第34話 魔道具愛好会
起きて即行でダンジョンへとやってきた。
目標は三十五階層だ。
行く事は可能だろうがどれだけ危険かが重要だ、と二十六階層からは警戒して降りていく。
一応、四十階層までの地図は買ってきた。
その地図を頼りに警戒しながらも刀で討伐しながら降りていく。
まだ大丈夫。前衛でもやれる。
そんな確認をしながら降りていけば、三十階層を越えても前衛でいけた。
この先がきつくなったとしてもあと五階層程度なら強化の出力を上げるだけで問題なく行けるだろう。
ただ、強化は出力を上げれば上げるほど魔力効率が馬鹿みたいに悪くなる。
例えば普通の強化の倍速を出すのに五倍の魔力を消費する。
二十倍の消費にしても三倍速にもならない。
それほどに上げれば上げるほど消費量が上がってしまうのだ。
と言っても今は標準程度でやれているけども。
そろそろ切り替えた方が良いかもな。
うん。そうしよう。
コロコロと笑い転げたアミを見返す為にも。
評価が目的なのだから無理して出力を上げた強化を使うくらいなら銃で攻撃した方がいい。
あの猿みたいに近接での相手なんて絶対無理だと言えるほどの差は無いのだから集めての即殺すらも容易だろうし効率が良い。
勿論銃弾の回収ができないなら別だが。
そんなこんなで切り替えれば出会い頭に一発打つだけ。
通路の先まで銃弾が流れてしまう時だけ、魔物の後ろに銃弾を受け止める壁を魔力で作り出せば問題なく回収できた。
それもこれも巨大魔石で制御距離が大幅に伸びてくれたお陰だ。
なんの不安を感じる事なく三十五階層へと到達した。
ここの魔物は尻尾が三本生えている狐。
額に緑色の宝石が埋め込まれている。いつも狙うのがそこなだけに何処を狙っていいか迷ってしまう。
吸収してしまうのだから首の魔石でもいいのだが、毛深い為はっきり見えない。
仕方がないので難易度が上がるが宝石を避けて頭を打ち抜く方向で狙いをつけるが、その魔物は何故かつぶらな瞳をこちらに向けた。
「キュゥーーー」
「あらやだ、可愛い。――っ!? ぎゃぁぁぁぁぁ!!」
赤く光った尻尾を膨らましてキューと鳴く様が愛らしく手を緩めたのが間違いだった。
額から雷撃が迸り、銃を向けた腕を打ち抜かれた。
即行で距離を取り回復をするが、未だ腕は煙を上げているほどに酷い。
無事な方の手で銃を構え、宝石の場所も構わず打ち抜いた。
運よく宝石も無事で頭を打ちぬけたがそれどころではないと腕の治療を続ける。
「こ、こりゃ駄目だ。こいつも即、殺さねぇと……」
頭に食らったら即死もありえる。
まあ、予備動作は覚えた。
あの溜め時間考えれば先に殺すのは余裕だ。
そこまで恐れることはないと、完全に治った腕の状態を確認し台を作る。
ここも音で反応する魔物。呼び寄せて即殺するのが一番良い。
遠距離攻撃があるから高台でも安全じゃないが、角度的にここから頭を狙えば額の宝石も弾回収もできるだろうから必要だ。
そうして作った台に急いで上がれば、俺の叫び声に引き寄せられた魔物が次々と適度な数でやってくる。
耳が良いのか一発打つとかなり広範囲の魔物が反応して動く。
逆に言えば下手に大きな爆発なんて使って広範囲で位置特定されでもしたら凄い数が群がってくるのだろう。
もしユリに秘術を教わって居なかったら広範囲に伝わっている事は感知できなかった。
そう思うとゾッとする。
やっぱりダンジョンは油断ならないと気を引き締め確実に撃ち殺していく。
しばらくしてこっちまで来そうな魔物は居なくなった。
まだやるなら大きく移動するべきだろう。
だが、これだけ大量に仕留めたからもう荷車に積み込むのは無理かと思ったがやってみればまだ荷車の半分程度だった。
「ああ、小さい魔物だから……」
思った以上に数が入ることにテンションが上がる。
ここは本当に当たりの階層だ。
乱獲してやるぜ。と大きく移動してから高台に陣地を作りその上からひたすら撃ち殺す作業を続ける。
再び周辺の狐を狩りつくしたが、まだ少し入ると奥へ進む。
そうして奥まで行って狩尽くせば今度は乗り切らない。
仕方がないとバックパックから魔力を出して荷車を拡張してとイタチゴッコをしながらも殲滅していけば魔力が完全に尽きた。
当然、荷車の分がある。銃の分もある。だが鎧は既に弾に変えてしまっていた。
「おおう。ちょっとやりすぎた。
まあ最悪は荷車を無理やり軽量化すればまだまだ撃てるし、さっさと帰ろう」
そうして解体場に帰った頃にはもう門が閉まりそうな時間だった。
危なかった。
そりゃそうか。十階層攻略してからあれだけ粘れば……
だが、そんな考えもつかの間、その日の解体場での俺はヒーロー扱いだった。
「やっぱりルイはすげぇぜ!」
「将来は騎士さまね?」
「十数年ぶりの逸材だな……」
「いや、一人でこの数だ。もっと凄い逸材ってことになるぞ!」
そうでもねーよ!
と調子に乗りながらも何とか自重して解体が終わるのを待ったのだが、その日の評価値を見て俺は愕然とした。
一日で普段の数百倍の評価を稼いでしまったのだ。
後三日繰り返せば卒業できる。それほどに美味しい狩場だった。
いや、次で狩り尽くすだろうからもう少しかかるだろうけど。
それにしても、その触媒ってそんなに凄いのかと尋ねてみた。
「まあ、簡単に言うと標準的な威力増幅素材だな。当然需要が高い。
気になるなら、試しに一本作ってもらえばどうだ?
ここの学生に加工させる物なら自分で出した素材は持っていけるぞ。
ただ、加工依頼の料金はタダじゃねぇけど」
なぬっ!?
ならそれよりも加工して欲しい物があるんだけど!
今日の稼ぎで大分儲けたから早速発注したいと尋ねれば「この時間でやってる物好きは第三校舎変人どもだけだから止めておけ」と注意された。
聞けば腕はいいが趣味で好き勝手をし過ぎるのだそうだ。
そしてその趣味でかかる代金も乗せてくると言う。最悪である。
だがそれでも腕は良いと二度言った。
俺が加工して欲しいのは猿の毛皮。
あれで防具を作って貰いたい。
今は座布団として報告はしている。使っているという事で提出はしていない。
加工して貰えば合法的に持ち歩けるようになるなら万々歳だ。
だがあの毛皮はちょっとやそっとじゃ加工できない。
相当に厄介なことは俺自身で体験している。
時間がかかることだろう。
ならば腕がいい方へ。
そう思ってその変人どもとやらの元へと足を運んだ。
「やぁ、ようこそ魔道具愛好会へ! 入会かな?」
さすがに九時過ぎだ。中は暗い。
一人しか残って居ないのだろう。
「いや、仕事の依頼をしたくて。加工できればだけども」
「はぁ?」と彼は眉間に皺を寄せた。
「それは僕への挑戦だね? いいよ。どんな素材だい!?」
「いや、別に挑戦じゃねぇよ。自分で剥いたんだけど相当厄介でな?」
そう言って十枚の皮を出す。
「こ、これは酷い。なんで自分でやるかなぁ……ってこれはなんだい?
こんな毛皮、見たこともないよ!!」
彼が騒ぎ出すと彼の後ろからもう一人男が出てきた。
こちらに挨拶も無しに素材を撫でて揉んでと弄り倒す。
「これ、何にするつもりなんだ?」
後から来た男に問いかけられ応えようとしたのだが……
「待ちなよ。彼を出迎えたのは僕だよ!?」
「そうだな。だが加工を誰に頼むかを決めるのはこいつだ」
「うん。私もそう思う。それで?」
後ろから声がして振り向けば女性が立っていた。皮を指差し「何にしたいの?」と問いかける。
「ああ、コートだ。フードも着けて欲しい。
火耐性があるから出来るだけ全身覆いたいんだけど外見もある程度まともにしたい。かなり切りづらい素材だから大変だと思うんだけど……」
「「「任せて」」」
三人とも自分がやると言って素材を数枚ずつ掴む。
いや、持ってったやつがやっていい訳じゃないからな?
「なぁ、出来れば皮の専門のやつに頼みたいんだけど……」
「ふっふーん。という事は俺だな?」
「「くっ……」」
そう言って勝ち誇るのは二番目に登場した彼。
どうやら、弄り倒していただけあって皮が専門らしい。
「ちなみにいくらでやってくれるんだ?」
「あぁ、今回は素材が面白すぎるから手間賃はいらねぇ。
だが、どうだろうなぁ……どれだけ硬いかにも寄るな」
場合によっては工具がいかれたり、魔道具を使っての切断となるらしい。その場合は掛かった費用を負担して貰うと言う。
「ああ、どのくらい預けておけば足りそうなんだ?」
「そうだなぁ……最悪を想定しても金貨二枚あれば足りる。
それで無理なら学生には無理な案件だな」
たっけぇ!
けど工賃なしでその価格ならここが最安値だよな。
火耐性装備は持っていたいしお願いしちゃうか。
「わかった。それを越える場合はこれ以上は出せないから宜しく」
そう言って金貨二枚を渡す。
「おお! 先払いかよ。
ちょっと待ってろ。金関係はちゃんと書面に残すからよ」
そうして裏に彼が引っ込むと女性の方が再び声を掛けてきて、素材で手輪すらしていた俺の手を両手でやさしく包む。
「君が手に持ってるそれ、触媒結晶だよね? 杖作るのかな?」
「ちょっと色仕掛けは良くないよ。杖なら僕の専門だからね?」
「「どうかな?」」と二人していい笑顔を向ける。
「あんたら腕が良いんだからそんなにがっつかなくても仕事くらい来るだろ?」
「そりゃ、飽きるほどやった初級装備はね?」
「さっきの皮といい、この触媒といいまだ個人で扱った事がないからね。
是非とも自分の構想で作って性能チェックをしたいんだ!
無料でいいから好きに弄らせてくれ!」
なるほど。変人と言われる訳だ。
だが、今の俺には都合がいい。だってもうお金はそんなに出せないもの。
「わかった。無料とまで言われたら仕方ない。好きに弄ってくれ」
「任せてくれ! 弄りぬいてやるとも!」
そう言って持ってきた狐の額に付いていた宝石を渡した。
彼は嬉々として部屋へ戻っていく。
「ねぇ……私にはないのぉ?」
「えっ……ちなみに何の専門なの?」
「魔道具関連全般だよぉ。主にポーションをメインで作ってるかな。
皮職人とか杖職人の方が普通珍しいんだからね?
あ、ちなみに私は無料では仕事しないよ。一般的な対価は毎回貰ってる」
そりゃそうだ。この世界は魔道具技師の需要の方が高いのだから。
だって金属製と同等以上に硬い防具が魔力で作れるもの。
杖だって無くても魔法は使えるし。
彼女はポーションも作れるのか。
丁度、花弁をポーションにして持ち歩きたいと思っていた所なんだよな。
ポーション作成の為なら金を使うのも吝かではない。
「ちなみに、頑丈なポーション瓶って作れる?」
「そりゃ作れるけど、何級品?」
え? そんなの知らんけども……
「なら逆に聞くわ。こっから投げ落として割れないくらいの強度は必要?」
彼女は校舎の外を指差して問いかける。
「ああ。それくらいはあってくれないと戦闘中持ち歩くのは心許ないなぁ」
「それで、肝心の回復薬は何を入れるの? 頑張るかはそれ次第ね」
そう言われたので寮だから明日持ってくると伝えたのだが、彼女はこのまま見に行くと付いてきた。
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