第113話 村人勧誘①


 レーベンに戻った後、先ずは製塩場を稼働させる為に人材の調達に走った。

 先ずは鉱山でロゼに声を掛け、希望する人だけで良いから子供たちと一緒に来てくれないかと聞いてみて欲しいとお願いしてみたら、全員来てくれることになった。

 どうやら、鉱山で上手くいってなかったそうだ。

 どうしても女子供は侮られ嫌な思いをすることが多いらしい。


「正直、私も助かるよ。頭張るなんて柄じゃないからね……」


 ロゼも大変な思いをしていたそうだ。

 鉱山側にも話はすんなり通ったので彼女らに住む場所を作ったら迎えに行くと告げて今度はカイをイグナート領へと送り届けた。

 彼には職人のヘッドハンティングをお願いしたのだ。

 魔道具職人はもう居るので大工や土建屋、服飾系の職人を勧誘して欲しいと頼んだ。

 ただ、自由に行き来させることは出来ないので移住してもいいと言ってくれる訳ありが上手い事居ればで良いと伝えてある。


 その間に俺はいくつかの家を買い、トンネル付近の村予定地に屋敷や買ってきた家を設置して住める環境づくりを行う。

 イグナートには周辺の魔物の殲滅とダンジョンの上層の調査をして欲しいと頼んだ。

 一応ここにもダンジョンがあることは確認しているが、まだ中には入っていない。

 食用の肉が上層で取れるかどうかはこの世界では死活問題だ。


 そうして、漸くお屋敷と十五軒の家が建ち、一息吐いた。


「何とか形になってきたわね。近くに泉もあるし後はダンジョンくらいね」


 魔道具職人の三人はやる事も無いからとコンロや冷蔵庫、冷暖房など魔道具を作ってくれた。

 勿論、魔法陣や回路までだが、製塩機を作った時に材料は持ってきているので外枠は彼らの指示で俺が作った。

 そうして終わって屋敷で寛いでみれば、街中に居るのと変わらない快適さを手に入れていた。


「恐ろしい速度だよね。一瞬で村ができたじゃないか」


 杖の彼はドヤ顔をしながら「僕らって本当に凄いよね」と胸を張る。


「いや、まだ村じゃねぇだろ。集落レベルだ。

 ま、村をルイが本気で作ろうとすれば後三日もあれば形は出来るだろうがな」

「まあできるっちゃできるけど、やらないよ。後は職人たちを住まわせて作らせるつもり。

 うちの魔道具チームを招集してあれを作って貰わないといけないし、やる事は色々あるから」


 あれ、とは当然爆弾の事である。

 勝利で終わったとはいえまだ戦時中な事を知っている彼らはすぐに理解し頷いた。


「それとお前らにも頼みたい事があるんだ」

「えっ、僕らは魔導車を作る予定なんだけど?」

「いやあれは舗装された道路が無ければ走れねぇから。

 ここに居るつもりならまだまだ先だろ?」


 彼は窓から自然一杯の外を見渡して「なるほど」と頷く。


「それで、作って欲しい物ってなんだ。退屈なやつじゃないだろうな?」

「魔石で動く気球を作って欲しいんだ。

 俺も作れるっちゃ作れるけど、消費を下げたいんだよ。

 なんちゃって魔道具じゃなくて本職のが欲しい」


 俺の魔力だけで山脈を毎日飛び続けるのは厳しいので彼らに是非とも作って欲しいものだった。

 軽く説明すればミズキが声を上げる。


「あっ、ルイが空を飛ぶときに作ったあの丸いのよね?」

「ほう、結局空を飛ぶ魔道具か。いいじゃねぇか」

「うん。飛び方が僕の構想とは違うけど、魔導車を作るまでの繋ぎで作るには悪くないね。任せてよ!」


 彼らが乗り気になってくれたので、ある程度の構想を話して作成をお願いした。

 その後、イグナートが調査から戻り報告を聞くことにしたのだが……


「聞いて頂戴! 私魔物を初めて自分で倒したのよ! 凄いでしょ!?」

「お、おう。どんな魔物?」

「えっとね。こう……こんな感じの……変やつ!」


 いや、それじゃわかんねぇよ……


「ええと、ああ、うん。それでどうだった?」とイグナートに向きなおればナタリアさんはいじけてしまい、彼は彼女に掛か切りになって話が進まない。


「ユリ、悪いがナタリアさんを頼む……」

「あはは、わかりました」


 と彼女の相手を頼み漸くイグナートから話を聞けた。


「はい、山の近くという事もあり、難易度は結構低めでした。

 三層も降りればボア系が出ますから食料確保も容易でしょう」

「そっか。それは良かった。けど、山が近いってのは?」


 そう尋ねていみるとどうやらダンジョンの難易度とは標高とダンジョンの深さで決まるらしい。

 高い地にある程深いダンジョンが多いらしく、地表が高いほど難易度が低くなる傾向があるらしい。

 単純に上がってくる魔素が消費され、どれだけ薄くなっているかに寄るのだろう。


「そっか。んじゃ今日はお前らの仕事は終わりだから後は遊んでていいぞ。

 これからは屋敷の部屋も使っていいからな」

「えっ、まだまだやる事は多いと思われますが?」

「いやいや、俺たちの本職はハンターじゃん? 

 専門外で気張っても仕方ないし今勧誘している本職に任せようぜ」


 そう伝えれば「それもそうですね」と彼は微笑んだ後、ナタリアさんと一緒に部屋選びに向かった。


「さて、次は奈落に行くつもりだけど……どうしよう。寝てから行く?」

「そう、ですね。職人さんたちを連れてくるつもりなら、時間調整で睡眠を取ってからの方が良さそうです」

「だな。どうせならナオミの所から料理人を紹介して貰えればとも思ってるし」


 うん。ずっと俺が料理し続けるのも嫌だし。


「そろそろ料理は私が作っていいのですが、確かに料理人は別で欲しい所ですね」


 おっ、ユリの手料理を食えるってのは嬉しいな。

 なんて話ながらも俺たち二人の寝室で数時間の睡眠を取った。





 次の日の昼間、奈落での狩りを終わらせいつも通り素材を学院に卸した後、ベルファストへと辿り着いた俺たちはナオミに状況を話し料理人の斡旋を頼めないかお願いをしに来ていた。


「あのねぇ……オープンしたばかりよ? 今無理して育成中なの!

 いくらあんたの頼みでもそんな人たちをたらい回しの様に外に出せる訳ないでしょ!」

「おおう。そういやそうだな……わかった。じゃあ他当たるわ」

「待ちなさいっての! 一月待って。それまでには育てて見せるから」


 いや、無理はしなくていいんだが、と断りを入れたが彼女は多少の無理があってもそれくらいさせろと譲らなかった。


「まあ人材は育てておくわ。

 でもお願いは出来ても強制させることはできないから勧誘できるかは貴方次第よ」

「お、おう。じゃあ頼んだ」

「任せなさい! だから今日は手伝っていきなさい。ほら、早く手を洗って!」


 えっ、今日はまだ用事が……

 いや、昨日の今日じゃベルファストの魔道具職人たちも準備はできてないか。


 と、今日はナオミを手伝う事に決めて俺は厨房に、ユリはホールで接客を行い数時間怒涛の仕事をこなした。

 その後、お城で一泊して職人たちに話を聞けば全員が一家揃っての移住を受け入れてくれたらしい。

 親父にかなりな高確率で狙われると脅されたらしく、即準備してくれたそうだ。


 声を掛けに行けばちょっと暗い顔を見せていたので不本意なのだろう。申し訳ないなと居たたまれなかった。

 そんな彼らを連れて俺たちの村へと招待した。


 そうして着いてみれば、彼らの家族が海を見て喜んでくれたお陰で割と残念な空気が払拭されていた。

 こうなってしまったのなら楽しみますかと気持ちを切り替えた様だ。


 その後、ロゼたちも連れて来て製塩のやり方を説明した後、家を充てがった。

 後は勧誘を頼んだカイが成功させてくれていればその人材を連れて来て一先ずは落ち着ける。


 なんて思っていたのだが、第三の奴らはもう既に気球の心臓部を完成させていた。


「もうできたの!?」

「いや、この程度ならすぐできるよ!

 もう少し難しいのにしてくれないかな!?」


 と、逆に簡単すぎて燃えなかったと嘆いていた。

 確かに言われてみれば増幅関連は彼の十八番だし、回路はミズキの得意分野だ。

 新しく作ったのは熱も入れる様にして浮力を上げただけだったな……


「まあ、試してみてよ。って言っても時間もあったし回路は結構拘ったから魔力効率をこれ以上上げるのは厳しいんだけど」


 ミズキの声に応え「よし、じゃあ行くぞ!」と声を掛けた。


「え、私もですか?」とイグナートが意外そうな声を上げる。


「いや、暇かと思ったんだけど……留守番しててもいいよ?」

「あら、面白そうね! 勿論行くわ!」


 ナタリアさんが行く気になったのでこれで決定かと思われたが、珍しくイグナートが「いえ、今回はやめておきましょう」と声を上げた。


「非戦闘員しか居ない様子ですし、まだ調査が完全とは言えませんから」と。


 そういやそうだった。

 平野の範囲は殲滅が終わっているとはいえ、絶対に湧かないとは言えないしな。

 危ない危ない。村の安全が第一だよな。


「助かる。じゃあちょっくら二人で行ってくるわ」


 と、声を掛け山の麓から気球で上に上がり、空からの狙い撃ちをしてみる。

 ピカピカと光の線が走り魔物が放つ魔力が途絶えていく。


「おし、問題無くやれそうだ」

「ル、ルイ? 私はこの距離では厳しいのですけど……」


 そう言われて気が付いた。ユリは魔力視の魔法をまだ覚えて無かったと。

 なのでミスリルで魔法陣を模りパーティー眼鏡の様な物を作れば、形が滑稽なので少し微妙な顔をして居たが、背に腹は代えられないと使ってユリも倒し始めた。


 魔力消費の方はかなり楽になったな。

 いつも使っている風魔法だけの気球の三分の一程度だろうか。

 飛行機形態から見たらもっともっと軽減されている。

 それをユリと交代で行える様になったので毎日やれるレベルだ。


 暫く狙い撃ちを作業の様に続けていればユリの魔力が厳しくなり帰る事になった。

 これでもかなり持った方だと彼女は言う。


「バックパックの中身もゼロか。意外だったな」

「私だって多い方ですからね!? ルイの魔力量が異常なんですよ?」


 そりゃそうか。硬化症の恐れを無視して全て吸収してきたからな。

 まあ、今のところ硬化症に掛かった話は非戦闘員でしか聞いたこと無いし俺自身もそんな兆候を感じたことは一度も無い。

 狩りさえしてれば余裕があるのだろう。

 それに症状が出てからも時間があるからそこから吸収を止めて討伐を続ければ良いだけだ。

 光魔法もあるしそっちの心配は要らなくなっている。


 ならば暫くはユリに吸収して貰うかと、集めた魔石を「これは全部ユリが使って」とすべて渡したが、これは俺が倒したものだからと何やら葛藤しているご様子。


「人の好意は素直に受け取るものなんだろ?」とユリから貰ったバックパックを見せてニヤリと笑えば「ふふ、そうでした。じゃあ今回は使わせて頂きますね」と彼女はせっせと魔石を吸収していった。


 そうして村に戻ってみれば、家の周辺が結構綺麗になっていた。

 乱雑に生えていた雑草が根こそぎ無くなっていたのだ。

 よくこれだけの広範囲を一度に終わらせたものだ。


 しかし都合が良いと皆を集めて外でバーベキューを行った。

 炭火で焼いたお肉が魔装テーブルに並び、夕食を食べながらの雑談が始まる。


「いやぁ、陛下に村の新規開拓を命じられた時は途方に暮れましたが、これほどに良い条件だとは思いませんでした」

「ああ、俺も気が気じゃなかったぜ。村興しの苦痛は人聞きでだが知ってるからな……

 来て早々立派な家があるし、こうして気楽に酒まで飲めるなんてよ」


 朝とは打って変わってご機嫌になっていた彼らに話を聞けば数週間の野宿生活から始まるものだと思っていたらしい。

 トンネルを越えれば割と近くに町があるし話に聞いていたよりも断然良い環境だと安堵していた。


「甘いな、ユウゴさん。ルイが本気を出せば一月でここは町になる。

 オルド規模のちゃんとした町にな。そうなりゃ町のトップ層だ。城に残った奴は馬鹿だぜ」

「そうそう。ルイがここに掛けた時間はまだ二日よ。製塩機を一から製造したのも入れてね」


 イチロウとミズキの声を聴いて職人たちの動きが止まる。


「あれの製造を入れて二日だと……そりゃまた、何の冗談だ? 流石の殿下でも無理だろ」


 いや、あれを作ったのはほぼほぼお前らだろ。

 まあ、家に関してはそうだがな。

 ふふふ、これは俺くらいしかできないだろう。


「ははは、トンネルが抜けてますよ。あれが一番の偉業かと」

「そうだね。あれを一日で掘ったなんて前代未聞だからね」

「えっ、あれって向こう側まで開通しているって言ってましたよね……

 ははは、ここでは魔道具で雑草を一掃した程度で胸を張っては恥になりそうですね」


 いやいや、良い仕事したんだからそれは胸を張って良いだろ!


 そうして職人たちと普通に会話していれば、彼らの家族も安心したのかぽつぽつと会話に入るようになり楽しい空気のバーベキューとなった。


「それで、職人を集めて状態がある程度整ったら次はどうするんだ?」


 とそろそろ終わりにして屋敷に戻ろうかと思っていた頃、イチロウが徐に問いかけた。

 いや、ただ塩の産地が欲しかっただけだから考えて無いけど……?

 けど、無理やり呼び寄せた魔道具職人の彼らにはそれを言い難い。

 そうだよな。無理に連れて来たんだから未来は明るく見えないとだよな。


「うーん、希望者が居ればだけど人を集めてみようか。

 ある程度は何でもある快適な場所になるよう頑張ってみようと思う」


 イチロウにそう答えれば大人の職人たちから感謝の言葉と拍手が届いた。


 うーむ。これは思ったよりも本気で手を付けるべきかもしれんな。


 そんな風に思いを改めさせられ、ここが村となった一日目は過ぎて行った。



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