第35話 新しい魔法



 寮の中に入り、明るい場所で彼女を見ればそこそこの美少女だった。

 だが、最初の頃のユリと同じで格好が残念だ。

 髪はぼさぼさでスカートの下にぼろぼろのジャージを履いている。

 恐らく、整えれば美少女に変身すると思われるが、彼女の場合それを求めて無さそうな気がする。


「……勿体無いってよく言われない?」

「ええ、初対面には割りと言われるわね。どうしてわかったの?」


 なんとなく、と返せば「皆そう言うのよね」と首を傾げた。

 そう言いながらも部屋まで着いてきた彼女に花弁を見せた。


「ふーん、変わった素材ね。これ単体でいいの?」

「ああ、問題ない。かなりの回復力だ」

「へぇ。触媒結晶やら火耐性の皮持ってきたあなたがそう言うならちょっと試してみたいわね。試してもいいかしら?」


 そう問われて首を傾げた。

 どうやって試すんだと。 

 すると彼女は問いかける前に行動で応えてくれた。

 ジャージの裾を上げて、足が義足な事を見せてきた。 


「少しでも再生させていけば十年後には元通りになるから……

 それでポーション職人始めたのよ。びっくりした?」

「あぁ……うん。試す前にこれの効果を黙っている約束をしてくれないか?」


 効果なんて試しようがないと思ってたけど、これだと一発でヤバいとバレる。

 だが、ユリの所に行くならこれで作ったポーションはかなり役に立つはずだから作って置きたい。


「いいけど……凄いの?」

「ああ、その程度これくらい齧れば一発で治ると思う」


 と、指先で少し花弁を千切って彼女の手の平に乗せた。


「あはは、馬鹿にしてる?

 もしそれが本当なら希少ランクは間違いなく伝説級よ」


 おおう。マジか。伝説級がどれだけの物かは俺でも知っている。

 国の宝物庫にも早々ない一品で保有している国は殆ど無いのだとか。

 図鑑に伝説級装備ひとつで戦争が起こったこともあると書いてあった。


「そこまで行くか? 回復魔法で代用可能なラインだぞ?」

「馬鹿言わないで。

 これを治すのに回復魔法師を数年は拘束しなければ完治しないのよ。

 この小さな欠片が三年に相当すると仮定して瓶一本で何十年かしら?

 それこそ伝説のエリクサーじゃない」


 あ、いや、もっと酷いかも。頭打ち抜いても生きてたし。

 そう思うがそんな事は言えず愛想笑いを返せば、彼女は渡した欠片の端を齧った。


 その瞬間、彼女は立って居られなくて倒れこんだので抱き寄せて支えれば、彼女の足が治った事がわかった。


 どうせなら一息に全部食って欲しかった。

 更にヤバいのがバレてしまった。


「離すぞ? 大丈夫か?」

「えっ、ええ――――――――」


 自らの足で立つ彼女は床をじっと眺めて放心している。

 だが、手の平に残っていた欠片はしっかりと握り締めポケットに仕舞われている。


「それで、秘密にした上でポーション作ってくれると思って良いのか?」

「え、ええ。どのくらい必要なの?」

「あればあるだけ嬉しいが、いくらかかるんだ?」

「馬鹿じゃないの! お金なんて取らないわよ!

 今の治療にいくらかかると思ってるの!?」


 百本でも二百本でも無料で作ってやると言われたので、とりあえず百本お願いした。それを超える場合はお金を払うからと。

 そう言って花弁の半分を渡した。

 百に分けても渡した欠片の十倍以上だ。回復力は十分だろう。

 

「これを百に分ければいいのね。任せなさい!」と言ってくれたのでその場で契約は成立した。

 ただ、無料でってのも悪い気がするのでお肉を進呈した。

 サンプルとして二百グラム焼いてあげて、その後五キロほど持たせてあげたのだ。

 花弁とセットで渡してあげれば喜んで帰っていった。


 そうして漸く一人の空間が訪れ、明日の予定を考える。

 とりあえず狩り尽くすまで三十五階層でやった後何処へ行くかが問題だ。

 どうせなら、周辺の階層回って解体に出して一番儲かる階層を探し出すか。





「ふう。狐はこれで終わりっぽいな」


 音が無くなり狩り尽くした事を知り、予定通り四十階層程度まで降りてその間の魔物を幾つか持って帰ろう。

 そう思って階段を下りた時に思い出した。


 そう言えば魔物が使っていた魔法陣、まだ試してないなと。

 狐が使っていた電撃の魔法陣も覚えたしこっちも試したい。


 花の魔物が使った魔法陣を組み、離れたところで起動させる。

 するとあの時と同様、魔法陣の向いた方向に真っ直ぐ光が照らされ壁を抉り取る。


「あれ? これ、めっちゃ凶悪じゃね?」


 うん。だって光速だもの。威力も高いもの。

 うーむ。銃じゃなくて今度からこれ使うか?

 音もしないし、銃弾回収を考えなくていいし。

 よし! レーザーガンにアップグレードさせよう。


 何て考えた瞬間、もうひとつ頭に浮かぶ。

 銃、電撃、とくればもうあれ作るしかないだろ。

 レールガン!


 いや、待てよ。レールガンて凄い音するよな。

 レーザーの劣化品にしかなんないんじゃね?

 だが火薬銃とレールガンなら威力は断然レールガンだよな?

 仕組みも確か簡単だった気がする。

 でも磁力って魔力を具現化させた素材で生み出せるのか?

 いや、一先ずはチャレンジだよな。


 じゃあ、先ずはレーザーガンからだ!


 考え始まると止まらなくなり、急いで学校へと帰った。

 素材を卸して一目散に第三校舎へと向かい、ノックをして扉を開ける。


「ああ、君か。さすがにまだ出来てないよ?

 弄り倒すから一週間は欲しい」


 杖を頼んだ彼が出迎えてくれたが、皮を頼んだ彼はこちらに見向きもしない。

 やはり苦戦している様子だ。


「いや、今日は違う用事なんだ。

 その……魔装に魔法陣を貼り付けられる様にって出来ないか?」

「あら、出来るわよ! ま、そのままやったら犯罪だけどね?」


 部屋を隔てている仕切り板から顔を出した魔道具職人の彼女が手招きで呼んでいるので歩いていく。

 椅子を勧められ腰を落とせば、何故か皮と杖の二人も椅子を持ってきて腰を下ろした。


「それで何をしたいの?」


 その問いかけに応えようとレーザー光線を発生させる魔法陣を出して起動させ、俺の具現化させた魔力で受け止めて見せれば一瞬で穴が開き貫通する。


「これを攻撃に使うつもりなんだが、魔法陣に魔力を送るだけで発射できる状態を保ちたいんだ」

「知らない魔法だ……」

「僕も見たことないな。僕が知らないんだから相当レアだよ……どうしたのこれ」


 おお。そういやそうだな。

 四属性以外は殆ど秘匿されているって教本に書いてあったな。

 予想外の収穫じゃん!

 けど、なんて説明したものか。


 そう思っていれば魔道具の彼女が彼らを止めてくれた。


「ちょっと!? 詮索はマナー違反よ。つまりは魔道具にしたいってことね」


 ああ、そういうことになるのか?

 まあ用件が達成できれば名称なんて何でもいいと彼女に頷く。


「こういうのは直ぐ作れるんだが、魔力が混線しちゃって駄目なんだよ」


 小さな魔法陣を魔力で具現化させ彼女に手渡す。


「それなら難しいことはないわ。

 魔力を通す素材で作って絶縁体を仕込めばそれで解決よ」

「戦闘中に使うものだから頑丈じゃないと困るんだけど……

 それ、多少は強度があるものって考えていいのか?」

「あら、そういうのは実際にやってみて考える事でしょ。

 やらずに決め付けると何かしら見落とすわよ」


 言われてみると深く納得した。

「そりゃそうだ」と返すと外に連れて行かれ検証が始まる。

 接触部分のみに丁寧に絶縁体である液体を塗りつけ、端の部分の絶縁体を少しだけ拭い取る。そこから魔力を送ってみれば問題なく光線が放たれた。


 どうやら魔力は通さないのに変換された魔法は通す様だ。

 じゃないと魔道具にできないし当たり前か。


 魔法陣を小さく作ったので五センチ程度の光線だが、出力を上げればスッと切り付ける様に当てるだけで魔力で作った板を簡単に切断した。


 それを見た皮の男が声を張り上げる。


「これ! 皮の切断に使えるんじゃないのか!?」


 そう言われて思い出す。

 猿の魔物がこの魔法により消滅させられていた事を。


 あの素材に光耐性はないのだろう。不思議なものだ。

 結局は火も光も攻撃は熱だと思うんだけどこの世界では別物らしい……


「ああ、出来るんじゃないか?」

「なら使わせてくれ! 何しても切れなかったんだ!」


 やっぱりか。

 そう思いながらも了承して、まずはこの光魔法の加工用魔道具を作る事になった。

 魔法陣を組めるのは俺だけだが書き記して伝えるのは犯罪。

 だから作業は俺がやらなきゃいけないらしい。


「この魔力伝導率が高いミスリル線を使って魔法陣を作るの。ここが一番の生命線よ。間違っていれば発動しないし、多少のずれでも威力が格段に落ちるわ」


「ああ、それなら簡単だ」とその線を持ち上げる。


「簡単って……これを千切って加工してを完璧な形に成るまで繰り返すのよ?」


 そう言う彼女の言葉をスルーし問いかける。


「これ、熱で溶ける?」

「まあ、溶かすことはできるけど……一度溶かして混ぜ物をした素材だし」


 ならばと必要そうな分を千切って魔装でつつみファイアーウォールで熱する。

 その間に小さな光線の魔法陣を具現化させ型を取る。

 最後に流し込み慣らしてから冷ましてやれば完成だ。


「ほい、これでいいだろ?」


 ミスリルを残し道具を魔力に戻せば綺麗な魔法陣が出来ていた。


「貴方、こっち側に来たら超一流の職人になれるわよ」

「いや、俺はハンターに成る為に魔力制御磨いたんだからな?」

「いや、うん。私が制御がんばれって話よね。でもこんなのもう最強じゃない」

「俺もこれにはたまげた。どんな訓練やってきたか聞いてもいいか?」


 それから質問攻めにあい、訓練方法を根掘り葉掘り問いかけられたが家具から小道具まで全て魔力で作っていただけだと色々並べて見せて納得して貰った。


「なるほど。生活用品を全て魔力でか。

 確かにそれに意匠を凝らすほどやれば嫌でも慣れるな」

「僕らがそれをやるにはどちらにしても錬度が足りないね」


 そんなことより魔道具をと言えば直ぐに本題に戻ってくれた。


 彼女は形作ったミスリルに何かを塗りつけ、粘土のような物を貼り付けるとそのまま丸めた。


「んんっ!? おい、それ形壊していいのか?」

「あはは、知らない人はそう思うわよね。

 ただ、世に出てる魔道具は大抵こうして作られているのよ」


 聞くに、使っている粘土が特殊な素材で魔力を送りながら包むと形状を記憶して空間を歪曲してでも現状を保つ性質を持つらしく、折れない様に丸める程度なら効果を損なわないらしい。

 かなりの硬度で硬化するので機密保持としても有用でバラして魔法陣を調べることももう出来ないそうだ。


 そこからは彼女の家の秘伝と本人の研鑽の集大成を使うからと外に出されしばらく待てばよく見かける形の魔道具の玉が出来上がった。

 グリップの棒の先に玉が着いていて光が飛ぶ方向に矢印が振ってある。

 威力調節機能も付いているから使い勝手が良さそうだ。

 皮の加工をしている彼は早速それを持って作業に取り掛かる。


「――っ!? いける!」


 そう一言漏らすと彼は完全に作業に没頭した。

 こちらの問いかけは一切届いてない様子。

 

 ならこっちも目的を遂行しようと絶縁体が付いた具現化させた魔法陣をどう持ち運ぶかを考える。

 魔物から模倣したとはいえ普通に考えて持ち運ぶのは危険な代物だ。


「なら、魔道具にすればいいじゃない」


 そう言われてそれもそうかと考えが落ち着いた。

 その際、杖の彼から面白い提案を受けた。


「それさぁ、魔法陣は小さく出力は限界まで高くしたいんだろ?

 どうせならこの触媒結晶で威力増幅しないか?」

「おっ! それいい! どうせ魔道具持ち運ぶなら手間は一緒だし完璧じゃん!」

「よしきた!

 それなら出来れば結晶を五つ、いや二つでもいいから持って来れないか?」


 そう問われたので解体場から五つ貰って来て渡した。


「うぉぉぉ! これなら一級魔道具が出来上がるぞ!」

「確かにこれは完成が見物ね!」


 俺も盛り上がる二人をわくわくして見ていたんだが、触媒結晶の連結は至難の業らしく作業は深夜まで続いた。

 一段落したところで調理した恐竜肉の差し入れを持ち込み、腹が満たされると眠気に襲われて解散となった。


 各々寮への自室へと戻っていく。


 まだ手元には何も来てないが、あいつらなら良い物を作ってくれるだろうと確信して俺も布団に付いた。




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