第121話 再生の魔道具


 奈落の魔物と戦えたことでレベリングに熱が入ってしまった俺は、村に戻った後ユリと二人ブラッディベアー狩りに勤しんできた。


 トンネルが開通しているのでカイとの日程調整はイグナートがやってくれるそうだ。

 イグナートがベルファスト城へと行く件もあるしカイに一度伝えに行かねばならないのだ。

 頻繁に行って大丈夫か、と尋ねたが単独で行動するなら全然問題ないらしい。置いていくナタリアさんの方が心配なのだとか。

 まあ、確かに町の出入りも緩くて特別誰何を受ける様なことも無いしな。

 ちゃんと覆面さえしていれば問題なさそうだ。


 そうしてお昼過ぎに村に戻ってみれば何故か道路が見えた。 

 上空からだとよくわかる。民家を繋ぐ程度の道路は半分近く出来上がっていた。


 えっ、道路ってそんなにすぐには出来ないよね?


「えっ……確かに作るとは言ってたけど、村の周辺だけとはいえ早すぎない?」

「ルイ、あれを見てください」


 ユリが指さした場所に視線を向ければ、変な車がノロノロと走っていた。

 その車が通った後は数十センチ程度地面が削られ綺麗に整えられている。

 よく見てみれば、トンネルを掘る機械の応用でごっそり地面を削り取り収納して、後方に付いているローラーでプレスまでしていた。

 後の工程である土建屋部隊の方も機械化がされていて、コンクリが流されプレスされ水抜き魔法が掛けられていた。

 二台の車が通るだけで道路が出来上がっていく。


「こりゃ、材料さえあれば町と繋ぐのですらすぐだな」

「相当な量が必要ですから簡単にとはいきませんでしょうけど、これほどに早いと圧倒されますね」


 イチロウたちが腕を組んでドヤ顔で工事現場を監督している姿が見えたのでそちらまで足を運んだ。


「お前ら、相変わらず凄いな?」

「何を言っているんだ。これの元凶はお前だろ?」

「そうよねぇ。私たちは応用しただけだもん。まあ、魔導車の方は私たちだけど」

「ああ、わかっていると思うが言っておくよ? スピードは態と抑えているんだ。

 逆にあのゆっくりさを一定で保ち続けさせる方が大変なんだからね!?」


 杖の彼が聞いても居ないのに捲くし立てる様に新型の機械について早口に語る。


 ああ、コンクリ流す方は速度が一定じゃないとダメなのか。

 確かにそこの調整は大変そうだ。


 などと返事を返せば彼は「そうなんだよ。キミはやっぱり話がわかるね」と嬉しそうに頷いた。

 そんな彼らに話は変わるが、と気になっていたことを聞いてみる。

「なあ、回復魔法の魔道具ってなんで無いの?」と。


 そう。最重要と言ってもいいくらいに必要な物だろう。

 回復魔法師を探さなくとも回復ができるのだから。


「そりゃ、理由が二つある。一つは効果の低下だ」

「うん。単純に効果が著しく下がるんだ。それも一割以下のレベルでね」

「あれ、それって純正のミスリル使えるなら話は多少変わるんじゃなかった?」


 最後にミズキがそう言うと二人は顎に手を当てて思考に耽る。


「確か……純正なら五割近くまでは上がる筈」

「でもさ、あれって魔道具化できないじゃないか。もう一つはそこだろ?」

「ああ、何故か回復魔法の光は通さねえからな。あの素材……」


 纏めると、効果が純正のミスリルでも半分に下がるし、魔道具化できないので魔法陣の状態じゃないと使えない。

 要するに効果は低いし法にも触れるから作れないのか。


「そう言えば、回復の魔法陣ってどこが権利持ってんだ?」

「そりゃ当然教会よ。まあ、もうこっちには教会なんて無いけどね」


 となると北方教会が権利を有していることになるんか?

 外国相手だしそこら辺どうなるのかわからんが……


「だが、権利なんて言っても見える様に記す事だけだぞ。

 使える者が魔道具化することに規制は無い」

「いや、だから魔道具化が出来ないんだろ……って待てよ」


 魔法陣が見えなければいいのか。

 光を通すが中が見えない様にすれば良いだけじゃね?


「そんな都合のいい素材があればもう作ってるわよ」

「いやいや鏡とかを使ってさ、魔法陣が見えない様に光を集めたらいけんじゃね?」

「そうか。屈折させれば見えなくすることはできるな。

 まあ、ルイが馬鹿みたいにミスリル持ってきてくれたから出来る話ではあるが」


 イチロウがそれならばと声を上げると、杖の彼が彼の言葉を止めた。


「ちょっと待ってくれ……純正なら増幅機で効果を引っ張れるだろ。

 下がってしまう分を魔力量で引き上げると焼き付き上限はどうなるんだろうか……」


 と言ってミズキの顔を伺う。


「もし、焼き付き上限が通常の魔法の倍率と同じならだけど……

 今想定している大きさで作ったら相当ヤバイもんができるわよ?」


 彼女は目を見開いて杖の彼に頷いて返すと彼は口端を片方吊り上げた。


「ならば作ってやろうじゃないか!! 回復魔道具? そんなちゃちなもんじゃない!

 そう、僕らが作るのは再生の魔道具だ!!」

「と言う訳でこれからルイは制作に付き合え。お前が居ないと真面な部品ができねぇ。

 鏡の様な精密なもんをサクッと作れるのはお前だけだからな」


 言い出した責任を取れとか無理やりな事を言い出して無理やり付き合わさせることになってしまった。

 明日はレスタールの姫様が来るらしいから夜までならと伝えると彼らは俺たちを引っ張り走り出した。


 彼らの雰囲気を見るにどうやら、完成までやるつもりらしい……

 失敗した。

 三日後にベルファストから戻った時に、とでも言えば良かった。


 と思ったのだが、割と単純ですぐに完成してしまった。

 筒の中を反射させて一度屈折させ、細くした先から光を出す形だ。

 効果が弱いと聞いていたが光を集めている為それほど弱くは見えない。


「早かったな。設計の大きさを見た時はどうなるかと思ったけど、まさか数時間で完成するとは思わんかったわ」

「そうですね。ですがそれもこれもルイがポンポン作ってしまうからですけど……」


 などとユリと話していればミズキが首を横に振る。


「馬鹿ね。精密な物を作る時は小さい方が大変なのよ。

 まあ、思った以上に単純な設計で機能してくれたから良かったけど」

「キミたち、何を言っているんだい。ここからが本題なんだってば!」


 どうやらここから増幅機の設置に入るらしい。

 ミズキが「わかってるわよ」とため息を吐く。 

 どうやら、彼の我儘をひたすら聞かされる時間が来たらしい。


「うひひ、限界まで繋ぐよ! ああ、一応魔法陣のスペア作って置いてね」


 どうやら一度焼き付くまでやる様だ。結構な量のミスリルなのだけども……

 そこまで突き詰める必要あるのかとも思うが、帝国の奴らが来たら重宝するだろうから必要経費と考えてもいいか。

 いや、先々を見れば普通に必要だな。最高効率の物があった方がいいわ。

 うん、戦争とかでもかなり入用になるしな。


「よし、どうせなら奮発して二層、三層にしてみるか?」

「そう……だね。効率だけを見るなら大きさを変える方が良さそうな気もするけど、やってみる価値は十分あるね。よし、やろう!」

「ちょっとぉ……いくつ宝石繋げる気よ!? 私が大変なんだけど!?」


 どうやら実際の取り付けの大半が回路専門の彼女が担当するらしく、そんな愚痴をこぼしているが、いざ作業に取り掛かってみれば目は爛々としていた。


「ちっ、俺の仕事が殆どねぇな。ルイ、お前暇なら魔導車乗ってみないか?」

「えっ、もう普通に走るのもあるの!?」

「当たり前だろ。精密素材は全部お前が作ってくれたんだからよ。

 まあ、外装も無い不格好なもんだが……」


 おお、いいねいいね。とノリノリで付いて行ってみたが『座る場所は?』と問いかけたくなるほど不格好なものだった。

 ゴーカートのバギーをもっと簡素にして乗車席を取っ払った感じだ。

 仕方が無いので乗車席は俺が魔装で取り付けてユリと二人わくわくと乗車する。


「足から魔力を送るか、魔石をここに取り付ければ走る。

 後ブレーキはこっちのレバーだ。魔石で動かすなら取り除いてからにしろよ」


 軽い説明を受け終わり、俺は足から魔力を供給した。

 その瞬間、一速でペダルぺた踏み状態の発進がなされた。

 タイヤが空転し、少し進むと地面を噛んで急発進する。


「きゃぁぁぁぁぁ!!」

「おわぁぁぁぁ!!」


 一瞬で軽く五十キロ以上出ていてそのまま魔力を遮断してレバーを引けば、今度はタイヤがロックして車体が暴れる。

 何とか制御しきりすぐに止まれた。本当に一番長い直線の道で良かった……


 俺とユリは深い安堵の息を吐いた後、車を降りてイチロウの所へと詰め寄る。


「お前、あんなのなら先に言えよ!!」

「本当です! ビックリし過ぎて変な声出ちゃったじゃないですか!」

「はは、まあお前らが初乗りだしな。

 流石に簡素に作り過ぎたか。やっぱり最初は段階を踏まねぇとだめだな……」


 こいつ、俺を実験台にしやがったのか……

 イチロウはこちらに構わず「帝国の技術そっくり使うのも癪だな」なんて呟いている。

 その様には流石のユリちゃんもご立腹だ。

 これはガツンと言ってやらねば。


「おいイチロウ、お前今後改めなかったらマジでお前から素材全部取り上げるからな!」

「えっ……ま、待ってくれ。わかった、改める。悪かった」


 全くもう、と遺憾を露わにしつつもブレーキも加減してもロックするからダメだとダメ出しを行っていれば、何故か人が集まってきていた。 

 どうやら、悲鳴やらスリップ音に驚いて出て来たらしい。

 事情を説明しつつも、良い時間なので皆で飯にしないかと誘い、村人皆で夕食を取る事に。

 今回はお屋敷の中での夕食だ。

 驚かせたお詫びにと俺とユリとイチロウでせっせと作り振る舞った。

 まあ、イチロウは料理をしない人なので指示の元、お皿の準備とサラダの盛り付け担当だ。

 今日はユリちゃんのご希望のハンバーグだ。大人数だと大変なので魔装を駆使して大分短縮させ割と短時間で完成した。

 ナオミ特性のタレも作り完璧な出来だ。

 

 そうして全員で食事を取りながらも、明日から二日三日程度村を空ける事や、イグナートたちが村人を連れてくる話、それと今後の給与の話もした。

 一日二日空ける事はしょっちゅうだし、イグナートたちの事はもう既に話し合っている。

 となると彼らの興味は給与の方へと移り変わる。


 だが、値段の設定が難しい。


 元の職場の給与額を聞いたが、帝国だと相場が違い安く針子さんも安すぎた。

 なので俺の手を離れるまでは一律で使わせて欲しいと頼んだ。


 気心の知れた魔道具職人たちは何も問題無いと言わんばかりに「ここじゃお金なんて使う所は無いですし必要と感じませんしね」なんて言うが、だからと言って俺が仕事を頼んでいるのだから払わないくていい物じゃない。

 

「これから使う場所を俺たちで作っていくんだよ。そん時貧乏じゃ困るだろ?」

「はは、そりゃ違いありません」


 その後魔道具職人の通常の月の給与を全員に一律で支払う事を決め、頼んでいた服ができたという事でユリのお洋服のお披露目会を行い、その流れで針子さんへの仕事の依頼が殺到したりと賑わいを見せた。

 奥さんたちに服を買わされた職人勢が「お給与頂けて助かりました」と苦く笑ってた。まあ、元々金は持っている人たちだから冗談だろうけど。


 その後、帝国職人から村の外壁をどのラインに作るかの相談を受けた。

 前もって一度軽く話をしているのだが、帝国民の受け入れを決めちゃったから見直しが必要になってくる。

 そんな話をしたが、だからこそ今のうちにこちらを括っておきたいのだそうだ。


 ああ、そういう理由か。


「じゃあ、作り直すつもりで簡素な作りで行こうか。

 当面自分たちが使う分の三倍程度で余裕持って括ろう」


 それでも千人程度の受け入れは余裕だ。彼らが同じ分取っても土地は十分の一も埋まらないだろう。

 そうして本当に簡易的な木の外壁で囲う事が決まり、明日から動き出すことになりお開きとなった。


 さて、明日はレスタールの姫様とご対面か。

 どうなることやら……


 そんな不安を抱えたまま、村の屋敷にて眠りに就いた。






 ベルファスト王都へ続く道の上、物々しい八人の護衛騎士に守られた獣車が走行している。


「ああ、もう! 急に婚約破棄してベルファストの王子に嫁げなんて横暴だわ!」

「その……心中お察し致しますわ」


 四人の少女が獣車の中、席を同じくしていた。

 姫殿下と専属メイド。侯爵令嬢と専属護衛の四名。


「そうでしょう!?

 ライリーお兄様があんな書状を送りつけてくるなんて思いもしませんでした!

 何故ヘストア侯爵も私が嫁ぐというのに帝国なんかに靡いているのですか!!」


 銀髪で天然の巻き毛を靡かせる勝ち気な美少女は目を吊り上げて怒りを露わにする。

 しかし、その瞳の奥には不安による焦燥を覗かせた。


「あの、もしかしてヘストア侯爵のご子息とは恋仲で……?」

「はっ! あんなのと!? やめて頂戴! ただの政略結婚に決まっているでしょう?

 でもあれよりも酷いかもしれないじゃない!!」


 プリプリと怒りをあらわにする姫に付きそう少女は心の中で『なんで私ここに居るのかしら。ルイさん……飛んだとばっちりですわよ』と一人嘆く。

 そんな続く言葉が無さそうな彼女を見たメイドがレスタールの姫に言葉を返す。


「レナ様、王太子殿下は嫁げと申した訳では御座いません。

 友好を育み婚約の話が通り易くして欲しいと仰せになったのです」

「同じことですわ! 小国ベルファストが私との婚姻を断る筈がありませんもの!

 いいわ。見極めてあげる。詰まらない男なら友好なんてぶち壊してあげるんだから!」


 そう息巻く姫を見た少女は困り顔で口を開いた。


「あの、姫様……えーと、申し上げ難いのですが彼は元々平民育ちでして……」

「ふーん。やっぱり詰まらない男なのね。いいわ、リアーナ。聞かせて頂戴」

「はい。武力の面では同年代では有り得ないほどに突出しています。

 その中でも魔法だけを評価するのであれば国でも有数かと。

 しかしながら礼節や常識の面では残念な部分が目立ちますわ」


 ですので姫様は詰まらない男と思われるかもしれません。と彼女は〆た。


「そんな事はどうでもいいわ! 性格よ! 人間性! どうなの!?」

「えっ、そちらでしたら好い方ですわよ? 女心には疎く、気も利きませんが」

「はい? それで好い方ですの?」

「ええ。仲間想いですので親しくなれば色々とお世話してくれますわ。

 気前も良いですし、何より優しい方ですわ」

「ふ、ふーん。悪い奴じゃないのね。顔は……?」

「そこは好みに寄りますので。

 私はその……カッコいいとも可愛いとも思えますけど……」


 随分と肩入れされた返答に意味深な視線を返されたリアーナは気まずそうに視線を外す。

 その瞬間、獣車が突如急停止した。


「なっ!? 一体何事ですの!?」


 身を投げ出されるほどに急停止に、姫殿下レナの大声が車の中にこだました。

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