第30話 ドタキャン



 オーウェン先生に呼ばれて歩いて行けば予想外な事態に愕然とした。


「お前の捜索で大銀貨八枚かかった。

 それは当然お前持ちだから頭に入れて置けよ」


 はっ!?

 いや、ちょっと待って。

 大銀貨八枚!?

 捜索一日だけでしょ。そんなにいく?

 金貨一枚とちょっと程度が平民一ヶ月の平均給料って聞いたよ?


「そんなに心配するな。

 持ち合わせが無くとも素材の納入時に自動的に引き落とされるだけだ」


 そんな心配じゃねぇけど。

 いやまあその話は前から聞いていたけどさ。

 何で俺が払わなきゃいけないんだ……


 くっそぉ!


 それもこれも全部リストル所為だ!

 絶対に許さない。って今から決闘だわ。

 憂さ晴らししてやる。今までの分全部乗せて。


「わかりました……」

「ああ、後ラズベルにはお前が戻ってきた事を伝えておいてやる。

 丁度書類を送らねばならんしな。何か加えて欲しい言葉はあるか?」


 えっ!?

 マジで!?

 それはすっげぇ助かるわ。


「えっと、ハンターになれたら会いに行くって伝えておいて貰えます?」

「わかった。お前の無事とその言葉を添えて手紙を出しておく」


 先生はそう言うと「以上だ」と教室を出て行った。

 さて、あのクズ野郎は何処に居るのかな、と教室を見回したが見当たらない。

 仕方ないとリアーナさんの所に戻りここからどうしたらいいのかを尋ねた。


「……リストルが教室に居ないのが先ずおかしいのだけれど」

「という事はここで待ちか?」

「ええ。暫くは……」


 そうして待てども待てどもリストルは来なかった。

 興味本位で残っているAクラスの面々も首を傾げている。


「これは恥を受け入れて逃げたってことか?」

「まあ、きっと他で何かしてくるのでしょうね。その前に……」


 そう言ってリアーナさんは立ち上がり待っていた生徒たちに声を上げた。


「どうやら彼は来ない様ですわ。

 神聖決闘を申し込んでおいて決闘の場所に来なかったという事実にわたくし自身困惑しておりますが、そういう事ですので皆様すみませんがお開きということで」


 呆れた顔で彼女が告げると、他の貴族の子息たちはニヤニヤとしながらリストルを小馬鹿にする。


「彼はもう終わりだね。馬鹿なことをしたものだよ」

「神聖決闘を軽く捉えるなんて教養が足りなすぎるね」

「全く情けないことです。クラスメイトとして恥ずかしい限りですわ」


 そんな言葉を残して各々解散していく。

 俺も一応ヒロキたちに状況を伝え「リストルが何かしてきそうだからちょっと距離を取っておいて欲しい」と伝えた。

 それでも手伝える事があれば言えと言ってくれたが特にないので御礼だけ返した。


「さて。捜索代金を稼ぎにいくか……」

「はい? 貴方、今の状況がわかっていまして?」


 人前だと口調が丁寧になるリアーナさん。

 少し面白いと思いながらも言葉を返す。


「仕掛けてきた時に返り討ちにしても問題ないんだろ?」

「それでは冤罪を掛けられる可能性もありましてよ」


 うぐっ、それは困る。

 そうか。そういった手が色々あるから逃げたのか。

 恐らく罪人にするか殺すかしてうやむやにしようって魂胆なんだろう。

 でもどっちにしてもダンジョンには行かなきゃならないんだよな。

 お金だけじゃなく評価の為にも。


「わかりましたわ。一緒に行って差し上げます。

 幸い一緒にやれるレベルですしね」

「おおう。何から何まで……すまん」

「いいわ。ユキナもいいわね?」

「勿論です」


 そんな二人の好意に甘え、急ぎダンジョンへと向かった。

 目指すは十五階層。

 あそこの魔物を乱獲すれば一ヶ月とかからず借金返済も終わるだろう。


「では、後衛をお願いね?」

「いや、もう切り札見せるからさ。

 ちょっとガチの狩りに付き合ってくれない?」

「あら、それは少し楽しみね。いいわ。私は何をしたらいいの?」

「ただ付いて来てくれれば。暇で詰まらなくなったら教えて」


 その言葉に驚いた顔を見せるものの、了承してくれた。

 俺は聴力を頼りに魔物を銃で即殺して荷車に積む。


 魔石も取らずにボンボン積み上げて十五階層を走り回る。


 そして二時間が経ったころ漸く詰めないくらいになってきた。

 荷車八台分くらい積み上げられた。

 今日はもうこれ以上は無理かな。


「これ以上は乗らないのでこっちの用事は完了だ。

 リアーナさんたちもやる? やるならサポートに入るけど」

「……いいえ、今日はやめて置くわ」

「はい。出来れば帰ってから色々お話を伺いたいと思っております」


 あれ? 

 なんか二人の様子がおかしい。

 ユキナさんがなにやら余所余所しくなってる……


 いやまあ、話をしたいというなら付き合うけども。

 そんなこんなで解体場へと歩を進め、何時も通り先着順で均等にとお願いして終わるのを待つ。


「どうして待っているの。貴方の分は借金返済に充てられるのでしょう?」

「いや、俺の分はそうだけど二人の分があるじゃん?」

「いえ、今日は一切手を出していないので受け取れませんが?」


 えっ!?

 一日付き合ってくれたのにそれは悪いだろと思ったのだが、この程度の金額では待つ手間の方が嫌だと言われ、お金持ちのお貴族様なことを思い出した。


 待つ手間の方が嫌と言う言葉に困惑していると、彼女は解体している生徒たちに今回は俺のソロ討伐だと告げ踵を返す。

 

「そ、そうでした。身分が違いましたね。ははは」

「詰まらない事を言ってないでさっさと落ち着ける所に移動するわよ」

「へ、へい、お嬢!」


 お金持ちパワーに圧倒されながらも二人の後を付いていく。

 今日もユキナさんの部屋らしい。


 部屋に入れば当然の様に飲み物を用意してくれて、お礼を言って腰を落ち着ける。


「貴方がラズベルさんに教えた魔装ってあれの事なの?」


 やっぱり二人は銃のことが気になっていたようだ。


「おう。ユリももう使える様になってるぞ」

「そう。それって私にも教えて貰えたりしないかしら?」

「んー、二人なら別にいいけど俺から教わったってのは秘密だぞ?」


 ユキナさんはギョッとした目で「本当によろしいのですか」と問いかけてきた。


「ああ。二人の事は好きだし教えるのは構わないよ。

 ただ、こういう異質なものって面倒ごとを呼ぶだろ?」

「ええ。そっちは安心していいわ。家の名に誓って貴方から教わった事は伏せます。  

 それよりもそれについて色々聞きたいわ。魔力消費はやっぱり多いの?」


 とその後も彼女の質問攻めは続き、丁寧に答え続けているといつの間にか良い匂いがしてきて目の前に料理が出された。


「先日のお返しです。あれほどのものではありませんが」

「めっちゃ美味しそう。食べていいのか?」


 俺が作ったものとは違い、高級感溢れる見た目。

 一皿一皿の量は少ないがどれも食欲をそそられる。


「ええ、召し上がってください」


 彼女の了承を聞き、ナイフとフォークを具現化させてがっついた。


「本当に貴方は何でも瞬時に作り上げるわね。どうやってそこまで鍛え上げたの」

「あの魔装を作り上げるのにとんでもなく精密な制御が要るんだ。

 五歳の頃からそれをずっと弄繰り回していたからな。それで勝手に鍛えられた」

「へぇ、そんな幼少期から。そういう家系だったの?」


 そう尋ねるリアーナさんの視線は若干鋭い。

 どこぞの貴族の回し者じゃないかと疑っているのだろうか?


「いや、だから言ったじゃん。

 強化も知らないくらい戦いとは縁遠い人たちに育てられたんだって」

「あの、使えるか使えないかならわかりますが強化を知らない大人など存在しませんよ?」

「町に住んでいる限りは絶対にありえないわね」


 えっ? そうなの?

 確かにユリもそれはおかしいって感じに言ってた様な……

 でも俺ハンターに成りたいって言ってたのに教えて貰えなかったよ?


「そうであれば親御さんは貴方にハンターに成って欲しくなかったのでは?」

「そ、そっか。確かに昔は何度ももっと安全な職業をって勧められたな」

「ふーん。じゃあ、完全に天然ものなのね?」

「いや、天然ものって……そりゃ魔装関連は全部独学だけど」


 そんな雑談を交わしながらもユリの時と同じようにばらした銃の部品を並べていった。


「制御が割りと得意なユリでもかなり時間かかったから、完成まで根気がいるけど大丈夫か?」

「こ、これは大変そうね。魔力を通して覚えちゃダメなの?」

「別にいいけどそれだと威力上げる為に大きさを変えるのができなくなるぞ」


 うん。この形態程度だと普通に魔装で防がれる。

 あっ、もう少し大きなパターンでコピーさせればいいのか。

 うん、ユリでもあれくらい掛ったんだから全てコピーさせるくらいじゃないと習得できないかも。


 そう思いついて、二人に尋ねた。


「そうね。先ずは試したいわ。魔力を通させて貰って良いかしら?」

「おう。けど直ぐにって訳にはいかないぞ。爆発の魔道具が要る」

「あら、特注の魔道具だと結構値が張りそうね。貴方はどうやって手に入れたの?」

「俺は魔道具が要らないんだ。これを作れるから」


 と火薬を作り出してさらさらと具現化させた作業台の上に落とす。


「それは?」

「これは物凄い勢いで燃えるものだ。密封させた状態で火をつけると爆発する。

 ユリにこれを模倣して貰おうと頑張って貰ったんだが無理だったんで魔道具で代用して貰ったんだ」


 そう説明して実際に火を付けて見せればシュバッっと音を立てて一瞬で燃え尽きた。


「彼女はこの魔装武器の一番の強みを仰っていたかしら?」

「ああ、飛距離じゃないか? 属性魔法の十倍くらいの距離を狙えるからな」

「じゅ、十倍!?」

「ユキナ、明日魔道具職人の所へ行ってきてくれる?」

「わかりました。ですがどの様に注文を?」


 そう問いかけられたがユリが作って貰ってきたものなので細かい事はわからない。

 魔力調節機能のついたこのくらいの玉だと伝えた。


「ああ、もしあれなら明日実際に撃ってみるか?」

「魔道具が必要なんじゃないの?」

「いや、俺の場合は必要ないじゃん? 俺の制御範囲内なら誰でも撃てるぞ」

「それは是非試したいわね。お願いするわ」


 そうして明日も一緒にダンジョンに行くことが決まり、二人とはそのまま別れた。


 いつもより早いのでラクと遊ぼうとグラウンドの近くにある大きな建物に入り、ラクの部屋へと行くがふぅの部屋が空室になっていたのを見て少し気分が落ちる。


 そうだよな。

 お前なら連れていくよな。


 嬉しくも寂しい。そんな思いに苛まれながらもラクと夜中まで遊んだ。



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