第134話 グランドマスター
総理たちに案内され、足を運んでみれば、もう二階くらいまで建物が完成していた。
それに驚愕しつつも荷物を降ろした場所へと到着した。
そこには大半が俺が置いた状態のままだった。その事に逆に少し安堵していると総理がIDカードみたいな物を出し大きなコンテナに押し当てた。
その後、総理と大臣二人が入口に立つと彼らの足元から光の線が上がって行く。
『キーカードを確認しました。認証を開始します。
認証スキャンが完了致しました。ロックを解除します。どうぞお通り下さい』
コンテナから機械的な音声が聴こえ音も無くコンテナの壁が消える様に開く。
おおう。そこ扉だったんだ。と唖然としていればユリの声がする。
「もう何に驚けばいいのやら、ですね……あっ、ルイには覚えがある事でした」
「いや、俺の時代はこんなにハイテクじゃないから。俺も理解不能で困惑してるよ」
そんな雑談を聞かれたのか、総理が「入口がわからなくしてあるのは防犯上の理由です」と説明を挟んだ。
「マスター権限が無いとはいえ、その状態でも私たちの中で一番価値が高い物ですからね」
「これをこのまま所持していて良いってのが地上に出る事を決意する根源だったしな」
砕けた感じに牧島陸将が言うと高木さんが彼を睨みつけた。
怖い怖いと距離を取る陸将。
それを見ていた総理が「キミたち、王子殿下をお待たせする程のことではありませんよ」と窘めながらもこちらに向いた。
「中に入られる際、DNA、記憶、思考パターンにスキャンが行われますが構いませんか?」
うお、まさか記憶とかも見れるのか!?
べ、別にやましい事はしてないけど……ちょっと怖いな。
「ああ、先に説明をしなければなりませんでした。当然スキャンした内容に関しては完全にロックされております。
マスターの更に上の権限を持つグランドマスター権限が無ければ見る事は叶いません。
そして、グランドマスターはこの星に来る前から不在ですので解除する方法はありません」
彼はその上で「もしそれでもご不快でしたら少しお時間を頂きたい。認証システムを落とすには手順がとても多いのです」とこちらを伺う。
まあ彼らも受けている認証だし別にいいか、とユリに視線を向ける。
「ちょ、ちょっと恥ずかしいですが、人に見られる訳じゃないなら……」と赤い顔でこちらを見上げる。
その上目遣いはまるで可愛さの権化と言うべきものだった。
ああ、俺の彼女の愛らしさよ。
そんな事を考えつつもユリの手を引いて開いた扉の前に立つと、再び音声が流れ光の線が足から上に上がって行く。
そして、俺にだけ光が再び上から降りていく。
その様に東京勢力の人たちも「えっ」と声を上げた。
な、何、なんかおかしいの!?
そう思いながらも困惑して突っ立っていれば再び機械の音声が流れる。
『スキャンの末、ルイ・フォン・ベルファスト様に資格保持の可能性が見受けられました。
グランドマスター権限、移譲資格者テストを開始致します。
DNA、記憶、思考パターンデータ参照中……資格条件一致率四十五パーセント、不適合。
特別該当パターンを参照します。
記憶データに移植の跡が見受けられ人格移植者と認定しました。
ルイ・フォン・ベルファスト様が日本人であることを認め、過去の日本人データを参照。
該当者一名。一致しました。
DNA不一致を削除し現グランドマスターの系譜であると認定します。
それにより一致率が七十八パーセントに上昇します。
規定数値の七十パーセントを満たしました。
現グランドマスターが五十年以上の間音信不通の為、ルイ・フォン・ベルファスト様に継承資格が与えられます。
グランドマスター権限の引継ぎを行いますか?』
は……?
いやいや、は?
確かに俺には日本の記憶もあるが年代が違い過ぎだろ……
てか、何? 製作者は俺の子孫的な?
待て待て。俺は独身だったし子供も作って無いんだけど?
もしかして、兄弟の子孫とかでもあり的な感じ?
そんな混乱一杯のまま周囲を見渡せば彼らは俺以上に驚愕していた。
一番平常を保っているのはどうしたのですかとオロオロしているユリちゃんだったくらいに。
でもまあ、どっちにしても俺が引き継いでいいものじゃないよな。彼らの物なんだし。
ならば今はしないって答えてこの話は後で彼らと相談すればいいだろう。
「えっと、引継ぎは今はしなくても『おっ!! お待ちくださいっ!!』えっ……!?」
とりあえず保留を伝えようしたら、凄い形相で総理がこちらへ大声を上げた。
「お、お願い致します! どうか、どうかお受けください!
そして願わくば我らにマスター権限を与えて頂きたく!!」
あっ、そうか。グランドマスターならマスター権限を与えられるのか。
「あ、別にいいですよ。これを受けて総理をマスターに任命すればいいんですね?」
コクコクと頷く麻生総理。
まるで緊張した子供がとりあえずで首を縦に振っている感じで少し滑稽だ。
しかし、マスター権限が返ってくると考えれば箱舟を保持している彼らにとってはとんでも無い事だな。
まあ、返ってくると言っても遠い先祖の話らしいが。
おっと、とりあえず受けるって言わないとな。
流石に時間制限なんてものは無いだろうが、三人から切実な視線を向けられ続けているし。
「じゃあ権限の委譲を受けます」
『畏まりました。これよりルイ様がシップ箱舟のグランドマスターとなります。
グランドマスターパスを作成します。完了しました。
船へのリンクを確認します。エラー。七機中二機のみの稼働を確認。本船へもアクセス不能。
共有データ参照により本船と四号機の消失を確認――――――――』
何やら色々な事を行っている様子。
その中で気になる言葉があった。二つはこの箱舟とやらが稼働状態にあるという事だ。
もしかして誰かが使っているんだろうか……
いや、エネルギーは自動生成した上に自動修復するって言ってたから人の手を離れ放置されている可能性もあるか?
などと思いながらも待っていれば準備が整った様子。
『権限移譲、完了致しました。ご用命の際はこの私メイにお申し付け下さい』
「あっ、じゃあ早速だけど、麻生総理をマスター任命したいんだけど出来る?」
『データ参照。人格テストクリア。グランドマスターへの敵意無し。問題御座いません。
今すぐ任命致しますか?』
「じゃあ、お願い」と答えればその場で麻生総理がマスターに任命された。
「あ、ああ……なんという事だ……
こんなにもあっさりと地上に出て、マスタ―権限まで得られるなんて……
ルイ殿下、元より友好をと思っておりましたが、私は何もかもを与えてくれた貴方に忠誠を誓いたい。心よりそう思ってしまいました」
そう言って彼は何故か膝を付き頭を垂れた。
えっ、マジで。とユリちゃんに本当にこの忠誠を受け取って良いのだろうかと視線を向ければ、彼女は総理を『あなた、見どころがありますね』という顔で見ていた。
それを見て今は相談するべき相手じゃない気がして開きかけていた口を閉ざした。
致し方ないと一歩前に出て膝を付き頭を下げ続けている総理を止めに入る。
「ちょっと待って下さい。そ、そういうのはいいですから。恐縮しちゃうんで!
さっきの感じでこのまま普通に仲良くやりましょうよ」
「ありがとうございます。そんな貴方だからこそ、私はお力になりたい」
ええ……総理が王子に忠誠を誓うなんて言っちゃっていいの?
ダメじゃない?
あれ、でもうちの国の住人になったのだからいいのか……?
これ大丈夫なの、と高木さんたちに視線を向ければ彼女は頭を抱えていた。
しかし、牧島さんはもうすっかり混乱から立ち直っている様子で声を上げる。
「ルイ殿下、そんな困ったお顔はなさいませんな。
ベルファストの一勢力として次期国王に忠誠を誓うのは当然でありましょう」
そう言われれば違和感は無いのだけど民意ってものがあるじゃない、と高木さんに視線を向ける。
「そう、ですわね。
公式に発表する訳ではありませんし、私も正直ルイ王太子殿下なら安心だと思っております。
それでも総理個人で勝手に決めた事にはとても憤っていますけど!」
と、麻生総理をギロリと睨む。
「ははは、こればかりは仕方が無い。心の底より思ってしまったのですから」
「だとしても! 帰って相談してからです! お立場を考えてください!」
「もぉぉ」と年甲斐も無く少女の様にむくれる高木さん。
そんな失礼な事を思った所為か彼女の視線がこちらを向き、俺はビクッと震えた。
く、口に出して無いよな?
大丈夫だよな、と自問自答を繰り返す。
「殿下、色々申してはしまいましたが私も総理と気持ちは同じです。
あなたは我らを救い与え庇護してくれています。そのお心に違わぬ様、私も精神誠意尽くします」
と、彼女までもが膝を付く。
バレた訳では無い事には安堵したが、そういうのは困る。
「わ、わかりました。わかりましたから!
そうされてると多分俺がお爺ちゃんに怒られるんだってば!」
そう理由を付ければ彼らは笑いながら立ち上がり、麻生総理から直通のコールを出来る超ハイテクスマホみたいな物を貰った。
と言っても高木さんが使っていたスティックタイプの物ですらなく、小さなピンバッジだ。
音声認識でキーワードを決めて起動させるタイプらしい。
言葉に出すだけで自由に検索も電話も出来る様だ。
それの説明を受け、一通り試した後話が戻った。
「そういえば、宇宙船を見に来たのでしたね。
今なら宇宙へ航行すら可能ですよ。如何為さいますか?」
「お、おお。えっ、でもこのコンテナで?」
そう問い返せば『シップへの形態変化を行いますか』と頭に直接声が響いた。
「えっ、なんでさっきとは違い直接頭に?」と声に出せば皆は首を傾げた。
『情報漏洩防止の為、パスの作成を行いました。心の中で私の名を呼び命令すると仰って下さった後であれば思考するだけで命を実行することも可能です』
ああ、なるほど。人に伝えたくない命令とかもありそうだもんね。
「まあでも飛ぶのはいいや。今から宇宙に行くわけにもいかんし。
それよりも気になるのは他の稼働している船なんだけど……どこにあるとかわかる?」
あ、これは皆にも聞かせてくれる?
と、問いかければ箱舟メイは再び機械の音声で言葉を発した。
座標と方角を伝えた後、衛星写真の様な地図が空中に浮かびあがった。
そしてシップのある場所が指示される。一つは帝国。もう一つは帝国の北にある国だ。
「うげ、やっぱり帝国じゃん……」
「あっ、それなら私でもわかります。北方教会、ですよね?」
「うん。十中八九そうだろうなぁ」
神にお言葉を貰っているって言っている時かなり自信満々だったし、実際北方教会の奴らから神と崇められてもおかしくないレベルの技術を持ってるからな。
どうしたもんかね。と困った様子を見せて居れば、東京勢力の彼らから事情を聞かせて欲しいと頼まれた。
「そ、それは……なるほど。大阪勢力の生き残りの可能性は高いですね。
しかし、グランドマスターである殿下であれば事は簡単かと」
「あー、そうか。与えられるんだからマスター権限剥奪も出来るのか。
けどなぁ、悪さしている北方教会はどうでもいいとして、大阪勢力の人たちがこちらに敵意を向けていなかった場合、めちゃくちゃ感じ悪くない?」
そう、うちに矛先を向けている事に一切関係が無かった場合、権力による一方的な弾圧となる。
先ずは聖典関連でそちらの信者からこういう迷惑を被っていますと話しておきたい。
敵意が無いのであればそれで話は済むだろうし、あるならこちらも容赦する必要が無い。
「あっちのマスターと話をすることとかってできるのかな?」
『勿論可能です。仮に向こうが拒否しても強制的につなげる事が出来ます。
二号機と五号機へ通信を繋げますか?』
「待って待って! 俺一人じゃ無理! 相談してからにするから待って!」
俺の返答にうんうんと頷き、したり顔を総理に見せる高木さん。
これをするべきなのですよと。
そんな最中『畏まりました。では相談前にお伝えしておきます。リンクはどちらからも拒絶されました。拒絶がこのままであれば繋ぐ時は強制リンクとなります』とメイが言う。
マジかよ。
余計に後にして貰ってよかったわ。
と、面倒さに頬が引き攣りながらも安堵した。
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