第144話 エリクサー補充
あれから俺たちは効率を上げるために三組に分かれて行動することになった。
組み分けは気心の知れた仲を中心に俺とユリ、元帝国勢、ヒロキたちと言った具合に分けた。
今の所は、古代種も帝国も動きを見せていないので偶に村に戻る程度で殆どの時間をレベリングに当てている。
そうして広範囲で移動しながらのレベリングを半年以上していれば色々な事がわかった。
先ず、古代種は基本的に一か所に集中して生息している事。
帝国に居るヴァヴェルと同じく日本語を習得している事。
そして古代種の大半は休眠状態で活動しているのは数体程度だという事だ。
何故、それほどに情報を集められたかと言うと、ヴァヴェルが守っていたであろう日本人が住んでいた跡地で箱舟の残骸が見つかったからだ。
メイが探知機を使い発見しデータの復元を行い、当時の様子を見せてくれた。
ヴァヴェルは最初こそ力を見せつけ怯えさせご飯を強要していたがそれも直接的な暴力では無い。
どれどころか箱舟を失った彼らをご飯欲しさではあるが、強い魔物から守っていた。
そんな流れで住人たちともゆっくりとだが打ち解けて行った。
その過程で彼は日本語を習得した。と言っても脳にインプットする形での習得だが。
初めて言語という便利なものを得た彼は、兎に角使いたいとご機嫌で住人たちと言葉を交わしまくっていった。
そうして彼は住人たちからヴェルさんの愛称で親しまれ、酒飲み友達と連日酒盛りをわいわいやる程に溶け込んでいった。
だが、日本人が定住する地だけあってそこも魔素濃度が低い土地。
どうやら古代種でも魔素濃度が低い土地に定住するのは難しいらしく、十年に一度くらいは濃度の濃い土地で魔素を貯める必要があるそうだ。
五十年以上住んでいて何度も離れた事があり、彼は他の古代種たちに目を付けられているとも知らず、襲撃に遭った日もいつのもの様に町を離れてしまっていた。
彼が町を離れると同時に五体の古代種が町にやってきて町を破壊しながらの物色を始めた。
だが、町の住人はヴェルさんと分かり合えた経験から、言語を与え話し合う道を選んだ。
しかしその甲斐空しく、いくつか気に入ったハイテクの物を奪うと古代種たちは暴れ、町を破壊し尽くした。
そこで映像が途切れている。
「これは酷い……でもマジでヴェルさんは警戒する必要ねぇな。普通に陽気なおっさんじゃん」
「ええ。現在の所在地が帝国でさえなければ殆ど不安はありませんね」
あぁ……そうか。
帝国の奴らが騙したり逆鱗に触れたりすれば敵に回る可能性は普通にあるか。
でも今もちょいちょいメイから報告を受けているけど、特に問題なさそうなんだよな。
そうしてユリと話していると、メイから待ちに待った報告が入った。
『奈落より、花の魔物の出現を確認致しました。向かいますか?』
「おお! とうとう来たか! 行く行く!」
漸くエリクサー素材の魔物が湧いたか、と俺は思わず腰を上げ向かってくれと言葉を返す。
『了解しました。ドローンによりイエティの引き付けを行います』
そう言いながらも、物すっごい速さで景色が流れていき、ものの数十分程度でオルダムまで戻ってきた。
そうしてユリとメイを連れて颯爽と奈落に通じる穴へと走った。
「あっ、あれが……」とユリが望遠鏡を覗き花の魔物を観察する。
「うん。倒しても絶対に触れないでね。十秒と掛からず即死するから」
「はい。ルイもですよ。本当に気を付けてくださいね?」
俺が触れてしまった話は幾度かしているので覚えているのであろう。
本当に心配そうにこちらを見上げている。
「いや、マジで問題無いよ。解体はメイがやってくれるから」
「ああ、なるほど。それならば安心です。メイさん、お願いしますね」
『畏まりました』とメイド姿の女の子が頭を下げる。
外見上は本当に普通の少女だが、中身はサイボーグである。
こんな状況下だから何時でも一緒に居るべきだとのメイの一言から始まり、違和感なく行動を共に出来る様、俺の専属メイドとしての立場を与える為に人の姿を取ったのだ。
驚くことに彼女は箱舟の子機を内蔵している。そのお陰で何時でもその場で何でも作れてしまう。
そんな万能な彼女の案内の元、奈落まで高速移動が行われた。
ステルスモードとレーザーガンを駆使して難なく奈落の穴まで到達し、そのまま下に降りていく。
ある程度近くなってくると当然花の魔物は光魔法を放ってくるが、魔装の性質変化により防ぎつつも魔物の魔石目掛けて魔装を伸ばす。
当然花の魔物も猛毒の蔦で攻撃をしてくるが今ではもう変幻自在の魔装、千切れようが絡め取ろうが性質を変えながら構わず突き進んでいく。
そうして魔石まで到達し、魔装で包み魔物の体から魔石を分離させればそのまま動かなくなった。
「いやー流石にもう雑魚だな。毒だけは危険だが」
「ルイの制御が異常すぎるんですよ。
なんで皆にも技術を分け与えたのに何も貰っていないルイが一番成長してるんですか?」
「いや、皆近接戦闘ばっかでやらないからじゃん。
いくらメイから性質変化のデータ貰っても練習しなきゃそりゃ無理だよ」
ユリの声に当然の返答を返したのだが、全ての時間を当てていても入学時の俺にも全然追い付いていないと彼女は口にしていた。
そうか、俺は幼少期から起きている時の大半の時間を当てて来たからな。
やり方を知ったくらいじゃそう簡単には真似できんか。
俺の方も未だに近接戦闘ではユリに敵わないし、そんなに甘い話ではないのか。
と言うか、身体能力の差が詰まった事で前よりも差が開いた。
俺は結局魔法を使わんと追い付けんらしい。
とはいえ、性質変化が万能過ぎて俺の魔装はかなりヤバイ代物になったけども。
そうして話している間にメイが解体作業を行い、花の部分を集めてくれていた。
猛毒の部位が完全に無くなっていたことに驚き彼女に視線を向ける。
『研究素材として収納しました。お使いになられますか?』
「いや、いいよ。そっちは要らないから。
けど、管理は気を付けてね。俺たちはそれに触れたらマジで死ぬから」
『畏まりました。不用意に攻撃された状況を想定し、人が居る場所から遠ざける為このまま移動させます』
と、彼女は小さな機体をその場で作り上げ、ダンジョンの外へと飛ばした。
「助かる」と彼女にお礼を告げながらも、花弁を見詰める。
「これ、やっぱり陛下に直接渡さないとダメだよな?」
「そう、ですね。
流石にこれだけの物を分けるとなると、オルダムに置いて行くわけには……
実物を見せて立ち合いながら等分にするのが無難です」
となると親父の許可も要るだろうと連絡を入れてエリクサー素材をゲットした事を伝えれば、そのまま持って行っても構わないとのお許しを貰った。
というか契約しているのが俺でここまで大きな物となると俺が行かない訳にはいかないという見解は間違っていない様で、不安だが行ってこいというニュアンスだった。
どっちにしても俺が行く事には変わりないと、メイに書状を届ける為に向かって貰った。
前回は俺が直接届けに行ってしまったが、それは基本的にはやらない方がいいらしいのだ。
文を届ける為だけに王子に来られても対応に困るという事だろう。
あのレナ王女がコナー伯の所に行く時も前もって先触れを出していたくらいなので今回は俺もそれに倣う事にした。
その空いた時間で久しぶりに親父に顔を見せに行った。
その後は村の様子も見に行こうと思っていたのだが、親父との雑談中にそのまま来てもらって構わないそうですとメイからの通信が入り、レスタールへと向かった。
そうして着いてみれば三度目の応接間。
前回と同じように陛下と宰相が対面に座っていた。
「お久しぶりです、陛下」と頭を下げるとユリもそれに続く。
「うむ。よう来たの。話は聞いておる。まあ座るといい」
はい、とユリと二人対面に座り、メイが後ろに立つ。
挨拶を終えて、レナ王女の救出へのお礼とその後の事の謝罪を受け、俺もそれを受け入れて話が着く。
当然国同士でその話は決着がついているもの。
俺の方にも書状と高価そうな贈り物が結構前に届いていた。
特に重たい感じも無く儀礼的に行われ、話はすぐに移り変わる。
「しかし、大変な事になっておるのぉ。どうじゃ、対策は取れそうか?」
次に出た話題はやはり古代種の事だった。
困り顔で問いかけられるが、現状あれらとやり合って拮抗出来るとは思えないのでこちらも苦笑する他無い。
「まだまだ難しいですね。頑張ってはいるんですけど……」
「まあ、そうであろうな。最下層の魔物でもあんな事は出来まいて」
うーむ、と困った顔を見せる彼らに「一応こっちにいる古代種はそれほど危険ではなさそうですけど」と、ヴェルさんの事を映像付きで色々と伝えた。
陛下たちは映像に視線が釘付けになり終始困惑する姿を見せていた。
「なんとまぁ……これほどに友好的な魔物を見たのは初めてじゃ。
礼を言うぞ。これで少しは安心できそうだ」
「それは良かったです」と理解を得られた事に安堵しかけていたのだが、陛下は宰相と共に『まだ、あるだろう?』と言わんばかりの顔でニコニコと視線を送り続ける。
「えーと……エリクサーの素材ですか?」
「うむ。それも重要じゃな。しかしそれ以上に聞きたい事がある。礼もしかとするぞ?」
「ルイ王子が我が国を大切に思ってくれるなら、そろそろ教えてくれても良かろう?」
二人してそんな事を言ってくるが、マジで何についてかよくわからない。
恐らくは東京勢力についての事だとは思うのだが、それはオルダムのダンジョンだという話を除けば凡そは伝えてある。俺が直接伝える件は流れたが、親父から伝えたと聞いている。
「あの、マジでわからないんで、直接言って貰えませんか?
国の機密もあるので疑問に答えられるかはわかりませんが……」
「では聞こう。
我が国の始祖の残した書物に神の園のトップに仕えていたと綴られた物がある。
内容を見るにそれは明らかに別の組織である。
その我らの神は何処へ行った。あれほどの技術なら記録が残っておろう?」
あー……なるほど。
うちの始祖が手記を残していたように、レスタ君も情報を伝えていたのね。
そりゃ詳しく知っていてもおかしくないか。
うちの始祖は東京勢力の安全の為に隠したみたいだけどレスタ君が同じように伝えないとは限らんもんな。
でも、レスタールに残った人たちってダンジョンの崩落で死んじゃってるんだよなぁ……
「ええと……記録で残っている話だとですけど……
ダンジョンの崩落により滅亡した可能性が高いそうです」
「なん……だと……」
「待て! ルイ王子は我らの神が死んだと申すのか!?」
「いや、その、神じゃないんですけど……」と断りを入れるものの、二人ともそれどころでは無い様子。俺が真剣に言っているとわかると頭痛を堪える様に額に手を当て俯いてしまっている。
なので後ろ頭を掻きながらも二人が落ち着くのを待っていれば、陛下が徐に顔を上げた。
「可能性が高いだけなのだな? その記録は見せられるか?」
えーと……メイ、記録ってどんな形で残ってるの?
と、考えこむ感じで頭の中でメイに問いかけた。
『箱舟が破壊される直前、爆発が起こり天井が落ちる映像が残されております。映しますか?』
えっ……そんなのが残ってんだ……大丈夫か?
ショックが強すぎるんじゃ……
「ルイ王子よ。これは我が国の存亡が関わる大事。隠さず聞かせて欲しい」
「ベルファストとて他人事ではないぞ。
この技術格差が浸透していけば摩擦により必ずどこかで暴走する者が現れる。
これほどの格差による摩擦だ。相当大きなものになる可能性が高い。
そうなれば、どうなるかはわかるな?」
懇願する様な陛下の瞳に困惑して居れば、宰相が状況を細かく説明してくれて漸く理解できた。
要は格差に耐え切れなくなったレスタール貴族が暴走し、勝手に戦争を引き起こす事を懸念しているのだ。
今ではベルファストの方が断然強い。
だから陛下は国の存亡に関わると言ったのか。
言われて想像してみれば確かにそれが起こる可能性は高い。
元々弱小国と言われてきたうちがその立場ならまだしも、世界二位の大国レスタールが突然その立場に置かれたとなると制御できるレベルの摩擦では無い気がする。
かと言ってうちが得た利を手放す事も出来ない。
一番丸く収まりそうなのは京都勢力を紹介することだが、俺が勝手にそういう情報を流してしまうのは宜しくないだろう。
今は陛下たちの疑問に答える程度にしておくべきか。
これはマジで親父と相談しなきゃだな。
ショッキングだとか言ってる場合じゃないか、と俺は口を開いた。
「これが、その時の映像らしいです」とダンジョンの崩落する場面を見せた。
「これは確かに。人であるなら生存は不可能だな……」
「ちなみに、これは何処のダンジョンじゃ?」
陛下の問いをそのままメイに聞けばシーレンスのダンジョンらしい。
それをそのまま答えれば、陛下は納得の意を見せた。
「ふむ、やはり古都か。
確認はせねばならんが益々持って間違いなさそうじゃなぁ……」
「しかし、調べるにしてもそこまで行ける人材が……聖騎士を全員招集しますか?」
「そうじゃな。ダンジョン制覇など類を見ぬ至難じゃが骨を折って貰わねばなるまい」
あら、聖騎士って言うと先生もだよな。
こりゃ、流石に助け舟出しといた方が良さそうだ。
でも立場上、俺が行くわけにもいかないんだよなぁ。
「そういう事でしたらヒロキたちにも頼んでみますか?」
この半年、深層クラスの魔物をアホみたいな速度で倒し続けたのだ。
それも彼らの魔力が増えてからは二十四時間体制で。
純粋な強さ的にはもう行けるはず。
ただ、深層になると魔物の使ってくる魔法がえげつないものになるからそこが心配だが、体内にエリクサーカプセルを何個か仕込めば大丈夫な筈だ。
正直どこまで安全かは未知数だが、先生たちだけで行かせた方が危険だ。
それを知ってて黙っていたらヒロキやアミは本気で怒るから声は掛けておくべきだろう。
「確か、オーウェン男爵の子息であるな。シーレンス活性期の時に話に聞いた記憶がある。
その者は深層に行ける程の強さなのか?」
「えーと、大きな助けにはなる筈です。古代種対策で共に色々とやってますんで」
「ほう、それは頼もしい。是非お願いしたい」
そうして話に決着が付き、その後はスムーズに話が進んだ。
エリクサー素材も特に何か言われることも無く、等分に分けられた。
その買取価格に大金貨二万枚を提示され、それに了承して話が着く。
一昔前の俺なら金額にびびっていたが、今ではもう慣れたもの。
この素材の量なら千本なんて余裕で作れるので安いくらいだと思えた。
その後、夕食に招待されウィル王太子殿下やライリー殿下たちを交えて、雑談しながらの食事を和やかに行った。
食後に泊っていけと陛下に言われたが、古代種の件で忙しいのでと断りレスタール城を後にした。
「いやぁ、結構慣れたな。昔はめちゃくちゃ気疲れしたんだけど」
飛行船の一室で背伸びをしながら終わった終わったと寛ぎ始めるが、ユリが困った顔を見せていたので、首を傾げていれば彼女は徐に俺の肩に手を置いた。
「……ルイ、帰ったらお食事マナーのお勉強をしましょうね?」
あ、あれ?
普通にやれてると思ってたんだけど……ダメだった?
いや、まあ公爵令嬢の彼女がこう言うのだから間違いなくダメだったのだろうな。
と、冷や汗を掻きながらも「ああ、うん」とユリの言葉を受け入れた。
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