第114話 村人勧誘②
村に住み始めて二日目の朝、俺はカイのお迎えに帝国のイグナート領に飛び、約束の場所である町の近くに降り立った。
そこにはカイを筆頭に二十人近い人が大荷物を持って集まっている。
「おっす。お疲れ様。この人たちがそう?」
「はい。六名の職人とその家族たちです」
大工が三名、細工職人が一名、土建屋が二名らしい。
ゼロでも構わないと伝えてあったのに結構な人数を集めてくれていた。
そのことに驚けば、彼らは全員一つの会社の社員たちなのだそうだ。
カイの声に頷いて返し、俺からもう一度村の状況や山の向こうなので簡単には戻れない事を告げて本当に来てくれるのかを問いかけた。
「是非、お願いしやす。我らは反政府組織と認定されイグナート家に保護して貰わんと生きられない身ですんで、ひっそりと暮らせるならありがたい事です」
えっ……反政府組織なの?
と、カイに視線を向ければ「商人貴族の難癖です。そうじゃなければ我らも助けられませんよ」と彼は苦く笑う。
「そっか。じゃあ、行こうか!」
彼らの荷物を全て収納に入れ、新型気球で空へと上がる。
近いので急ぐ必要も無いとゆっくりと飛び山を越えた。
そうして連れて来たのは良いのだが、問題があった。
魔道具職人たちに割り振ってしまっているので全員に割り振るには家が二つほど足りないのだ。
「ええと、すぐに用意するから取りあえずは屋敷の空き部屋か同じ家に寝泊まりして貰ってもいい?」
「俺たちは家族みたいなもんですし、同居は問題はありませんが……材料さえ貰えれば自分たちで作りますぜ?」
ああ、そうか。最初の住居くらいはこっちでと思ったけど、本職の人たちなら自分で用意できるわな。
ならば、と収納に入れてきた彼らの荷物を家の中で出して問いかけた。
「材料って何を買ってくれば良いの」と。
しかしあれやこれやと口早に言われたが正直、トレントという魔物から落ちる木材以外はよくわからなかった。
カイは問題無くわかると言うので彼と共に三人で買い出しに。
今度はオルドの町へと飛ぶ。
結構遠いが、割と大規模な買い物となるので困窮しているあそこで買ってあげたい。
そんなこんなで時間は掛ったが、メアリ叔母さんの屋敷まで辿り着いた。
暫く話をした後、叔母さんに商人の元締めの一人であるボールズさんを呼んでもらい、出来る限り多くの材料を購入したいと告げた。
「加工品でも加工前でもいいから町に問題が起きない程度で限界まで欲しいんだ」
「限界まで、ですか……
不景気でそっちの資材はあまり出ませんので民家数十軒分はあるでしょうから相当な金額になりますが……」
丁度、送料で足がついてもいいからと輸出するかを考えていた品らしい。
「ああ、うん。お金は大金貨数千枚程度はあるから大丈夫。全部適正価格で買うよ」
「て、適正価格ですと!? 値引き無しで宜しいのですか?」
どうやらそれほど多くを買う場合、何割かは下げるものなのだそうだ。
かなり利幅を取ることになってしまうと恐縮している様子。
どうやらアーベイン侯爵が手を回しハンターの招致には成功したらしく、色々動き出せる状態になってきていて、止められていた時間を戻すにはまだまだ掛かるが今のところ順調の様だ。
大人がハンターになる試みも動き出してはいるがそちらはまだまだ結果待ちだそう。
そんな状態だからもう大丈夫だと彼は恐縮しながらも言うが、俺としては必要なものだし微々たる出費。適正で買うだけなのだから気にしないで欲しい。
「適正価格なんで気にしないでください。
まあでも、浮いた分で貧民街で生活が厳しい人たちを使ってあげてくれると嬉しいです」
「勿論でございます!
ベルファストの民で在れた事、大変嬉しく存じます。ルイ王太子殿下……」
そう言って彼はテーブルに頭を付ける勢いで頭を下げた。
おろ、いつの間にか王子だと知られていたらしい。
年上に畏まれるのは相変わらず気後れするが、王子としてはこれを受け入れなきゃいけないと理解した今、俺は彼にそのまま言葉を返す。
「そう言って貰えるとこちらも嬉しく思います。これからもよろしくお願いしますね」
「ははぁ、勿体無きお言葉に御座います」
そうして獣車に乗り、彼の案内の元、町の倉庫を回り購入品を収納に入れた。
まだいくつか足りないがどこにでもある物だから帰りがけにどこかに寄れば大丈夫だそうなのでオルドでの買い物は終了した。
「そう言えば、オルドって衣類も結構作っているのですよね?」
「ええ。うちの衣類は他国にもご愛顧して頂けるくらいには名産ですぞ」
おお。針子は帝国から連れてこれなかったし是非とも欲しい人材。
胸を張るボールズさんに新規開拓している村の現状を話して来てくれる人が居ないかを聞いてみた。
「勿論、希望する人が居ればで構いません。
食と住はこちらで面倒見ますので聞くだけ聞いてみてくれませんか?」
「そう、ですな……厳密に言えば希望してくれる者は居るでしょうが、貧困層の人間ですので腕はそれほどではありません。恐らく殿下が満足する程の者では……」
「いえいえ、全然問題ありませんて。平民が気兼ねなく表を歩ける服が作れればいいんです。
もしかして、それも難しい感じですか?」
そう尋ねれば彼は「その程度で良いのであれば勿論問題ありませんが……」と少し不思議そうな顔を見せる。
どうやら、その程度ならどこでも捕まるだろうと思っての言葉の様子。
「あはは、超一流の中では下の方でも他の町では良い方かもしれないじゃないですか。
もし違っても歴が長く成れば育つでしょうから問題ありませんよ」
であれば、と彼と共に貧民街の中の縫製工場へと足を踏み入れた。
ボールズさんが針子を集め説明を行っている。
「このお方が信頼できることはこのわしが断言する。希望する者はおらんか?」
すると一人の
「貴方が着ているレベルの衣服が問題無く作れるのであれば構いません」
「本当ですかっ!? これは娘が作ってくれた物なのでご希望に添えます! 是非!!」
じゃあ、お願いします。と早速荷物を纏めて貰う為に走って貰った。
ついでに彼女らの仕事道具と共に布や糸を沢山買い込んだ。
「あっ……家が無いんだった。それも買っていくか」
「別にいいんじゃありませんか。作って貰うまではお屋敷の空き部屋に入って貰えば」
ああ、そうね。イグナートたちも住んでるし多少増えても変わらんか。
そうして待っていれば、先ほどの女性が三人の美少女を連れて戻ってきた。
あっ、娘とは言っていたけど人数は聞いてなかったな。
まあ村の住人が増える分には構わんけども。
しかし旦那さんは居ないのだろうか、と首を傾げれば先立たれ未亡人だそうでこの先の生活が不安だったそうだ。
「まだ開拓を始めたばかりの村で大変ですが、衣食住の面倒はこちらで見ますのでよろしくお願いしますね」
「「「よ、よろしくお願いします!」」」
俺よりも年が二つか三つくらい下に見える三人の美少女が揃って頭を下げる。
外見年齢はユリと同程度だ。
手には少し大きめな麻袋を一つ持っているだけ。どう考えても引っ越しの荷物とは思えない。
「荷物はこれで全部でいいの? いくらでも持って行けるけど……」
「え、あ、だ……大丈夫、です」
と彼女たちは緊張してしまっている様子なのでお母さんの方へと視線を向ける。
「その、お恥ずかしながら必要の無い物は全て売ってしまいましたので」
「なるほど。大丈夫なら構いません。生活必需品はこちらで用意させてもらいますから」
何やら先ほどから不安そうな目で動向や視線をユリに監視されている様子。
俺はロリコンではないのだが……
なので彼女の手を取り「じゃあ、行こうか」と声を掛ける。
「は、はい。行きましょぉ」
ニコリと笑みを返してくれたので安心して人気の無い場所に移動し飛行機を作り上げた。
その後、飛び立つ時に高所恐怖症なのか少女たちが悲鳴を上げるなどのトラブルはあったが、無事残りの買い物も終えて村まで戻ってきた。
皆が降りるのを待ち飛行機を魔力に戻しバックパックにしまうと、震えていた少女たちが歓喜の声を上げた。
「うわぁ、凄い……お母さん、これ何?」
「海……じゃないかしら。多分」
彼女たちは海を見て放心している。
オルドからも近いのだが山はハンターしか登れないので見た事無いのは無理もない。
こちらの海は物凄く透き通っていて綺麗なのだが、一般人は迂闊に近づくことすらできない。
なんか勿体無い気がするので後で何とかできたらな、と思いつつも彼女たちを屋敷に案内する。
「えっと、ここからあそこまでの四部屋でいいかな?」
「えっ、全員別々なのですか……?」
あれ……何やら恐れを抱いている様子。
「いや、別に一緒でも構いませんけど?」
「えっ……」
おろ? どっちでもいいと言っているのに何故固まる?
「とりあえず、家を建てて貰うまでですから空き部屋ですし好きに使って構いませんが、ベッドの移動とかもありますから、どうするかを決めて貰えませんか?」
「ええと、では一緒で……」
その声に頷き、収納でポンポンと家具類を移動させ、冷暖房の使い方からトイレの場所など諸々を説明した後、空き部屋に仕事道具を並べた。
「あなた方にやって貰う仕事はここの住人の衣類を作る事です。
とは言え皆持ってきていますから別段急いでいる訳じゃありません。
ですから、本格的な仕事は依頼を受けてからですね。
先ずは試しで一着彼女の服を作って頂けませんか?」
と、ユリの服を作って貰う様にお願いした。
「私の、ですか?」と不思議そうな顔をするユリに「女性用の方が難しいからお試しならその方がいいかなって。住人にも見せれるでしょ」と答えれば「なるほど」と彼女は微笑みを見せた。
「ちなみに、どちらにしても採用は決まっているから気楽にお願い」
そろそろ形式ばるのはいいかと口調を崩しつつも大量の布や糸を出した。
さっそく仕事に移ろうとする彼女たちを止めて声を掛ける。
「お願いしたばかりであれなんだけど着いたばかりだしゆっくりしない?
彼女と相談しながらゆっくり作ってくれればいいから先ずは食事にしよ」
緊張して強張る彼女らを「同じ村の仲間になったのだから気楽に気楽に」と宥めて村の広場にて職人たちに紹介した。
「ほぉ、針子の方々ですか。これで大方必須な職人は集まりましたな。
後はハンターが居ればもう怖いものはありません」
満足そうに頷く魔道具職人勢に「ハンターは俺たちが居るじゃん」と返した。
「はっはっは、何を仰る。殿下に素材取ってこいとは言えませんて!」
「丁寧に取ってきてくださいって言えばいいじゃん」
「いや、そういう問題じゃありませんから。使いを頼むので既に無理です」
ええぇ、今更そこ……奈落からの物は全部俺が持ってきてたのに。
俺以外の奴が行ってもめっちゃ時間も労力もかかるじゃん。
けどまあ言いたい事もわかる。流石にいつまでも俺がやるのはダメか。
「じゃあ後からハンターも招致できそうならするよ。
今は出だしだから特別ってことで俺が行く」
「出来るだけ早くお願いしますよ。
殿下をパシリに使ったなんて思われたどうなることやら……」
「いや、思われないから! 俺の村なの! 俺はここの領主だぞ?」
そう伝えれば「おお! そうなのですか!?」と何やら喜びを見せている様子。
そう言えば、まだ正式には伝えていない者も居るな。と彼ら全員に今の俺の身分を伝え自己紹介した。
王子であることすら初知りの者はかなり驚愕を見せていたが、スルーして話を纏める。
「という事で俺の領地なのでこの場に居る皆は全員俺が守るべき民だ。
ベルファストの法を守る限りは守るし、自給自足ができる様になるまでは生活の面倒も全部見るから適当に楽しんで生きてくれ」
「おいおい、適当に楽しんでって……それでいいのかよ」
イチロウの突っ込みに「そりゃ最低限の仕事をしてればだよ。後はいいだろ?」と軽く返す。
「じゃあ、最低限の仕事をした僕らはもう魔導車に取り掛かっていいってことかな?」
「ああ、うん。いいけど流石に職人が来たと言っても道路の整備は時間が掛かるぞ?」
「む、そうだった。そこからか……面白そうな場所だから今更帰るのも嫌だしなぁ」
杖の彼は食事の手を止め真剣に考え込み、何やら構想に耽っている様子を見せていたので、俺はナタリアさんとじゃれているユリの所へと移動して帝国勢との会話を楽しんだ。
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