第112話 勇者フォンデール
イグナートたちを一度レーベンで降ろし、俺はユリと二人親父へ報告に向かった。
一先ず、レーベンから南西に飛んだ山向こうに人の手が入っていない平野を発見したと伝え、塩不足みたいだし開拓して俺の領地としていいかな、と尋ねた。
「マジか……そんな所に平野があるなんて初めて知ったぞ。
勿論構わん。今、塩の生産地が増えるのは有難い。
レーベンの時と同様に何かあればバックアップするからやりたい様にやってみろ。
報告だけ忘れなければそれでいい」
「ありがと。じゃあ、適当にやってみるよ。
それとさ……何も無い土地だから屋敷を買いに行ったんだけどね?」
経緯を話せば帝国へお屋敷を買いに行ったことには呆れられたが、それよりも第三の奴らを連れて行った事を怒られた。
もし機密を保持している彼らが捕らわれたら下手をすれば国が滅びるのだぞと。
そ、そうか。
流れで連れて行ってしまったけど、それはマジでヤバイな。
イグナートを信じたからと言って冒していいレベルの話じゃなかった……
とガチで反省していたのだが、収納に屋敷が入った事に驚愕していたりイグナートの弟から聞いた話に頭を抱えたりと忙しそうで深く気にした様子はなかった。
そして最後には情報を掴んで来たことを褒めてくれた。
「しかし、北方教会が出張るのか……厄介な話だ」
「教会ってやっぱり国から見ても厄介なの?」
「ああ。正直、関わりたくない。今の教会は悪人が民衆を騙して先導している状態だからな」
そんなに酷いのかと思いつつも続きを聞けば、聖書から何から好きに改ざんし好きに解釈して、二言目には神の言葉に逆らうつもりかと脅しを掛けるそうな。
その話は俺も聞いたことがある。
疑いを掛けられれば異端審問と言いながら殺しにかかってくるらしい。
それ審問じゃなくね、と強く思ったことを覚えている。
「全く、根源を辿ればベルファストが設立した教会だってのに、馬鹿にした話だ」
「えっ……それなのに総本山が帝国にあるの?」
「こっちが本流だってのは知ってる癖に勝手に名乗ってやがるんだ。
それでかなり昔に一度争いになったんだが、こっち側は本来の聖書に従う真っ当な教会だから力が無くてな。聖堂騎士を持つ北方教会に強引に教皇の座を持って行かれ吸収される形になったんだが、神の言葉を改ざんする北方教会に呆れ、教会を閉じるのが続出した所為でこっちの教会は廃れちまったんだ」
本来の聖書を読ませて貰えば数ページしかなく小学校の道徳の様な内容だった。
要約すれば仲良く平和に暮らしましょう的なものだ。
そんな内容の中で一つ異質で気になる文があった。
汝、ダンジョンの最下層に入ることなかれ、というもの。
そんな話は聞いたことも無かった。
「ダンジョンって最下層を攻略しちゃダメなの?」
「ああ。ダメだ。いや、正確には機能を停止させてしまうと大変な事になるって話だが。
勇者の称号を持つうちの初代国王が残した文献にそう記されている。
ダンジョンを潰しその機能が失われれば、地上に魔物が溢れ国が滅びるだろうと綴ってある。
ダンジョンは資源の産出場だから攻撃する様な真似をすることはまず無いし、深層ですら行ける者はルイくらいしか居ない。
ダンジョンを壊せば国を潰せるなんて話が広まるのも困るので周知はさせていないがな」
ああ、そういう事ね。
魔素の受け皿であるダンジョンを潰すと地上に馬鹿強い魔物が出てくるって話か。
ん……ちょっと待って。勇者って初代王なの?
フォンデール砦を作ったっていうあの?
その話は流石に気になる。ちょっとその文献を読んでみたいかも。
「その初代の文献って俺が読んでも大丈夫?」
「大丈夫も何もベルファスト王族は読むように義務付けられている。重い物でもないしこれを機にルイも読んでおけ。
まあ持ち出せるのは写本だけだがな。手っ取り早くそれ以上の事を知りたければ姉上に聞くと良い。お前を来させろとうるさいし丁度いい」
ああ、コーネリアさんたちが憧れた勇者って初代王の事だったのか。
確かに彼女なら色々知っていそうだけど……言い回しで既になんかめんどくさい。
「話はそれだけか?」と親父に尋ねられもう一つあったのを思い出した。
「そういやさ、新型兵器の運用についての相談をしたかったんだよね……」
「わかった。話してみろ」
真剣な佇まいを見せた親父に、悪意ある者に製法を知られた時の危険性を語り、後世に残さないつもりで立ち回るくらいじゃないと恐ろしい事になるんじゃないかと不安に思っている事を告げた。
「確かに。あれを帝国に量産されたらその時点で詰むな。
そうか、単純な仕組みだから使う所を見せるだけでも技術が盗まれる危険があるという訳か」
「うん。だからどうするべきかを悩んでてさ。製法を知る職人の保護とかもあるでしょ?」
帝国やレスタールが嗅ぎまわるなら真っ先にそこに手が伸びる筈。
勿論、このまま城で保護し続けるという手もあるが、それでは彼らがずっと不自由することになってしまう。
「いっその事、その新領地に連れてっちまうか?」
「あっ……移住を了承してくれるならそれが一番楽かも。あそこ外界と隔絶されてるし」
「そうだな。そこで作らせて王家だけで秘匿すれば問題は無い。
それはこっちで話し合って置こう」
この口ぶりだとやっぱり放棄するのは反対なのかな?
当然と言えば当然の話だけども。
「平和になってからも製法を断つのはダメ?」
「ああ。ルイの懸念も理解しているがそれでもダメだ。
魔物の活性期などもある。理不尽に抗う手立てを捨てる訳にはいかん。
基本的には戦争になっても出来る限り使わない方向でいくってのは賛成だがな」
ああ、そうか。この世界では魔物の大量繁殖とかもあるんだった。
まあうちは間違いなく保持していられるんだし、抑止力として受け入れるしかなさそうだな。
「なんだ、そんなに心配なのか?」
「まあね。もしミルドラドに製法盗まれたらと色々考えた事があるから」
「そ、そりゃ恐ろしいな。マジで国が滅びる……
もし、ミルドラドがそんなものを持てば制圧目的ではなく殲滅目的で使っただろうな」
だよね、と親父と苦笑し合い何とも言えない空気が流れた。
その後、どのくらい保有するかを決めたりして爆弾運用の話は終わった。
そして途中話に出た、初代が残した王族が読んでおかなければいけない本とやらを読みに行くことにした。
じゃあ行きますか、とユリと二人地下書庫に移動して読書を行ったのだが、大したことは書かれていなかった。
要約すれば王様は民や臣下を大切にしなければならないとか、戦争はダメだとか、そういう類の話だ。
一応原本が保存されている地下にも赴いたが、余りに膨大な量に読む気が失せてしまった。
よくこれをコーネリアさんたちはしらみつぶしに読んだもんだと、立ち並ぶ本棚を見上げた。
「うーん、面白そうな話は無かったし村作りに戻ろっか」
「えっ、コーネリア様にお話を聞くのではないのですか?」
あー、うん。面倒そうだけど一応あの人にも聞いて置くか。
と、書庫を出てコーネリアさんの住まう城内の奥にある建物に赴いた。
「まあまあ、ルイ様! よくお出で下さいました!」
「えっと、はい。ちょっとお聞きしたい事がありまして……今、大丈夫ですか?」
「ええ、勿論ですわ! うふふ、例え夜中でも問題ありませんわよ?」
いや、夜中には来ないから……
と断りを入れながらも用向きを伝えれば彼女は「あら、わたくしの専門分野ですわ!」と喜び、寛げる部屋へと案内された。
お菓子とお茶が用意され、近況報告的な話も終われば本題に入る。
「それで、勇者様の何をお知りになりたいんですの?」
ぶっちゃけ転生者かどうかを知りたいんだけど、ストレートに聞いても何でいきなりそんな話がってなるよな。
なんて聞いたものか……
「うーんと、出自とか王様に成った経緯とか?」
「うふふ、それならば勿論お答えできますわ!
フォン様のお母様は神の園に迷い込み神様との御子を授かりましたの。
そこで神の力を培い人間界へと旅立ったそうですわ。
王位に就いた経緯は、神力を使いデール地方を中心に民をまとめ上げ名をフォンデールと変えられまして、お人柄に当てられ慕う人が集まり勢力が増えたことでファスト地方に本拠地を築きベルファストが誕生したのです」
えっ……ちょっと冒頭の意味がわからなかったんだけど?
「神の園って何……そんなのあんの?」
「それはわかりません。ですが、当時の文献には所々にそう記されていますわ」
えぇ……もしかしてここって神様と会えちゃう世界なの?
それはそれで結構怖いんだけど……
いや、古い文献の中の話だしそう表現されていた場所なだけの可能性もある。
うん。実際に会うまではそこでびびっても仕方ないか。
「それと、神は大地にお隠れになったという言葉もありましたわ。
消されていた文字を復元した情報なので定かではありませんが……
他にはやっぱり勇者さまと言えば奈落ですわよね!
ルイ様と一緒でフォンデール様もよく奈落へと足を運んでいたそうですわ」
そういや奈落から帰ったのは勇者と英雄の二人だけって話だったな。
大地に隠れた神から力を貰ったってのは魔物から魔法陣を写したとかそんな感じの話か?
いや、地上で力を貰った後にって可能性もあるか。
言葉のままなら地上から地中に行ったという話だろうからな。
神と称されるほど偉大な人物が死んで埋葬されたことをそう表現している可能性もあるな。
むむむ、と考えこんでいればユリが俺の膝に手を置いてこちらを覗き込んでいた。
「ルイ、そんなに知りたいのなら丁度良いんじゃありませんか。
私たちも強くならねばなりませんし、更なる下層を目指しましょう?」
「えっ、いや強さが必要なのはそうだけど……
宝箱の階層より下はまだ行った事ないから恐ろしく危険な場所だよ?」
もしかしたら命がいくつあっても足りないレベルの魔物が出るかもしれないとユリを真剣に見詰める。
「勿論、すぐに降りるのは愚の骨頂です。
しかし、適正の強さを身に着けた後なら問題無いでしょう?」
「いや、そんなにすぐには強くなれないでしょ」
奈落の魔物だって有限だし、一応毎回湧いたら殲滅は続けてるんだから。
特に俺は適正以上になって漸く前衛としてもやれるくらいの戦闘技術しかないし。
「いいえ、手はあります。ブラッティベアーを殲滅する勢いで倒せばいいんです」
言われてみて初めて気が付いた。
一番気軽に行けて最高効率を出せる場所だという事実に。
「あ、そっか! 流石ユリ。あれなら安全にやれるしそれはありだな!」
うん。あの山脈はめちゃくちゃ広大だし結構な数が居るのも確認している。
空から安全に倒せるしマジで効率良さそうだ。
と、ユリと頷き合いコーネリアさんに話を聞かせて貰ったお礼の言葉を告げて立ち上がった。
「もう行ってしまわれるのですか……
ルイ様、今回は戦争ではありませんし私も連れて行ってくださいまし。
コーネリアはルイ様のお傍に居たいのです」
「えっ、いや……えーと……
ぶっちゃけ連れて行くのは構わないんですけど、俺はユリしか愛せませんよ?」
中途半端なままが一番良くないともう一度ハッキリとコーネリアさんに伝えれば悲しそうな顔をさせてしまった。
「その、望みは少しもありませんの?」
「はい。すみませんが誰であっても側室を迎えるつもりはありません」
「そう、ですか……」
なにやら大きな罪悪感に苛まれたが、なあなあにしている方が不誠実なのだから致し方無いと自分を納得させその場を後にした。
そして一通りの用事は済んだと飛び上がり、皆を待たせているレーベンの町へと飛べばユリが両手で自分の頬を叩いた。
「ど、どうした!?」
「気合を入れました。ルイがそこまで言ってくれたならもう下は向けません。
精一杯頑張ります。隣に立てる女になりますから!」
「お、おう。俺も置いて行かれない様に頑張るけど、お手柔らかにな?」
いきなり自分の頬を張ったので思い詰めているのかと少し不安になったが、頬を赤くしながらもユリはすっきりした顔で前を見据えていた。
「じゃあ、折角だからこのまま山の魔物狩ってから帰るか」
「はい! 行きましょう!」
そうして俺とユリは二人、山脈の上を飛び回りレーザーガンでひたすらブラッディベアーを倒し続けた。
しかし流石に飛び続けるのは結構な魔力を消費する。
日も落ちて来ていたので数時間程度で切り上げてレーベンの町へと戻った。
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