第120話 奈落で前衛
あれから堤防作りをひたすらやっていれば二日なんてあっという間だった。
皆が集まって色々考えてくれたお陰で結構いい感じに考えられた物が出来上がった。
しかし、ただの堤防。普通に乗り越える事はできるので魔道具職人たちがその対策を立てているところだ。
魔石を使えば簡単に侵入阻止はできるが今現在、どうにか魔力無しでできないかと議論を交わしている。
そんな最中、俺は再びミズキ特性の使用限界がある光の魔道具を持って帝国の魔道具店へと来ていた。
中に入れば既にカイが待っていて彼はすぐに立ち上がる。
「よぉ、調子はどう?」
「はい、思いの外良くやっていましたが、やはり外への対応が甘かったのでお時間を頂けて助かりました」
カイはあれからずっと対策会議での話し合いか書状を書くかの状態で不眠で対応に当たっていたそうだ。
「お疲れさん。これは必要そうか?」
「あ、あの時の……これを本当に持ち出してよろしいので?」
「まあ前回と同じ制限付きだしな。長時間使えば勝手に壊れる仕組みになってる」
彼はそれに「なるほど」と納得を見せた後、他の懸念事項を説明する。
もしこの地で治療法があると知られれば必ず調査が入り、国から情報の開示を求められた上でこちらの事を調べられるでしょう、と。
「ですので、もし宜しければですが……」と彼は申し訳なさそうな顔で口を開く。
それは、処刑した事にして村で受け入れて貰えないかという話だ。
イグナート家では処刑すると言う話で落ち着いたのだが治るのであれば話は変わる、と。
「ああ、完全に村に移住するってんならいいぞ。住人増えるし丁度いいじゃん」
「本当に、よろしいのですか……?」
「えっ、処刑した事にするんだろ。何か問題ある?」
なんでそんな申し訳なさそうにしているんだと問えば、敵国だという事の他にも流行り病を患った者の受け入れはどうあっても嫌がられるものだと彼は話す。
「まあライリー殿下の件で大丈夫なのわかってるしな。
ああ、でも先に同じものかわからないとダメだな。
魔道具使って効くか試してから、かな」
実際に目に見える形で現れるから完治したかはわかり易い。
「本当に助かります。部下にも感染者が居ましたので……」
そうして話を聞いて行けば、今は関所がある町の外にキャンプ場を作りそこで隔離しているのだそうだ。
「じゃあ、俺がそっち行ってそのまま連れてっちまっていい?」
「いえ、そうして頂けると大変ありがたくはあるのですが、如何せん人数が多くてですね……」
彼が言うには町で聞いた時よりも感染者が大幅に増えていて千を軽く超えると言う。
入ってきたばかりなのになんでまたそんな人数に……と驚きの表情を向けたのだが、感染当初は軽い肌荒れ程度。
しかも接触した所からなので手からが多く、そうなると握手されるだけでも移ってしまうのだそうだ。
うへ、考えていたよりよっぽど恐ろしいな……
まあ、連れて行けるなら人数が多くても構わんけど。
「それとその……傍を離れない親族は如何致しましょう」
「来たいなら一緒に来させればいいんじゃね?
まあ、帰れない事だけは上手く伝えないとならないけども」
「わかりました。では早速キャンプ地へ向かい、私がまとめ役として山脈付近まで連れて行きますので今暫くお時間を下さい」
カイが走り去った後、ユリとどうやって運ぼうかと話し合う。
「全員を治療させて様子を見た後の方が無難ですよね。他の皆さんも困惑するでしょうし」
「まあそうだな。でも治った途端に逃げ出したりしないかな?」
治療した後逃げられるのは正直困る。地元に帰ったら治ったことがバレるし。
人数が多いからなぁ……
「では、一時的にトンネルをこちらにも繋げてしまいますか?」
トンネルの内まで連れて来てしまえば逃亡できない様にするのは簡単だ。
そこで治療すると同時に隔離してから村へ向かうと伝えれば理解も得られるだろうとユリは語る。
「なるほどな。それが無難か。けど、また魔力食うなぁ……」
「そうですね。しかしこれが成れば村として成立する人数になります。
今後は殆ど手を割く必要が無くなるかと」
そっか。千人規模で強化魔法使える奴らが来てくれるんだもんな。
基本的に統治はイグナートに任せりゃ民心もバッチリだろうし、別にいいか。
スライムゼリーの残りも結構あるし、今回は掘るだけだ。
ちゃっちゃとやっちまおう。
そうして村に戻り、先ずは村の住人を集めた。
前もって話して置かなければ不信を招くだろうから呼び寄せる前に話して置くことにしたのだ。
当然、大丈夫なのかと何度も問われた。
なので色々と説明を行う。
魔物が寄生して中から人体を喰らい成長していく病気だが、魔物だけに効く魔法で消滅させてしまえばただ傷跡が残るだけになると。
それでも不安そうな表情は拭えなかったのでその上で最初は区画を分ける事に決めた。
区画を分け、長期にわたって様子を見れるならと彼らも一応の納得を示してくれたので今度はトンネルを掘ることになったのだが、魔力消費をぼやいたらイグナートが「お任せください」とすべてやってくれた。
村の開拓を始めた時からずっと魔力を貯めていたそうで、彼一人で開通まで持って行ってくれた。
トンネルさえ出来てしまえばもう俺の手は必要ないので光魔法の魔道具を渡して連れてくるのも彼に任せる事にした。
「よーし、手が空いたからそろそろ奈落に行くか。親父に報告もしなきゃだしな」
「だ、大丈夫ですかね? 帝国の民を連れて来るなんて言って……」
あっ……
そういえばそうだった。
まあ、完全に移住することを条件にしてるし、向こうでは死人状態になる訳だし?
どちらにしても秘密にしているのが一番ダメだろうからな。
と、オルダムのダンジョンへ行く道すがら、ベルファスト城に寄り親父へ報告を行えば、結構本気で怒られた。
何故、態々敵国から連れてくるのだ。機密をあそこに集めた意味が無いだろうと。
後々民を攫ったなどと言いがかりを付けられたらどうするのだと。
最終的に、情が湧いても帝国の地を再び踏む許可は絶対に出すなと言いつけられた。
「ルイ、お前の行いは人としては正しい。親として誇りに思う部分もある。
しかし長としては間違っている。領主とて長だ。それを念頭に置いて行動してくれ」
「う、うん。わかった」
そうして話が一段落着くと、今度は帝国との停戦協議が近い事を告げられた。
どうやら俺も出席しなければならないらしい。
「それとだな……レスタールの姫君がその日程に合わせてお前に会いにに来るそうだ」
「えっ、それ受けたの……関わらない方が良いんじゃ?」
「流石に友好国相手に正面から突っ撥ねられんからな。城に来れば歓待せねばならん。
ルイも停戦協議に出るから居留守は使えんのだ」
ああ、そういう……
「喧嘩を売るのは論外だが、変に仲良くもなるなよ?」
「普通に世間話して終わりで良いんでしょ?」
「村の事、自分の日程、製造技術、そこら辺は話すなよ?」
なるほど。俺に会いに来るってんだからがっつり警戒しておくべきか。
「それと、イグナート元侯爵と停戦調停前に一度話をして置きたい。連れてこれないか?」
味方に付いてくれたのであれば、帝国の思惑、北方教会の思惑を是非とも聞いて置きたいのだとか。
千人規模をこちらに連れてくるには流石に時間があるだろうから多分大丈夫だろう。
というかイグナートが仲間として認められる方が重要だから、悪いが頼んでこちらを優先して貰おう。
そう考えて親父の問いに「わかった」と頷いて返す。
話が一段落付き、そういえばとシーレンスでの魔物の活性期の話を報告した。
「お前、そっちにまで顔を突っ込んでたのか……半島の端から端だってのに。
空を飛べるってのは凄まじいな。しかし完全に関りを断ったのは偉いぞ。
そのくらいの警戒で丁度いい」
「よかった。それでさ……次はミルドラドらしいじゃん?
もしかしたらこっちも例年の十倍くらい来るかもしれないなって思ってさ」
「そ、そう言われるとそうだな……確かにそうなっても何ら不思議は無い。
悪いが他に無ければ話は一先ず終わりだ。その対策会議を開かねばならなくなった」
親父は一拍置いて他に無いかと目で訴えた。
首を横に振れば傍使いに伝令を頼みつつも立ち上がる。
「レスタールの姫が来るのは三日後だ。それまでには城に戻って置いてくれ」
そう告げると足早に親父は部屋を出て行った。
停戦協議の一日前に姫様が来るのか。
「ユリ、フォロー頼むな?」
「えっ、私が、ですか……!?」
あっ、そう言えばユリは元々コミュ障だったわ。
「うーん、じゃあ適当に自分で何とかするわ。だから隣に居てくれ」
「は、はい……お役に立てずすみません」
「いや、別にちょっと話して終わりだろうし問題無いだろ」
うん、イグナートが良くやるやつをやればいい。
無駄にユリと二人だけの空気を作ってやればあっちも長居し辛いだろうし。
普通に話す分には問題無いしな。
「じゃあ、奈落に行って狩りしようか」と、俺たちは城を出てオルダムのダンジョンへと向かう。
そうしていつもの作業が始まったのだが、今回はユリが近接で戦いたいと言い出した。
それは蜘蛛よりももっと上の階層で小さな恐竜が出る階層でだ。
俺の魔装で包んだエリクサーカプセルを飲んでおくことと俺の判断で止めることを条件に了承して試し狩りが始まる。
慎重に索敵し、一匹だけの状態で戦いが始まった。
俺はレーザーガンを構え常にロックオンしている状態だ。
「では、参ります!」
張り詰めた空気を纏ったユリが剣を構え、向かってきた小型恐竜を迎え撃つ。
先ずは勢いを殺そうと長い剣の剣先で軽く水平に切り払うが、飛び上がり交わしながらも更に距離を詰めてくる。
あれ、地に足を付けてないなら格好の的じゃん……
そう思うと同時にユリの剣が切り返しを行い魔物を捉える。
案外やれんのか?
そう思ったのだが、切り付けた瞬間ユリの魔装剣が弾けた。
「えっ」とユリの声が上がる。
魔装を牙で食い破られたのだ。
「倒すぞ!?」
「いえ、待ってください!!」
そうユリが声を上げた時にはもう既に魔物を打ち抜いていた。
「わるい。もう既に撃ってたわ」
「いえ、確かに仕切り直しをしても良かったので構いません」
そう言ってユリは大きく息を吐く。
「速さは何とかなりそうだったな」
「ええ。あの牙だけは厄介ですが」
確かに、空中で仕掛けた時は取ったと思ったのに凄い速さで食いついてきていた。
だが移動速度は同程度、移動魔法を使えば大幅に勝っている為昔の様に抗えない理不尽さは無い。
エンドレスでブラッディベアー狩りを行った成果だろう。
それをユリも感じたのか「ですが」と言葉を続けた。
「思っていたよりは温いですね。あれなら数匹はいけそうです」
淡々と分析しながら言う彼女の言葉に苦笑する。
奈落に近い階層の魔物を数匹って……
まあ、当分は一対一でやって貰うけども。
「じゃあ、次は俺だな。
魔物なら駆け引きとか殆ど必要無いし、強化上げれば俺でも余裕だろ」
「むぅ、少し心配ですが仕方ありませんね。じゃあ、あーんしてください!」
えっ、と驚きの視線を返したが、再び「あーん!」と言われた通りに口を開けば、口の中に玉を入れられた。
「はいっ、ごっくんっ!」
ニコニコと良い笑顔で言われ、言われた通りに飲みこむ。
これは、と問いかければエリクサーカプセルだと言う。こんな時の為にユリも包める様に練習していたのだそうだ。
自分でも出来るが、なんか嬉しい。
「よし、やるぞぉ!」
と気合を入れて索敵して一体呼び込むのに成功した。
油断はしない。最初から全力全開で行く、と強化全開で移動魔法も使えば魔物はサクッと一刀で両断された。
あれ……全然手ごたえが無い。
こんなもんなのか、と首を傾げるがユリが当然の様に「次、行きましょう」と歩き出した。
「まさか、銃もレーザーガンも無しで一撃なんてな……」
「当然です。身体能力は私より断然上なのですから」
動きも大分良くなりましたと褒められ、気を良くしていたのだがユリもその後当たり前の様に一撃で倒し続けた。
どうやら、最初の一戦は頭部を正面から狙った為に弾かれただけの様だ。
その後、二人で前衛をする形で殲滅するまで狩りが行われたが、一度も掠る事すら無く討伐が完了した。
「次はもう少し降りてみましょう」と言うユリの声に奈落での接近戦を恐れていた俺も思わず頷いた。
近接での討伐を行った為、いつも以上に時間が掛かり丸一日経ってしまったので、ベルファスト城で一泊した後村へと戻った。
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