第22話 いい加減にしないと決闘です



 そして次の日。

 授業が終わった後、学外戦と呼ばれる国を上げた学生の大会が行われるとの発表があり、リアーナさんの言っていた通りユリと彼女が選ばれた。

 これは入学時の成績と今までの評価の合算値だそうだ。


 俺もユリのお陰で割りと上位には食い込んでいて、六位だった。

 彼女の言葉通り、三位にはリストルが入っている。

 四位はユキナさん。

 五位は家名があるので他の貴族の子息だと思われる。

 その下にヒロキたちの名前が並んでいた。


 その発表の直後、リストルが立ち上がり「ラズベル嬢、やはり僕らは共にあるべきだ」と声を上げた。

 その様に俺は深く溜息を吐く。

 何で昨日断られているのに自分から恥を掻く方向で全力を尽くすのか、と。 


 先生は彼の言葉は無視して任命権の事を説明しそのままユリに尋ねた。


「ラズベル、ルイかリストルかはお前が決めろ」


 先生がユリに問いかける。


「私はルイさんを任命します。実力も申し分ありませんので」

「ちょ、ちょっと待って頂きたい! 実力ならば私の方が上だ!」

「静かにしろ。たった今一位と二位に任命権があると言った筈だ。

 リアーナ、お前はどうする? お前も二人組だからユキナかリストルだ」


 その言葉にリアーナさんに注目が集まる。


「私も当然慣れ親しんだパーティーメンバーを選ばせて頂きますわ」


 無駄に立ち上がった所為でどちらからも派手に振られた形となったリストルに、教室内は微妙な空気に包まれた。

 当然彼は顔真っ赤だ。

 これはまた俺が恨まれるやつだと再び嘆息する。


「お前たちが一週間後の予選で優勝すれば次の日には王都へと向かう事になる。

 往復で一週間以上かかるから一応予定は入れるなよ」


 先生の説明によるとこの四人でパーティーを組んで、一週間後にこの学校に集まってくる他校の生徒に勝利すれば王都の大会に呼ばれるという話だ。


 うわぁ、王都まで行くことになるのか。

 ユリなら勝っちゃうだろうし、これは益々もってリストルを除外できて良かった。

 俺がお留守番でユリとあいつがそんな長期旅行とか切なすぎるわ。


 いや、平民の俺がそんな想いを持って居ても仕方がないのはわかっているけど……

 まあ、今回は回避できたのだから今はいいか。


 そうして先生が出て行ったので立ち上がって訓練場へと行こうとしたのだが、やっぱりというか案の定というか、行く手にリストルが立ちふさがった。


 珍しく今回は俺の行く手を阻んでいる。

 つまりはそういう事だろう。


「おい下民、お前に神聖決闘を申し込む。

 出場権を賭けてこの私と決闘しろ」


 やっぱりか。


「私に譲れる権利はありませんので賭ける事はできませんね」

「黙れっ! 俺が強い事を証明できればどうとでもなる!

 お前は黙って従えばいいのだ!!」


 ……うぜぇ。


「リストルさん、ルイに勝っても私が貴方を選ぶ事はありません。諦めて下さい」

「いいえ、貴方が私を選ばざる得ない方法が一つあります。

 それを成して見せますので今は見ていて頂きたい。これは男の意地だ!」


 ……アホか。ただの子供の我侭だ。

 てか、いい加減我慢の限界。丁寧に話す気も失せたわ。

 選ばざるを得ない方法ってお前さ……


「ああ、わかった。ぜーんぶわかった。あれだな?

 決闘なら合法的に殺せるから死んでしまえば自分が出れる。そういう事だな?」

「黙れ! お前は黙って決闘を受けろと言っているのだ!」


 やっぱりこいつもカールスと変わらないクズだな。

 さて、どうしたものか。

 いっその事決闘を受けて銃で両足ぶち抜いてやるか?


 そんな思いが過ぎった時だった。


「……否定は、しないのですね?」とユリが殺気を纏いリストルへと問いかけた。


 あの暗殺者の時と同じ顔だ。

 なまじ身形を整えてしまったお陰で更に気迫がダイレクトに伝わってくる。

 面白そうに様子を伺っていた後ろの面々も困惑した表情を浮かべた。


「け、決闘とは命がけで行うものだ。そういう結果もありえるというだけの事」

「であれば、ユリシア・フォン・ラズベルの名を持って貴方からの決闘を受けます。

 貴方が勝てば大会のパートナーには貴方を任命します。それでいいですね?」


 うわぁ。ユリのやつ、出場権を餌にガチで叩きのめす気だ。 

 いやまあ逆の立場なら俺もそうするけど、ユリに悪評が立っても嫌だからちょっと迷うなぁ。


「ま、待って欲しい! 俺は貴方と戦うつもりはない!」

「貴方に無くとも私にはあります。

 ルイに手を出すならご自分の命を掛けるつもりで居て下さい」

「なっ、何故そこまで……!

 まさかラズベル嬢……貴方はこの下民に懸想している訳ではありませんよね?」


 殺気を纏う鋭い瞳がゆっくりと困惑へと移り変わっていく。


「なっ、何を言っているんですか!? 貴方は本当におかしな事ばかり!

 いい加減にしないと決闘ですっ!!」


 いい加減にしないと決闘です……何それ新しい。

 パニックになったユリは本当に何時見ても可愛いなぁ。


 ほら、後ろの人たちの表情も緩んだよ?

 というか今回も相当面倒な状況なのに俺の表情も緩んでいる。

 なんかこんな状況にも耐性が付いてきちゃったなぁ。

 嬉しくねぇけど。


「くっ、いいでしょう。此処は貴方の顔を立てて引きましょう。

 ですがここまで恥を掻かされて黙っているとは思わないことだ!」


 そう言ってカールス二号は教室から去った。

 その直後、後ろで様子を見守っていた貴族令嬢数名がユリに駆け寄る。


「ラズベルさん、素敵でしたわぁ!」

「貴方のその想い、是非とも応援させて下さいませ!」


 それを見て同じく駆け寄ろうとしていたナオミたちが足を止めた。

 俺も貴族令嬢の輪に入るのはごめんなのでナオミたちに近寄って経過を見守る。


「ふふふ、昨日も凄かったのですわよ。

 ユリとリストルを一緒に居させるくらいなら大会には俺が出る!

 なんて言ってましてね?」

「「「きゃ~~~」」」


 いや、そうは言ってねぇよ。

 ユキナさんがそう茶化しただけな?

 ちょっとリアーナさん?


 なあ何にせよ今日はもう授業も終わりだ。

 今日は訓練場か、と立ち上がりユリに視線を送るが顔を真っ赤にしていてアイコンタクトも取れない状況だ。

 ヒロキたちも「まあ頑張れ」とポンと俺の肩を叩くと教室を出て行った。


 ユリを置いていく事も出来ず見守っていればユキナさんが楽しそうに近寄ってきた。


「今日も一緒に行くことになったみたいですよ。宜しくお願いしますね」


 あれ? 今日は室内訓練の筈なんだけど……

 まあ別にそのくらい構わないけどさ。

 大会に向けて連携強化するのかな。


「ああ、宜しく。てかあれ、止めて欲しいんだけど……」

「無理ね。リアーナ様こういうの大好きだもの。ふふふ」


 いや、キミも凄い楽しそうにしてたよね?

 止めてよ。ユリは直ぐおかしくなるんだから。


 ユキナさんに嘆息していればもじもじしたユリとリアーナさんが戻ってきたので、立ち上がり移動を促す。

 一刻も早くこの場を離れたいので俺は早足で先頭を進むが、教室を出る直前で裾を捕まれて振り返ると、ユリが悲しそうな顔をしていた。


「ル、ルイ? やっぱり怒っているのですか?」


 どういう思考回路をしたらユリに怒るという事になるのだろうか。

 全く、気にしすぎなんだよユリは……


「何で俺が怒るんだよ。ユリは守ろうとしてくれただけだろ」

「ですが、また私が原因で危険に晒してしまいました……」

「馬鹿言うな。本来ならああいうのから俺が守ってやりたいくらいだってのに」


「「「きゃ~~~」」」


 ……しくじった。


 まだ教室内だったよ。

 これでリアーナさんの嘘が完全に事実として受け入れられてしまった……


「リアーナさん、頼むから場所変えてください」

「ええ、勿論構いませんわよ?」


 くそう、良い笑顔で言いやがって……

 俺だってなぁ……実際に付き合っているなら別にこの程度受け入れるんだよ。

 けど届かない相手と囃し立てられても辛いだけじゃんか。


 平民が貴族とは……いや待てよ……

 今は緊急時でユリは親から自分で選んでいいって言われてるんだよな?

 ユリの言ってた感じだと貴族限定でもなかったよな。

 財力と強さがあればいけるのか?

 いや、まあどっちもないけど。


 まあどっちにしても無理ゲーだな。結婚適齢期が早いこの世界じゃ数年の猶予すらもないだろう。

 その間に強さと財力なんて無理すぎる。

 でも、ユリが認めればいいと考えればワンチャンあるか……


 やばい、そう考えたら益々望んでしまうんだが。

 いや、このまま諦めるくらいなら玉砕覚悟で突き進むくらいしてもいいんじゃねぇか?

 ユリのお陰で折角ここまでお膳立てされた状態になれたんだし。

 強化魔法、属性魔法、回復魔法、バックパック。

 ここまで良い状況なら後は俺のやる気次第で可能性はある……


「―――――――――さんっ! ルイさんっ!」

「ど、どうした?」

「もうダンジョンに入りますよ。しっかりして下さい!」

 

 お、おおう。いつの間に。


「おう。それで俺は何をしたらいい?」

「今日は十五階層まで行くので何時も通りサポートお願いします」


 むっ、銃使うのか?

 いや、別に使わなくても問題ないか。


「んじゃ、一応肩慣らしに道中の雑魚やらせてくれ。魔法の威力を調整するから」

「えっ、属性魔法でいくんですか?」


 ……リアーナさんは信用できそうだけど、できるだけ使わない方向で行きたい。


「ダメか?」

「いえ、わかりました。大会もありますしその方が良いですね」


 道中、ファイアーボールやストーンバレットなど、使い勝手の良い攻撃魔法を数回使い、感覚を確かめ目的である十五階層へと辿り着いた。


「強い前衛が三人も居ると安定しすぎて暇だな」

「二人の時は私が足を止めてルイが仕留めていましたもんね」


 ユリと俺の話にリアーナさんが訝しげな視線を送る。


「そう言えば二人で来ていたんでしたわね。

 それにしても……それでよく魔力が持ちますわね。魔石買い集めましたの?」

「いや、そんな金はないよ。

 ユリに前衛任せて俺は武器以外は魔装も解いてるからな」


 まあそもそもが俺に譲っているだけでユリはソロでやれるからなぁ。


「なるほど。それであれば魔力も足りますわね。

 でもこの階層でそれは危ないわ。一度のミスで死ぬ可能性もあるもの」


 そりゃ、普通はそうだよな。

 特にこの階層は小型の恐竜の様な魔物が出る。

 日本ではなんて行ったか……ラプトル、だったか?

 まあそこまでは大きくないんだけど。


 どちらにしても俺にはもう死角はない。


 なんてったってラズベル家の秘術を教わっちまったからな。

 まあ、人前では魔方陣を出せないし教わった事も言わないと約束させられたが。


 だから今日は使わないが、ユリと二人の時は俺も聴力強化を使っているので、後ろから前から数十匹とか馬鹿げた数が来ない限りは安定して対応できる自信がある。


「そこはちゃんと対策立ててるよ。それに多少は無理する理由もあるしな」

「そう、でしたわね。ラズベルは戦時中でしたわ……。

 今ばかりは無理を押すのも仕方ないのね」


 会話しながら歩いていた俺たちにユリが強い視線を向けて手で止まる様に指示した。


「一先ず止まって下さい。あそこの奥に結構な数が居ます。恐らく十五程度」

「――っ!? 引きましょ。急いで!」

「いいえ、この程度の数なら問題はありません。

 ルイ、私が先行します。何時も通りで」


「はいよ。任せろ」と指示の通りユリの後ろを音を立てずに付いて行く。


 属性魔法の援護には多少不安もあるが、威力も低くはない。

 今回の様に数が多く近い場合は銃よりも属性魔法の方が有用だと思う。

 魔方陣さえ組めればどこからでも撃てるから余りユリの立ち位置を気にしなくていいのがとてもありがたい。


 少し不安な命中力はアイデアで補えばいいだけだ。


 先行して釣り出したユリに俺も接近してストーンバレットの魔方陣を頭上四メートル程の所に五つほど並べ、命中力を補う為に魔力で予測線を張り着弾位置を見やすくする。


 ユリが突出して前を走る魔物の足を止めた瞬間、予測線を後続の魔物の通り道に合わせてタイミングを待つ。


 ここだ!


 と、即座に五つ全てを打ち出しユリと接敵していない魔物を打ち抜く。

 一匹追加でユリの所へと行くが彼女は四匹居ても軽く捌くのでスルー。


 後ろから更に続いて出てくる魔物には全て仕留める勢いで打ち出す。

 一撃で確殺とはいかないが、大半が一発で戦闘不能に陥ったので残りはユリが戦っている三匹だけ。


 ……やっぱり生物系なら銃の方が強いわ。

 銃なら確実に仕留めてるもの。

 まあ、同時射撃できたり上から狙える点はありがたいけども。


「後ろの動きは止めた。そっちもやるか?」

「いいえ、こっちももう終わりです。この程度なら任せてください」


 声を掛けた時にはもう既に戦いは終わっていた。

 流石。合計五匹相手にして足止めどころかさくっと倒しちゃうんだもんな。

 やっぱりユリは最強だぜ。

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