第115話 シーレンス領


 次はハンターの勧誘に、とオルダム魔装学院男子寮に訪れたのだが、ヒロキたちは居なかった。

 どうやら、俺と同じように評価を十倍稼いで卒業したらしい。

 シーレンス領の方で魔物の活性期が到来したというオーウェン先生からの情報にヒロキが乗り気になってそっちに行っているそうだ。

 恐らくだが、戦争も終わっているし先生もそっちに向かっているのだろう。


「うーん……なんかちょっと気になるね」

「大丈夫でしょうか……少し心配です」

「そうね。心配無いわ、と言いたいところだけど精強なシーレンス軍の主力が計算上はまだ不在なのよね……前回のオルダムの様な異常な活性期じゃなければ流石に大丈夫でしょうけど」


 情報源であるリアーナさんも危うさがあると言うし、ユリに「ちょっとこっそり確認しに行くか」と問いかけた。


「こっそり、できますか?」

「できるよ!」

「かなり怪しいわね」

「はい……厳しいかと……」


 おいこらぁ?

 最近めっきり会話に入らなくなってしまったユキナさんまで……

 俺は必要な時に必要な分しか基本力を出して無いからな?

 ユリがピンチの時は別だけど。


 




 そうして俺とユリはオルダムを飛び立ち、王都を越えレスタール北東に位置するシーレンス領へと足を踏み入れた。

 レスタール貴族との接触を禁止されているので一先ず魔物の量が異常じゃなければ様子見でいいかな。


 そう考えてシーレンスの町を飛び越し山に囲まれた森の方へと進んだ。

 ここはギリギリダンジョンの範囲外らしく、麓でも頻繁に魔物が湧く地らしい。

 そんな森に上から見てもわかるほど魔物が溢れかえっていた。


「これは……凄い光景ですね」

「あー、うん。間違いなく小規模じゃないね」


 森からも結構な数が散らばって行っているというのに、森の中の密度も高かった。


「見た感じ弱そうだし、ちょっと降りて戦ってみようか」

「そうですね。見た感じ騎士なら複数相手にできそうな程度です。

 上級騎士ならば囲まれても普通に戦えるでしょう」


 あら……上から見ただけでそこまで戦力分析できるなら戦う必要は無いかも。

 そう思ったのだが彼女はやる気の様子。

 まあ誰も居ないのだから派手に暴れられるし、数を減らしておくのはいい事だろう。


「よし、んじゃやるか」と地に降りて魔物と相対した。

 

 種別はバラバラだ。見える範囲だけで四種類以上居る。

 オーク系、植物系が二種類、あとは巨大なイタチみたいなのも居るな……

 まあこれを使えば関係無いんだけど、とレーザーガンを取り出したのだが、ユリちゃんが少し口を尖らせてこちらを見ている。


「ど、どうした?」

「面倒になるまでこっちでやりませんか。そればかりだと味気なくて……」


 そう言って魔装剣を作り出す彼女。


「おっ、そうだな。今回はヤバくないか様子見しに来ただけだし楽しもうか?」

「はいっ!」


 音符が付きそうなほどに声を弾ませるユリ。それだけで来てよかったなと思いつつも俺も魔装を纏い剣を伸ばした。

 その時にはユリはもう魔物の群れへと特攻を始めていた。

 いつもの連携ならばここで魔法援護を入れるのだが、流石に今は空気を読んで俺も前衛として彼女の後を追う。


「はぁっ!!」

「そいやっ!!」


 意気込みのままに気勢の声を上げるユリに続いて俺も掛け声を入れつつ、剣を伸ばしまくって全力で横に振るった。

 開けた場所だったのだが、伸ばし過ぎて木も数本巻き込まれて切れた。

 おお、木を軽くまとめてぶった切る程になってたか。

 なんて感慨深く思っていたのだが、ユリが何故かこちらを見てクスリと笑った。

 えっ、なんだろう。今の笑顔は……愛らしいものだったけど何やら意味深。

 そうした視線に気が付いたのかユリが戦いながらも口を開く。


「掛け声、変わっていませんね」

「お、おう。変えた方が良い?」

「いいえ。ルイはルイのままでいいのですよ?」


 理由がわからんだけに少し釈然としないが、今の俺で居て欲しいと言ってくれるのは嬉しいのでそのまま了承の意を示した。


 その時、新種の魔物が現れ魔法陣を浮かべているのが見え、ユリの対角線に入り魔装で防壁を広げる。

 しかし、防壁が意味を成すことは無く、突如下から伸びあがってきた毒々しい蔓が襲い掛かってきた。


「ルイ!!」とユリが毒々しい見た目の所為か心配そうに叫ぶ。

 だが襲い掛かってくるとはえ遅い上に触れなければただの蔓だ。

 魔装の操作だけでも軽く刈り取れるだろう。

 いや、逆に剣でやったら数が多いから大変か?


「あの変わった魔法欲しい。あれ、俺がやっていい?」

「ル、ルイ? 今の色からして毒ですよ?」

「ああ。大丈夫、わかってる。

 絶対に喰らわない自信があるしもしもの時はエリクサー飲むからさ」

「もう……仕方ありませんね。周りは全て受け持ちますから慎重に対応してくださいね?」


 おお、フォローもしてくれるのね。流石俺の嫁。

 とは言えこの数全ては大変だ、と光魔法五十連をばらまいて敵を減らしてからお願いした。


「むぅ、ルイが隣に居ると修練になりません」

「えっ、いや、今のは流石に間引いてもいいじゃん?」


 俺の我儘で周辺を任せるんだからさ。

 そんな受け答えをしながらも、植物系の魔物にもう一度魔法を使わせようと拘束して睨めっこ状態だ。


「わかっていますよ。

 もっと任せて欲しいのに旦那様が過保護過ぎて困りますという贅沢な悩みです」


 だ、旦那さまだとっ!?

 うわぁ、今ユリの顔を見たい。絶対可愛いに決まってる。

 しかし流石に毒魔法を使ってくる奴からは目を離せない。


 くそ、この草野郎め!

 早く魔法を使え!!


 そう思うが、あやつは拘束から抜け出そうと必死に暴れているだけだった。

 長らくユリに言葉を返していなかった所為で後ろから「ル、ルイ?」と少し不安そうな声が響く。


「いや、過保護じゃないからね?

 全て仕事を任せてしまうんだからこれくらいは当然じゃないかなって考えてたんだ」

「そうでしたか。調子に乗ったから引かれたのかと……」

「いやいや、全然調子に乗ってないから! もうお嫁さんになるんだよ!?」

「ルイのお嫁さん。えへへ、幸せな響きです……」


 むぅぅ。何故こんな良い空気な時に戦闘中なんだ。

 こういうのは部屋で頼むよ。切実に。


 そう願いを込めた時、植物系モンスターは再び魔法を使った。

 かなり複雑な魔法陣だ。下手をすると光魔法よりも難易度が高い。

 ただの毒持ち植物を生やして襲わせる魔法だろ?

 いや、よく考えるとそれって大分工程が多いな。効果を見るに妥当か。

 うーん。もしかして魔法難易度って魔物には強さと関係無いのかねぇ?


 思考を続けつつも魔法を封殺しコピーも試みたが、流石に一度では厳しい。


「ユリ、流石に一度じゃ無理だった。後二、三度魔法待ちしていい?」

「問題ありませんよ。ルイはそちらに集中していてください」


 そうしてもうほぼほぼ完ぺきだと言えるところまで模倣が完了した時、遠くで叫び声が上がるのを強化している聴力でギリギリ聞き取れた。 

 悲壮感がある感じでは無いので、恐らく戦いの怒号というやつだろう。


「ルイ! 気付きましたか!?」

「ああ、こっちはもう終わったからこのまま見に行こうか」


 と、レーザーガンで切り付けたのだが、魔物は死んで居なかった。オークキングばりに耐えて見せている。

 その直後、暴れだしながらも傷つけた部分が再生した。

 回復魔法というよりも再び生やした感じだ。

 どちらにしてもこの周辺の雑魚とは違い、結構強い部類の魔物だ。


 こいつやっぱりボスクラスなのか?

 それにしては魔装で押さえつけられるくらいには力も弱いし……と考えた時、植物系モンスターは毒の魔法陣を広範囲にばらまいた。

 俺の全力よりも広範囲にかなりの数の魔法陣が作り出されていく。


 はっ!?

 ちょ、これはヤバイ。

 俺は魔装で何とかできるがユリが危険だ。


 とユリの所へと走り、魔装で包み球体にして中に空間を作った。

 そのまま玉の上に気球を作り空へと上がる。

 その後、魔装を透明にして下の様子を伺えば、辺り一面が毒々しい色になっていた。

 どうやら動物系モンスターにも効くらしく、無差別に襲われゆっくりと息絶えていく光景が広がっていた。


「うわぁ……なるほど。あの魔法に特化したボスだったんだな……」


 遊んでいたのはあっちも一緒だったってことか。 


「あれ、継続して生やし続ける事もできるんですね。

 触れるだけで冒される場合を考えると長引いたら危険だったかもしれません」


 ありがとうございます。と不甲斐なさそうな面持ちで言う彼女を抱き寄せ「俺はユリを守れて男として誇らしいよ」と笑いかければ、少し困り顔だがニマっと表情を崩した。


「んじゃ、全部焼き尽くしたら素材も取れないし、遠くからサクッと魔石狙い撃ちで終わりにしますか」


 彼女は「魔石、見えますか?」と小首を傾げるが、葉を全て一度取っ払えば見える筈だと一瞬光魔法を照射してやれば、何やらムキムキマッチョな茎に大きな魔石が付いていた。

 せっかく安全地帯からなんだし、新型装備でやるか。

 まだ小型でしか試していないが大丈夫だろうと一度離れて陸に降り、新兵器を作り出し地面にきっちり固定させた。 

 大きさは五メートル程度。大砲と比べればそれほど大きな物では無い。


「それは何ですか? 銃っぽいのに筒身が変です……」

「おう。新兵器だ。初お披露目だが、小型で何度か試して一応成功はしている感じだな」


 おお、と興味津々に見ているが、魔物が寄ってきているので急ぎたいところ。

 遠くで戦っている奴らも少し気になるしな。


「んじゃ、さっそくレールガンのお披露目といきますか!」


 寄ってきた雑魚をユリがレーザーガンでサクッと殲滅し、俺はその間、慎重に狙いを付け続けた。 


「こっちは何時でも打てるからそっちが安定したら後ろに下がってくれ。俺も下がりながら打つから」

「危険なのですか?」

「いいや、念の為だよ。まあ、大変危険な武器ではあるから」


 強度的な問題で破片が飛ぶ可能性はあるかもしれんから念の為ユリの対角線上に居るか。

 俺の魔装だから俺に危険は無いしな。


 そうしてユリの準備ができ、大きくバックステップで後ろに飛び離れながら雷魔法を起動させた。

 雷の走るエフェクトと共に爆発が起き、小規模な砂塵が上がる。

 そのまま望遠鏡で狙い通り当たったかを確認すれば、魔物は地に伏せていた。


「おっし、倒したっぽい」

「凄い。流石ルイです! では、回収したら先ほどの声の方へと行ってみますか?」


「普通に戦ってるっぽい声だったけど、確かに気になるな」と、それ応じて先ずは魔物の回収へと向かえば、そこにはオーガキングと同等レベルの割れた魔石が落ちていた。


「まさか、本当にこのレベルだったとは……いえ、あの魔法を見るに妥当とも言えますが……」

「それは俺も思った。身体能力が低くてもこれほどに強い場合もあるんだって事だな」


 そうして俺はユリと教訓を積みながらも、魔石はユリに吸収してもらい俺は素材を収納して声がした方へと走った。




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