第39話 討伐祭①



 俺は特に何かするでもなく、次の乗り合い獣車までの二日間、食道楽に走りラズベル内を散策した。

 町の人も穏やかで良い町だ。

 戦争で客が激減しているからか、何処へ行っても暖かく迎えてくれた。

 うん、ここを守る兵士にならなるのもありだな。

 そんな事を思いながらも二日後ラズベルを後にした。


 帰りの便でもキョウコちゃんと一緒になって彼女とずっと話しながらの旅路だった。

 結構仲良くなれて、ダンジョンに一緒に行く約束までしてしまった。


 そうして帰ってきましたオルダムのハンター魔装学院。

 いの一番にラクの所へと赴いて魔力を与えつつ戯れる。

 もう前世ではどう考えても有り得ないくらいの大型犬になってしまったが、大人しく甘えん坊な子なので威圧感は一切ない。

 獣具を借りて、乗せてもらってもラクは嬉しそうに走ってくれる。

 まだ少し止まるのが苦手だ。

 いや、まだお散歩してたいと中々止まってくれない時がある。

 全く可愛い奴だ。

 まあ、試験の時が心配だけども。




 そんなラクとの戯れを終えてヒロキたちに結果報告。

 相変わらずアミの部屋で集まっている様で、そこにお邪魔した。


 新調した俺の真っ黒なコートをヒロキが羨ましがったり、ラズベルの料理屋の話にナオミが食い付いたりと盛り上がりながら話は進む。


「えっ、ラズベルまで行ったのに会えなかったのお前……」


 早速魔法陣を出してやればナオミとヒロキは少し申し分けなさそうな顔で習得の為と真剣に取り掛かり、苦戦しながらも言葉を交わす。


「ああ。体調崩してるらしくてなぁ。

 けど、普通に対応は優しかったぞ。伝言はしっかり伝えてくれるってさ」


 騎士団長も何か認めてくれてたっぽいし。


「ふーん。良かったじゃない。それであんたは卒業までどうすんの?」

「そりゃ、ダンジョン行くよ。兵士に成るならできる限り鍛えて置きたいし」

「そっか。暇なら僕らの手伝いをして欲しかったんだけど……」 


 とアキトが苦笑する。


 猿と恐竜が沸くスパンの間なら別にいいけど。

 ゴーレムの階層は怖いから行くつもりはない。

 そうなるとかなりの沸き待ちがあるだろう。

 キョウコちゃんとの約束もあるし、こいつらにも紹介してみるか?


「今何階層行ってるの?」

「今、漸く十四階層だな。

 アキトが回復できるからもう少し行ってもいいと思うんだけどよ……」


 それを聞いてキョウコちゃんを混ぜるのは難しそうだと考えを改める。

 彼女、実は結構強いのだ。

 十八階層程度までなら一人でも問題ないと言っていた。


「毎日は無理だけど、二日置きくらいなら全然いいぞ?」

「ホントー? 助かるぅ!

 ヒロキがどんどん先に行きたがるんだけど、未知の領域行くの怖いんだよね」

「おい、この中で一番先に行きたがるのはルイだぞ」

「間違いないわね」


 いや、行けるから行ってるだけだ。

 そう言い返す前に別にの話題に切り替わる。


「そう言えば、ルイは討伐祭は出るの?」

「こいつ、昨日居なかったから聞いてないんじゃね?」


 あん? 何それ……


「聞いてない。どんな祭りなんだ?」

「一年はAクラスだけが出れるんだけど、外の魔物を現役ハンターと一緒に狩るイベントらしいぞ」


 へ? いや、外に居る魔物ってそう簡単には出会わないだろ。

 護衛の人だってオルダムとラズベル間の往復で一回から二回程度だって言ってたぞ。

 街道を逸れれば出るのか?

 そんな疑問をぶつける。


「それが、年に一度の活性期なんだってさ。

 昔は恐れられていたけど、ここ数年は死者ゼロらしいからそう怖いもんでもなさそうだぞ」

「へぇ。面白そうだし出ようかな」

「お! ルイが出るなら俺も出るわ。一緒にやろうぜ!」

「僕も出ようかな。その祭りだけは学校に半分取られないみたいだし」


 おお! それはありがたい。

 と言っても出る魔物が三十階層以下じゃそこまで期待できないか。


「いつやるん?」

「ああ、まだはっきりとは決まってないってさ。

 一昨日の話だけど先生は三日後から五日後くらいだろうって言ってたよ」


 早ければ明日ってことか。もうすぐじゃん。


「そんぐれぇ調べとけって話しだよな! 使えねぇ!」


 アキトとナオミが訝しげにヒロキを見る。先生は関係ないだろうと。

 だが、事実を知ってしまった俺はもう彼を責められない。

 かと言ってこの状況では擁護もできないので話を変える。


「ちなみに、何が出るのかはわかってる?」

「ああ。ゴブリンが大量に出るんだってよ」


 おおう。ゴブリンか……

 一気にやる気が失せた。

 まあ、出るって言っちゃったしイベントとして楽しむか。


「ナオミとアミは出ないの?」

「私はパス。偶にはお休み欲しいし」

「私もないわね。ゴブリンの肉は食べられないもの」


 二人は相変わらずの様だ。

 そんな最中ヒロキの方へと目を向ければ、魔方陣が完成していた。


「あっ、ヒロキ、それで多分発動するぞ」

「マジか! 外行くぞ、外!!」


 そうして外で初めてのファイアーボールの試射に。

 だが、出し直した時には形が崩れ、小さな火が噴出しただけに終わる。

 それでもヒロキは飛び上がって喜んだ。

 ナオミを抜かせたと。


「ルイ、今日はもう少し付き合って……」


 流石の彼女も悔しかったのか、その晩、俺は長時間拘束される事と成った。

 それでも習得はもう少しかかりそうだったがナオミの場合は仕方がない。

 今まで習得の為に使った時間は料理中が多かったのだから。


 まあ、でも丁度ユリが想定した期間くらいかな。

 顔を合わせた時に出してた程度だし、負担もそうでもなかったし。

 よかったよかった。


「ちょっと!? 私まだなんだけど!?」

「わかってるって。もうすぐだし頑張ろうな?」

「う、うん。お願いね?」


 そうして帰還報告も終わり、その日は解散した。

 リアーナさんたちにも挨拶しようか迷ったが、時間が時間だし望まれてない感じがするので行かないことにした。

 イベントがあるしその時会うだろうと。


 そして寮の部屋に戻ると、あの花弁が目に入る。

 勿体無いからと寮に持ち帰ったはいいものの、冷蔵庫に入らない分は萎びてしまっている。魔道具の彼女に追加で頼んではいるが、彼女一人でそこまで作れる筈もなく、勿体無い事に成っていた。


 まあ、これはこれであの下層で使うからいいんだけど。

 これがないとガチで命がけだからな。


 あのポーション、どうなったかな。

 喜ばれているといいけど……

 ルーズベルトさんが言うだけ言って去って行っちゃったから百本しか渡せてないし、その程度じゃそれほどでもないか?

 戦時中に沢山怪我人出ただろうし。


 そんな事を願いつつも、無事に帰ってきたことに安堵し眠りに付いた。



 次の日の朝、起きて外に出てみれば何やら人が集まっていた。

 いつもなら受付の中で座っている寮監さんが外で呼びかけを行っている。

 アキトやヒロキの姿が見えて彼らの所に走り寄った。


「どうしたんだ?」

「ああ、やっと来たか。討伐祭の事みたいだな」

「何か、今年は異常に多いんだって。十階層まで行けてる生徒は強制参加らしいよ」


 はぁ? 逆じゃね?

 余裕がないなら生徒を出しちゃダメだろ?

 それ、大丈夫なん?


 そんな疑問を持つが、それに答えてくれるような存在はここには居ない。

 仕方がないので一応念のためとポーションを三十本ほど持ってきた。

 攻撃用魔道具セットも手荷物に入れたままなのでそのまま持っていく。


 その後寮監の指示に従って付いて行けば校門前に集合させられた。


 そこには百人以上の生徒が集められていて見た事もない奴らが一杯居る。 

 恐らく、一年から四年まで全員集まっているのだろう。


 ナオミとアミを見つけて合流できた時には教員の話は始まっていて、黙って耳を傾けた。


「諸君らも聞いていると思うが、今年は数が多い。多すぎる程に。

 なので今年は町総出で対応すると決まった。力を持つ者は全員参加だ。

 だが、諸君らはまだハンターの卵であり経験が乏しい。

 よって一番後方にて受け止めきれず漏れた魔物の駆除となる」


 その教員の言葉を聴いて生徒たちの表情が緩む。

 だが、俺はちっとも笑えなかった。

 町の戦力総出でゴブリンごときを討ち漏らすほどの規模ってどれだけだよ。

 てかそれほどの規模って少し間違うだけで物凄い数漏れるよな?

 おかしなことに成らないといいけど……


 一応、魔力は旅行中溜め続けたからバックパックも合わせてフルである。

 余った分は魔装に変えてあるので魔力に不安は一切ない。

 魔物の強さを聞くに何か起こっても俺は大丈夫だろう。

 だが、他の人たちは本当に大丈夫なのかと不安になる。


 ゴブリンはここのダンジョンでは出ないが、十階層の魔物と同等の難易度だと聞いている。

 引率の教員が四人ほど居るがそこまで強くはないだろう。

 ユリに倒されるくらいだし。

 あれ……今考えるとそれは少しおかしいな。

 流石に戦闘教員の強さが十五階層程度って事はありえない。

 生徒を押さえつける役目もあるのだろうから三十階層くらいは行けるよな?


 ユリは本当はもっと強いのか……?


 そんな事を考えている間に教員の先導が始まり、門を出て外へと歩いていく。

 二時間ほど歩き、立ち止まった所で簡易的な陣の作成が始まる。


 そんな中、後ろから声を掛けられた。


「あっ、ルイさん! 漸く見つけました。帰って早々強制討伐とか災難ですね」


 振り返るとキョウコちゃんの姿が。

 突然の知らない顔にヒロキたちが不思議そうに視線を寄越した。


「ああ、お互いにな。皆、紹介する。

 この子はキョウコちゃんって言ってラズベル行きの時に知り合ったんだ。

 転入生で同じAクラスの仲間だよ」


「別にナンパした訳じゃないぞ」と断りを入れたが、何故か「へぇぇ」とヒロキとアミがニヤニヤと厭らしい視線を向けた。

 そしてナオミが「最低ね」と吐き捨てる様に呟く。


「待て待て待て! 違うって! ねぇ?」

「あはは、私から声を掛けたんですよ。

 護衛の人との会話で学院生って聞こえたもので……」

「あ、そうなんだ。

 てっきりルイ君は浮気症なのかと思ったよ。ユリちゃんが居るのにね」

「いや、付き合ってないならどっちにしてもルイは悪くないだろ」

「ダメよ。人間性がダメ!」


 おい!

 勝手に人を悪人にするなっての!


「そうだ。討伐祭の間、キョウコちゃんもパーティー組まない?」

「いいんですか?」

「いや、キミ強いでしょ。こっちからお願いしたいくらいだよ」


 うん。他の奴はさておき、こいつらには大怪我をして欲しくないから強者は大歓迎だ。

 組む相手はまだ居ないと言っていたから彼女としても安心な筈。


「じゃあ、お願いします」


 組む事が決まると人懐っこいアミと早速仲良くなり、その流れでヒロキとも打ち解けた。

 ナオミやアキトもキョウコちゃんが平民だからか、気兼ねした様子はない。

 このまま彼女がヒロキたちのパーティーに入ってくれれば俺としても安心だ。


 そうして談話している間に簡易的な防壁が完成していた。

 流石魔物の討伐で強くなれる世界。

 簡易的な物でも石造りの囲いでしっかりしたものだ。


「負傷した者はここへと逃げ込めば安全だが、決して無理はするなよ。

 食料は配給だが治療費用は自己負担だからな」


 えっ、治療が自己負担ってマジ?

 それは酷くないか?


 まあ、先生にどうこう言っても始まらないけど。


 そんな疑問だらけの討伐祭がなし崩し的に開催されようとしていた。



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