第157話 次期皇帝は君だ!
あれから二日、通信で親父たちに報告を行い、ヤマトの戦勝パーティーに出席し、漸くグエールへと戻ってきた。
パーティーではまた来て欲しい、友好の為に人を送りたいなどと色々言われたが、この先は親父と話して欲しいと頼んで躱した。
ちなみに、メイとヴェルさんの飲み会はまだ続いているらしい。
もう意地でも見せませんと言っているので証言のみだが。
その過程で帝国の話をして貰えば『どちらにしても我は手を出すつもりは無い』と言っていた。
まあヤマトでは手を出そうとしてたので、今回は了承をしてくれた、という事だろうが。
親父たちへの報告も、ヴェルさんの事がかなり好転した事で終始和やかムードだった。
まあ親父が確認せねばならんと言い、無理やりあの映像を見られたメイは顔を真っ赤にして泣きそうだったが。
そんなこんなで、後は大阪勢力を抑えて終わりだねと言ってみれば、その過程で親父から提案を受けた。
「お前が帝国を取らないのであれば、イグナート家に取らせないか?」というものだ。
このまま歴史が動いて行けば、また一つになろうという強い動きが出てくるのだそうだ。
その時に、上に立つのが皇帝の血筋では不安が残る。
だから、帝国全土に大義があると知られていて、民からも受け入れられやすいイグナート家が国を簒奪してしまった方が後の世が上手くまとまるだろう、との事。
大した犠牲も出さずに行えるのであればやっておくべきだろうと親父は言った。
そのサポートで必要なのであれば、イグナートとカイを長期で派遣しても構わない、とまで言うのだから結構マジで重要なのだろう。
俺としては皇帝の血筋というより出来上がっている環境が問題なのだと思うけども。
それはそうとして、その提案には俺も賛成だ。
やろうと思えばベルファストが大陸制覇もできるだろうが、結局百年先とか二百年先を考えたら領地とか州とかに分かれて内乱をやらかすだけで結局それほど大差ない気がするし。
力を持った奴がトップを殺すのに成功でもしてしまえば、世界大戦もあり得る。
だったら全国で簡単には抜けられない同盟を成立させて、侵略を始めた奴は敵、くらいにしておく方が皆が楽だ。
何より俺が楽。
という事で、先ずはシェン君との相談である。
「――――――――という事なんだ。シェン君、帝国を取る気は無い?」
「えっ……その、もしかして私に皇帝になれとかいう話だったりします?」
と、いきなりの提案に彼は頬を引き攣らせている。
「うん。流石だね。ズバリそう!」
「お待ちください。ええと、その……どこまで支援をして頂けるか、というのを聞きたい様な聞きたくも無いような……」
ああ、なんか気持ちはわかる。
君もイグナート家の跡継ぎですらなかったのだものね。
いきなりの抜擢過ぎて頭が追い付かないよね。
「えっとね、戦力的な問題なら俺が全て解決する。けども、政治的な問題は無理。
ああ、政治的でも国として問題が無くて俺が出せる手札なら協力は勿論するけどね」
「えっと……帝国、落とせるんですか?」
「そりゃ、落とせるよ。俺一人でもね」
「――――っ!?」
喉を詰まらせてゴホンゴホンと咳き込むシェン君。
それを見たユリが苦く笑っている。
「イグナートはどう思う?」
「シェンならば政治は問題ありません。
武力面での維持も現状の数でならイグナート侯爵軍でもギリギリ足りるでしょう。
ですが、局所的な武力行使や毒殺などの不安が大きいです」
「メイにお願いしてもやっぱり不安?」
「いえ、それならば何の問題も無いかと。良き国になると思われます」
彼は良い笑顔で答えた。弟は恨めしそうに見ているが……
「シェン君、こういうのは本人の意思だよ。断ったって良いんだ。
ちなみに俺は王太子と呼ばれながら王位を断り続けている」
「えええっ!!?」
驚愕を全力で露わにする彼に言う。いや、知ってるでしょ、と。
「まあ、後継者が生まれなければ継ぐとは言っているし、そろそろ諦めて継ごうかと思ってるけど」
「ル、ルイ!?」驚いて声を上げるユリに「うん。やろうと思えばできるかなって思えたから」と笑いかければ「そう、ですか……」と柔らかく微笑んだ。
「そんな俺だからこそ言う。断っても文句は言わない。サポートはどちらにしても全力でする。
だから時間はそれほど無いけど、ちゃんと心して決めてくれ」
しばしの放心状態の末、彼は再起動する。
「そ、その前に問わねばなりません。
うちはどのくらいの被害を覚悟する必要がありますか?」
話に心が追い付いて来たのか、流されていた感じが無くなり真剣な顔での問いかけ。
「帝都を落とすというのなら、ゼロだよ。言っただろ。俺一人で落とせるって。
ただ俺の名前では落としても意味が無いから、イグナートを先頭に立てて俺たちが落として、シェン君の軍が安心して入れる様にしておく」
考え込んでいるシェン君にイグナートが「多くは言わない。殿下が成すと言えば成る」とだけ告げた。
「その、成功した場合の統治は……本当に私に任せて頂けるので?」
「いや、それをお願いしたくて頼んでるんだけど……
ああ! 傀儡とかそういうの心配してるのか。無いよ。無い無い!」
最もやらないであろう事を問われたので、思わず笑ってしまいながらも全力で否定した。
「その、では対価は何を……」
「世界平和」
「はっ?」
「世界の、平和に、貢献してくれればそれでいい」
意味がわからないと兄に助けを求める視線を送るシェン君。
「殿下は帝国が再び侵略に走らない様に務めよと仰っている。
大きく括ったのは、外の事にも、争いになるようなら乗っかるなという事だ。
攻め入らず助長しない。それで平和は成る」
「いや、しかし、私が帝位につけたとしても帝国が犯した罪は消えません。
攻め入って来られたら……」
「何言ってるの、シェン君。うちと同盟組もうって言ったよね?
攻め入られたなら助けるよ。賠償を前提から突っ撥ねるとかも無しだけども」
ハッとして考え込んだ彼は「なるほど」と呟く。
「わかりました。覚悟を決めましょう。事が成った暁には、この国を治めてみせます!」
「け、決断はやっ!? お、俺が決断するまでの時間よ!!」
と、己に思わず突っ込みを入れれば、周囲から苦笑が起こった。
「では、その方向で家の意向を纏めます。
これに関しては反対意見は出ないでしょうが……」
「じゃあ、先にちょっと綺麗にしてくるよ。教会の勢力は出来るだけ早めに潰したいんだ」
「む、ではこちらも軍を動かす準備をした方が?」
「えっ、全部落として良いなら楽でありがたいけど……いいの?」
……と俺とシェン君は見詰め合う。
「殿下は厳し過ぎる! もう少しお時間をください……」
「いやいや、全然いいよ? 教会さえ潰せばそっちのペースで」
軍を入れる場合は被害が出る可能性があるから先に全部潰しておくよ、って話だと伝えると息を吐くシェン君。
「では、先ずはこちらで方針を伝えてから本邸へと戻り、足並みが揃い次第ご報告を申し上げます。どのようにお伝え致しましょう?」
「じゃあこれを使って」と、通信機を渡しておく。
そうしてシェン君との話し合いも終わり、俺はこっちで使っている自室へと戻った。
戻ったのだが……
「おや、お久しぶりですね」とロイドが言う。
隣にはホノカが座っている。その状況にイグナートが『あちゃぁ』と言わんばかりにおでこを押さえた。
えっと、そう言えばこいつらにはお爺ちゃんの振りをしていたんだったけ。
はぁ……また、やるのか。
「ふむ、まだ数日ぶりじゃった筈じゃが。耄碌したのかのぉ?」
「ルイ!? 今は変装してませ――――あっ!」
「あっ……」と、俺とユリは二人して手で口を押さえた。
「ベルファストの手の者だとは思っておりましたが、まさか貴方だとは。
偽名はロイス王、と婚約者殿の姉君、マリア殿からですか……なるほど、納得だ」
「えっ、なんでそこまでわかるの!?」
もう、誤魔化すのは無理だとわかり、疑問を素直に投げた。
「戦場でお会いした後、全力で調べ上げましたとも。この上ない強敵でしたから。
しかしそれがこうして活きるのですから、勤勉とは良きことですね」
相変わらずのポーカーフェイスを携えたなんちゃって少年ロイド。
「まあ、もう帝国と完全に切れているってわかった今ならもういいけどさ……」
「……私はよく無いのだけど?」
と、鋭い流し目を送るホノカ。
「いや、ごめんて」
「……なんて返せばいいのよ。
いいわ。また立ち合いをお願いするからその時は受けること。それで許してあげる」
「いいけど、相当長い間頑張らんと一手で終わるよ?」
流石にどんなに頑張っても、今の俺に追いつくのでも最低五十年近くはみないと無理じゃないかな……
既存の方法ではだから、やり方次第だけども。
「わかっているわ! 見た目通りの年じゃないんでしょ?」
「いや、十七だけど?」
「はっ!?」
いや、怒気を発せられましても……
騙していた手前、ユリちゃんも大人しいし。
ここはインパクトある事を言って話を変えねば……
「それは良いとして、帝国は潰す事に決めたから。お前らも来る?」
「「はっ!?」」
おし!
パワーワードで雰囲気リセットだ。
「シェン君に皇帝になって貰う事になったのね。それで俺たちが先兵として潰しに行くんだよ。無理に付いてくる必要は無いんだけど、二人はシェン君の協力者じゃん? 後が楽かなってさ」
ポジションというか、発言力というか、ここで共に出ると言うのはお互いにありなのだ。
イグナートが先頭に立って、その裏にロイドとホノカが居れば、それはもう完全に帝国の内乱としか思われない。
武を見せつけ圧勝した後であれば、ネームバリューがある二人だからこそ反骨精神を削ぐ一手ともなる。
少数で落とす際にはネームバリューというのはかなり大きなアドバンテージになる。
「確かにホノカ君を圧倒したその武があれば可能かもしれないが……侯爵軍も動くのかな?」
「いやいや、行くのは俺たち四人。そこに二人が加わるか否かってだけだよ」
「城攻めに四人だと……」
異常者に向ける様な視線を向けられたので、無理して来なくていいよと告げて席を立つ。
とりあえずは大阪勢力を落とすだけだ。後から名前を貸して貰う方向でもいい。
他は、シェン君たちの準備が出来た時で。
さっさと終わらせて、ここを離れても心配ない状態にしたい。
日本の技術さえ奪えれば、村に帰ろうがベルファスト城に帰ろうが問題無い。
今やベルファストの力は、箱舟を使えば全住民の生殺与奪も奪えるほどだもの。
絶対やらんけど。
そんな迂闊に見せる事もできない程の力だ。
ふっ、これがあるのに使えない力か。
そんな事をニヒルに思考しながらも、部屋から去ったのだが、何故かホノカが付いてきた。
「私は行かないなんて言ってないわよ?」
「ああ、居てくれると助かるよ。武神ホノカさん」
「……嫌味な奴ね」と、再び睨みつけられる。
その後ろにはロイドも続いていた。
「いやいや、勇名がある人が居てくれると助かるって話。
敵国の王子じゃいつまでも反発を続けるでしょ?
流石に教会はイグナートとカイの二人じゃ事後処理が大変だからさ」
そうして会話しながらも、飛空艇へと歩いて向かう。
外に出て飛空艇を可視化させれば、二人は黙りこくった。
「じゃ、来るならどうぞ」と、俺たち六人は先に乗る。
増えている二人はナタリアさんとユキナさん。飛空艇に待機させるつもりだが、それでも来たいだろうから連れて行く。
そうして乗り込むと、少し遅れて彼らも乗った。
来るならさっさと乗ってくれよと思いつつも、艦首へと案内した。
「帝都のお城近くにある教会に向かってくれ。ステルスモードもよろしく」
『畏まりました。マイマスター』
メイとは違う完全な機械音声が響く。それと同時に飛空艇が発信する。
モニターが出て、目的地の光景や色々な情報が出てくる。
「はは、これは勝てない。無理だね。うん。キミたちの策に乗るよ」
「ロイドさん!? 帝国をこいつらにくれてやるって言うの!?」
「違うよ。抗う術など最初から無かったということさ。
それと、ミルドラドの統治を調べたんだ。落とされる前より民に活気がある。
皮肉だよね。帝国は恐ろしいほどに終わりに向かって走っているのに。
だから今、乗る事は未来を捨てることではなさそうだと感じたんだ」
そう、優しく諭すようにホノカに言うロイド。
根本的に勘違いしているが、今は証明のしようもないからその考えのままでも構わないと、話を聞き流す。
「くっ……いいわ。私がこいつを追いかけて監視する。何十年かかっても!」
「ホノカ君……我らは帝国を離れたのだよ。
キミは重責から解かれたんだ。もっと自由に生きていいんだ」
「けど、それならロイドさんだって……」
おや……ラブコメ、始まったか?
いや、ロイドは姪っ子を相手にしているような空気だが、外見の所為でラブコメにしか見えない。
だが、俺は学んだ。こういう時は放置しろと。
夫婦喧嘩は犬も食わぬと言う。これは割って入れば馬鹿を見るという事だ。
いや、喧嘩を売られているのは俺だったか……
「ユリ、ダンジョンは探索する?」
「そうですねぇ。安全そうですし、やりますか!」
「あら、安全なら私も行っていいわよね?」
「っ!? リア!?」
その裏では、ユキナさんがカイの裾を引いている。私も、と。
あぶれている人間が居ないので気を遣う必要は無い。
ユリと二人、どんなギミックが飛び出してくるのだろうか、とダンジョンの奥に思いを馳せる。
「ちょっと貴方たち! 何勝手に和んでいるのよ!」
「ホノカ殿……先にそういう空気を出したのは貴方では?」
苦笑したカイに窘められ、顔を真っ赤にしているホノカ。
そうしてある意味和気藹々としている俺たちは、帝都ベルクード大聖堂の上空へと到着した。
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