第91話 鉱山視察
次の日、領主の館にてせっせと昼食の準備をし、兵士たちを集めて再び食事を取りながらの打ち合わせを行う。
「領主様、ハンターギルドを魔法一撃で潰したって本当ですか?」
「おい、馬鹿!」と一緒に行っていた兵士の一人が止める。
「な、何の事かなぁ?
ああ、闇ギルドとの戦闘で半壊してしまった事かなぁ?」
と、やり過ぎてしまったばつの悪さをごまかしながらも山盛りパスタを頬張る。
「ルイはもっと魔法の威力を落とす練習をした方がいいです」
「いやいや、出来るからね? あの時は緊急時だから威力を上げたの!」
いくらなんでも上げ過ぎです、と怒られつつもポケットマネーからギルドの建て直すお金を出した。
「ま、まあ、物は壊れても直せば良い。という事でこれで建て直させて欲しいんだけど……」
「いや、大金貨五十枚は流石に多過ぎかと……」
建て直す金額なんてわからないのでいくらあれば足りるかを聞けば意外と安かった。半分もあれば十分足りるらしい。
そういう事ならと、三十枚渡し、あまった金額は再建の為の人員育成手当てに当ててくれと頼んだ。
半数以上が闇ギルドの一員だったのだ。
きっとかなり大変だろうと迷惑料も込めて渡しておいた。
「そういえば、鉱山の方はどうだった?」
そう、罪人たちが逃げ出した後どうなったかも調べて貰っていたのだ。
と言ってもただでさえ少なすぎる私兵。様子見に一人行かせただけだけども。
「はい、残っていた奴隷たちが途方に暮れていたので、一応指示があるまで待機と命じ、倉庫の食料も配給して置きました」
あ、全員が逃げた訳じゃなかったのか。
そう思いながらも話を聞いていくが、やはり看守は全員殺されてしまったらしい。
残っているのは女子供が多く、以前の様に仕事をさせるのは難しいと言う。
「わかった。そっちは今日視察に行ってくるよ。それと商会長の方は?」
「はい。今朝も見に行きましたが張り付けられたままです。
結構、衰弱している様子でしたね」
まあ、一日とはいえ二十四時間立ちっぱだからな。
「んじゃ折を見て財産のありかを聞き出してみて。勿論隠している方のね」
もう既に商会にある資産は差し押さえてある。
物資関連も全てだ。今も交代で商会倉庫だけは見張って貰っている。
「後は、衛兵の募集だけど……どうしようかね……」
ここだって一応十万人規模の町だ。兵士二十人で回る広さじゃない。
だから募集するべきなんだが、舐め腐った奴は要らない。
とはいえ、うちの五十を足しても現状では到底足りないんだよな。
「その、皆の知り合いとかでまともに兵士が出来る奴は居ないかな?」
聞けば多くはないが居るとのこと。なので声を掛けて欲しいとお願いしておいた。
「ベルファストからも五十人、ちゃんと戦える兵士が来るからそれまで大変だと思うけどお願い」
そう伝えると遠慮気味にお給料日はいつのになるのかとの質問を受けた。聞けば、給料日直前に失踪された為、今月分を貰っていないのだそうだ。
であれば今渡すと隊長に全員分渡して漏れが無い様にちゃんと渡してくれと頼めば、お給料を受け取り、元気になった彼らは意気揚々と仕事へと戻っていった。
「さて、今日は鉱山行くかね」
「はい! 今日も小芝居はありますか?」
どうやら、あの演劇の様な大げさな仕草やふざけた喋り方を気に入ってしまったらしい。
機会があったらね、と流しつつも庭から鉱山に向けて飛び立つ。
飛んでいけば、街の中の筈なのに外壁が張られていた。壁を越えた途端寂れている景色へと変わり、その先には砦の様な外壁に囲まれた場所があった。
門は破壊され、周辺には所々血の跡が残っていた。
看守と囚人が戦った跡だろう。
兵士たちが片付けてくれたのだろうか、と中へと入って行けば今まさに火葬が行われている最中だった。
どうやら、残った囚人が片付けてくれたらしい。
腕を組み、眉間にしわを寄せ燃え盛る炎を睨んでいる強面の女性に声を掛けた。
「俺は、新たにここの領主になったルイと言う。
貴方たちが片付けをしてくれたんだな。ありがとう」
「……何しに来たのさ。私たちはここから出ていないよ」
警戒と拒絶の視線だが当然の反応だろう。
「わかっている。だから貴方たちには何もしない。
逆にこちらの不手際で色々迷惑を掛けた侘びに焼肉でも振舞おうかと思う。
それと、鉱山の稼動も難しいと聞いた。今後の話もしなければならないだろ?」
「そうかい。確かにうちの奴らだけじゃ到底手が足りないね……」
一先ず、全員を集めてくれないかとお願いすれば、彼女は「今は食堂に集まっている。直ぐそこだ。行った方が早いが、どうする?」と言ってきたのでそのまま後を付いて行く。
そして案内されたぼろい食堂。その中には五十人程度の子供たちが居た。
予想以上に少なすぎる。暴徒の数と差し引けば後二百は居る筈だ。
「これで、全員……なの?」
「ああ、他は全員逃げたよ。どこに行くんだかも知らないけどね」
なるほど。どうやら暴徒とは別に逃げて潜んでいる奴らがいる様だ。
まあ、それはどっちにしても後回しで先ずは彼らと今後の話し合いからだ、と食堂の前に躍り出て注目を集めた。
「俺の名はルイ・フォン・ベルファスト。この町の新しい領主だ。
キミたちと今後について話し合う必要があると考え此処に来た」
不安と諦めが色濃く映る瞳を向けられていたので「その前に飯にするか」と態度を崩した。
魔装で大きなテーブルとプレートを作り、恐竜肉を百キロほど出して切り刻む。
元々此処に残ってくれた奴らには飯を振舞うつもりで来ているので、調味料も出来合いのを持ってきている。
ガンガン肉を並べて焼いていく。
その間に、魔装で作った食器とタレをユリに配布してもらい、出来た順から皿に乗っけていく。
「今日は食べ放題だ。仕事も休みにする。腹が痛くならん程度に全力で食ってくれ」
彼らに恐竜肉は刺激が強すぎたのか、噛む度に動きを止めていたが、慣れてきたのか食べる速度が上がっていく。
負けんぞ、と俺もどんどん焼いた。
空いた皿には強制的に肉を乗せ続ける。
手が止まり始めたので焼くのを止めたが結構な余りが出てしまった。
仕方が無いと食堂の大皿に乗せていき「これは夜にでも回してくれ」と、まとめ役であろう、最初に声を掛けた女性に渡した。
「これだけ食った後に言うのもなんだが、こんな高級な肉、いいのかい?」
「ああ、構わないよ。俺が取ってきた肉だし。それよりも今後についてだ」
おなか一杯で幸せそうな顔をしている者も居るのでさっきよりは空気が緩いが、それでもやはり不安を見せる者も多い。
「言っておくが、俺が領主の内は無理をさせるつもりはない。
そもそも鉱山の収入はそれほど期待してないからな」
うん。金を得ようと思えばミスリル売るだけで簡単に手に入るし。
急激に量が出回っている最中だから、今までの様な高額では売れなくなるだろうが、それでも元値が高すぎるので大金貨数百枚程度なら余裕だろう。
いや、どちらにしても俺が稼いで懐から出すってのをやる気は無いが、そもそもがあの住人の為にお金を掛ける気が無い。
せめてある程度掌を返すまでは放置させて貰うつもりだ。
税だけ取る悪徳領主になってやる。
ふははは
と思考に耽っていたら、ユリに「悪い顔になってますよ」と注意を受けた。
いかんいかんと顔を上げ彼女たちに視線を戻す。
「前の領主は此処が止まれば町が立ち行かないと言って居たんだが……」
「ああ、それはミルドラドの中央に吸い上げられてたからだろ。
この国はもうベルファストに変わったからな」
「はっ……?」と困惑する彼女。他の者たちも数人は驚愕に固まっていた。
他の子達は首を傾げて居たりしていたが。
「だからお前たちはもう奴隷じゃない。
今回の事で恩赦も与えるつもりだ。罪の重さにも寄るが、大半は一般人へと戻れるだろう」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!
あたしらが奴隷階級から抜け出せるってのかい!?」
「奴隷街の奴らも?」と問われたので頷いて返せば卒倒しそうになっていた。
「うちには奴隷なんて階級は無いんだよ。勿論犯罪を犯した者は捕まるし強制労働もさせられるが、罪を償えばそれからは自由だ」
勿論重い罪を犯せば殺されるけどと釘を刺したつもりだが、聞いているのかわからないくらい放心していた。
暫く待てば他の女性から声が上がる。
「その、刑期はどのくらい短縮して頂けるのですか?」
「えーと、その前に聞かなければ成らない事がある。皆は何をして此処に?」
一人一人時間を掛けて聞いていけば、大半が食うに困っての盗みだった。
最初に声を掛けた彼女や他の大人たちは村が襲われ拉致られた果てに此処に辿り着いた同郷の者だと言う。
その証明は出来ないと言うが、ここに態々残るような人たちだ。信憑性は高いと思う。
ちなみに、拉致られた者たちは刑期が無い。
尋ねてきた女性もそうだ。本来の言葉通りの終身刑という奴だ。
いや、話が事実ならそもそも罪人じゃないが。
恩赦を与えようと思っていたのだが、その必要は無さそうだ。
食うに困って盗みを働いた子供に刑期五年とか長すぎだろ。
俺の前の領主になって数年してからは軽い刑で送られてくる者が居なくなったそうで、全員が数年単位でここに居ると言う。
「えーと、そういう事なら全員解放しても問題無いな。
とは言え金も無しじゃ出ても生きていけないだろうし給料出すから鉱山で働かないか?
勿論、いつ辞めても構わないし、ここから好きに出て貰って構わない。
あと、新たに来る囚人とは仕事場を分けるつもりだ。
だから粗暴な奴に絡まれる心配はいらんぞ」
出来るだけ安心できる言葉を並べたつもりだが、何の返事も無いままに時間が過ぎる。
その中でいち早く復活したのは強面の彼女。
「どうして、そんなに私らに良くしてくれるんだい……あんたらにゃ損だろう?」
表情は安堵ではない。困惑と警戒だ。理解不能といった面持ち。
そんな彼女らに向けて説明する。
ここに居る者たちの為ではなくミルドラドの行いが異常だったのだと。
ベルファストもレスタールもそれが普通なのだと。
「国の決めた法を守る為だ。
こっちが法を破る側になっちゃいけないんだよ」
上手く話しを飲み込めない彼女たち。
都合の良い話であれば一先ず受け入れて様子をみればいいだろと言ってみたが、そういう次元では無さそうだ。
彼女たちにとっては物心ついた頃から居る家の様なものだそうで、今更此処を離れろと言われてもという思いでいる様だ。
「悪いがそれでもいずれ此処からは出て貰うぞ。
ここは犯罪者が罰を受ける場所だからな」
暫く出て暮らせば直ぐに慣れるだろうと軽く考えて居たのだが、予想外の言葉が飛び出して今度はこっちが言葉を止める番となった。
「また盗みをやればここに居ていいの?」
つぶらな瞳で首を傾げる少年。
「あそっか」と彼に納得する言葉を返す者すら居る始末。
そんなに幼くは見えないんだが……
「あのなぁ、お前たち……」
今犯罪行為をされたら困るって話しただろと呆れた視線を向ければ、おっとりした優しげな女性が「違うんです、この子達は皆と一緒に居たいだけで」と声を上げる。
「あぁ……わかった。じゃあこうしよう!」
指を立てて彼女たちに提案した。
住む場所を用意するから、全員でそこに住めよと。
そう告げれば、一先ず子供たちも納得してくれた様子。
いや、子供と言っても年齢はそれほど変わらないんだが。
そうしてある程度話が落ち着いた所で、収容所内を色々と見せてもらうこととなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます