので話を進める。
「それ、どうやるんですか?」
「学校で雇ってる調教師がすべてやってくれる。
指示した方向へと歩かせる、止まらせる、走らせる、座らせる。あとは攻撃しても敵意を見せない。その評価基準をクリアできる事が最低限だ」
あー、そうか。獣車を引くんだからそこは必要だよな……
大体は大丈夫だろうけど攻撃してもってところが不安だなぁ。
聞いていくとそれ以上の難易度のこともやらされるらしい。
まあ、そっちは売る時に値段が上がるってだけの話だからどうでもいいけど。
「不安なら調教を依頼すればいい。
お前が買い取るにしてもその料金も入っているから無料で頼めるぞ」
「それって、鞭で叩くやつですよね?」
「そりゃ基準に入ってるんだから当然だろ」
……仕方ない。頑張って自分で教える事にしよう。
「わかりました。色々試してから考えてみます」
そう言ってひとつ頭を下げてからその場を後にして学校を出るとハンターギルドへと向かった。
用件は当然、ラズベルまでの護衛料金だ。
実際に来て聞いてみれば一番安いコースであればかなり安かった。
それは定期便というやつで、乗合馬車みたいなものだ。
単独で行く訳じゃないから叔父さんたちに聞いていたのと比べて大分安い。
大銀貨五枚程度で済むのでこの際だから行って来ようと決意した。
次は五日後みたいだが、構わずお金を払い予約を入れて割符をもらった。
それから学校へ戻り夕方まではラクと訓練を行い、夜は皆に卒業が決まったことを報告した。
「おお、じゃあお祝いだな! まだあの肉はあるのか?」
「そうね。そういう事なら良い肉が好いわね」
「えっ、あのお肉まだあるの?」
と、こいつらはあの恐竜肉だけが目当ての発言を連発して俺をイラつかせたが、普通に余っているのでお祝いだしと振舞った。
今後の予定を話、折を見て教えていた属性魔法の講座をどうするかを相談した。
一つずつ習得できたアキトとアミはいい。
だが、未だ一つも覚えられていないヒロキとナオミはムムムと唸っていた。
「アミ! お前俺の変わりに教わってくれないか?」
「はぁ? 今から覚えるなんて無理だから! 馬鹿なの?」
「ヒロキは一番戦闘で需要の高い火を選んだんだから頼むよ?」
そう。彼らは一人一つずつ選んで教えあう約束をしているのだ。
というよりそういう風に俺が仕向けた。
流石に別パーティーになってしまった以上、付きっ切りで教える事ができないのでそれが限界だろうと絞らせたのだ。
彼らは火、水、土、回復を選び回復と水は習得できた。
後はヒロキの火とナオミの土で終了だ。
「ほれ、料理を作ってる間ずっと出しててやるから練習しとけって」
俺はテーブルの上に魔方陣を出してそのまま料理に取り掛かる。
ナオミがこっちに来たそうに視線を送ってくるが、アミに捕まれて早く覚えてとせっつかれている。
必死に頑張る二人を他所に、アキトたちと従魔の話で盛り上がる。
「うそぉ! もう買い取り金額溜まったの!?」
「凄いね。今二十五階層だっけ?」
「いや、四十まで行ってきたぞ」
「「「はぁ!?」」」
「馬鹿じゃないの?」
あれ、何か引かれてる。
ああ、そうか。差がつき過ぎたのか。
「あはは、あの魔装がホント強くてな」
「そう。なるほどね。ユリはあなたにそれを求めてたの……」
「ああ。これなら実家を救えるかもって熱くなってたな」
ナオミは「疑って悪いことをしたわね」と視線を伏せた。
「まあ、それもこれも俺が言ってきてやるよ。
五日後のラズベル行きの乗り合いに予約してきたからさ」
「おお! ついに行くのか! けど大丈夫か?」
「ユリちゃんの親って辺境伯爵様なんだよね? 会わせてくれるの?」
ヒロキとアミの突っ込みに不安を覚え、アキトに助言を頼む。
「彼女に貰った物で家紋が入っている物とかあれば証明になるんだろうけど」
いや、流石に家紋は入っているのは貰ってない……
「あっ、あった!」
そうだよ。
バックパックにはユリと俺の名前両方が入っているって言ってた。
これは証明になるだろ。
「そう。なら後は死人を語った悪戯だって思われなければいいだけね」
いやいや、流石にそれはないだろ。
本人が実際に行くんだしさ。
「そんな事よりそこ間違ってるぞ」
「うそっ!?」
そうした雑談は夜が更けるまで続き、ヒロキとナオミは延々と習得に励んだがやはり一夜漬けで覚えられる訳もなく未修得のまま解散となった。
次の日はリアーナさんたちに卒業が決まった報告を入れたが、やはり少し距離を置かれている感があったのですぐに退散した。
それから穴の底で猿と恐竜を狩り尽くし、夜はラクと訓練。
そこから二日は手が空いてしまったのでラクの訓練をしながらヒロキとナオミに魔方陣のレクチャーをして過ごした。
そして五日後の朝、ラクのお世話を頼んでから第三校舎に赴き、杖担当の彼に進捗を尋ねた。
「ふっふっふ。三日前に完成したところだよ。本当は後一日くらいは色々テストしたかったけど、遠出するならこれは必要だろう?」
そう言いながらも彼は魔力で板を十枚具現化させて立てかけ、それを撃って見せた。
レーザー照射したのはほんの一瞬。
だというのに十枚すべて貫いた。
「ははは、何度見てもやばいよねこれ」
「お上にバレたら没収ものね」
「それで済めばいいがな……」
あっ……そういやそうだ。
銃ですら警戒してたってのにこっちはもっとヤバい代物だよな?
「えっと……黙っててくれる?」
「私にも作ってくれるならダンジョン産って事で誤魔化してもいいわよ?」
「うん。これは加工に最適だし是非とも欲しいね!」
「ああ。もうこれは返せない……」
マジか。出発時間までに作れっての?
いや、魔方陣の所だけならすぐできるか。
そうと決まれば即効で作ってやると準備させればもっと小さく、もっともっと小さくと無茶を言われ、五ミリくらいのを三つも作らされた。
虫眼鏡で拡大させながら作ったがそれでもかなり精神が磨り減った。
「キミの制御、ホント凄いね」
「うん。ハンターやらせるのが勿体無いよ」
「ふはは、これがあればもう加工費は魔力だけ……」
テンションを上げる彼らに、くれぐれも人に見せないように頼むとお願いして第三校舎を後にし、荷車に荷物を纏めて急いでハンターギルドへと向かった。
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