第133話 ゲームの様にハイテク過ぎるリアル


 空を飛び、第二東京一行と共に村に辿りついた。

 ギリギリ完成した区画の中に降り立ち、総理の号令の後住人たちは俺が出した荷物の中から機械を取り出し散っていく。

 見ていると等間隔に設置している様子だが、何を触るでもなく置いただけで戻ってきていた。


 暫く待っていると「どうやら、もう稼働させられる程度にはエネルギーが溜まったみたいですね」と高木さんが口にする。

 その様に住人達も沸き立っている様子。

 その後、設置された機械が飛び立ち周辺の整備を行い始めた。

 聞けば全自動で建物が出来るらしい。


 何それ。凄すぎて逆にちょっと怖い。


 余りの技術に圧倒されているが、彼らにとっては当たり前の事。

 大臣たちを中心に全員に言い聞かせる様に会議が行われていた。


 一番白熱していたのは、この世界の物質を魔素が含んだまま使う方法だ。

 その為にはこっちの素材で設備を全て作り直す必要がある。

 物によっては設計図もあるから作れる物もあると言う。


 過去に作られたことがあるのだが、自動生成できる物ではなく、コストが高すぎた為お蔵入りとなったのだそうだ。

 しかし、こちらの住人と共に根を張って生きるのであれば絶対に必要な物だと強く主張した大臣が居た。他の者たちも方向性は概ね同意している。

 そうして話は進み、研究チームの発足や自衛隊の警備員増加など人の配置についての話が延々と続く。


 その間にも周辺の整備は終わり、建物の製造に入っていた。

 その事に驚く俺とユリだが、彼らはそれほどに動かしているのにエネルギーが一切減っていない事に驚愕していた。


「おっと、喜んで足を止めては行けませんね。

 お待たせしました殿下。これからそちらにご挨拶に伺わせて頂いても?」


 それに了承の意を返し、麻生総理、高木防衛大臣、牧島陸将の三人を連れてうちのお屋敷に。

 ユリに三人を応接間に案内して貰っている間、俺はお爺ちゃんを呼びにいく。


「も、もう全員がお越しになられたのですか!? 聞いておりませぬぞ!」

「いや、だから一週間後って言ったじゃん」

「そ、そうですが、しかしそれほどの移動となれば実際にはもっと掛かるものと」


 何か拙い面でもあるの、と尋ねたが『そんな事はありませんが……』と言う。

 ただ早すぎて驚いちゃっただけの様だ。ビックリするからやめて欲しい。


 そんなファストール公爵を連れて応接間へ。


「これはこれは、ようこそお出で下さいました。第二東京の方々」


 流石は公爵閣下。

 先ほどの顔色など一切見せず、待ち望んでいたと言うにふさわしい朗らかな笑みを浮かべ彼らを迎える。


「ファストール公爵閣下。この度は、我らの為にこちらに赴いてくださったのだとか。

 ベルファスト王国の寛大なお心に深く感謝するばかりで御座います」

「なんのなんの。皆様方は我が国にとって大恩があるお相手。

 その上で理知的な方々ですからな。この程度、苦では御座いませんぞ」


 と、朗らかな空気で握手を交わし席に着く。

 さて、これから重要な話し合いが始まるのだろう、と思っていたのだが交わす言葉は過去のものばかり。


 あれ、来たばかりなのだから色々確認することがお互いにあるのでは?

 と思い質問を投げかけたが、そこら辺は最初にベルファストへと訪れた時にある程度話を詰めてあるのだとか。

 後は、実際にやってみて起きた問題に迅速に対処するだけらしいのだ。


「ですので一番の不安は地上に湧く魔物ですね。我らの場所を湧かないようにすることは出来るのですが、それをやると他で沸く魔物が強くなってしまいます」


 あー、そうね。

 原理的にそうなるわな。


 町全部を魔素を通さない素材で埋めようにも畑とかもあるしなぁ。

 そんな事をすれば畑にクソ強い魔物が湧くだろう。

 地下をってなったら相当なコストがかかるし、その地下に溜まった魔素はどうなるのって話もある。

 ああ、だから地下で湧かせて魔素濃度で魔物を隔離するダンジョン方式が一番安全なのか。


 んっ、ならダンジョンを作れば良くね?

 と、彼らに提案してみた。


「ええ、勿論お許し頂けるなら作成はしたいと思っておりますが、今我らが持つ設備では時がか掛かり過ぎるのです」


 ああ、地上に出るのも困難な状況だったんだものね。

 そりゃそうか。

 彼らの作ったダンジョンだから簡単に作れるだろうと考えちゃってたわ。

 それは宇宙船の失われた技術の方だったね。


「じゃあ、作ろうか? ダンジョン」

「よ、よろしいのですか!?」


 うん。だってなんか面白そうだし。

 ダンジョンマスターに俺はなる、みたいな感じで。


 それにぶっちゃけここに沸く魔物は平野の中では割と強い方だ。

 ダンジョンがあるのが北側でこっちは南だから仕方ないのだろう。

 と言ってもオルダムの三十階層程度だから俺たちには雑魚だけど、彼らにとっては恐ろしく危険なものだろう。


「魔石を大量に貰ったおかげで魔力も余ってますし、いいですよ。

 ただ、流石に浅い階層のものになりますが」

「な、なるほど。では、どの形なら魔素の流れが狂わないか計算して出させますので宜しくお願いできますか?」


 えっ……流れが狂うとかあるの!?


 と、驚き話を聞けば魔素溜まりは流れが狂って出来るものだと知った。

 その流れで魔物の活性期の話をすれば、長い年月でダンジョンのどこかが自動修復されないレベルで崩落したかして流れに歪が生じたのであろうと言う。

 

 そこら辺もエネルギーを自由に使える今なら簡単に調べられると言うので調査をお任せすることにした。

 その程度、ダンジョンを作って貰う事と比べれば造作もないと恐縮している彼ら。


「あ、じゃあ代わりと言ってはなんですが……」


 と、帝国民の住居も一緒に作れないだろうかと相談してみたら「ええ、その程度でしたら何の問題も無く」と即答で返ってきた。

 彼らもこんな事でお返しになるのなら、と乗り気な様子でどこにどのようにと話を進めた。


「では、折角ですから必要な分だけでなく余裕もって作りましょう。

 流石に魔素抜きには多少時間が掛かりますが稼働さえ続ければ一週間もかかりません」

「それは大変ありがたいお話。ですが無理はされぬよう頼みますぞ。

 そちらの物が全て出来上がった後で、でお願いします」


 無理をさせたくないないお爺ちゃんが、ニコニコとしながらも颯爽と言葉を挟む。


 しかし、その心配は杞憂だ。

 早くお爺ちゃんも見て欲しい。あの超技術を。

 ただ置いておくだけなんだよ?


 勿論、何をどうするのかを指定する必要はあるだろうが、あれほどの技術なら恐らくゲーム感覚の大きな指示で度動いてくれるだろう。

 既にある規格品ならそこまで細かく指示を出さなくてもやってくれると思う。


 だから俺たちが気にする面は彼らの安全だ。それが一番のお返しになるだろう。

 しかし俺が出来る事など強い魔物を倒す程度。三万人をすべての雑魚から守る事に大きく貢献できる筈もない。

 

 まあ、お爺ちゃんがそこら辺はやってくれるらしいから俺はダンジョン作成くらいで良さそうだが。

 それも設計からだそうなのでまだ先の話。


 そうなるとダンジョンを作るまで二十四時間体制で地上に沸く魔物を倒し続けるのか。

 それは流石にきつくない?


 そんな話を出してみれば……


「ええ。仰る通りです。

 ですので建物の中だけは魔素の遮断をさせて頂く許可を既に頂戴しております」

「我らも現状地上に沸く魔物程度ならば侵入防止や撃退はできます。

 ドローンに自動迎撃を常時させるので心配は御座いません。

 お力を貸して頂きたいのは上位種が出現した時だけなのですよ」


 えっ……

 ああ、そうか。エネルギー問題が解消されたんだ。

 いくらでも高出力でぶっ放せるのだから低層の魔物くらいはやれるか。


 そう納得を見せれば牧島陸将が色々と説明してくれた。


「上回る供給量もデータで残っては居たのですが、我らも地上に出るのは初めてですから半信半疑でした。

 しかしこれほど潤沢に使えるのであれば不安はありません」


 なるほど。

 彼らも建築の時にいくら使っても減らないと驚いていたものな。

 五十じゃ足りなそうだと思ってたけど、そういう事であれば十分だ。


 そうして一先ずは挨拶と今後の予定の話が終わり雑談タイムへと入った。

 その時、第三の奴らが設計図について聞かせろと再三言っていたことを思い出す。


「あの、うちの技術者が設計図の見方を教えろとしつこくてですね……

 予てよりお願いしていた技術者の派遣もお願いできませんか?」

「勿論です。その予定でしたので人員の選出も終わっております。

 ご希望であれば今すぐにでも」


 そう返した高木さんだが、表情が少し優れない。

 無理してませんか、と尋ねればどうやら人員に少し不安があるらしい。

 開発研究部門で第一人者ではあるのだが、我が道を行くタイプで気遣いの類は一切できないのだとか。

 悪意を無為に振りまく訳ではないのだが、無礼を働いてしまいそうで不安なのだそうだ。


「ああ、問題ありませんよ。

 俺の周辺は全員平民ですし、俺も元平民ですから皆気楽に接してます」

「殿下……公の場ではなりませんぞ」

「大丈夫、そっちじゃ基本黙ってるつもりだし」


 そう返せばお爺ちゃんは朗らかな笑みを崩し呆れた視線を見せた。

 その様に総理や陸将は微笑みを、高木さんは「お心遣い、痛み入りますわ」と言い、困り顔をしながらも安堵を見せた。


 うん、そうそう。そのくらいの評価でいいのよ俺は。

 そう思っているとユリに何やら不満気な視線を向けられた。


 どうやらもっとちゃんとしろと言いたいらしい。

 うーむ。楽なポジションに居たいのだが……もう少しちゃんとするか?


 そうして雑談タイムも終わりを告げ、第二東京勢力の受け入れが成った。

 正直、手が掛からなすぎて拍子抜けだが、兵士たちも大変な想いをしたばかりだし都合が良い。

 箱舟とか言う超技術を持っている彼らなら雑魚の撃退なんて余裕そうだわな。


 あれ、そういえば宇宙船なんて代物は見てないな。

 俺は持ってきてないぞ?

 運んだ乗り物は殆ど同一の物ばかりだから違うだろうし。


 めっちゃ大切な物だよな、と思い彼らに持って来なくていいのかなと問いかけた。


「ははは、ご心配無く。宇宙船の形態も取れますが普段はボックス状ですから。

 勿論、運んで頂きましたよ。お見せ致しましょうか?」

「えっと、じゃあ折角なので、ハイ。正直気になってました」


 うん。どんな代物なのかは気になる。


「では、会談後にご予定が無ければ参りましょうか」


 と高木さんが言えば、お爺ちゃんが「では皆様は色々とお忙しいでしょうからこれ以上お時間を取らせてはいけませんな。今日のところはこの辺で」と話を切り上げ会談は終了となった。 


 えっ、あっ、忙しいよね。

 別に無理しなくてもいいよ?


 そう思いユリに断った方がいいのだろうか、とぼそぼそと問いかけたが「ルイとの交流こそ彼らの頼みの綱ですから、今更断ってはダメですよ」と注意された。


 確かに今は俺がパイプ役か。

 もうお爺ちゃんも居るとはいえ立場上大きな存在になるわな。

 そういう小めんどくさいのが一番苦手なんだが……


 とはいえ彼らなら大丈夫か。

 今の所接している人たちはいい感じだし、向こうも協力関係を崩せない立場だからな。


 と、ユリと共に彼らについて行き、その箱舟とやらを見せて貰いに再び第二東京区域まで足を運んだ。



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