第33話 穴の底再び
一匹しか居ない魔物。
であれば威力調節など必要ない。
全力の一撃で終わればそれでいい。
それを試すだけなら魔力を多めに消費する程度だと、限界まで銃を大きくしてどう見ても大砲としか言い様がない物ができあがった。
全長は十メートルを優に超え、円の直径が五十センチ以上ある代物だ。
これほどの大きさのものを作ったのは初めてだ。
こんなもの地上で試射する事も早々できないので逆に絶好の機会と言える。
流石にこんなのを持って撃てないので地面と天井両方を使い固定させ穴から銃身を下ろし、しっかり狙いを定めた。
ギリギリまで離れて魔力操作にて発射させる。
ッドーーン
髪が靡き地が揺れるほどの爆発だが無事に飛んでくれた。
強度は問題無さそうだ。
しっかりと当たってくれただろうかと再び下を確認する。
狙った中央の魔石。
上手いこと当たってくれたようでしっかりと真っ二つに割れていた。
しかしその光景に俺は唖然としていた。
「おいおい。砕け散ると思ってたけどそれほど硬かったって事だよな?」
そう。今までで最大火力の砲だ。
舐めた事をしないで全力出してよかったと息を吐く。
「おっと、このままだとまた猿が集まってくるな。全部食われちまう」
大砲を戻して瞬時に穴を飛び降りる。
物凄い速度で落ちていくが、ある程度近くなった頃再び気球のようなもので落下速度を落とし、魔装の足を伸ばし壁に張り付いた。
しっかりと固定して猿が来る前に急いで足場をと準備するが、間に合わず大至急で狙いを定める。
大丈夫。白い息は遅い。
距離もかなり開いている。
今回は余裕で避けきれる。
心を落ち着けようとそんな思考を回すが、猿の予想外な行動に拍子抜けをした。
そう、俺の存在に気が付いて居ながらも花弁を食べる事を優先したのだ。
「馬鹿じゃん。もしかして、これ囮にすれば余裕なんじゃね?」
そう思って頭を撃ったのだが、瞬時に回復されてしまった。
はぁ?
思わず思考が止まる。
いやいや、気にせず食ってるけどお前……今頭ぶち抜かれたんだよ?
そう思いながらも試しに魔石を狙えば簡単に死んでくれた。
流石に魔石まで修復はしない様だ。
即座に下まで降りて花弁の一枚を切り取り通路の入り口に投げ、先ずは前回置いた場所に巨大魔石が残っているのかを調べようと花の土台になっている緑の蔦に手を掛けた。
その瞬間、指が切り裂かれた様な痛みに襲われた。
瞬く間に紫に変色し水が滴る速度で広がっていく。
瞬間的に襲ってきた激痛と嘔吐感に立っていられず、顔から花弁に突っ込んだ。
吐きそうになっていた為、意図せず舌が花弁に触れる。
その花弁を本能が求めた。
もうそれに従う意外に生き残る道はない。
本能に従い花弁を齧る。
咀嚼などする力はない、染み出た汁を何とか飲み込む。
その瞬間、思考がクリアになった。瞬く間に全てが治っていく。
変色した体も痛みも吐き気も消えた。
そう、猿の魔物の時と同じだった。
だが絶望感だけは拭えない。
さっきまで死がほんの僅か先、目前にあったという事実。
倒れた場所が花弁の上でなければ絶対に死んでいた。
未だ呼吸の荒さは収まらない。
人に効くか何かで試さなきゃとは思っていたが、自分で試す羽目になるとは。
「いや、そんな事を言っている場合じゃない!!」
そう、入り口に花弁を投げたとはいえこっちに向かっていた猿も居たはず、と視線を送れば案の定七匹もの猿が花弁に群がっていた。
我先にと物凄い速さで食べていく。
食べきる前に倒さねばとテンポよく打ち出し魔石を砕いていくが一枚はほぼほぼ食べ尽くされた。
まだまだ大量に花弁はある。問題はない。
これがあればこの階層は安全に回れる。ならば後は魔力だと再び巨大魔石の場所へと向かう。
この下にあるかを調べようと緑の蔦へと触ったらとんでもない毒に犯されたのだ、当然もう触る訳にはいかないと魔装で持ち上げ、下を確認する。
「ああ、良かったやっぱりあった」
しっかりと十五個転がっていた。
考えてみれば当然だ。
残らないのであれば最初から何個も落ちていない筈なのだから。
蔦を魔装で持ち上げているとはいえ下に入る勇気はないので転がして魔石を掻き集め、再び荷車に積み込む。
花弁も魔装で切り取り大量に積み込んで準備を整えた。
これさえあればどの部屋でもやれそうだが、前回の教訓を忘れる事はできない。
しっかりと一方通行の場所にて討伐を行う。
花弁があればなんら恐れる事はないと言えるほどに安全だった。
絶好の場所で立ち止まってくれるのだ。これなら誰でも出来ると言えるほどに楽だった。
さくさくと撃ち殺し、一つも不安を感じることなく階層の殲滅を終わらせた。
「前来た時も思ってたけど、深い所だからか一階一階が狭いな」
上層は本当に入り組んでいて、地図があっても迷子になりそうなほどだというのに、こっちは二時間で殲滅が終わってしまう。
これだけ美味しい狩場だと逆に足りないと思ってしまう。
まさか、恐竜にもこの花弁は効くのだろうか?
そんな疑問を持ちながらも階段を上がり、通路の奥の方に欠片を投げて音で呼び寄せると当然の様にそこで止まり口を付けた。
その瞬間始末して再び階層殲滅を始めれば苦戦した階層とは思えないほどさくさく進んだ。
そして恐竜討伐が終わり穴の底である部屋へと戻る。
二階層殲滅して使った巨大魔石は三つ。
花弁のお陰で安全に威力調節も行えたのでこれから先も消費はこの程度で済みそうだ。
今回は花弁一枚と恐竜肉を百キロほど持ち帰っている。
他の花弁は一つにまとめて置いて来た。
ダンジョン内に魔物の死体を直に置いておいたら吸収されて消えてしまうが、消えない物を間に挟んだ場合は別だ。
永遠にという訳ではないらしいが、鉱物系は長期間消えずに残ると言われている。
共に落ちてきた鉄板の上に花弁だけを積み上げてから上がってきた。
魔装を使って剥いだ為かなり手間だったが、これで次の猿が沸くまでは残っている事だろう。
持ち帰れるとはいえ一度は解体場で見せなければいけないので先ずは一枚で様子見だ。
一応目立たない様に二十五階層まで降りて荷車をある程度積んでから学校に戻った。
「今日も、早い順でいいのか?」
解体場の男はご機嫌な顔で問う。
俺の頼み方は場がギスギスしなくて楽なのだそうだ。
「ああ、これとこれは食材として持ち帰るからそのままで宜しく」
「おお、もう捌いてあんのか。こっちはなんだ?」
花弁を見て首を傾げているが別段強く気にしている様子はない。
なので流したのだが何故か「ちょっと待った!」といつもと違う引き止められ方をした。
「どうしたんだ? これ持ち帰っても問題はないだろ?」
「ああ、そうじゃない。昼間に校長が来てな。
評価超過規定値の十倍稼げば戦闘無しでも卒業させてやると伝言を残していったんだ。ちゃんと伝えたからな?」
どうやら、オーウェン先生が早速言ってくれた様だ。
それも最高の条件を引き出してくれていた。
これならば絶対に卒業できる。
ご機嫌で部屋に戻って恐竜肉を冷凍庫に入るだけ入れて、残りは小分けに切り取ってアキトたちに配っていく。
勿論リアーナさんとユキナさんにも配った。
ヒロキたちには飯に誘われ、一緒に食ったのだが何処の肉か小一時間ナオミに問い質された。
食通の彼女ですらこんな肉は知らないそうだ。
アキトにはある程度説明していたので「穴に落とされた先に居る魔物だから名前もわからん」と伝えれば悲痛な視線を向けながらも引き下がってくれた。
いやまあ、魔石の大きさを見るに最低でも五十階層より下だと伝えたからかもしれんが。
ついでに評価を十倍稼げばそれだけで卒業できると自慢したのだが……
「いや、お前……今の評価って半年掛かりで稼いだもんだぞ?
それの十倍って何年かかるんだよ。
俺たちはこのまま行けば後一年と四ヶ月で卒業できるんだぞ」
そうヒロキに問われて表情が抜け落ちた。
コロコロとアミに転がるほど笑われて凹み意気消沈したまま自室へと戻った。
いや、大丈夫。
あの花弁を持ってくればいいだけだろ?
うん、あの超回復素材を持ってくればそれで終わるはず。
あの量を上まで持ってくるのが面倒だけどそうすれば評価なんて一瞬で貯まるだろ。
ただなぁ……
『これは何処の魔物だ』から始まり『どうやってそんなのを倒した』って話になるだろう。
もう俺は銃の強さを疑っていない。これはこっちでもかなりヤバい代物だ。
正直疎遠になるならリアーナさんたちにも見せるんじゃなかった、と思うほどに。
リアーナさんが自分から言い回る事はないと思っているが、上位者に教えろって言われたら隠し通すのは不可能だろう。
今更忘れて貰うことは出来ないしこれ以上は広めないくらいしかできないので一刻も早く卒業してユリの所へ行っちまいたいんだが……
明日から何処まで降りれるかチャレンジするか。
仲良くなった解体師の先輩情報に寄ると三十五階層でなかなかに価値のある素材が落ちるらしい。
それも二十五階層と比べて一日で一ヶ月分の稼ぎになるのだそうだ。
杖の素材で魔法効率を上げる触媒になるのだとか。
ただ、ここのダンジョンからはここ数年は誰も持ち帰った者は居ないそうだ。
一番近い記録によるとオーウェン先生のパーティーが卒業前に一度持ち帰ったのが最後らしい。
大人が行くダンジョンでは普通に取られてるけどなと彼は付け加えた。
って先生は在学中に三十五階層到達してるのかよ。
そりゃ無理だわ。
これを教わった解体師の先輩にお前なら卒業までには行けるだろとせっつかれ、もし持って来たら優先的に回してくれと頼まれた。
まあまず間違いなく行くと思うので「持てるだけ持って帰ってくるからその時は宜しく」と返して置いた。
ふむ、そんな事を聞いてはやるしかないな。
よし、猿が沸くまでは階層攻略に本気出してやる!
そう意気込んで購買にて必要な物を購入し、次の日に備えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます