第31話 すっきりしてしまった
次の日、リストルは教室に来なかった。
今日で丁度入学から半年が経つ重要な日だというのにも関わらず。
クラス分けの発表もなされ上位に居た俺はAクラスのままで居られる事になった。
嬉しいことにヒロキたちも全員Aクラスキープだ。
それもこれもユリのお陰なのだがお礼を言おうにも本人が居ない。
早く会いに行きたいが、卒業しない事には無理そうだ。
入学時に聞いていた通り授業がほぼほぼなくなり、月一回程度になるそうだ。
そうなるとあの野郎が逃げ隠れするのも容易になるので厄介だ。
そんな思いを抱えたまま、リアーナさんと二人でダンジョンに来ていた。
先日話していた通り、銃の試射をさせてあげようと十三階層へと足を運んだ。
もう少し上の階層の方がよかったが、彼女がやるならできるだけ深い階層でと願ったのでこの階層にしたのだ。
弾を込めた銃を渡し、狙い方撃ち方を説明して実際にやって貰えば彼女は急激にテンションを上げた。
「これ、面白すぎるわ! ねぇ、もっと!」
「お、おう。その先にも居るぞ?」
そう伝えれば彼女は駆け出して撃ちまくりそれに離れすぎない様についていく。
いやそれ、俺の魔力なんですが……
けど熱中している彼女には言い辛いな。
そんな思いを抱えたまま、数十発撃ったところで打ち止めになった。
実際はまだ余裕があるが、魔装防具をフルで付けているので今日の分の魔力は終わりだと告げた。
そう説明すればすぐに納得してくれて安堵した。
属性魔法よりも燃費が良いかもしれないと喜んでいたくらいだった。
一応バックパックにはフルで入っているので魔力は十分余裕があるのだが、これ以上使われても困るので内緒だ。
まあバックパックの形なんて知ってるだろうからバレてるとは思うけど。
「これは魔道具が出来るのが待ち遠しいわね」
「ユリの時は次の日には持ってきたからすぐだろ。
あれ、後ろから人がくるな。どうする?」
こういう時ユリは顔を合わせて分岐で分かれる様に打ち合わせたが。
「面倒だわ。もう帰りましょ」
「相変わらず終わらすの早いなぁ。てか俺稼ぎたいんだけど……」
「そうだったわね。じゃあ降りてもいいけど魔力は大丈夫なの?」
その問いにバックパックをぽんぽんと叩けば頷いたのでやっぱりわかっていた様だ。
階段の方へと近づく足音から離れ早足で歩を進めた。
そしてたどり着いたおなじみの十五階層。
魔物の音が沢山する場所で爆発魔法を使い誘き寄せた。
「馬鹿っ! そんな事をしたら集まってくるわよ!?」
あ、そうだった。ユリじゃないんだ。
リアーナさんを安全な所に移動させなきゃ。
即座に箱を作り彼女を乗せ、足を作り伸ばす。
天井にぶつからない程度で止めて集まった魔物を撃ち殺していく。
集まってくる数は適度なものだ。これは快適と射撃を続けたのだが……
あれれ?
前より魔物の動きがずいぶんと遅く見えるな。
比較対象は全く同じ魔物なのに。
ああ……深層の魔物が速すぎたから感覚がバグってんのか。
おっと一人じゃないんだし、そんな事より今は討伐だ。
この階層の魔物じゃここまでは届かないとは思うが、そんな検証はいらんと即殺していけば直ぐに帰る時が訪れた。
「凄まじい殲滅速度ね……あれだけ来たのに全部出会った瞬間終わりじゃない」
驚きながらも彼女はもっと降りてもいいんじゃないかと提案してきた。
どうやら銃の威力をもっと測りたいらしい。
「ああ、それはせめてユキナさんも一緒の時にしようぜ。
未知の階層は万全に行かなきゃだろ?」
「……それもそうね。
けど、今日は楽しかった。早くまた撃ちたいわ」
そんな事を言う彼女に苦笑しながらも魔物を拾い集め荷台に積み、来た道を戻る。
昨日の儲けが銀貨四枚だった。
これなら二十日程度で返済が終わると安堵の溜息を吐く。
「辛そうね。私も面倒だしその程度出してあげるわよ?」
「いや、大丈夫。評価も欲しいからさ。
その内評価超過の優遇措置を使うつもりでもあるから」
そう。もう半年が過ぎたので評価が基準値を超えれば卒業試験が受けられる。
早めに卒業してユリに会いに行かなきゃだ。
「それ……相当厳しいわよ」
「知ってる。教官倒さなきゃいけないんだろ?」
「そこもだけどこの階層程度の評価じゃあと一年はかかるわ」
えっ!?
ちょっとユリさん?
貴方、そんな事言っていませんでしたよね?
「じゃ、じゃあもっと降りなきゃだな……」
「気持ちはわからないでもないけど。
急げばそれだけ命を落とす確立が上がるのよ?」
「まあな。けどそこはさっきみたいな知恵でクリアするよ」
そう。一方的に攻撃できれば問題ないのだ。
それは穴に落とされた時に実証している。
舐めてかかるのは絶対にダメだと学んだが、策敵して先制攻撃さえできればこの程度の階層ならどう転んでも問題ないと確信している。
というか今の俺なら奇襲されても負けない自信がある。
そう言っても信じて貰えないだろうけど。
「はぁ。その決意の元はラズベルさんね?
貴方たち、相変わらず付け入る隙が無さそうだわ」
「ははは、まあこの魔装さえ習得すれば俺を引き止める理由なんてないだろ?」
鋭い視線を向けられ首を傾げたが、彼女は嘆息すると「そうね」と表情を改めた。
そして十階層の階段に到達しようという所で嫌な音を捉え足を止めた。
この先の階段前で大人数の話し声が聞こえてくる。
それだけならパーティー同士で談笑している可能性もあるが、何やら揉めている感じの声色だ。
はっきり聞き取りたいと強化を強める。
『流石にやり過ぎだ。キミに階層を封鎖する権限なんてないじゃないか!』
『ほう、男爵家風情が伯爵家の私に逆らおうというのか?』
『逆らう逆らわないの話じゃないだろう!
権限がない以上、止められる謂れが無いと言っている!」
おおう。この声リストルだ。
もう一人もなんか聞いた事のある声だが、誰だろうな。
疑問を抱えながらもある程度近づいた所でリアーナさんに状況を伝える。
「そう。私が居ても来たの……倒せるのよね?」
「殺して良いなら大丈夫。生きたままって言われると難しいな」
「そう。じゃあ他の人たちが居なくなる前に行きましょ。
証人は多い方がいいわ。決闘の件もあるし問題にはしない筈よ」
彼女は「あいつ、四男だしね」と続けた。
そこら辺の事情は知らないが大丈夫ならそれでいいとリアーナさんの後に続く。
彼女は言い争いをする二つのグループが見えてくるとそのまま声を掛けた。
「あら、何があったのかしら。物々しい空気ね?」
「あっ、リアーナ嬢、聞いてください!
彼がこの階層の立ち入りを禁止するなどと越権行為に及んでいるのです」
リアーナは特に緊張を見せる事もなくいつもの調子で彼の話を聞いていく。
要約すると、通さないと道を塞ぎ武器を向け何を言っても聞かなかったそうだ。
「あらあら、決闘からは逃げ出してしまったのに手下がいる時だけは勇敢なのね?」
「なんだと!? 私は逃げてなどいない!!」
おおう、煽る煽る。
いいぞ、もっとやれ!
リストルは顔が歪む程にリアーナさんを睨みつけて手を向けゆっくりと魔法陣を組み上げた。
彼女の心地よい言葉に思わず同意の声を上げそうになっていたが、向けられた魔法陣を見て瞬時に動き出す。
先ずは防ぐ。と魔法陣の目の前にストーンウォールで壁を作り出すとその場で強い炎が上がる。
男爵子息のパーティーメンバーたちはギョッとした様子で急いで距離を取った。
これでリストルを狙うのが容易になった。
「やっていいのか?」
「え、ええ。助かったわ」
彼女の了承も得たので銃を標準の三倍ほどの大きさに変えて狙いを定めると、彼らは余裕の笑みで盾を構えた。
「ふははははは、私に逆らった事を後悔するがいい!!
貴様ら全員皆殺しだ! それでこそ私に被された汚名も雪げるというもの!」
盾を構えながら吼えるリストル。
皆殺しだという言葉を聞きさっそく魔法陣を浮かべる取り巻き六人。
先ずは取り巻きからだと盾から覗き見ている目を狙い打ち抜いていく。
順番に頭が弾け飛んでいき、体がバタバタと倒れていく。
どんな武装でも視界確保は必要だ。目の周りは大きく開いている。
闘っている俺から顔を背ける事は出来なかった彼らは良い的でしかなかった。
そう思って顔を狙っていたのだが、威力を強くしすぎた。
何処に撃っても関係なかったな。
「なっ! 何をしたっ!?
ふざけるな! こんな、こんな事は有り得ない!!」
「何があったのかもわかんねぇの? お仲間全員返り討ちにあったんだよ?
いやぁ、お前が馬鹿なおかげで意外とやり返せる時が早かったよ。
それより現実逃避してていいのか、卑怯者のリストル君よぉ」
銃を変形させて刀にして伸ばす。
こいつは一発でポンと終わりにはしたくない。
俺が味わった絶望と痛みをそっくりそのまま返してやる。
「はっ! なんださっきのは打ち止めか!
ならば貴様さえ殺せば後はどうとでもなる!」
「あははは、仮に俺をやれてもリアーナさんの他に一パーティー居るんだぞ。
心の拠り所を探してるんだろうが、どうにもならねぇっての。バーカ!」
「だ、黙れ黙れ黙れぇぇぇ!!」
煽ってやれば案の定激高した。
後は再び突っ込んでくるのを迎え撃つだけだが、リストルの動きを見て眉間に皺が寄った。
「はっ? 何やってんのお前!」
強化を使い忘れ突っ込んでくるリストルを見て、刀を魔力に戻して再びカウンターパンチを入れた。
「この期に及んで強化使い忘れるとか。お前どうしようもねぇアホだな」
「な、何故だ……くそぉぉ!! 平民がぁぁぁぁぁ!!」
接近戦では敵わないと感じたのか、リストルは魔法陣を浮かべた。
ん、あれはファイアーストームか。
じゃ、こっちは風で火ごとお返ししてやろうかね。
リストルが浮かべる魔法陣の直ぐ前に向かい合わせてウィンドウォールを放った。
炎と共に竜巻が彼を襲うが、風圧に耐えて屈んでいるだけでどうやら効いてなさそうだ。
ああそうか。自分の魔法は喰らわないんだっけか。
まあ、攻撃自体は防げたからいいか。
じゃあ次は……
と小さなストーンバレットの魔法陣を十ほど全てリストルへと向け浮かべた。
「ま、待て、何だそれはっ! 何故平民ごときがっ!!」
叫ぶリストルを無視し意図的に弱めたストーンバレットを当て続ける。
逃げるリストルに向け、多少体が弾かれる程度の岩を何十発と当ててやるが、小さいと言っても撃ち過ぎた。
そろそろ魔力を補充しなければいけないくらいにまで減ってしまった。
あーあ。
今日殆ど魔物倒してないのに今日の分の他にバックパック一本使い果たしちゃったよ。
小さいとはいえ石つぶてを何度も食らったリストルは満身創痍で倒れこんでいる。
いい加減憂さ晴らしは終わりにしようと刀を具現化してリストルの方へと歩く。
「待て、わかった。自首する! もう狙わない!」
「はぁ? お前の言葉の何を信じられるんだっての。
そもそも、人を死の淵まで送って置いて何言ってんのお前……」
足目掛けて刀を横に薙げば魔装ごとスパッと切れる。
もう魔力が無いのか相殺されずに足が切断された。
「い、い、いやぁぁぁぁぁぁぁ!! あっ、足が!! 嫌だ、嫌だ、嫌だ!!」
「ああ、気持ちはわかるぜ。
俺もお前のお陰で一度はそうなった。お前のお陰でな?」
魔装を解除して涙を流し首を横に振るリストル。
「これで、殺される奴の気持ちが少しはわかったかよ?」
「わかったぁ、わかりましたぁぁ!! だから……」
そう続ける彼の首を落とした。
誰一人立ち去っていないというのに場に完全なる静寂が訪れる。
「リアーナさん、終わったよ」
「……貴方、容赦ないのね」
その場の人間が俺に向ける視線は拒絶を帯びたもの。
そこで漸く自分が端からどう見える行いをしたのかを理解した。
だが、一切の後悔はない。
そう言えば、暗殺者の時も死ぬとは思っていなかったから焦ったが後を引く事は一切なかったな。
ナオミを襲おうとしたやつらを率先して殺したほどだ。
前世ではわからなかったが恐らく俺はそういう人間なのだろうな。
「あぁ、悪いな。怖がらせちゃって……」
リアーナさんと名も知らぬ彼らに謝罪した。
「いや、確かに褒められた行いじゃないが、キミは悪くないよ。
やるしかなくなった経緯も知ってる。
ただ、済まない。心が追いつかないんだ」
彼は頭のない死体を見て顔を歪めながらもそんな風に言ってくれた。
男爵家の子息は良いやつだった。
そう言えば、彼はリアーナさんと知り合った日に巻き髪の件で彼女を止めてくれた人だ。
「そう言ってくれて助かる。その、証言の方もして貰えるのかな?」
そう告げれば、返したのはリアーナさんだった。
「大丈夫よ。今回の件は私が言い出した事。
やっていいと言ったのも私。貴方を罪人に何てさせない」
そうは言ってくれたが表情は暗く何とも言えない空気が残る。
困惑したままの彼ら。後悔の念を残した彼女。
不徳ながらもすっきりした思いが浮かんでしまう俺。
そんな歪な空気のまま俺たちは学校へと帰還した。
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