第117話 シーレンス領③


 魔物を殲滅するにしても視界不良の森では面倒だと、一先ず開けた場所に移動することにした。

 と言っても森の中には良い場所が無かったので先ほどの戦闘跡地へと戻っただけだが。


「ここで、こまめに殲滅を続けるのか?」


 俺たちの取った行動に少し安堵を見せる彼だが、流石にそれほど時間を掛けるつもりは無い。

 暫く周りを殲滅していたのは、先に帰った部隊とやらと距離を取って気付かれない様にする為だ。


「いえ、ここから一気に集めて殲滅します」とお得意の銅鑼を作り出した。


「なんだそりゃ?」と興味深そうに観察する彼。「鳴らしてもいいですか?」とユリが悪戯っ子の様な顔をしてこちらに問いかける。

 俺も笑みを返し頷けば、巨大な銅鑼の重低音が鳴り響く。


「なっ!? なにしてやがんだ!!」

「馬鹿じゃないの!! こんなことしたら全部の魔物がここに来るわよ!?」

「いや、だから集めて殲滅するんですって。先に帰ってていいですよ?」


 二人は後ろとこちらを交互に見た後「いや、嬢ちゃんくらい練度がある奴がやれると言うならば信じはするが……」と言って不安を露わにしながらも留まる事を決めた様子。

 そうして集まってくる魔物をレーザーガンで殲滅していく。

 ただ、横に切るだけの簡単なお仕事だ。


「お、おい、それ一体なんなんだ?

 滅茶苦茶すげぇな。さっきの小僧どもも使ってたがこの数でも捌けるのかよ……」

「あっ、ヒロキたちも偵察に来てたんだ」

「なんだ、知り合いなのか。まあこんな新種な魔道具の同じものを持ってるんだから当然か」


 いや、正確には一緒じゃないけどね。

 こっちは純正ミスリルで限界ギリギリまで増幅してるから断然強力だし。

 と話している間に魔物の数がどっと増えていた。

 良い感じに殲滅もできているのだが、それを超えるスピードでわき出て来てどんどん距離を詰められていく。


「おい、殲滅が追い付いてねぇぞ? 大丈夫なんだろうな!?」

「あ、はい。やっちゃいますね?」


 今回は広範囲だし、火でいいか。

 植物と動物相手だしな。


 そう考えてファイアーストームの魔法陣を三十メートル規模の大きさで扇状に五つほど並べた。

 突出した魔物だけをユリに間引いてもらい、引き付けてから最も効率が出るタイミングで起動させれば、大量の魔物が炎に包まれて断末魔が至る所から上がり続けた。


「なんじゃこりゃ……こんな大きさの魔法陣なんて有り得ないだろ。夢か?」

「幻覚だと言われた方が納得しやすいわね。現実として受け止め難いわ……」


 近場のはある程度焼き尽くしたので一度魔法を止めて言葉を返そうかと思っていたのだが、後方から物音がして言葉を止めた。

 ユリに視線を向ければ、彼女も音がした方向を見据えていた。


「どうした? やり方を変えるのか? まだ魔物は来てるぞ」


 そう問いかける彼に増援が来る予定があるかを聞くがそんな手筈は無いと言う。

 その時、見慣れたレーザーガンの光が遠くに見え胸を撫でおろした。


 ヒロキたちだ。足音は三人だし間違いない。

 よかった。

 魔物を呼んだ以上殲滅はしなきゃだし、知らない人が来ちゃうと面倒だったから。


「ああ、ありゃ小僧どもだな」

「あっ、アミたちでしたか。よかった。彼女たちだけの様子ですし合図しますね?」


 そうか、ヒロキたちは聴力強化は出来ないからこの距離だと場所を補足できないか。

 銅鑼も鳴らしてるしもう気付いていると思うけど、俺たちだと知らせてやった方が無難だな。とユリに頷いて返せばレーザーガンでわかる様に何度か合図を送った。


 その後、引き寄せて魔法を撃つのを二度行ったくらいでヒロキたちがこちらに到着した。


「うおぉぉぉ! やっぱりルイたちかよ!?」

「ええっ!? 本当に居た! なんで!?」

「あはは、何それ……相変わらずルイに魔法を使わせるとヤバイね」


 いつものノリで声を上げる兄妹とアキト。


「よう! 戦争に人員取られていて危ないかもって聞いたから一応見に来たんだ」

「はぁ? 俺たちが来てるんだから大丈夫だっての!」

「そうですか。後四万程度は居ると思いますが、お任せしても?」


 挑戦的な笑みを向けてユリがヒロキに返せば彼は「えっ、どんなに多くても一万程度だって聞いてんだけど?」と彼は目を見開いた。


「オルダムと一緒だな。今年は魔素溜まりの決壊が全体的にヤバいんだろ?」

「そうか。魔素は地中から広がるんだから人が決めた地域なんて関係ないよね」


 顎に手をあてて納得した様子を見せるアキトに「でももうここが終わったら今年は終わりでしょ?」と首を傾げるアミ。

 どうやら、レスタール国内で大規模な活性期のある地域はシーレンスで終わりだそうだ。

 順番がある程度決まっていて次はミルドラドらしい。

 ちなみに領土拡大前のベルファストに大規模な魔素溜まりは無いそうだ。

 領土が小さかったのが功を奏していた、のか?


「なぁルイ。折角だから俺たちも魔物倒して強くなりてぇんだけど……」

「うん。良かったらでいいんだけど、集めたの僕らもやっていいかな?」

「いや、良いに決まってるだろ。帰りの魔力は心配しなくていいから好きにやっていいぞ」


「やったぁ。流石ルイ君!」と早速アミがレーザーガンで横に薙ぐ。

 それに続いてヒロキとアキトも同じ様に続いた。


「へへ、これだけ居ると横に引くだけで一杯やれるから楽でいいね?」

「全くだ。まあ俺たちだけじゃ魔力が尽きる方が先だけどな」

「近接でなら結構長時間やれる自信はあるんだけどね」


 ほうほう。結構順当に強くなっているらしいな。

 低く見積もっても騎士相当はあるのだろう。

 もうあんまり心配する必要は無いかも知れないな。


「ちなみに、俺はお忍びで来てるからそこんとこよろしくな。

 親父に表に出るなって言われてるから軍とかにも顔出さないから」

「ああ、言ってたね。それなのに心配してきてくれたのか。ありがとねルイ」


 アキトの声に続く様に二人からも感謝の言葉を貰い、いつも通り気にすんなと返した。


「んじゃ、三人の魔力が尽きてからもう一度呼び寄せてそれ倒したら終わりにしようか」

「そうですね。ヒロキたちがそこまで強くなっているならその程度で問題なさそうです」

「あん、もう帰っちまうのか?」


 折角だからこっちで一緒に飯でも行かないかと誘われたのでそれに応じる事にした。

 いつも作って貰っているからたまには奢らせろという事らしい。


 そんなこんなで二万程度は殲滅しただろうというところで終わりにしてシーレンスの町へと飛んで向かった。

 町に着くと何やら途中からほどんど無言だったベテランハンター夫婦は任務の報告に行くと言って離れた。

 俺とユリは持たされている偽装されたハンター証で町に入り、皆でお茶をする店を探した。

 名目はこの町で一番美味しい店だ。

 すると一つの店を皆お勧めしてきたのでそこに行くことに。

 しかし、店に入りメニューに目を通せばアキトとヒロキは深刻そうな顔を見せた。


「くはっ、たっか!」


 そう、お貴族様専門のお店だったのだ。

 最低価格の品目が普通の店の三十倍くらいからスタートのお店。


「確かに高いが今のお前らなら余裕だろ?」

「そうそう。ルイ君のお陰で稼げるようになったんだからここはケチケチしちゃダメだよ。

 これからも頑張ってれば稼ぎが上がるんだし、私たちもこのくらいの贅沢はしよ?」


 アミは楽しそうにメニューとにらめっこしている。少し意外だ。

 俺たちに奢るんだから少しは渋るかと思っていたのだが。

 いやまあ、俺はお金持ってるし自分で出してもいいんだけど、下手にそれやると奢ると連れて来たこいつらの立場が無くなるからな。


 ああ、でもアミは玉の輿発言が目に付くけどよく考えたら元々気前は良い方だったか。毎回部屋も貸し出してたし、戦いのサポートで面倒なポジションとかも率先してやってたしな。

 うん。元々して貰ったことへのお返しとか考える方だわ。


「別にケチろうなんて思ってねぇよ。

 おし、全員で一番高いのいくぞ。半分から下は無しだ。いいな?」

「はは、毎日じゃなければ全然平気だからいいんじゃないかな」


 ふむ。別に無理しなくていいと言おうと思ったが、ここでそう言うのは逆に無粋だな。

 じゃあ、遠慮なく頼もうか。


 と、ぼちぼち高い物を頼みユリもそれに続いた。

 そうして美味しい食事にあり付きながらもお互いの近況報告を行う。


 と言ってもヒロキたちの話は殆ど知っているので、戦力の状況やこの町はどうだという世間話くらいに落ち着く。

 その後、俺から出てくる魔物の話や新規で村を作っている話など、色々な事を話した。


「へぇ、ルイ君が村を作ってるんだ。行ってみたい!」

「ああ、来るなら連れてくから言ってくれ。今の所は唯一の道が通行禁止だからな」

「通行禁止って……それでどうやって移住する人を増やすの?」


 いや、それはそうなんだけど……魔道具職人の事もあるから迂闊に解放できないんだよな。

 だからこそ人数増やさんと呼び寄せた奴らが豊かな生活をできない。

 こいつらには意味の無い情報だから態々言わんけど、住人は増やしたいから意見は聞きたい。


「うん。どっかから勧誘するしかないと思ってんだけど、なんか良い案無い?」

「うーん、普通に近場の領主様に募集の告知をして貰うくらいじゃない?」


 そうだよなぁ。


「僕の家では移住を考えた事あるけど、やっぱり条件が良くないと踏ん切りが付かないよ」


 条件か。

 暫く税を免除したり家や畑を与えるってやつだな。

 んじゃまあ先ずは大工さんに頑張って家を一杯作って貰うか。


 そうしてある程度話が無くなった頃に店を出て、もういい時間なので今日はシーレンスで一泊することに。

 ヒロキたちが取っている宿がまだ空いているそうなので俺とユリもそこで一部屋取った。

 そして何となく流れでヒロキたちの部屋にお邪魔し雑談を続ける。


「そういえば、本格的な討伐は何時からの予定なのですか?」

「予定通りなら明後日だね。状況次第で明日になるって聞いてるよ」


 そうなるともうこっそりやれる時間は殆ど無い。

 一万以上は削ったけど、ジョージさんの言葉を聞くにまだまだ厳しそうなんだよな。


「どうしようかな……夜の内に減らしちゃう?」

「私はそれでも構いませんけど、魔力は大丈夫なのですか?」


 いや、あんまり大丈夫ではないかな。

 最近空を飛び過ぎてる。ブラッディベアー討伐の飛行で消費し過ぎた。

 新型バックパック七つの内フルで入っているのはもう一つだけだし。


「ならば、任せましょう。いざとなれば周辺の町から応援も呼べますし」

「そうだぜ。ルイだって忙しいのにあれだけやってくれたんだ。十分だって」


 ふむ。アキトとアミも特に不安そうな様子は無いな。

 なら明日少し様子みて酷い状況じゃなければそのまま帰るか。

 ロゼたちも待たせてるしな。


「んじゃ、私はそろそろ寝るねぇ」

「おし、んじゃ俺も明日の為に寝とくかな」

「そうだね。多分明日だろうから早いうちに寝とこうか」


 アミの言葉を皮切りに皆寝ることになり、俺たちも取った部屋へと移って睡眠を取った。

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