第145話 独立宣言
レスタール城を出て一晩が明け、俺は色々な所に通信を送った。
先ずは親父たちにレスタールで会話した内容や懸念事項を話し、これからどうするべきかという話し合いをした。
俺からの提案である京都勢力を紹介するというのは現段階では駄目だと却下されたが、起こる摩擦に対する対策は元より色々と考えているそうだ。
親父たちの考えは時間を掛けて慣れさせる方向だった。
摩擦を緩和させる為にある程度の技術提供を焦らしつつも行うそうだ。
友好的な同盟国のポジションをきっちり維持すれば、暴走した者が居てもそいつを叩けばいいだけで国同士の戦争にはならない。
そうして結果的にベルファストが名実ともに強国になったと知らしめるらしい。
そう言われてみるとそれが一番妥当だと思えた。
やっぱり俺はダメだな。簡単に言葉に振り回されちまう。
陛下たちは本気で言っていただろう。
大部分の貴族が賛同をしてしまえば実際に戦争になる可能性はあるのだから。
しかし、それでもああいう時にベルファスト側の視点から考えられないというのは致命的だ。
十五を過ぎるまでレスタールを母国と思って生きてきたからか、どうにも両国が共に利を得られる方向にと考えてしまう。
そう口にすれば、少しづつ理解していけばいいとフォローされたが、それでもやっぱり弟が出来る事を願ってやまない。
メイに何でも聞ければ良いのだろうが、政治に口を出すのは禁止事項に当たるらしい。
だから決断した内容のチェック程度に留めるべきなのだそうだ。
俺の権限で解除も出来るらしいが、頼る事に慣れると思考回路の生成に支障をきたすから解除するべきではないと言う。
判断力が低下したまま頼り続けると何でも簡単に片付けられてしまい、万能感に支配されより大きな損失を受ける可能性が上がり、その例えになぎら王を挙げられては流石の俺も頼らせてとは言えなかった。
そんな話し合いを終えて、次はヒロキたちの船と通信を繋げる。
当然、内容は昨日の話だ。
三人は思い思いに寛ぎながらも手を挙げて笑みを向ける。
「――――――――ってな訳で、先生たちがダンジョン攻略することになりそうだったからお前たちに頼んでみようかと言ってみたんだけど……どう?」
王様たちも是非頼みたいって、と。
断る事も出来るぞと伝えながらも聞いてみた。
『そ、そんなの、行くに決まってんだろ!』
『ええ~、王様も私たちに頼みたいって言ってたの!?』
『凄いな……そっか、ルイは王子様だもんね……』
と、三人の反応を見て予想通りだったことに安堵しつつも、話を受けるならばと対策について話し合った。
装備関連の話になり第三の奴らにも通信を繋げれば、新装備の評価に使って欲しい物が沢山あると彼らは喚いていた。
勉強を活かしながら色々作ってるそうで相当に使って欲しいらしい。
花の魔物が湧いたことでエリクサーのストックは大量にある。
人の人体の八割程度を完全再生させる程度の濃度に抑えたら一万本ほど作成できたそうだ。
それをステルスドローンに持たせ、いつでも注射出来るように待機させたり彼ら自身にもカプセルを飲んで貰ったりすることになっている。
防具の方も第三の奴らの装備なら期待できるだろう。
『おっしゃぁ! じゃあ、装備を届けて貰ったらレスタール城に行けばいいんだな!?』
「ああ、うん。でも先生は爵位持ってるし、一応合流してから行けば?」
余りに楽しそうにしているヒロキに押されながらも言葉を返す。
『ああ、そうだな! んじゃ、行ってくるわ!』
「おう、気を付けてな」
こうなったら後は信じて任せるだけだと、通信を切った。
だが、余りに楽しそうにしている彼らに触発され、俺も何かしたくなってきた。
「偶には俺たちも休みにしていいよな?」
「はい。流石に私もいい加減お外に出たいです!」
そう、何もしなくていい楽なお仕事とはいえ、半年も延々と船内に詰めていないといけないとなると流石に息が詰まるのだ。
ヒロキたちも同じ思いだからあれほど喜々としていたのだろう。
であれば、イグナートたちも呼んでやらねばなと、彼らの船に連絡を入れて久々に合流することになった。
通信を繋げ現在の状況を軽く説明した後、合流場所を指定する。
「お前らあれから全然村の様子見てないだろ? そっちで合流しようぜ」
「えっ、いや、その……ユキナの事は……?」
「あ、そうか。
カイは悪いんだが、大金貨二十枚と休暇をやるからユキナさんと旅行してきてくれ」
そう言って俺はメイに大金貨四十枚を渡して二人に送って貰う。
『えっ、そんなにいいんですか!?』
「いや、二人にはこの半年給料渡せてなかったし全然いいから。
ユキナさんも悪いな。色々振り回す感じになっちゃって……」
ぶっちゃけ今の俺たちならその程度の金額はすぐに稼げる大したことの無い金額だ。
強さに見合った金額を、と言うなら足りないくらいだろう。
カイも身を固めたんだしそう言った話も近いうちにしないとな。
そんな事を思いながらも車サイズの機体で離脱する二人を見送り、イグナートとナタリアさんを村に呼んだ。
彼らも一緒に遊びに行かせても良かったのだが、村が物凄い発展を遂げているのを見せたい。
今までの流れで村と呼んでいるが、もうこれはどう見ても村ではない。
ぶっちゃけ、地上で一番栄えた都市と早変わりしている。
東京の人たちが帝国勢の領域も含めて手を入れてくれたのだが、それが凄い事になっている。
俺が作る筈だったダンジョンも箱舟の本船が出来上がった事で難なく製作できて、海近辺に至るまで魔物が湧かない土地となっている。
都合の良い事に、海の中も魔素量の問題で弱く無害な魚以外は嫌がって入って来ない状態だ。
その上で防衛対策として、ドローンの自動迎撃システムを二十四時間体制で起動させている。
安全がしっかりと確認できた最近では、水着で海に入る者たちもちらほら見受けられ様になってきた。
海辺から少し歩いた所には高級リゾートホテルもいくつか並んでいる。
今は使える土地を広げようと、小さな山を切り崩す作業に入ってる。
それが完了すれば、使える土地が五割増しくらいに増えるそうだ。
そんな恐ろしいほどの発展を遂げた村を是非見て欲しいと空を見上げて待っていれば、イグナートたちの飛行船が、俺たちの屋敷の前に降り立った。
「ほれほれ、早く見てみろよ、この景色を! 凄いだろ!?」
「こ、これは凄い……もう屋敷以外は面影が全くありませんね」
「まぁぁぁ! 素敵だわ! 早く二人で見て回りましょうシュペル!」
「そうだね。私も同じ想いだよ」
「あー、うん。
皆で休暇にする予定だからこっちをチラチラ見なくても平気だぞ」
「とりあえず一度屋敷に入ろう」と俺たち四人は屋敷の敷地内に慣れた面子で歩いて行く。
お爺ちゃんはとっくにベルファストへ帰ってしまっている。
ロゼたちは強化魔法習得もパワーレベリングも終わっていて、今は兵士たちと実践訓練中。
住居も余るくらいに用意できたので彼らが全員で住めるちょっとした豪邸に移って貰った。
針子さんたちも与えられた高級マンションに移っている。
なので、居るのはお爺ちゃんが置いて行った使用人と警備の兵士のみ。
「おっす、久しぶり」と適当に声を掛けて入ろうとしたら、兵士から「殿下にご報告が御座います」と止められた。
「あの、北のトンネルを警備する兵士からの報告なのですが、向こう側の兵から殿下の騎士に取次ぎを願えないかと文を渡されたそうでして……」
帝国の兵士と繋がりがある事に後ろめたさを感じている様子で彼はぼかしながらも要件を伝えた。
文を受け取れば思っていた通りシェン君からのものだった。
イグナート宛てとのことなので彼にそのまま渡せば、彼は頷いてその場で開封して斜め読みをしていくと顔を青くさせていく。
「――――っ!? こんな時に何をやっているんだシェンは!」
そう言って彼は片手で口を抑えた。相当ショッキングな内容が書かれていたっぽい。
「どう、したんだ?」と恐る恐る何があったのかを尋ねた。
「すみません。
どうやらシェンが謀反を起こし帝国からの独立を宣言してしまったようです……」
「えっ!? ……この状況で!?」
も、もしかして、シェン君は古代種の危険さを知らないのか?
何考えてんだ、なぎら王は……味方側なんだからそこは伝えておけよ!
いや、ヴェルさんなら多分人同士の戦いに参戦する様なことはしないと思うけど……
でも仮にヴェルさんが我関せずに徹しても帝国をイグナート侯爵家だけで相手にするのはヤバイだろ。
大丈夫なのか!?
そう思って見せてくれと俺も読ませて貰ったが、簡潔に記されていて細かい内容は書かれていない。
気を使っているのか、俺たちに情報を伝えたかっただけで心配は要らないと書かれていた。
「と、とりあえずシェン君に詳しい話を聞きに行くか……古代種の事も教えなきゃいけないし。
独立宣言したんならもう普通に行けるよな?」
「そう、ですね……これはもうイグナート家の話だけではなくなっています。
では先ずは私が行って状況を確認し、問題が無さそうならご連絡します」
「ああ、うん。お前の実家だしその方がいいか。んじゃ、頼むわ」
と、彼をステルスモードの飛行船で向かわせ、俺は親父に現状を報告する。
「―――――という状況らしくて、今イグナートに詳細を聞きに行って貰ったところなんだけど……」
『なんだと!?
独立宣言までしてしまったのか。それは面倒な事になったな……
しかしこちらからは何も出来ん。お前も手は出すなよ?』
「えっ、なんでよ!?」
独立したんなら敵の敵だし、イグナート侯爵家ならこの先同盟も望める。
あいつの所は結構な戦力持ってるし悪い話じゃないんじゃないの?
『よく考えろ。独立宣言までしてしまったらもう穏便な和解は無い。
帝国に古代種が付いている以上、下手に勝って追い詰めて貰っては困るんだよ』
「いや、でも……」と、考えを巡らせてみたが確かに親父の言う通りだった。
流石にヴェルさんが不干渉と言っていたとしても、目の届く範囲で争いが起きればその限りではないだろう。
もしかしたらそれをきっかけに戦争に首を突っ込み始めるかもしれない。
『はぁ……お前のその繋がりに弱い所は本当にユーナそっくりだな。
もしそれでも首を突っ込むと言うのならメイと相談し、世界が危険に晒されない範囲に留めろ』
さっきの言葉に納得しかけていたのだが、何故か親父は意見を変えた。
「いいの?」と首を傾げて親父を覗き見ればニヤリと悪い笑みを見せた。
『本音を言えばイグナート侯爵家の独立はうちにとって都合が良すぎる展開だからな。
ここまで異常な状況だと正直なところ手を出さない事が正解とも限らん。
古代種が本当に人類にとって無害な存在であれば是非ともイグナート家には生き残って欲しい。
古代種の居場所は掴めているのだから、あそこと組めれば帝国に密偵を送り込み接触することも不可能ではないからな。
まあ、失敗の代償が世界ともなれば少しでも危険があるならば絶対に手を出すべきではないのだが、お前には精度の高い予測が出来るメイが付いている。
お前が乗り気でメイの予測が付いているならば乗る価値はある』
『それにな、もしその状態で古代種が帝国から居なくなってみろ。うちが覇権国だぞ』とにんまりとした顔を見せた。
「あー、うん。じゃあまあメイがゴーサインを出す範囲で動いてみるよ」
『ああ。ああは言ったが絶対に無理はするなよ。
最初に言ったように俺は静観が無難だと思っているしな。
お前の騎士の家族程度なら秘密裏の亡命くらいは許してやるから本当に慎重にな』
と、表情を一変させて強い視線で告げられた言葉に俺も真面目に頷いて通信が終わる。
ユリと二人「休暇を取ってる場合じゃなくなっちゃったね」と困り顔で見つめ合う。
「ええ!? じゃあ私たちの休暇も無し?」とナタリアさんが悲しそうにこちらを見た。
「いや、キミも話聞いてたよね?」
と、彼女にジト目を向ける。
「ううん。聞いてなかったわ!」
「ええと、リアさんも私の隣に居ましたよね?」
「だってシュペルがこういう話には口を出しちゃダメだよって言うんだもん」
俺とユリはそれでも聴こえるものは聴こえるだろうと『本気で言ってるの?』と彼女を覗き見るが彼女は「頭に入れたら口を出したくなっちゃうんだもん。実家でも口を出すなって言われてたし……」と彼女は親に叱られた子供の様な顔で言う。
ああ、彼女はこういう時に常に蚊帳の外に居たのか。
イグナートの過保護さも異常だからな……
なんか少しナタリアさんが天然過ぎる理由がわかった気がする。
「そ、そっか。じゃあとりあえずイグナート侯爵家がピンチだって事だけは知っておこうか」
「えっ……じゃあなんでシュペルを一人で行かせちゃったのよ!?」
と焦り出す彼女にユリが嚙み砕いて説明を行い、彼には直接危険が無い事を知れば漸く落ち着いた様子を見せた。
「私たちが半年旅行している間にそんな事になってたのねぇ……」と古代種の存在を知り悲し気な様を見せる彼女。
いや、そんな事になったから外の大陸まで魔物を狩りに行っていたのだが……
まあ、そこまで説明しなくても伝えるべきことは伝えたしいいか。
「そんな訳でナタリアさんはお留守番になるけど我慢してね」
「えっ!? 私も行くわよ! 侯爵家のピンチなんでしょ!?」
「リアさん、危機ですから自重してくださいと言っているのです。
いいですか―――――――」
と、お姉さんぶった幼げな少女(十七歳)が指を立てて彼女に説明を行う。
イグナート家にとって護衛を付ける必要が無い場所で待っている事が一番の助けになるのだと。
少ししょぼくれた顔を見せながらも納得を見せた彼女を見て安堵した俺たちは、いつでも出れる様にと準備に取り掛かる。
先ずは麻生伯爵と連絡を取り、状況説明と共に引き続き村の事を頼みたいとお願いし、レスタール城で貰った大金貨二万枚の半分を運営費として送った。残りは屋敷での保管だ。
彼は金額の多さに驚いていたが、ぶっちゃけ使わないので元々数千枚は持っている。
オルダムで貰った分が丸々残っているのだ。
まあ、彼らが技術を駆使しているのだからこの村が金に困る事はなさそうだが、一応念の為だ。
現在は総理から伯爵となった彼が領主の仕事を丸々引き受けてくれている。
俺が帰らず修行すると連絡した事で、その間は任せて欲しいと代役を買って出てくれたのだ。
その間に正式に伯爵位に任命され、一先ずはと兵士も貸し与えられている。
その上、箱舟のマスター権限も戻っているので不安も無くのびのびとやれている様子。
「こちらには何も問題は無いので安心して対策に当たってください」と言ってくれた。
その後は知り合いの所を軽く回り帝国から来た者たちが上手くやれているかを尋ねたりしつつもイグナートの連絡を待った。
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