第159話 友人たちの帰還


 イグナート家の屋敷に赴き、教会の無力化に成功した事を告げた。

 その場には、現地に赴いた俺たち全員とシェン君の所の重臣たち。


「もう、ですか……」と若干しょんぼりしているシェン君。


「ええ。気持ちはわかるわ。

 私たちがやって来た事はなんだったのか、と私も放心させられたもの」


 ホノカが真剣な顔で言い、シェン君の臣下は意味がわからず戸惑っている。

 うん。二人は明らかに感じている事が違う。


「そっちの話し合いはどう?」

「一応、纏まりました。ただ今後の我らの立ち位置に不安を覚えている者が多く……」

「ああ、うん。そりゃそうか。

 じゃあ、今一度言うね――――――――」


 と、俺はその場で立ち上がり、彼らに言った。


「俺は……俺たちの国は最初から戦争を望んでいない。

 ずっと自国を平和にする為に動いていて、最終的な手立てがこれだっただけだ。

 取らされた手間に対しての対価は、戦後賠償にて帝国が国として払う物だ。

 それ以上を要求するつもりは無い。

 その上で、やるか否かを決めればいい。最初から強制などしていない。

 イグナートとカイがここまでお前らを想って動いたのに、出来ないからじゃなく、信じられないという理由で迷うなら受けるな」


 俺からは以上だと席に座る。

 皆一様に苦い顔だ。恨めしそうにこちらを見ている者も多い。


 本当に信じて大丈夫なのか、というのが大部分だろうな。


 他国から国盗りを完全サポートしますなんて言われたんだ。

 その先にある自分たちの未来を描くことは難しいだろう。

 気持ちはわかるので特にどう思うことも無く、受け流した。


「皆、聞いてくれ。

 私の判断基準も最後の一言に尽きる。

 ルイ王太子殿下には義姉上の件、奇病の件、此度の防衛とずっと大した対価も無しに協力して頂いてきた。

 多大な感謝はしているが、流石に国が違う。全幅の信頼というのは難しい。

 だがしかし、兄上とカイであれば別だ。

 その二人が本気で間違いが無いと言ってくれた。

 故に、少なくとも我らを貶める様な意図は無い。そう判断した。

 国盗りが成ればこの先、国を動かすのは我々だ。

 立ち位置も何もかもを作り出すのは我々である!

 その意味の重さは一同知っていることと思うっ!

 大変重いものだ。その肩に重くのしかかることであろう!

 だが、その重さは民の重さ。我らが望んで背負ってきたものである!」


 珍しくシェン君が声を張り上げ、立ち上がり拳で胸を叩いた。 

 その様に、臣下たちも目を見張っている。


「覚悟を、決めましょう……」とシェン君の横に居た老人が言うとそれを皮切りに「やってやりましょう」と決意表明の声が飛び続けた。


 どうせ一度は捨てる覚悟をした命だ。

 命を賭してでも無茶な要求は通さなければよい、と。


 おい?

 そんなに俺たちは信用成らないのか?


 そんな想いはあるが、良い方向へと話が進んだので見守った。

 それから直ぐに話をシェン君がこれからの事に切り替え軍議へと変わる。


 話が進んでいくうちに、俺とユリは戦力的に要らないのではないかという話になった。

 というのも、流石に俺たち四人に全て任せて国盗りしても胸を張れないのだそうだ。

 確かに、威厳が大切になる場だ。引け目というのは無い方がいい。


 神兵が居ない今、簡単に落とせる状況。

 そもそも最初からイグナートとカイが居れば何の問題も無い。

 被害ゼロが難しいだけで勝利は確実。

 俺が必要だった理由は主に大坂の住民の保護、というのが大部分だ。


 俺としてもそれでいいなら楽でいい。


「わかった。じゃあ、イグナートとカイに全て任せる。俺の代理として働いてくれ」

「「ハッ!」」

「じゃあシェン君、俺はもう帰るけど、これからも友達としてよろしく頼むよ」

「はは、ちょっと恐れ多いとか思っちゃいますね。

 お手柔らかにお頼み申します」


 ありゃ、さっきの勢いが絞んじゃってる。

 まあ、これがシェン君か。


 と、その場を離脱して村の方の様子を見に向かう。

 大阪市民の受け入れ状況の確認だ。

 物凄い都市と成り代わっているから、特に受け入れに不安は無い。

 反逆など、箱舟本船が十機もあると知れば考えもしなくなるだろう。


 だから、顔だけ出して無理なくできそうかを確認しただけに留めた。


 その後はユリと二人海で遊んだ。

 息抜きも大切だ。存分にイチャラブさせて頂いた。

 

 その夜、久々にヒロキたちから連絡が来た。


『おーい、やっと地上に戻ってきたけど、そっちはどうだ?』

「おう。今日はユリと海でデートしてきた。楽しかったぞ」

『いや、そうじゃないだろっ!! 古代種の事だ!』


 ずっこけそうになるヒロキにメイの映像を送る。

 彼女はヴェルさんの相手で遮断してるから今の内だと見せておく。


『うわぁ……私たち相手でもやっぱりこんな感じなんだ』


 とアミがポカンとした顔で呟く。


「おう、こっちはこんな感じだ。それで、そっちは?」


 そう問いかけると、滅びた無残な廃墟の映像が送られてきた。


『階層を降りるのはまあそうでも無かったんだけど、ここの調査で大分かかってよ。

 使える物を探し回るのに数日持って行かれた。

 ルイには装備じゃなく道具を借りていくべきだったぜ』


 とげんなりした顔で言うヒロキ。アキトも後ろで頷いている。


「まあ、無事なら何よりだよ。中には初見殺しも居るしな」

『ああ、俺たち以外は皆死に掛けたな。エリクサーで助かったけど』


 まあ、普通に戦闘に参加してればそうなるわな。

 流石に全てをヒロキたちには任せられないだろうし。


『けどよぉ、こっちも面白かったぜ。初めてのダンジョン攻略だったしな』

『ずっと船内に閉じ込められていた反動もあったよね。

 流石に疲れたよ。もう一度人を連れて行けと言われるとちょっと嫌かなぁ』

『でもさ、私たちが主役って感じは悪くないよね?』


 どうやら、ヒーローポジションを謳歌してきた様だ。


「それで、お前たちはこれからどうする? 缶詰状態に戻るか?」

『それなんだけどよぉ。王様に誰か一人は残って欲しいって頼まれててな。

 過去に類を見ない物騒な時代だからってさ』


 それは確かにな。歴史的に見ても激動の時と言って然るべき時代だろう。


「相談なら乗るが、それもこれも全て自分で決めろよ。

 ヴェルさんの件が大丈夫そうだとわかった今、強制する様な問題でもないだろうからさ」

『そうは言うけどルイ、人類として対抗できる人間は居なくちゃ駄目だろう?』


 アキトの声に「それはそうなんだが、やってくれるのか?」と流し目を送る。


『最初からその約束だろう? ただ、一つお願いがあるんだ』


 そのお願いというのは、レスタール王国の令嬢も一緒に連れて行きたいというものである。

 公爵家の娘二人、宰相の娘さんである。

 引き入れる為の一手だろう。


「構わないけど、前もって言っておくよ。討伐量は己の身を守れる程度に調整させて貰う。

 俺たちレベルの力は心根がどうでも他に持たせるつもりは無いから。そこんとこよろしく」

『ああ、問題ねぇぜ。俺もまだ良く知らない相手だしそっちで制御してくれた方が楽でいい』


 現状、ベルファストは勝ち過ぎている為のバランス調整でもある。

 人は勝手に劣等感を拗らせる生き物でもあるのだ。ある程度許せるレベルに納めた方が良い。

 だからヒロキたちに国を賑わす英雄になって貰った。

 俺たちが友人というのも国同士の友好に一役買うだろう。

 かと言ってそこに追加の戦力は不要だ。


 ただ、いくら友人とはいえ古代種の問題は完全に任せる訳にもいかんよなぁ。

 色々な意味で。

 俺たちもまた船内に缶詰だなぁ……


「あれ、そういえばアミのお相手は?」


 女の子だから相手は用意されなかった、とかある?

 逆に女性の方が家に引き入れやすい筈だが……


 ま、まさか、妹は俺の物だとヒロキが反対を!?


『ああん、アミの相手はアキトだろうが……って言ってなかったか?』

「えっ、い、何時の間に……」


 アミに視線を送ると、悪ガキみたいな笑みを見せた。

 アキトはもじもじして困った様子を見せている。

 逆じゃね?


『いやまあ、ね? 船内でずっと詰めてるとさ、なんかムラっとくるじゃん?』


 と、アミがてへぺろしている。

 いや、良いんだけどさ。おめでたいけどさ。

 理由、それでいいのか?


『ぼ、僕らの事は良いじゃないか。そう言えばナオミはどうしているの?』

「ああ、ベルファストの方で変わらず料理してんじゃないか?」


 聞かれたくないのか、無理やりに話を変えるアキト。

 無理に暴く必要もない話なのでスルーして違う話題を振る。


 レスタール王に誰か一人は国に残して欲しいと言われているんだろう、と。


「全員で鍛えるってなったら、国に残る人員が居ないじゃん」

『ああ、アミを残す。ダンジョンの中で妊娠させやがったからなこいつ……』

『うっ……』

『アキ君は悪くないよ。私がお願いしたんだもん。

 大丈夫だからして、って。大丈夫じゃなかったけど……』

『ばっ!! 妹のそんな話ききたかねーっての!』


 マジかぁ……

 まあ、この世界では年齢的にも一応適齢期ではあるが。


「ユリ、先越されちゃったね……」

「そ、そんな事で張り合ってどうするんですか! そういう事は結婚してからですぅ……」

「もうすぐ、だもんな?」


 ユリとそんな話をしていれば、クソでか溜息が聴こえてきた。

 ヒロキ君である。


『いいよな、お前らは。なんか近しい相手とそんな感じで……』


 どうやら、自分だけあぶれたと思っている様子。


「お前はもう相手を選び放題だろ?」

『いや、もう相手は居るっつうか……なんか国の為にも是非頼むと半強制でよ。

 いきなり婚約者とか作られても、なんか変に意識して上手く話せてないんだよ……

 恋愛って強制するもんじゃないだろ?』


 おおう。流石平民仲間。理解者が居た。

 だが、貴族の常識も埋め込まれてしまっている俺はこの言葉を投げるしかなかった。


「だよな。まあ、頑張れ……」

『くっ……』

「なんだよ。可愛くないのか?」

『めっちゃ可愛いんだよ。二人とも! だから困るって言うか……』


 その言葉を聞いて通信を即切った。

 何が二人ともだ。勝手に困っていろ、と。


 だが、直ぐに通信の要請が入り、再びつなげる。


『待て待て待て待て!! そういうんじゃねぇの!

 まだ年も十二と十四だからな!? そういう事以前なの!』

「えっ、ああ、なるほど。俺と同じ状況か……」


 と、言ったらユリにお腹を抓られた。

 同じって何の話ですか、と。


 下手に叩かれるよりよっぽど痛い……


「いや、最初の頃ね。そのくらいの年だったでしょ?

 今は大人の女性だと思っているよ」


 その声に皆からも大人っぽくなったと言われ、ご機嫌になったユリちゃん。

「えへへ、そ、そうでしょうか?」と必死に髪を弄っている。


「まあ、急ぐ必要は無くなったし、どうせだから次は皆で行くか?」


 船内でも、大勢人数が居れば大分違う。

 色々な事ができるだろう。遊びも、戦闘訓練も、と提案すれば二人は大賛成だった。


『ちぇー。皆で行くなら私も行くって言えば良かった。

 よく考えたら妊婦なんて動けないんだから、あの快適空間で良かったじゃん』

『お前が一目散に逃げたんだろ。暇なのが嫌だって!』

『まあまあ。アミは今身重だからさ……』


 ヒロキとアミの間に入り、言葉を止めるアキト。

 外見上は一切わからないので初期なのだろう。

 どちらにしてもアミは中身から一切変わっていない事はわかった。


「俺もユリとの結婚があるし、多少先の話だぞ。

 出産して落ち着いたら参加するとかでもいいしな。

 そろそろ色々な面倒ごとが片付きそうだから、近いうちにまた連絡入れるよ」

『おう! そんとき手合わせしような!』


 と、良い笑顔で言うヒロキに「おう!」と返して再び通信を切った。


 


 海辺のホテルでの休息も終え、すっきりした気持ちでお城へと帰還した。


 親父に、帝国の件で俺が手を出す必要が無くなったと話す。

 自分たちでやりたいみたいだから任せて来た、と告げてお茶を飲みながら一息つく。


「じゃあ、もう完全に手が空いたんだな。お前らの準備が良ければ結婚の招待状出すが?」

「完全に準備オッケー。何時でもバッチ来い!」

「えと、私も問題ありません」

「わかった。結婚の日まで打ち合わせ地獄だが、頑張れよ」


 最初の内は「任せて」と頑張る気満々だったのだが、思いの外大変だった。

 大まかに分けただけでもパレード、スピーチ、式、スピーチ、披露会、スピーチ、と何故そんなに、と言いたくなるようなスケジュールだった。

 当然、物凄い数の人間と話さなければいけない状況だ。


 パレードする必要、ある?


 と、問いかけたのだが、どうやら俺が国民に顔を見せていないから、という理由でパレードを行う事が決定したのだとか。

 そう言われてしまうと致し方なしだな。


 そうして準備に追われ続けながらも、着々と結婚式への準備がなされていった。

 俺とユリは別々に準備に追われることとなり、あっちに挨拶、こっちに打ち合わせと顔を合わせる暇も無いほどに過密なスケジュールをこなさせられた。


「ねぇ、これはちょっと密過ぎない?」


 と、予定を読み上げながら案内を始めるメイドさんに問う。


「仕方ありません。本来、お城に居てゆっくりとこなして頂くものですから……」


 留守にしていたのだから仕方ないだろ、と言われて口を閉ざす羽目になる。

 そして、お城の中でユリとすれ違う。

 手を振り、お互い頑張っていると示しつつもすれ違っていく。


 ユリも頑張っているし、俺も頑張るか。


 と、一番大変な作法の訓練に足を運んだ。


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