第135話 何でも出来るAI
あの後、お爺ちゃんに相談してみると、事が大きすぎるので時間があるのならばベルファストにて会議を行ってからにしたいと言われた。
様々な話の流れを想定してから望みたいという事らしい。
流石のファストール公爵もこればかりはどうしていいかわからない様子だった。
そんなお爺ちゃんをベルファストに送る話になったのだが、その役目を東京の人たちが買って出てくれた。
おお、そうか。
これからは俺が送迎しなくても乗り物があるんだ!
と、何でも俺が出て行かなくても済む状況になったことに歓喜した。
「よかったですねぇ。私もルイの自由が確保されて嬉しいです」
「ああ。まだごたごたは続きそうだけど、早く終わらせてまた遊びに行こうな」
「はいっ!」
ならば早速今日は雑用関連を済ませてしまおうと、うちの技術者を集めた。
そう、向こうの技術者との引き合わせだ。
派遣してくれるそうなのでこちらに来てくれる筈だと伝え、東京区域へとお迎えに向かった。
するともう建物の大半は完成していて、地下で見た国会議事堂もそのままに存在した。
中に入ると流石に殺風景な状態ではあったが、受付に人は居たので用向きを話す。
するとすぐに桂さんが走ってきて技術者の所まで案内を行ってくれた。
「おお、待っていたぞ。貴殿が王子か。早く連れて行ってくれ!
流石に地上は素材の宝庫だろう? 待ち遠しくて仕方が無いのだよ!」
桂さんが俺の紹介を行った直後彼はそのままそう言った。
そんな彼に「失礼だろう! お許しを貰っているとはいえ、せめて名乗りを上げ頭を下げた後にしろ!」と桂さんが怒り、彼はそれに従う。
「月根湊と言う。沢山の素材を持つという王子には是非宜しく頼みたい」
「お、おう。それは良いけどうちの技術者への指南も忘れないでくれよ?」
「それはレベルにも寄る……低すぎれば私の研究には付いて来れないのだ」
いや、だからそのレベルを引き上げる授業を頼んでるんだよ!
お前の研究の助手じゃねぇよ?
と、桂さんに視線を向けた。
「申し訳ございません。もう一人は真面なのでもう少々お待ちいただきたい」
話を聞けば彼ともう一人女性が来てくれるそうで、今急いで準備してくれているそうだ。
一応今日とは言っていたけど時間の指定もしておけばよかったか。
そんな事を思っていればパタパタと走る音が聴こえてきた。
「すみません。お待たせしました。ってまさか、王子様!?
も、もうこちらにいらっしゃるとは。
失礼しました! 本日よりそちらにお伺いすることになった秋田なつみです!」
ぴちっと気を付けして丁寧な所作で頭を下げた彼女。
佇まいもだらしなさは見受けられない。
その姿に桂さんも安堵の顔を見せている。
「時間の指定も無く勝手に来たんですからお気になさらず。
それよりもうちの技術者の育成、宜しくお願いしますね」
「はい! プランは考えて参りましたのでお任せください。
とは申しましても暫くはAIとの授業となりますが……」
彼女は恐らくは年単位で、と続けた。
年単位か……それはそうだよな。
彼らも子供の頃から何年も授業を受けているのだからうちの奴らもそれをやらないと同じ土俵には立てないよな。
まあ、逆にそれができればうちにもあの科学力が……
そう考えていると隣でユリが驚いた様子を見せていた。
そんな彼女に何か気になるなら聞いてみればと伝える。
「宜しいのですか? そちらの知識を頂いてしまっても……」
「ははは、こちらは既に色々と頂いている身ですからそのくらいは……
とは申しましても教育課程の物だけですよ。製品に携わる物は分けてありますので」
教育、か……AIがやってくれるなら道徳関係を充実させればミルドラドの民度を高くすることにも使えそうだな。
まあ教育関連が国の明日を創る重要なものだという事はわかるし、俺が勝手にやる訳にはいかないからいつもの様に親父にその提案をしたら投げるが。
そうして顔合わせが終わり今度は彼らをうちのお屋敷にご招待。
既に待機させていた職人勢代表が待つ応接間へ。
さあ、面倒な時間がやってきた。
絶対、第三の奴らがうざ絡みするぞと身構えた。
案の定、挨拶もそこそこに重力発電設備の話になり、立て続けに質問が飛ぶ。
それに最初は秋田さんが丁寧に答えていたのだが、彼らのどうにか自分の手も入れたいと提案する内容に興味をひかれた月根さんも話に入りなんだかんだ盛り上がっていた。
「ちっ、勿体無い! 君たちはすぐにでもAIの授業過程に移るべきだ!
学び知識を蓄えれば十分私の元で働ける人材だよ!」
「はぁ? 確かに僕が基礎を学ばなければ勿体無いと言うのはわかるよ?
けど、それならば先頭に立つのは僕だよね?」
「はっはっは、いいぞ。そういう気概も新しく何かを生み出す者には必要なものだ。
しかし、それは成したことの大きさがものを言わすのだよ。まだ君には早いな」
月根さんは割と大人な対応で言葉を躱し、険の無い空気で話が進んだ。
「じゃあ、護衛に兵を一人付けるから、後は任せてもいいかな?」
十分打ち解けた様子なので後は技術者の護衛に人を付けるだけで十分だろうとミズキたちに声を掛けた。
「そう、ね。私たちには不安な点は見当たらないわ。
ああ、そう言えばカイさんが探していたわよ」
「どうせ再生の魔道具の件だろ。
やっぱりあれは俺たちの発明なだけあって唯一無二の物だからな」
ミズキとイチロウからの声を聴き「了解、じゃあ後は任せた」とユリを連れて部屋を出る。
じゃあ今度は帝国民の区域だな、と飛び立とうとすると後ろから呼ばれる声がして魔装を消した。
「漸く見つかりました。殿下、帝国移民の区域の事であれば一言くださいよ!
何ですか、あの建物は!」
と、困惑した顔で声を上げるカイ。
「いや、帝国民にも住居が必要だろ? だから用意して貰ったんだよ。
昨日の今日の話で言ってなかったのは悪かったけど、良い事だろ?」
「で、ですがあのような巨大な建物何処から……」
建物についてはイグナートが東京勢の物だと知っていた筈だけど、と返したのだが、そういう事ではないらしい。
「まあ、一時的な住居としてでも良いから使ってみなよ。慣れれば快適なはずだからさ」
「えっ、ちょっと待って下さい。全部うちの民の住居として使っていいものなんですか?」
「まあ、余ってる分も全部独占とか言わなきゃいいから好きに使えよ」
どうやら相当焦っていたのか、話をちゃんと聞いていなかったらしい。
帝国民の住まいとして用意したことが伝わると彼は「失礼しました」と頭を下げた。
住民たちに『ここがお前たちの区域だ』と告げた次の日だった為、確認するとイグナートが説明し、カイが走って来たそうだ。
「そういう事なら一緒に行くか。それで再生の魔道具はどうなの?」
「あ、はい。魔力もそう使いませんし、もう何度見ても素晴らしいの一言です。
軍人としても喉から手が出る程に欲しい一品ですね」
ほぉ。それは重畳。
「どのくらいの期間貸し出してればいい?」
「そう……ですね……今のペースなら夜も使わせれば四日程度で大半が完治するでしょう」
「んじゃ、一週間でいいか。それでも治らなかった奴は俺が無理やり治すわ」
うん。魔力量が倍になったお陰で補充量が物すっごい増えたし。
いつもは半分以上使った残りをという感じだったが、その残りと別に一日分フルで余る訳だからな。
だが、一週間もあれば完治も余裕でしょうと彼は言う。
「あっ……カイから確認が取れちゃったわけだし、もう俺が行く必要は無いのか……」
「それならばルイ、是非ともブラッディベアーの討伐に行きましょう! ね?」
少し切実な視線を向けて言うユリ。
硬化症の心配をしてくれているのだろう。
時間に余裕がある病気だし、そもそも大丈夫な範囲内の筈だから平気だが、やっておくに越したことは無い。
それで彼女の不安が晴れるなら尚更だと「じゃあ、そっちに行くか」と返したのだが、その時一つの効率強化方法が頭に浮かんだ。
それは……東京勢力の技術で自動迎撃が出来るなら自動で照準を付けて貰えないかということだ。
物は試しで箱舟AIのメイを心の中で呼んでみればすぐに頭に声が響いた。
『可能ですが、現状では素材も設備も足りません。
マイマスターの魔道具をはめ込んで使うタイプでもよろしいですか?』
それを頼んだらどれくらいで出来ると思う?
『マイマスターが想定する程度の大きさであれば、三十分で製造可能です。作成致しますか?』
「えっ、マジで?」と思わず声が漏れた。
箱舟が自動生成してくれるとは思っていなかったし、三十分でなんて余りに早すぎる。
しかし、グランドマスターになったとはいえ彼らの物だから先ずは相談が必要だなと、貰ったピンバッジを早速起動させて総理に電話を掛け要件を伝えた。
『ええ、勿論構いません。その程度でしたらご自由にお使いください。
箱舟を移動させる場合や、大規模な物を作る場合は声を掛けて頂きたいとは思いますが』
「あ、本当ですか。じゃあメイにお願いしちゃいますね」
『受諾致しました。製造を開始します』
電話の受け答えを聞いていたメイが製造を開始した様だ。
それはいいのだが、何故かユリが寂しそうな顔でこちらを見上げている。
どうしたのだろうか、と不安になり通話を足早に終わらせてユリと向きあう。
「どうした?」
「いえ、私にはわからない事ばかりで付いて行けていない事が悲しくて……」
と俯いた彼女。これはいかんと足早に説明をして、メイに音声をユリにも聞こえる様にして欲しいと頼めばすぐにパスを繋げてくれた。
「とまあ、こんな感じに頭の中だけで会話が出来るんだ」
「そういう事でしたか。道理でずっと一緒なのに知らない話ばかり出てくる筈です」
と、納得してくれたことに安堵して、自動照準システムを乗り物ごと作って貰っている事を話した。
「そ、そんな物がそんなに短時間でできるのですか!?」
『可能です。現在、進捗率四十二パーセント』
「うわぁ、歩いて行けば箱舟の所に着く頃には出来てるじゃん……」
そう口に出せばどちらからともなく俺たちは東京区域へと歩き出した。
「もし、俺の想定通りなら魔力を送りながら雑談してるだけで経験値が入りまくる状態になるぞ」
『グランドマスターの思考から読み取っておりますが性能は想定を超えるの物となるでしょう。
記憶データから光魔法の効力を参照した結果、二キロ以内に居る魔物は最高効率で討伐し続ける事が出来ます』
「それは……もうズルの領域ですね。流石ルイです」
ズ、ズルじゃないよ?
いや、ズルかな?
「まあ、でも戦闘技術は上がらんし、それをやるだけでいいってもんでもないけどな」
「そう、ですね。でも今回の目的はルイの硬化症予防ですから効率がいいのは好都合です。
それに、基礎能力が高くなるというのはやっぱり大きいですよ」
うーむ。その大きいアドバンテージを貰って尚ユリに近接では敵わなかったんだよな。
そっちもそろそろ本腰入れてどうにかしたい。
出来るならば俺が前衛ユリが後衛という状況が好ましいが、ユリが前衛特化だから俺が強くなっても絶対に無理な話だ。
ならば、俺も近接戦でユリと渡り合えるくらいになって、共闘する形が一番安心だ。
距離が近ければフォローもすぐに出来るしな。
まあ、先ずそのレベルになるのが大変そうなんだけど……
『早期の戦闘技術向上がお望みでしたら、前回スキャンを行ったユリシア様の戦闘データをインプットなされますか?』
「「えっ?」」
と突然の提案に俺たちは首を傾げた。
ユリは当然意味不明の様子だが、俺には何となく何が言いたいのかわかった。
「それって、記憶として植え付けるって事?」
『はい。感覚は得られませんが、指導を受ける際に効率が上がります』
「記憶を読み取るだけでなく他人にも渡せるのですか……」
うおぉ、超技術やべぇ。
『人格形成にかかわる部分や、プライベート情報の移植は禁止に設定されております。
グランドマスターであれば禁止設定も変えられますが、危険を伴いますので人格形成に大きく関わる部分は推奨はできません』
危険ってと問い返せば、思考パターン系統を弄ると精神異常を引き起こすリスクがあるらしく、地球では法で禁止されていた技術らしい。
「えっ……じゃあ、俺の記憶は誰が移植したんだろう」
『不明です。方法についてはマスターの年代ではデータを残す事も不可能なので恐らくは何かしらの形で保存されていた脳から読み取ったものかと思われます』
「何それこわっ!!」
「脳を保存……ですか。確かに恐ろしいです」
聞くんじゃなかった。自分の話だけに余計怖い。
そんな話をしながらも移動を終えた頃にはもう既に乗り物が完成していた。
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