第138話 京都勢力
大阪勢力……というかなぎら王との会談を終え一息を付いたその時、再びメイの声が響く。
『限定リンクにより地下都市京都からの通信要請が入りました。如何なさいますか?』
その声に皆目を見開き、互いを見回すと総理がメイに問いかける。
「流石にそれだけでは状況が掴めません。
タイミング的に先ほどの大阪との話し合いを知ったからでしょうが、どのような手段で知ったかはわかりますか?」
『はい、なぎら王は敵対勢力の京都にも布告を行いました。
一方的な通告のみでしたがその過程で起因がこちらにあると判断した様です。
協力関係を持ち掛ける可能性が高いと予測します』
えーと、残りもう一機って事は昔から帝国と戦争中の北の国家にあるやつだな。
国名がヤマトだし名前からして地上の人とも協力関係なんだろうな。
どんな関係かは知らんけど。
「な、何故そんな事をした。京都勢力にも箱舟とやらはあるのだろう?」
確かに。こっちと共闘されたら困るのは大阪勢力じゃんね?
と、親父の声に納得してメイの返答を待つ。
『なぎら王は神兵の力を過信しています。
それでも余裕を持って勝てると確信している様子でした。
戦闘行為の全てをAIに任せれば三機で凡そ拮抗出来る計算ですが、研究所のデータベースを見るに箱舟の能力を半分程度に見積もっております。
研究所のデータから更に盛られた報告を信じているのでしょう。
強い独裁を敷いている弊害の一つと言えます』
あちゃぁ、盛りに盛っちゃったかぁ。
ブラックじゃない企業ですらあると聞くし、普通にあるあるだな。
どっちにしてもこの場合は自ら脅威度を上げたなぎら王が一番悪いんだけど。
でも、AIに演算させなかったの?
『私による演算も行いましたが、人が指示を出した場合の想定で演算させられました。
愚かにもその上で私が見栄を張っているとの侮辱も受けました』
おおう、いつもよりも淡々と話すメイさん。
怒ってる感が半端ない。
「な、なるほどな……そういう事であれば繋いで貰おう。味方は多い方が良い」
うん。親父の言う通り考えるまでも無いね。
このまま帝国が敗戦して終われば北との通路も開けるし、その時に共闘後という状況なのはお互いに安心感が段違いだろう。
後は面倒な相手じゃない事を祈るのみだ。
『畏まりました。通信の了承を伝えます……
伝えた結果『緊急の為、そちらに問題が無ければ二時間後に繋げさせて頂きたい』との事です』
「ああ、それで構わない。宜しく頼むよメイ嬢」
『はい。畏まりました』
その後、暫くメイを交えた雑談を行っていると三号機が戻ったとの報告を受けたのだが、その過程で面倒な事実が浮かび上がった。
「えっ、帝国も含めて殲滅が余裕なんじゃないの?」
『はい。先ほど出した確率はベルファスト内での被害想定です。序列二位の神速のロイドと一位の武神ホノカはこちらの攻撃を防ぐ、もしくは避ける手段を持ち合わせています』
「はっ? じゃあ、もっと被害想定高くない?」
『いいえ。攻撃を無限に続ければ、魔力は何時か尽きますので。
復旧したばかりの本船では何時迄に倒しきれるかは不明ですが、酷く消耗した状態で単騎でベルファストへと特攻する可能性は人格から見てもほぼほぼありません。
仮にその状態になったとしても、リースの戦力に落とされるでしょう。
そこを抜けた時は照準を絞りリース領内での確実な撃破を目論みます。それを越えられる可能性を先日示しました』
あー、なるほど。ベルファスト国内での被害想定か。リースはレスタール国内だもんね。
うわぁ。これはなぎら王を笑えないな。もう余裕なんだと高を括っていたよ。
『ご心配には及びません。
わずかばかりの可能性を除けば、足止め攻撃で時間を稼ぎ本船のエネルギーが回復するので終わらせられます。
本船を落とせる可能性があるのは今の所マスター以外には居りません』
「いやいや、俺じゃ絶対に無理だよ? 帝国の一位二位なんて相手出来ないし」
『いえ、火力の問題です。
マイマスターは防御面、攻撃面の両面から本船に対抗しうる能力を持ち合わせております』
ああ、魔装の防衛と魔法陣の規模でね?
それなら納得かも、と頷いて返せば皆が蒼然としていた。
「ルイ、お前……マジか……」
「ルイ殿下は凄いお方だとは思っておりましたが、それほどでしたか……」
「いやぁ……殿下には毎度驚かされてばかりです。
よもや神のお力を凌駕するほどだとは……」
いやいや、無理だって!
火力的には唯一傷を付けられるって話ね?
あとアーベイン侯爵、神様じゃないよ?
と、ユリに同意を求めたが「ルイならば当然です!」とドヤ顔を決めている。
うーむ。爆弾作ってから相変わらず超人認定されちゃってる。
絶対、魔道具の力と俺単体の力をごっちゃにしてるよな。
これはもしもの為にあのチート育成で能力を馬鹿みたいに上げて置こうかな……
『規定の時間に達しました。京都との映像通信を開始致します』
そんな事を考えている最中、メイの声が響き京都勢力との通信が開始された。
先ほどと同じように総理にメインを張って貰い、俺たちは了承出来ない時のみ口を挟む形だ。
まあ、総理はどちらにしてもこちらに決断を仰ぐ形を取ってくれているが。
その時、光を放ち再び講堂の真ん中に光で人の姿が映し出された。
三つの普通な椅子の前に立ち並ぶ三人のお偉いさんであろう人達。
その中でも一際目立つ若い女性が前に出た。
「初めまして、地下都市京都の代表、藤宮ミナコと申します。
本日は急な要請にお応え頂き、誠に感謝致します」
「初めまして。
私は第二東京勢力で総理をしております麻生五郎と申します」
次々と映像に移る互いの人々が自己紹介を行っていくと、俺に視線が集まったので俺も立ち上がり名乗りを上げる。
「ベルファスト王国第一王子ルイ・フォン・ベルファストです」
「ベルファスト王国より将軍家次女、ユリシア・フォン・ラズベルと申します」
軽く頭を下げて目立たない様にさっと座れば特に注目もされていない様子で流れていき、本題が始まりそうな雰囲気を出した。
そしてすぐに藤宮さんが立ち上がり言葉を発する。
よし、このまま傍観だと安堵して見守る。
「本日お話させて頂きたい事はそちらもご存知かとは思いますが、大阪の暴走を止める為です。
神の国などと吹聴している事からもおわかりかと思いますが、奢り高ぶってしまっておりますの」
いやぁ、若いなぁ。あれ絶対いってても二十代前半だろ。
多分十代だぞ?
俺やユリも居るのでそれほど場違い感は無いが。
「確かにその様ですね。メイの話では凡そ一週間後との事。
性急に話し合いを行いたいのはこちらも同じですので助かります」
「あら、それは嬉しいわ。
では戦争に関する互いのデータを開示するくらいはお願いできますか?」
「おや……そのご様子だとご存じでは無いのですかな。
こちらとしましては箱舟による共闘を申し込まれるものかと思っていたのですが……」
総理がそう言うと彼女は両脇に居る中年男性二人に視線を交互に向ける。
「ええと、先ずはこの情報を知って頂かないと話を先に進めても意味がありません。
メイ、京都の方々に神兵の情報を」
『畏まりました』
そうして送られた情報に三人は黙々と目を向け続ける。
そして男性の一人がメイにこのデータの信憑性を聞くと『百パーセントだと……そんな馬鹿な! これでは……』と立ち上がり、遅れて二人も頭を抱えた。
「これは、想定の大きく上を行く事態でしたわ。
色々気になる事はありますが、現状あなた方が敵の敵であることは明白。
先ほどのお話、是非とも伺いたく思います。
こちらのメイも箱舟を出しAIの判断による最高効率攻撃の他に道は無いとの結論を出しましたから。ですが……それでも足りませんわよね……?」
彼女は僅かに泣きそうな表情を覗き見せながらもこちらに問う。
「いいえ。詳細は申せませんが三号機の奪取に成功致しました。
他の機も恐らく使える様になるでしょう。ですので我ら単体でも一応は抗える状況です」
「そ、そうですか! その、共闘の方も了承頂けると考えても!?」
「ええ。箱舟が四機以上であれば包囲も現実的なものとなるでしょうし。ですがこちらが多く出す事による恩恵は何かしらの形で頂きたい。勿論無理のない形で構いません」
そこで困った顔を見せた彼女に親父が「ああ、本当に無理はしなくていい。ヤマトとの友好的な顔繫ぎ程度でも構わんぞ」と付け加えれば彼女は笑みを取り戻した。
彼女はその声に「ありがとうございます。では情報を纏めたいと思いますので少し失礼致しますわね」と言うと「そうですね。話もある程度出そろいましたので十分ほど休憩を致しましょうか」と総理が頷く。
その後、すぐに音声がミュートになり皆視線が映像から外れる。
「陛下、もう少し無理は言えたと思いますが、宜しいのですか?」
麻生総理はもう少し吹っ掛けるつもりだったのだろう。
少し意外そうな表情で親父に問いかけたが、それに返したのはファストール公爵。
「最初の印象というのは思いの外大きなものです。
距離や要求できる想定から考えても妥当と判断致しました」
「なる、ほど……確かに。少し気が逸っていたのかもしれませんね」
と彼が少し苦く笑えば「そんな事は無いさ。先ほどもそうだったが、麻生殿は場をこれほどに上手く纏めてくれているのだから」と親父がフォローを入れるとファストール公とアーベイン候もそれに続いた。
「しかし、あれですな……
陛下と殿下がお戻りになった途端、国が再誕したばかりか国力というか立場というか、恐ろしく変わりましたなぁ。驚くほどに簡単に話が進められます」
「おいおいアーベイン、世事はいいっての。どう考えてもルイだろ……」
「ちょっと? なんでそこで俺一人に擦り付けるの!?」
そう返すと親父とユリにジト目を向けられ他は視線を逸らした。
なんでよ。
俺じゃ無駄にへーこらして下に見られるのが落ちだよ。
再誕できたのは俺かもしれんが、立場の向上だけは俺じゃないよ?
そんな雑談をしている間に十分なんてあっという間に過ぎて、再びミュートが解除された。
「先ずはベルファスト王のご厚意に感謝して、ご提案を受け入れさせて頂きますわ。
ヤマトには時折情報を伝える程度ですので、どこまで意に沿えるかはわかりませんが構いませんか?」
「勿論だ。貴国とは友好関係でありたいという意が一番大きいからな」
「まあ嬉しい。そうなると尚更、間にある大阪という壁が憎らしいですわ」
「ははは、こちらも嬉しいよ。友好国は多ければ多いほど良いからな」
それからは、再び総理がメインに戻り軽い情報交換を挟みながら、互いのこれまでを話し合った。
京都は元々レスタ君と行動を共にしていた政府組織の人間らしい。
レスタール側にも政府組織は付いていたらしいが、大坂勢力の監視として根付いた者たちも居るそうだ。
少し気になっていた俺と同年代の女性がトップに立っている理由も聞けた。
どうやら、彼女は千年前の最後の総理の直系で今では象徴としての存在らしい。
地下という狭い空間で、変に独裁意識を与えない為、二政党と別に象徴の血筋として選ばれた家らしい。
それが一番安定していた時代の体勢だとか。
それを聞いて『ああ、彼女は天皇陛下の立ち位置か』と納得した。
残念ながらレスタールに残った人々はもうとっくの昔に滅びたらしい。
恐らくはダンジョンの崩落による魔物の流入だろうと言う。
そりゃ厳しいな。深層レベルの魔物が湧いたら地上人でも耐えられないもの。
そんなこんなで無事に会談を終え、友好関係の構築というミッションを達成した俺たちは弛緩した空気を放っていた。
「しかし、あちらの代表は凄いな。あの年で立派に努めているのだから大したもんだ」
「そうですな。年のころは恐らく殿下たちと変わらんでしょう」
「うちのメアリでは今でも太刀打ちできぬでしょうな……」
と相談される中、ユリが挙動不審になっている。
「ユリ、大丈夫だよ。俺の方が酷いから」
うん。恐らく注目されるのは俺の粗だろう。
もし王妃になっても比較的ちゃんとやれるユリちゃんは安泰だと思われる。
「で、でもそれならば余計に私が……」
「だからさ……」とこそこそユリに耳打ちする。
「王様からバックレられれば今の楽なままで居られるじゃん?」
「ああ、なるほど。それがわかっていたからルイは……でも……」
何やら葛藤している様子のユリちゃん。
まあ弟が出来なければおはちは回ってくるんだけども。
その時はその時でなんとかなるだろ。
最近ちょっとだけどこういう空間にも慣れてきたし。
そうして用事が全部済んだ俺たちは村へと帰ることになったのだが、俺とユリだけは帰りがけにリースに寄り将軍たちに情報の共有を行う事になった。
もう乗り物あるじゃん、と言ってみたのだがどうやら少しでも長くレスタールに日本人の存在を隠していたいらしい。
長く隠せないのはわかっているが、出来れば帝国の件が終わってからがいいと言う。
ああ、オルダムから連れて来てるものね。
そうなると総理たちとの話し合いもある程度重ねないとなのか。
そういう理由なら仕方ないと魔装で飛び立ち俺とユリはリースへと向かい将軍たちに事の報告に向かった。
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