第23話 悪い、一緒に居られなくなりそうだわ……


「止め刺すのお願いしてもいいか?」


 動かないので恐らく大半が死んでいるだろうが、ここでの油断が一番危ない。

 とお師匠様が言っていた。

 そんなユリの教えを守り、後衛の俺はリアーナさんたちに声を掛ける。


「え、ええ。ユキナ?」

「はいっ!」


 声を掛けられたユキナさんは迅速に走り出す。


 いや、もう危険はないから焦らなくていいんだけど……

 というかできれば足止めをユリと一緒にやって欲しかった。

 そうしてくれていれば魔力をもっと節約できたし。

 まあ彼女たちはこの階層は慣れていないだろうし、引いた方がいいと言っていたのだから今回は仕方ないが。


 おっと、俺も働かねば。


 と、魔物から魔石をくり貫いて周る。

 できるなら素材も全部持って帰りたい所だが、誰も荷車を持ってきていないから大半は放置するしかない。

 まあ、俺が作った荷車で持って帰れる分は全部持って行くがなと、荷車を作り死体を乗せていく。


 ちなみに荷車はかなり進化している。

 バックパックのお陰で好きなだけ、とは言わないが積載量は五倍以上に増えた。

 それでも一日分の魔力は残っている状態なので後衛として戦いにも参加できる。


 まあ俺だけが荷物運びしてるのには物申したいところではあるが。


 いや待てよ。

 こいつらも評価が必要なんだしいつもは持って帰ってる筈だよな?

 今度はちゃんと借りてくる様に言わなきゃな。


 ある程度はお金も貯まってきたが俺の財源は魔物の換金だけなのだ。

 次一緒に行く時は強く言わせて貰おう。


「……流石はラズベル家が唾を付けただけはあるわね。

 これほどとは思わなかったわ」

「ええ。魔方陣を五つも同時展開してあれほどの精度を出すなど……

 唾がかかってなければ是非とも欲しい人材ですね」

「やめてください! ルイさんに唾なんて付けていませんっ!」


 ふはは、もっと褒めて?

 今のは不慣れな属性魔法でと考えたらかなり高得点だと自分でも思う。


 追尾なんてものはないから合わせるのが難しいんだこれが。

 それに魔法は魔方陣に魔力を通すという作業が毎回必要なので連射速度が遅い。

 雪崩れ込んでくる魔物に対応するには数を増やす以外はない。


 しかし数を増やすと途端に難易度が上がる。

 一つなら予測線が無くてもできるが五つも同時に敵に合わせるのは予測線があっても神経を使う。

 銃ほど簡単に狙いを定める事ができないからこそ貴族のボンボン達は魔道具で命中精度を上げてるのだ。


「あら、お手つきじゃないなら口説いてみようかしら」

「べ、別に構いませんよ!? お好きになさってくださいましっ!!」

「あらあらリアーナ様、それはやり過ぎですよ?」

「うふふ、わかっているわ。冗談よ。これだけの関係ですものねっ?」


 リアーナさんに完全に遊ばれているだけなことに気がついたユリは俺の方へと走ってきて陰に隠れた。


「苛められました! ルイ、助けてください!」


「わかったわかった」と頭を撫でてリアーナさんに視線を向けると何故か彼女は少し心中が複雑そうな視線を向けていた。


「ユリが可愛いのはわかりますが、余りからかわないでやって下さい」


 何故そんな視線を向けられているのだろうかと思いつつもユリの要望に応えれば「ええ。わかったわ」と彼女も素直に頷いてくれた。


 それから三度ほど戦闘をこなして帰り支度の空気を感じた。

 いつもと比べると討伐数が少な過ぎるのだが、リアーナさんに「ここら辺で終わりにしましょう」と言われてしまい終了となる。


 清算を終えてリアーナさんたちと別れた俺たちは寮に戻り俺の部屋に着きいつもの様に料理を始める。


 少し前までこの時間のユリはラクとふうに付いていたのだが、今はもう大型犬程度には大きくなっているので部屋には入れられなくなり、獣魔専用の建物へと移されている。

 おかげでユリは手が空いている状態。

 最近の彼女はいつも俺が作る料理を嬉しそうに眺めるのが日課となっている。


「なぁ、今日討伐数少なすぎたろ。

 もし続くようなら俺は単独行動したいんだけど、ダメかな?」

「……何階層でやる予定ですか?」


 十二階層はゴーレム系だから急所が少ない。

 ゴーレムを止めるには総合ダメージ量が一定を超えるか魔石を壊すかとなる。

 そうなると銃で一撃で倒すには魔石破壊くらいしかない。

 十四階層以上は前衛としては厳しいからソロで行くのは無謀。

 だから俺が安心して行ける階層は……


「銃で倒しやすい十一か十三だな」

「十一階層なら良いですよ。あそこなら前衛としてでもやれるでしょうし」


 あ、いや、そういう意味で良い悪いを聞いた訳じゃなくてパーティー組んでるから別でやる断りを入れたかったのだけど……

 まあ心配してくれるのは嬉しいし否定はしないけども。


「よし! んじゃ折角だし外泊許可でも取って思いっきりガッツリやるか!」

「馬鹿言わないで下さい! 一人でどうやって夜を明かすんですか!」


 いや、うん。勢いで言ってみたけど無謀なのはわかってる。

 気持ち的には是非ともやりたいところだが、それをやっても魔力残量が無くなれば結局ダンジョンはお休みするしかないのだ。


 だからやり過ぎても意味はない。

 別でやりたい理由は銃を使って消費を少なくしてガッツリやりたいからだ。

 全く、強化の消費のみで戦えるやつらが羨ましい。


 そうして何時も通り食事を終えて雑談を交わした後彼女を送り、明日から本気で狩りをして少しでも差を縮めようと息巻いて眠りについた。

 リストルの捨て台詞などすっかり忘れて。






 俺は、十一階層を駆けずり回っていた。

 敵意をむき出しにした集団に追われて。


 当然追ってきているのは先日捨て台詞を吐いて逃げていったあいつ。

 聴力強化を使って人が居る事には気が付いていたが、リストルの可能性なんてちっとも考えていなかった所為で目視されるほど接近を許してしまっていた。


 そしてとうとう追い詰められた。


 行き止まりには鉄板が張られていて立ち入り禁止という文字が書かれている。


 何でこんなところに鉄板が張ってあるんだよ!

 ダンジョンでこんなの初めて見たぞ!

 何でこんな時に限って……


 この板をぶち抜けばまだ先があるかも知れないが、それをやっている間に殺されるだろうと仕方なくリストルたちと向き合う。 


「おいおい、お貴族様が直々に手を汚していいのかよ!?

 カールスみたく平民に落とされるぞ?」


 こんな言葉で止まらないのはわかっているが少しでも打開策を考える時間が欲しかった。

 だから反論したくなる様な言葉を並べる。


「それは愚かにも仕留められず取り逃がしたからだ。

 私はそんな無様な真似はしないから問題ない」

「けど、そんな見ないやつらを引き連れてたら相当目立ったんじゃないか?」


 ニヤニヤとこちらを眺めリストルと並び立つ男たちは少なくともAクラスの人間じゃない。

 いや、同学年にもこんなやつらは居なかったと思う。


「バーカ! 俺たちも学園の生徒なんだから目立つわきゃねぇだろ!」


 という事は上級生か……

 そんな奴等まで手駒に持ってるのかよ。


 あれだけ敵意向けてたんだから嫌いだからって顔を背けず少しは調べて置くべきだった。


 このままこんな奴に殺されるなんて絶対にごめんだ。

 最悪撃ち殺す事も視野に入れないと。

 だけど後ろで見張りをしている奴等も居るし全員撃ち殺して知らん振りは難しいだろう。

 一人でも取り逃がせば俺は間違いなくお尋ね者になり処刑されるか逃亡生活かのどちらかになる。

 貴族なら証拠がないで済むが平民が貴族を殺した容疑がかかれば話は別。

 貴族殺しは取り巻きの証言だけで打ち首というのは平民の常識だ。

 そして貴族連中は平気で嘘をつく。

 冤罪上等の世界なのである。


「お前らわかってるのか? 殺し合いに身分差は関係ない。

 どちらにしても殺されるならこっちだって殺すつもりでやる事になるんだぞ?」

「この私を殺す? 思い上がるな平民がぁ!!」


 リストルが激高した瞬間、強化の出力を上げる。

 案の定切りかかって来たので攻撃を避けてカウンターでパンチで迎え打つ。


 強化全開の本気のパンチ。


 ユリほどとは言わずともリアーナさんたちとは渡り合える速度での動き。

 俺の事を舐めていたリストルは直撃し後ろまで吹き飛ぶ。

 あっちも当然強化を使っているだろうが、それでもかなり効いた様子。

 即座に起き上がろうとしたが脚をふらつかせ尻餅をついた。


「ユリと一緒に十五階層で敵を集めて狩りしてるんだ。弱いわけねぇだろ?

 次は殺す。これ以上手向かうならもう話し合いの余地はないからな」


 これで引いてくれればこの件は大きな問題にはならないだろう。

 俺に殴られて逃げ帰ったなんて恥ずかしくて言い触らせないだろうから公的機関は使えない筈。

 俺は彼らを睨み付け武装の刀を伸ばす。


「どうなんだ? 殺し合いするのか? よぉ!!」

「くっ、お前ら、やれ!! 全員でだ!!」


 ……賭けに負けたっぽいな。

 リストルの後ろで数人が魔方陣を浮かべている。

 こりゃやるしかないな。


 ユリ、悪い。

 俺、一緒に居られなくなりそうだわ……


 心の中でユリに謝罪して魔装で銃を作り上げると同時に足や肩を狙い打ち抜いていく。


 タッーン、タッーン、タッーンと乾いた音が響き、撃たれた者は例外なくその場でのたうち回った。

 だが、リストルの後ろに居る男を狙おうとした際、魔装の重装甲だった為に打ち抜ける場所は目くらいしかなかった。

 本当に殺してしまうか迷いが生じ、取り敢えず魔法を打たせまいと肩を撃った。

 銃弾に打たれ体を仰け反らせたが、彼は魔法をキャンセルしなかった。


「やばっ」


 飛んでくるストーンバレット。

 俺に対して脅威を感じていたのだろう。かなり大きな岩だ。

 魔力が多く込められたものだと一目でわかる。


 瞬時に強化を引き上げ、手甲を前に出した防御姿勢と取りながらも身を捩って回避を試みる。


 八割方避けられたがあと少しが足りずガンッと弾かれ壁に叩きつけられた。

 ガードした片腕がかなり痛いが、強化のお陰か腕も一応動く。

 瞬時に起き上がり再び銃を構えたが、腐っても魔装学院生。撃たれていない奴らは公式の魔装の盾を作りだして身を隠した。


 ああ、そうかよ。これでもダメならもう知らん。

 殺しちまっても知った事か、と大量の魔力を込めてファイアーストームを撃ち出した。


 火の範囲魔法により通路が炎で埋め尽くされ、向こう側から叫び声が聞こえる。

 これで一先ずは危機を脱した。

 そう思った時、炎を割って再びストーンバレットが飛来してくるのが見えた。


 あっ、これはダメだ。

 避けられない。


 自分が放った炎で視界が塞がっていて避けられない距離での視認。

 瞬時に魔装を変形させて軌道上喰らうだろう上半身の装備を厚くするがそれすらも間に合わない。


 着弾し後ろに弾き飛ばされ壁に激突した瞬間、鉄板が倒れた。


 ならば一先ず向こう側に逃げて回復を。

 そう考えて板と共に吹き飛ばされるのに身を任せたが、地面に落ちた衝撃が何時まで経っても来ない。


 急ぎ下を見れば、俺は宙に投げ出されていた。

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