第21話 勢いで出ると言ってしまった


 十二階層に到達した時、ランドールさんから待ったがかかる。


「あら、まだ進みますの?」

「えっ!? いえ、ではここでやりますか?」


 そう返したユリに首を傾げた彼女。

 恐らく普段から俺という足手まといを連れてこんな深くまで来ているのかと疑問を持ったのだろうな。


「あ、私の事はお構いなく。見学させて頂きますので」

「えっ、あっ、そうですの?」


 あっ、やっぱり合ってた。


 俺が見学するつもりだと知れば彼女は納得したという面持ちだ。

 この階層は比較的戦いやすいウッドゴーレムが出る階層なのでパーティーの一員として混ざるなら前衛も出来ない事もないが、魔力消費を上げていかないと厳しい。


 一刻も早く強さが欲しい俺としては、魔力は無駄に消費したくない。

 仮に今日余ってもユリのお陰で俺にはバックパックがあるからな。


 そうして二人の戦いを見学させて貰えばランドールさんも結構強い事がわかった。

 御付きであるユキナさんも同様だ。

 互いに一匹ずつ受け持ち、危なげなくウッドゴーレムを切り捨てている。


 俺の見立てでは二対一なら敵わなくともユリの練習相手ならギリギリ務まるだろうというレベル。

 俺だと出力を上げまくって互角。魔力切れ前に押し切れればワンチャンという感じだろうか。

 まあこれが全力とも限らないし普通に負けると思うけど。

 なんにしてもAクラス上位にそう思えるくらいには成長したって事だな。

 ユリの教えマジで凄い。


 当のユリさんはウッドゴーレムごときは瞬殺。

 それを見た二人は目を見開き、笑みを浮かべる。


「オホホホ、これは嬉しい誤算でしたわ。ラズベルさんがこれほどお強いだなんて」

「ランドール様もとてもお強いですわ。

 こちらに来てから気兼ねなく一緒に戦える相手は初めてです」


 ランドールさんに引けを取らないくらいにユリも嬉しそう。

 確かに俺を連れている所為でユリにはいつも気苦労を掛けて居たからな。


「ごめんね。いつも迷惑掛けて……」

「ち、違います! ルイのサポートはいつも完璧ですから不満なんてありません!

 その、これは前衛同士のという話なんです!」


 いやまあ、銃のお陰で敵を減らす役目はしっかり担えていると思うけど、絶対に俺まで通さない様にって偶に無理させてるからな。


「あら、ルイさんは後衛なのね。

 そういった理由なら大会ではあまり実力が出せないのも納得ですわ。

 では、私たちのサポートをお願いしてもいいかしら?」


 ああ、そうか。

 魔法で戦う分には問題ないな。

 魔力を温存しようかと思ったけど、こういう流れになったなら仕方ない。


「わかりました。では、次からは参戦させて頂きます」


 しかし、銃の方が魔力効率が良いから、攻撃魔法ってほぼほぼ使った事ないんだよな。


 火を使うとして……出力はどの程度だろ?

 周りに炎が行ったら洒落にならないし……

 ああ、ファイアーウォールで試せばいいか。


 お、早速次が来たな。


「それでは先制させて頂きます」


 と、宣言して魔方陣を出した後『火で丸太を焼くのって相当火力いるよな。もしかしたら仕留められないかもしれない』と頭に過ぎる。


 今から属性を切り替えても間に合いそうだが、ダメでも危険はないので出力を上げる方向でそのまま続行した。

 ファイアーウォールの魔方陣に魔力を多めに送ると大きな火柱が上がり魔物が一瞬で丸焦げになり、ウッドゴーレムは崩れ落ちる。

 あら、やりすぎた……


「すみません、調子に乗って出力上げすぎました」

「そ、それは良いのですが、後衛の位置からウォールで倒すなんて……

 あの距離で魔方陣を組めるなんて凄い魔力制御ですわね」

「あはは、それだけが取り得ですから」


 うん。それを取ったら何も残らないのだからこのくらいはね?


「凄い……あれだけの速さで、距離があっても高出力で発動できる程の技術があればゆくゆくは宮廷魔術師も夢ではないのでは?」


 おおう、やったね。

 ちょっとオーバーだが、ユキナさんにまで褒められた。

 

「それは褒めすぎかな。でもありがとう」

「ルイ、良かったですね?」


 ユリに「ああ、ちゃんと努力が報われてて良かった」と返したが、彼女たちの言葉はそれだけでは止まらなかった。


「これは中々に凄い逸材ですわね。

 これほど遠くで発動できるなら爆発魔法すら攻撃に用いれるのではなくて?」

「確かに、個人での戦闘でなら容易に使えそうです」


 ああ、確かにいけるかも。

 攻撃には使えないと言われている魔法なんだったな。

 せっかく使えるんだし後で試してみるか。


 なんて呟いていれば、その言葉を彼女に拾われてしまった。


「あら、使えますの?

 では、早速試しましょ。どれほどの破壊力になるか見てみたいわ!」

「リアーナ様、先ほどの魔法を見るにパーティーでは少し危険ではないでしょうか?

 ルイさん、出力調整は問題なく出来ますか?」


「ええと、問題ないとは思いますが……」とユリに視線を向けてやっていいのかを伺うが「大丈夫、ルイなら問題ありませんよ。次の角の先に二匹居ます」と魔物の策敵までされてしまった。


 ならばやってみようと壁に身を隠し、限界ギリギリまで魔力を伸ばせば身を隠せる場所からでも届いたのでそこで二つ同時に爆発させてみた。


 ドォォンと激しい音を響かせ、吹き飛んだ魔物が壁に叩きつけられた。

 一匹は脚が折れて動けなくなっているが、二匹目は起き上がると全速力でこちらに向かってきた。


「うおっ、やべっ、抑えすぎた」と刀を伸ばし強化の出力を上げ即殺したのだが……


「あら、任せてくださって良かったのに」

「そうですよ、ルイ。私たちも居るのですから。

 ただ、他の属性魔法と比べるとあまり有用性があるとは言えませんでしたね」


 といつの間にか仲良くなっている二人に諌められてしまった。

 確かに同じ魔力量でストーンバレットを撃ってれば倒せただろうな。

 攻撃に使えないのは距離の問題だけじゃないっぽい。

 そりゃそうか。俺程度の制御能力を持っている奴は探せば大勢いるだろう。


 ダウンしていた一匹もユキナさんが止めを刺してくれた様だ。


「近接戦の腕もそれほど悪くはなさそうです。

 大会もルイさんのままでいけるのではありませんか?」


 戻ってきたユキナさんが首を傾げユリに尋ねるが、一応俺から訂正を入れておく。


「いや、今のは強化の出力をかなり上げたんだよ。直ぐに魔力切れになるんだ」

「そうですか。まだ討伐を多くはこなしていないんですね」

「あら、それなら大会にお誂え向きですわ。戦っても三戦ですもの」


 ランドールさんのその声に顎に手を当て、思わず考え込んだ。


 へぇ、それならバックパックもあるし毎回魔力をフルで使い切っても大丈夫だな。

 けど……評価値の低い俺が出ると他の奴等から睨まれそうで怖い。


「まあ、強制ではありませんので考えて置いて下さいませ。

 私もリストルと組むのはできるだけ遠慮したいと思っていますから」

「――っ!? ルイが断ればあの方が参戦するんですか!?」

「ええ。任命権はラズベルさんにありますが、パーティーメンバーに限ります。

 それ以外から選ぶ場合は強さの順となりますの」


 ああ、そうか。連携を加味するって意味合いでの任命権だもんな。

 組んでも居ない相手選ぶくらいなら強さの順になるのは何らおかしくないか。

 てかリストルって学年上位だったんだな……めんどくさ。


「ユリ、俺出るよ。いいか?」

「は、はいっ! 宜しくお願いします!」


 俺とユリのやり取りにジッと生暖かい視線向けている二人。


「ど、どうかしました?」

「うふふ、何でもありませんわ。

 それと……私にも気兼ねなく接してくれて構いませんわよ?

 ああ! でも愛称で呼び捨てにされては困ってしまいますわ!

 口調は構いませんが、敬称だけはさんでも嬢でも付けてくださいね?」


 ……そ、そういう事か。

 ユキナさんまで口元を押さえてニマニマと意味深な視線を向けている。

 ユリは顔を赤くしてあたふたし始めたが声は上げない様子。

 これは再び俺が訂正を入れないといかんやつだな。


「あ、あの、これには事情がございまして……というか知っていますよね?

 彼女が最初平民の振りをしてユリと名乗っていたこと」


 そうだよ。

 カールスが教室内であれだけ騒いだんだから知らない筈がない。

 やられた、と彼女にジト目を向ける。


「うふふ、わかっているわ。からかってごめんなさい。

 でも余りにラズベルさんとのやり取りが気の置けない感じでしたので……」

「はい。とても素敵でした。

 あいつと一緒に居させるくらいなら俺が出る、という想いが伝わってくる様で」


 ぐぬっ……それは間違ってないから否定し難い。

 これは二人のおもちゃにされる前に戦略的撤退だ。


「からかわないで下さい。身分が違うのですから。

 それよりも時間は有限なんですから先を急ぎますよ」


 そう言ってスタスタと早歩きで先を急ぐ。


「ルイさん! その先に居ます!」


 えっ!?

 あ、やべぇ……もう見つかってる!

 しかも三匹だ。


 くそっ、まだファイアーボールは試してないから出力どのくらいかわからんし……

 流石に三匹は危険だ。

 バックして押し付ける手もあるが、ユリなら余裕でもランドールさんたちにそれをやってもいいのかはわからない。


 仕方ない。拳銃タイプのを出して使っちまうか。


 と、瞬時にデザートイーグルを少し長くした様なごつい拳銃を作り出して魔石に一発ずつ叩き込んで即座に撃ち殺した。

 魔石が砕けてしまうので普段はやらないが吸収するなら拾い集めればいいだけだ。

 そして即効で拳銃を消して一応剣にて止めを刺した振りをする。


「ルイさん、今のは一体……」


 二人が驚愕の視線を向けている。

 さてなんて返答するか……いや、あれだけの発砲音が鳴れば何を言っても誤魔化せないよな。

 とはいえ、無理に説明する必要もないか。とりあえず流してみよう。


「ええと、秘密兵器です。こんなものは人には使えませんので悪しからず」


 うん。間違っても大会でなんて使えない。

 転生者云々もあるが、余りに高い評価をされた時のトラブルも怖い。

 まあ、魔法がある世界だ。大人の評価の方はそこまでにはならないと思うけども。


「属性魔法ではないわよね……魔装だったように見えたけど。

 うーん、さっぱりわかりませんが秘密と言われては無理な詮索はいけませんね。

 なるほど。これほどに強いラズベルさんが頼りにしているのも納得だわ」

「はい。ルイは凄いんです。私なんかよりよっぽど」


 ユリさん? 無駄に立てるの止めようね?

 あんた本気出せば俺が銃持ってても瞬殺できるでしょうに。


 首を横に振り『そんな事はない』とアピールするが何やら女性陣だけで納得してしまわれた様子。


 そこからはほぼほぼ手を出さず、彼女たちの戦いを後ろから眺め続け一日が終わった。



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