第129話 千年前の内乱



 彼らを地上に連れてくる算段を考え思いながらも、俺の方の用事も済ませなければと日程の方を尋ねた。

 使節団の人たちには明日ベルファスト王都の様子を見て貰い、夜は歓待をして明後日か明々後日に帰還して頂く流れだとか。


 ならば、と先ずは奈落を三人で一掃し、その後シーレンスに向かいジョージさんたちにキャンセルを伝え、最後に村にイグナートを送り届けた。

 正直イグナートには付き合って欲しいが、彼には帝国民を連れてくるという役割があるのでこれ以上は頼れない。


 新技術の設計図を見せたら質問攻めが止まらず延々とマシンガントークを続ける第三の奴らには奈落のボスを与え「この素材を完全攻略出来たら色々教えてやるよ」と厄介払いの様に投げてきた。

 流石に大きさを見て黙り込んだ三人だが、各々仕事道具を持ってきてゆっくりと検証を始めた。


 次は総理一行を第二東京に返さないと。

 彼らを戻して内部の意見を早々にまとめて貰わなければならない。

 最下層のボスが直ぐに沸く可能性だってあるのだから。


 まあ、雑魚と同じスパンでは出ないと信じたいところだが。


 そうしてユリと二人、再びベルファストへと向かいながらもスライムゼリーを買い集める。

 穴を空けるなら沸き防止の為に大量に必要だと、これでもかと言わんばかりに買いあさりながら城へと戻った。


 そして使節団を連れて奈落へ。

 

 猿の階層から下は一掃してあるので第二東京へはすぐに着いた。

 面倒なので国会議事堂まで飛んで送ればそこには結構な人数が集まっていた。

 ぞろぞろと中へと入っていく人々。


 使節団の人に尋ねれば説明会が行われるのだとか。

 間に合って良かったと総理は足早に中へと入っていく。


「しかし驚いたわ。

 フォン君とは最後まで良好な関係だったとは記してあったけど、あそこまで私たちに感謝を示して頂けるなんて思ってもみなかったわ……」


 彼女、高木防衛大臣は気楽に接して欲しいという要望を聞き入れてくれて、砕けた感じで会話ができるようになっていた。


「うちの初代国王ってやっぱりこちらでの生まれなのですか?」

「ええ。一人だけ居たんです。現地人女性と子を成せた日本人が」


 本来であれば、男女問わず生まれる前に硬化症で死ぬらしい。

 しかし女性が良かったのか男性が良かったのか、万に届く死亡報告の中、唯一出生まで漕ぎつけた者が居た。

 その最初の子がベルファストの創設者フォンデール王らしい。


「ここまでたどり着いた人がベルファストの方で本当に良かったわ。

 ベルク君やミルド君とは険悪だったみたいだし」


 べるくにみるど? 

 それはまるでベルクードとミルドラドの様な……


「でもまさか、五人全員が王様になっているとはねぇ」


 と、少し浮かれた様子の彼女はほのぼのと口にする。

 マジか。マジだったよ。

 どんだけ凄い血筋だよ。

 いや、日本の技術力に目を付けられ担ぎ上げられたって可能性もあるが。

 彼女に「親父にその話は……」と尋ねれば、先日の夕食時にその話で盛り上がったらしい。

 

 俺にも聞かせて欲しいと頼めば彼女は快く話してくれた。


 彼女たちの先祖は地球からとても長い時を掛け宇宙を渡ってきて、この星に降り立ち国を築いたと言う。

 当時はダンジョンなど無く凶悪な魔物が所狭しと闊歩する世界。

 しかしその当時は日本側も抗う術を持っていた。

 宇宙船の本船には超高火力の武器が積んであり、エネルギーも地上であればいくらでも生成できた。

 聞けばその高火力の兵器、本来であれば星すら破壊できる威力を出せるらしい。

 だがそれは普通の星の話。

 魔力に守られたこの星では万分の一の威力も出ず、数百メートル規模のクレーターを作るのが背一杯だったのだとか。

 それでも地上の魔物の大半は殲滅可能であり、周辺全てを殲滅し地上での生存権を手に入れた。

 しかし地上は魔物が常にわき出てくる世界。

 とても人が安全に暮らせる土地ではなかった。

 なので空中に都市を作ったそうだ。

 それが現在まで書物に残っている神の園なのだろうと彼女は言う。


 え……ずっと浮かし続けられるの?

 なんて驚愕しつつも話は進んでいく。


 その後、魔素の存在が明らかとなり、地上にも手を伸ばしたかった地球人は魔素の低い地を探して神の園ごと移動を続け、海を渡り大陸を渡った。


 そして、とうとうこの地へと辿りついた。


 そこで初めて人間を見つけた。

 魔力を持っているという差異はあるものの、外見上は髪の色が違う程度のものだった。

 しかしきわめて原始的な生活をしている、まだ文明が未発達な者たち。

 そんな彼らと何とか友好関係を築き、言語や最低限の技術を与えた。

 勿論、無償で奉仕という訳ではない。魔素や魔力というものを理解する為に現地人の協力は必要不可欠であったのだ。


 その後、その地でダンジョンを作り上げ、地上に殆ど魔物が発生しない状態を作り漸く彼らは浮かせていた都市を着陸させ地に足を付けた。

 数百年は友好的な関係が続いたと言う。

 だが、長い年月で基礎的な身体能力が低く成長もしないと言う事実を知られ、とうとう力を付けた現地人が攻めてくるという事態に至った。


 地球の技術力を奪おうと。


 しかし、地上の魔物を殲滅できる程の力を持つ彼らに敵う筈もなく、地球人の圧勝に終わる。

 それは敵味方共に死者を出さずに終わらせられた程に。

 故に彼らはあれこれと無理やりに理由を付けて、関係をやり直しましょうと穏便に終わらせた。


 彼らは余りに稚拙な攻撃しか出来なかった現地人を甘く見過ぎていた。

 力で勝てないとわかった現地人は内部に入り込もうと女性を送り込み男性を誘惑する、という作戦に出た。

 既に子供が出来ないのはわかっていたが、こちら側の勢力が作れればいいと。

 そうして成功した女性たちがその家族を呼び入り込み、根を張るという工作活動を続けた。


 当然、日本政府はその工作活動に激怒した。

 しかし、表向きは仲良くやっていた事により現地人を庇う者は大勢いて排除するまでには至らない。

 そんな歪な関係は続き、段々と国が割れて行った。


 入り込み根を張った現地人にも職の自由を、投票権を、と取り込まれた人たちが騒ぎ出したことで事態は加速する。


 そうしてとうとう、軍内部まで浸食され日本対日本の戦争が起こってしまった。

 その戦いにより、この一番の頼りの綱であった本船が失われた。

 だと言うのに始まってしまった戦いは終わらない。


 その戦争の最中に誕生したのがうちの初代たち。


 しっかりと魔力を持って生まれた初代たちは日本人たちの中で奪い合いになった。

 この世界に適合した次世代の日本人として。


 彼らが居ればもう戦いは必要ない。


 と言いながら戦い奪い合うという事態が続いた。

 

「私たちのご先祖さま、つまりはベルファストの地に住みフォン君を育てた第二東京勢力は、こんな戦いは馬鹿げていると早々に地下に避難したのよ」


 うん?

 ならば、収まった頃に出てこれたのでは?

 そう思ったが、話しには続きがあった。


 幼きフォンデール王を連れて地下に引っ込み、地上をドローンで監視しながら時を待った彼ら。

 そして、戦いは大阪勢力が勝利し広大なベルクードの地で国を築こうとした。

 しかし、その時には余りに現地人が内部に入り込み過ぎていて、ベルク君を筆頭に立てクーデターが起こり結果的に乗っ取られたのだとか。

 東京勢がせめてハイテクな設備だけはと地下からドローンを動かし攻撃を仕掛け恐らくほぼすべての技術を死守できたのだそうだ。

 大阪府勢力も離脱する前にデータや施設の大半は爆破していったので後始末程度だったそうだが。


「ちなみにレスタールは?」

「ああ、レスタ君ね。彼は優秀だったそうよ。

 日本政府の紐付きで現地人を纏めて戦いを終結させようとダブルスパイの様な事をしていたみたい」


 ミルド君は性欲旺盛なガキ大将的存在だったらしく、あっちこっちで好き放題して逃げだしていたのだとか。

 じゃあベルクも、と思っていたが彼は予想外にも良い子だったそうだ。

 流されやすくはあるものの聞き分けが良く利発だったそうだ。

 ただ、何故かフォン君とは犬猿の仲であり、その流れで東京勢力にも良くない感情を持っていたのだとか。

 俺が気になっているそぶりを見たからか、当時の映像を見せてくれた。

 確かに、笑顔を振りまいて好感の持てる様そうしている。

 逆にミルド君は見るからに性質が悪そうだ。何をするにも威嚇から入っている様に見える。

 レスタ君は優秀なのだろうが見てるとちょっと怖い。もうポーカーフェイスを使っている様に見受けられた。

 うちの初代は……普通な感じだ。

 顔立ちは良いが、若干間抜けそうな顔をしている。


「ちょっとルイに似ていますね?」

「はっ? 噓でしょ!? いやいや、無いから」


 と、ユリの茶化しを流して映像に集中する。

 そうして最後まで見たが、やっぱりベルク君は悪そうなやつには見えなかった。


 現世の皇帝とは大違いだな。いや、しらんけど。

 まあ病気の死にそうな女性で遊ばせろなんて言うのだからクズ野郎なのは間違いない。


「あれ、でもそれならなおさら地上に戻れたんじゃ?」


 ベルクードとは敵対関係だろうから危険だが、兵器も処分したのなら初代が国を作っている場所なら安全だったのでは、と。


「あー……うん。そうなんだけどね。

 こっちはこっちでご先祖様がやらかしてるの……」


 と彼女は少し苦い顔を見せた。

 どうやら、いつ地上へと戻るかで揉めた、というか争いになってしまったそうだ。

 戦争に次ぐ戦争で疲弊していたと言うのに、地下の閉塞空間に閉じ込められ、相当に鬱憤が溜まっている状況だったのだとか。


 一刻も早く地上に戻りたい勢。

 せめてハイテク兵器が失われている事を完全に確認してからにするべきと言う慎重勢。

 必要な物は揃っているのだしもうここで良いんじゃないかと争いに疲れ果てた勢に分かれた。


 幸い大規模な戦闘行為は無かったが、地上に戻りたい人たちに宇宙船の子機を奪われてしまったのだそうだ。

 そして、不幸にも地上への移動は失敗した。

 出てすぐの所に居た巨人に襲われ全滅したそうだ。

 今までずっと何も居なかった空間だったから油断していたのだろうと言う。

 そいつは小型船の全力攻撃すらも軽く耐えたそうだ。


 って、あいつね。

 うん。生きてたらもっと硬いのだろうし確かに軽く耐えそう。

 しかしやっぱり暫く沸かないのは間違いないな。


 その後、残った第二東京の人たちは無人機により何とか小型船は回収できた。

 かなりの損傷を受けていたがブラックボックスは無事で自動修復機能が働いていたので直ぐに修復された。

 ブラックボックスの技術は失われていて直せないので不幸中の幸いだった。


 しかし、上を目指した者たちがマスター権限をロックしていたことで事態が急変した。

 そのロック解除にはいくつかの手法があるがどれも現状不可能なものだった。

 グランドマスター、マスター、もしくは全サブマスターによる権限の移行。

 本船もしくは他の小型船による操作。

 ブラックボックス内部に直接特別なブログラムを流し込む。


 外にもまだあるらしいがどれも到底不可能なものばかり。

 

 そうなると、最新鋭技術による高効率なエネルギ―生成がいずれ出来なくなる。

 当時予備を含め四十台あった設備は、稼働台数を制限して扱ったものの長い年月を掛け経年劣化により壊れていきとうとう前時代的なバイオエネルギーに頼らざるを得ない状況下に陥った。


「その間、どうにか地上に出ようと様々な試みが行われたわ。

 一応一切の贅沢を捨てて回せるエネルギーを全て穴掘りに当てれば一世紀と立たずに行ける目算は立つの。

 けどね、仮に出られてもマスター権限が無いと自衛の手段すらないでしょ。

 この星では箱舟無しでは色々と無理があるのよね。

 マスター権限さえ生きていれば簡単な話なのだけど……」


 どうやら、今彼らが扱える技術と宇宙船技術は隔絶された差があるらしい。

 長過ぎた宇宙旅行やこの地での内乱でかなりの技術が失われてしまったそうだ。


「うーん、3Dプリンター程の技術があれば自衛も可能そうだけど、どこがダメだったんだろ……」

「あー、あれね。全て宇宙船が機械を自動生成してくれるのよ。今ではロストテクノロジーの一つなの。

 分類的に民間人が扱っても良い物ならロックが掛かってないからね」

 

 ああ、超ハイテクな宇宙船が機械ごと自動で作ってくれるのね。そりゃ技術も廃れるわ。

 それでエネルギー生成設備程になると流石にマスターの認証が必要になって詰んだのか。


「一応設計図があればチャレンジは出来たんだけど、私たちのご先祖様は民間組織だったから機密性の高いデータなんて手に入らなかったみたいなの。

 まあ、データがあったところで必要な設備を作る素材も無いんですけどね」


 そうして雑談を続けていれば、いつの間にか総理の話は終わっていたらしく、議事堂から人がぞろぞろと出て来て各々足早にここを去っていく。

 それを眺めていれば、後ろから声がした。

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