第158話 漸く辿り着いた場所。


 ベルクード大聖堂上空。


 着いたものの、非戦闘員の二人が行きたいと駄々を捏ねた事で少々立ち往生した。

 そして話合わせた結果、なんと付いて来ることになった。

 任せる、と言ってしまった手前、却下は出来ない。

 まあ、守る事はそう難しくないからいいか、ともしもの為に箱舟の子機を二つ呼び寄せた。

 自動防衛装置として使う為だ。かなりな贅沢仕様。

 これならばまず死なない。


 そうして俺たちは漸く、大聖堂の敷地内に降り立った。

 俺たちはステルスモードのまま、大聖堂前に降り立つ。


 降りると同時に俺たちの姿は見える様になり帝国兵に見つかった。


「なっ!? どうやって入った! ここは立ち入り禁止区域だぞ!

 いや、入ってしまった以上は許せん。殺せ!!」


 と、数人の騎士が切り掛かってくる。

 流石帝国。命が軽いな。教会前に立つだけで死ねるらしい。


「どうする? 誰がやる?」


「私がやるわ!」とナタリアさんが挙手。

「で、殿下!?」と何故か俺に非難の目を向けるイグナート。


 ちょっと待て。今のは俺が悪いのかっ!?


 しかし、防衛システムはもう起動しているのだ。

 こんな木っ端騎士には間違ってもどうにかできる代物ではない。


 と、思っている間にナタリアさんはシュッシュパンチで倒した。


「シュシュ!」と口に出して繰り出した拳で騎士が吹き飛んでいく。


 一発目で当たって吹き飛んでいるのに二発目を出すナタリアさん。

 ド素人の動きでやられていく騎士。

 余りに面白くて指を差して笑ってしまった。


 その間にイグナートとカイが動き、残りの騎士たちを倒した。


「ルイ、指を差しては駄目です」と叱られて「ごめんごめん」と謝りつつも笑いを漏らしながら奥へと進んだ。


「ふっふーん。どう?」とイグナートにドヤ顔を決めるナタリアさん。

「リアが出来るのはわかっているけど不安だよ」と、思っても居ない賛美を送り心配するイグナート。


 カイとユキナさんは安定だ。


「私は見ていますからね?」

「はは、それはカッコ悪い所は見せられないな」

「既にカッコよかったから大丈夫ですっ」


 と、安定して惚気続ける。


「ロイドさん、私……凄くこれじゃない感を感じているんですけど……」

「まあ、気持ちは一緒だね。

 殺伐とするよりはいいけれど、困ってしまうのは変わらないな」


 警戒し真っ当なやり取りをしながら、呆れ顔で付いてくるロイドとホノカ。


 そんな各々が自由に進み、大聖堂の奥にある閉ざされた扉に到達した。

 この奥に階段がありそこがダンジョンとなっている。

 ユリと話し正規ルートで入ろうとなったのでこのまま突破だ。


「皆、ちょっと離れてて」


 と、ずっとやりたかった、新兵器とも言える魔装を出現させる。

 巨大ロボ風の魔装だ。


「「「えっ!?」」」


 と、周囲が驚愕するなか、胸部装甲のコックピットに吸い込まれる様に入っていく俺。

 中に入り、メイに頼みスクリーンを出して貰い、外の視界を確保する。


 魔装を操作して手を開いたり閉じたりとしてみるが、普通に出来た。

 ならば、と振りかぶって鉄の扉をパンチする。


 ドーーーーーーーーーン


 音と共に固まっていた皆の周りにシールドが発生する。

 箱舟子機の防衛システムである。

 動きは問題無さそうだったので魔装を解いて地面に降り立つ。


「ごめん、無駄に強くし過ぎたな」


 と、謝罪を入れて近寄れば、ロイドとホノカが後ずさった。


「な、何なの貴方……あれが全部魔装とか、それを動かせるとか、どうなってるのよ」

「その分倒して魔石全部を吸収したってこと。これでも半分も出してないぞ?」


 ヒクヒクと頬を引き攣らせているが、進めばちゃんと付いてきた。

 そうして進んでいくのは良いのだが、魔物が余りに弱すぎた。

 ダンジョンの上層だから仕方ないのだが、連れが多すぎて高速移動ができない。

 子機を乗り物に変えて乗っていくかと考えたのだが、ナタリアさんが遊びたがっていて、それにユキナさんまで乗っかった。

 まあ、ユキナさんは元々ハンター資格持ってるし、気持ちはわからんでもない。

 が、せめて能力に合う階層までは降りるぞと無理やり移動させた。


 そうしてガチバトルをちゃんとやらせれば一時間で大人しくなった。

 再び箱舟に乗り、最下層を目指す。

 そろそろか、という所で俺たちだけ降りてユリと二人魔装を纏った。


「さて、久しぶりのダンジョンだ」

「はい。やっぱり落ち着きますね」


 まあ、この大陸じゃもう満足できる魔物は居ないのだけど、せめて気分だけでもと二人して疾走しながら魔物を屠る。


「おいおい、また競争なのか?」

「はい。そうしないと楽しみがないでしょう?」


「なるほど」と、一撃で終わる魔物に嘆息しつつも競争に集中する。


 今の俺ならば、魔力を階層中に引き延ばし、操作して全てを一瞬で殺す事も出来るが、ユリ相手にズルをする気は無いので普通の魔装での討伐だ。

 普通にじゃれ合う様に討伐するのは楽しいしな。


 と、箱舟がちゃんと追ってきているのを確認しつつも進む。


「イグナートさんたちが乗ってるんですから、後ろは良いんじゃありませんか?」

「そうなんだけど、一応このダンジョンはさ……敵の秘密兵器とかあったら嫌じゃん?」

「心配性ですねぇ。自爆になるからできませんよ。そんなおっきな攻撃は」


 確かにそうだけども、一応ね。と話し合いながら進めば、ボスの所まで来た。


「これなら多少は遊べそう……」と言いかけた瞬間にユリが首を落とした。

「えっ、あっ、つい……」と頭を掻くユリ。珍しい。


 そうして最下層まで来たので、派手に壁に穴を空けた。

 ボス部屋の壁が破壊され、大坂の都市が露わになる。


 ウゥゥーーーーと、サイレンの音が鳴り響く。


 魔素上昇の警告音声が流れ続け、それが鳴りやまぬままに神兵がこちらに飛んで来た。

 こちらも、無数のドローンを飛ばしてもらい、なぎら王の所在の把握に努めて貰う。


「二人とも、やる?」と見せ場は居るかい、とイグナートたちに尋ねれば『お任せください』と二人から声が返る。

 そこで攻守を後退して箱舟に乗り込んだのだが、何故かロイドとホノカも出て行った。

「えぇ」と少し困りつつも一機の箱舟を二人に付けた。

 もっと用意して貰えばよかったと思いつつも、彼らが戦う姿を観察する。


「な、何で二人がそんなに強いのよ!!」


 ホノカが叫びながら神兵一機をロイドと二人で止めている。


「あはは、これでも世界一強い方の騎士ですからね」


 と、カイが困った様子で言葉を返しつつも無双していく。

 そうして数が減ってきた頃『既に場所の補足はできています』とメイから通信があった。

 了解と返しつつ、居るとされる方向へと魔力を伸ばした。

 凡その場所まで魔力を伸ばせたので、直線状にある人以外の物は全て魔力で溶かし、その場にいる人間全員を魔装で拘束して、こちらに連れてくる。

 姿が見え始め、中高年から爺さんたちが拘束されたまま宙を浮き移動してくる。

 彼らが到着する頃には、こちらの戦闘は全て終わっていたので外に出て全員で集まった。


「えっと、なぎら王はと……あっ、居た。

 お前、散々やってくれたなぁ。引き釣り出しにきてやったぞ」

「き、貴様っ! ベルファストの!!!」

「ベルファストの、じゃねぇよ。お前の所為でどんだけ死んだと思ってんだ。

 ちゃんと法に照らした刑罰を決めて間違いなく処刑するからな、このクソ野郎!!」


 押さえていた苛立ちが漏れて、思わず怒気を強めれば失神してしまっていた。

 あっ、と気付いた時には遅く、ナタリアさんやユキナさんも膝を付いていた。


「ごめん。今までの戦争が全部こいつの所為だと思ったらつい」

「いえ、お気持ちはわかります。私も同じ想いですから……」


 イグナートもそうそう見せない真顔で怒った顔を見せていた。


「どういう、事なの……?」と、こちらに恐怖の目を向けながらも事情を問うホノカ。


 そういや、何も伝えて無かったよな、と簡潔に今までの経緯を伝えた。

 帝国を裏から操った経緯を。

 そして、俺の思惑も。


 今までの一連の流れが伝え終わり、帝国民には一度伝えた言葉をもう一度言う。


「この技術力で神だと誤認させてたんだ。言っただろ。ただの人だって」

「待って……こいつらがベルファストを欲しがったから戦争をさせてたの!?

 私たちの国を……命を使って?」

「そうだよ。

 ミルドラドを抱き込んでエストックとイグナートを送り込ませて、次はロイドたち。

 俺たちはずっと強く成り続けるしかなかった訳。それが今の強さってこと。

 だから俺たちは帝国を潰してまともなシェン君に治めて貰う。

 帝国の地なんて欲しいと思ってもいないからな。

 騙されて殺そうとしてきた帝国の奴らとはいえ虐殺なんてするつもりは無い、だから終着点をそこにした。

 それだけだよ。だから俺が主に恨んでいるのはこいつだ」


 と、なぎら王を指さした。


「帝国を恨んでいる訳ではない、と?」

「当然頭にきてるよ。馬鹿ばっかりだと思っている。腐り過ぎだ、ってさ。

 だから皇帝も下ろすし、国も一度破壊する。

 その後、誰かが頑張って綺麗にしてくれるなら、それ以上手を出すつもりはない」

「その相手にイグナート侯爵を選んだ、のか」

「うん。そういう事」


 なんだそれは、と一つ前の話で憤っているホノカの横で、ホッとした顔を見せているロイド。


 その最中、メイから全システムを再掌握したとの報告を受けた。

 もう掌握したのか、と驚きつつも二人を放置して大坂神国の民に全国放送を行う。


『私は貴国から戦争を仕掛けられている国の王子、ルイ・フォン・ベルファストである。

 貴国の暴挙を止める為、元凶を断つために来た。


 今現在、神兵をすべて倒し、なぎら王を拘束している。

 全システムは箱舟メイによりこちらの手に落ちた。

 これにより、貴国が我が国に仕掛けていた戦争は終結したものとする。


 投降して従う者は丁重に保護するつもりだが、従わぬ者は置いていく。

 警告音を聞いたと思うが、ダンジョンの壁は修復不可能なレベルで破壊してある。

 抵抗をせず、投降する事をお勧めする。

 降伏と投降を決断した者は、既に解放されている脱出路にて外に出れば、自動で誘導される。


 再度警告する。

 余り、時間は残されては居ない。ここに残れば死、あるのみだ。

 反意を持たず投降を決断した者は、既に解放されている脱出路にて外に出れば自動で誘導される。

 此方の法に照らし合わせ、罪の無い者は罰しないと約束する。

 どちらを選ぶかは個人の選択に任せる』


 正直、この国の奴らを助ける義理は無い。無いが、有無を言わさぬ独裁国家。

 こちらの文化に合わせる努力をするのであれば、俺の資産を使ってでも約束は守ろうと思う。


 まあ、技術があるから放出も迂闊に出来ないし、虐殺もできない。

 どうあっても保護するしかないのだが。


 ああ、何でこんな国の奴らを受け入れたのだろうか、なんて前世で思った事もあるが、こういう事情があったのかもしれないな。


 そんな事を想いつつも、俺たちは箱舟に乗って、神兵が外へと運ばれていた脱出路にて外に出る。


「保護するんじゃなかったの?」

「ああ、飛空艇はあるからな。

 あっちの全てを掌握しているから、自分たちの飛空艇に乗っても俺の領地へと飛ぶんだ」


 ホノカの問いに応えつつも、急ぎ俺の村へと飛んだ。

 皆には屋敷で寛いでいて貰い、大至急で麻生伯爵との時間を貰い会談を行う。


「いきなり時間を空けて貰ってしまってすみません。今さっき大阪との決着がつきました。

 それにより市民の保護を約束しまして、こちらでの受け入れをお願いしたいのです」

「そうですか。とうとう、終わりましたか……

 いえ、国家間戦争と考えれば早かったですかね?」


 しみじみとした顔で目を細める。

 同じ地下生活を強いられた者として思う所があるのだろう。


「保護の件、了解しました。箱舟によるスキャンは行って構いませんか?」

「いえ、行わせない者は置いていく事になっています。

 従うつもりが無い者は脱出艇を動かせません」

「なるほど。既に行っているという事であれば、来た者は丁重にお預かり致しましょう」

「はい。罪の無い者は罰しないと伝えてありますので、どうかその体でよろしくお願いします」


 話が終わり部屋を出る前に「最後となるでしょうが、なぎら王と話されますか」と問いかけた。


「いえ、それには及びません。後は殿下のご随意に」


 と、返されたので、そのままベルファストへと飛ぶ。

 その移動中に親父に連絡し、話を伝える。


「計画の通り、大阪を落としてきたよ」

『そうか、どれだけ来ることになった?』


 ああ、そっちも必要な情報だったか。

 居る必要が無くなったからとりあえずで出てきちゃったな。


「まだ全然はっきりしてない。メイの方から集計を聞いて。

 従うつもりがある奴は自分の意思で来いって伝えて出て来たからさ……

 後、来る奴には丁重さと罪が無ければ罰しない約束をした。

 それと、なぎら王を捕らえたから連れて行く。必要だよね?」

『受け入れる民はまあその方向で良いだろう。

 ああ。そいつは要る。周知し、罰した上で晒し、神罰とせねばならない。

 そうでなければ信仰が揺らぎ、迷った者の心の拠り所も無くなってしまうからな』

「わかった。じゃあ、もう少しで着くから……」


『準備しておく』と通信を切り、なぎらへと視線を向けた。


 どうやら目が覚めた様で、顔を引きつらせてこちらを見ている。


「安全だと勘違いして逆に滅ぼされた気分はどうだ?」

「貴様には、日本人としての誇りはないのか……」

「いや、俺は日本人の記憶しか持って無いが、お前よりはあるぞ。

 安全な所にこそこそ隠れて不幸を振りまいて自国の民すらも不幸にして誇り?

 お前、日本人の誇り、舐めてる?

 大地を取り返す事が誇り?

 それ、自分の家が無くなったら誇りが無くなるって事だけど、そんなに軽いん?

 お前の誇り」


 本気で見下しながら伝えてみれば、それ以上は喋らなかったので放置した。


 そうしてお城に戻り、親父に時間を取って貰った。


 用意してくれていた牢に拘束する所まで確認してから、今後を親父と詰めた。

 親父との話し合いも実にスムーズだ。

 今は互いの目的が恒久的な平和とマッチしている為、詳細の部分を少し詰めるだけで終わる。


「じゃあ、帝国の件が終わったら帰るから」

「ああ、待っている。気を付けてな?」


 久しぶりに頭を乱暴に撫でられたが、何故かいつも抗う気になれない、のでそのまま受けてそのまま屋敷に戻った。

 

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