第128話 使節団



 次の日、結局一泊してしまった俺たちはあてがわれた部屋で、案内の人が来るのを待っていた。


「それにしても凄いな」

「え、ええ。これは本当に神の御業では無いのですか」


 イグナートは昨日から困惑がずっと隠せずにいた。

 部屋に入ってから、俺の前世の話などをして他の星の進んだ技術だと伝えれば、多少落ち着きを取り戻したがやはりまだ不安が拭えないらしい。


「簡単に言えば、数千年前の人が今の魔導車を見たらなんだこりゃってなるのと一緒だよ」

「そ、そうですか。しかしこれは次元が違い過ぎますが……」

「やっぱりルイは特別な人でした。銃もこの技術から来ているのですね!?」


 俺は技術者じゃないし、俺の記憶ではこれほど進んだ技術じゃなかったけどな、とキラキラした目を向けるユリに返して雑談を続ける。

 そうしていればノック音が聞こえて「どうぞ」と返せば、先日の桂さんと一番最初に会った女性が入ってきた。


「これより、国会議事堂へとご案内させて頂きます。桂圭史であります」

「同じく、林道マキであります!」


 昨日とは打って変わってピチッとした佇まいだ。


「おはようございます。本日は宜しくお願い致します。

 あ、昨日くらいの緩い感じでいいですよ。俺にとってもあのくらいが日常なので」

「ご、ご配慮、感謝致します!!」


 彼女はそんな事は出来ないと言わんばかりに更に恐縮したので、それ以上言うのはやめた。

 その後、桂さんたちの案内の元、庁舎の様な場所に案内された。

 ここに来るまでもそうだったが、スペースの割に人が殆ど居ない。

 まあ見た感じ百万人規模の町に三万人なのだから当然だが。


 国会議事堂と言うからテレビで見たような場所を連想したが、流石に違った。

 オフィスっぽい普通の綺麗な部屋の長いテーブルに案内されそこに着いた。


「初めまして。私は総理大臣の役職に就いております……つまりはここの代表となる麻生五郎と申します。ようこそお越し下さいました。ルイ王太子殿下」


 六十はいってそうなお爺さんが歴戦のポーカーフェイスっぽい笑顔を携えてこちらに頭を下げる。

 それに倣い、こちらも会釈を返してから自己紹介を行い本題に入る。


 話は先日の繰り返しばかり。

 一応親父に確認を取らないと移住まではこの場で決めることは出来ないが、エネルギーを供給するくらいは今すぐでも出来ると伝えどうするかを問いかけた。


「どちらも大変ありがたいお話。対価が問題無くお支払いできるものであれば是非とも受けたく思います。王太子殿下はどの程度で見合うとお考えかお聞かせ願いたい」


 ぶっちゃけ、あの神がかった3Dプリンター技術が欲しいが、エネルギー供給程度ではいくら何でも望み過ぎだろう。というか今のこちらの技術では到底作れないだろうしな。

 インフラの根幹ってなるとやっぱり電気だよな。

 この世界では魔石だけど、電気があれば出来ることがめちゃくちゃ増える。


「えーと……発電所の技術とか、ダメですかね?」

「ほう。その程度でしたら何ら構いません。如何ほど供給して頂けるかにもよりますが」

「その、大半の物はご用意できると思いますが、そもそもエネルギーは何から賄っているのですか?」


「現在はバイオエネルギーが主ですが、詳しく説明致しましょうか?」

「という事は魔物の死骸でも問題ありませんか? それで難しいなら一度説明を……」

「いえ。主にそこからエネルギーを産出し続けております」


 であれば、何ら問題無くご用意できますと返したのだが、量と言われるとわからない。

 なので試しに先日狩った悪魔を一匹エネルギー変換して貰った。


「な、なんと素晴らしい。これ一体でこれほどとは……」

「とりあえずこれを五十程度でいいですか?」


 パーセンテージを見てみれば五パーセントだったのが六パーセントまで上がった。

 口端が吊り上がっていることから本当に大きな上昇量なのだろう。

 流石にうちで研究させる分も欲しいから手持ちの半分程度だ。

 満タンとはいかないが、六十手前くらいまでは回復するだろう。


「ええ。十分です。

 しかし、発電所の設計図はどのタイプであれば地上で再現できるでしょうか」


 と話を聞いていくが原子力発電や火力発電の話などはでず、重力発電とかよくわからない言葉が返ってきた。


「ええと、重力ですか。原子力とか火力であれば一応知ってはいるのですが……」

「ほう。原子力発電ですか。聞いたことはあります。有害性が非常に高く禁止された物ですね」


 話を聞いていけば重力発電というものに心惹かれた。単純明快、重力を操作して動力を生みそれで発電するのだそうだ。

 精密に作り高効率にできれば動力を生み出し続ける永久機関となるらしい。


「あの、その永久機関のエネルギー施設を何故ここで作らないんですか?」

「いいえ。もう既にありますよ。ですがここでは総合的にマイナスになってしまうのです」


 酸素や熱など全てエネルギーを使って管理しているのだそうだ。

 ダンジョン内は魔素が勝手に調整を入れてくれるが、コーティングで完全に遮っている為、調整は自分たちで行わなければならない。

 だから此処で電気を作っても総合的にマイナスになる。

 マスター権限とやらがあった頃は使っていたそうだが、今は止めているらしい。


「その、マスター権限とは……」

「申し訳ありませんが、それは機密でして今は申し上げられないのです。

 ですのでもしお知りになりたければそちらでの受け入れが決まり落ち着いた後にという事で」


 彼らの技術の根幹なのだろうか。

 何にせよ今これ以上踏み込んで聞く話でもないと頷いて話を終わらせた。

 ぶっちゃけ、重力発電とやらが作れればそれだけでも十分な収穫だ。

 俺の知識でもそれだけで町に明かりを灯したり、冷暖房程度ならギリギリ作れるだろう。

 既に魔石で賄えている物だが、そちらは腐るほど余ったなら売りに出せば良い。


 そうして渡された設計図だが、全くもって意味不明で不安になった。

 これ、本当に作れるのか、と。


「その、暫く解説出来る技術者を派遣して頂いたりとかは……」

「ええ、勿論構いません。ですがお約束ください。丁重に扱い必ず無事に返すと」

「はい、それは勿論。恐らくそこは使節団の方々に見て貰えればご安心頂けると思います。

 前世の知識と比べても民の扱いにそれほどの違いは御座いませんので」


 その言葉に興味を示した彼は日本との差異を尋ねた。

 一応念の為、後からの齟齬が無いように悪い部分もしっかりと伝え、自分が知っている限りの情報を伝えた。


「ふむ。では過去にあったという奴隷システムはもう無くなっているのですかな?」

「ええ。少なくとも我が国と隣国レスタールではとうの昔に廃止されました」


 そうして言葉を交わしていけば、彼は意を決したように頷き「では、是非ともこの目で見せて頂きたい」と強い視線を向けた。


「えっ、勿論構いませんが、総理大臣自らが使節団としてお見えになるのですか?」

「ええ。何度も往復してゆっくり決めることは出来ないのであれば、私が行く他ありません」


 おおう。まあ話が早いし助かるけども。


「じゃあ、このまま行きますか? 必要な物はこちらでご用意させて頂きますし、陛下の日程次第ですが時間が掛かる様でしたら観光だけして貰って一度お返しする事もできますけど」

「ええ。魔物の出現によって行き来が出来なくなっては元も子もありません。

 こちらの調整は既に終わらせております故、是非その様にして頂ければ」


 そうして握手を交わした俺たちは麻生総理大臣、高木防衛大臣の他数人の護衛を引き連れて、ベルファストへと戻る事になった。

 しかし、問題があった。彼らの足は遅すぎた。

 どうやら、一般人以下の力しか持ち合わせていないご様子。

 なので魔装で車を作り乗って貰った。


「魔力を自在に操れるとは学んでいましたが……これほどに何でもできるのですか……?」

「いいえ、王子殿下が特別なだけですよ。

 ある程度訓練を積んだ軍人でもこうして鎧を作るくらいが限界です」


 と、精神的に少し落ち着いてきたイグナートが慣れた手口で魅了を試み、それは当然の様に成功し防衛大臣の彼女は頬を赤らめていた。


 こ、今回は俺の所為では無いからなと、流し見つつも俺たちで車を引いて階層を駆けあがっていく。

 階段すらもバリアフリー状態にして駆け上がればすぐに宝箱の階層まで来た。 


「うげ、沸いてるじゃん。間が悪いな」

「どうしましょう。殲滅するのは流石に時間が取られますし」

「今は経路以外は無視する他ありません。必要でしたらベルファストへと無事送り届けた後、討伐に来ましょう」


 彼の言に同意し、レーザーガンでサクサクと蹴散らしながらも突き進み、最短で地上まで上がった。


「これが……これが夢見まで見た天か……」

「太陽の光とはこれほど熱く強い光なのですね」


 そんな高揚を見せる総理と大臣に飛行機に乗って貰いベルファストへと飛んだ。

 先ずは俺の客人として応接間に案内して貰い、親父に報告へ行く。

 早速昨日今日の話を伝えていけば頬が引き攣っていく。


「なっ!? なんだと!? そ、それは間違いなく事実なのだろうな!?」

「うん。余りに驚いて俺たちも現物を見た瞬間は立ち尽くしたよ……

 けど、放置はできないじゃん? 味方に付いてくれればめちゃくちゃ心強そうな技術力だし」


「それはそうだが、そんな簡単は話では無い!」と親父は後ろ頭を乱暴に掻く。


 相当に混乱しているご様子。

 俺はそそくさと「大事だしファストール公も呼んでくる」とその場を後にした。


 そしてお爺ちゃんを引っ張ってきて席に案内する。

「何事ですかな?」とニコニコしていたファストール公だが、状況を説明すれば何故か顔面蒼白になっていった。


「いや、友好的だったよ? しかも口ぶりだとこちらに保護して貰えればって言ってたし」


 どうしてそこまで深刻な顔をしているのか、が気になりファストール公の顔を伺う。


「そこはどう考えても神の園に御座いましょう……

 我らの神が滅びの寸前であった、ですと!?」


 と、動揺を見せるお爺ちゃんに初代が神と言っていた人たちではあるが、実際に神ではないと伝えた。

 それは彼ら自身も認めるところであり、もしかしたら初代はあの人たちを守りたくて誤った情報を残したのかもしれないと言えば、ファストール公は少し落ち着きを取り戻した。


「そうか、それなら最下層に入るなと言っていた話とも辻褄が合うな」

「うん。それで使節団として向こうの代表を連れて来たんだけど、会ってくれる?」

「当たり前だろうが! しかし何も考えが纏まっていないのが問題なのだ!

 しかし向こうのトップが来てくださったのであればお待たせする訳にもいかん」


 えっ、普通に待つって言ってくれたけど?

 と伝えたが、神であろうがなかろうが、ベルファストにとっては力を与え導いてくれた大恩ある相手。

 無下に出来る筈が無い、さっさとこちらの考えを纏めるぞと二人から捲くし立てる様に色々情報を巻き上げられた。


「なるほど。うちで手厚く受け入れれば良いのだな。

 とは言え、取り込むような真似をして良いのだろうか……

 しかし国土を切り取り明け渡すというのも流石に問題が……治外法権特区を作るか?」

「そうですな。お話を聞き、保護させて頂くか特区を作るかはお伺いするしかありますまい。

 移住されるのであればその限りではありませぬが……」


 そうして話はとんとん拍子に進み、その日のうちに顔合わせすることとなり、俺も当然それに出席することとなった。

 変に気負ってたけど大丈夫かな、と不安だったがいざ会談が始まってみれば和やか空気で進み、向こうからの申し出でベルファストの庇護下に入りたいと願われた。


 しかしその時初めて新事実を聞かされた。

 それは彼らには魔力が無く、魔物を倒しても力を得られないという話。


 それを聞いてどうして地下に居を移したのかを理解した。

 未成熟な世は物理的にも弱肉強食である。

 力が弱いという事は時に簡単に全てを奪われるということ。

 だから現地人との間にダンジョンを置いて隔絶させたのだろう。

 

 そんな人たちをきっちり保護するとなると大変そうだな。

 まあ、親父たちが乗り気なのだから任せて問題無いのだろうけど。


 そう思っていたのだが……


「ルイ、お前の所に任せる。いいな?」

「えっ……いや、うちはこれから帝国民が数千人来る予定なんだけど?」


 一緒じゃ不味くねと首を傾げる。


「イグナート卿、貴殿なら帝国の民を纏められるな?」

「はっ、お任せください」

「という事だ。新技術は狙われる。

 ある程度自由にのびのびやって頂くにはお前の所しか無いんだ。

 一時的にファストールを向かわせる。二人で力を合わせ事に当たってくれ」


 あっ、そういう事。

 しかし数万の人だろ……色々大変そ。


「しかし陛下、兵は何処から連れて行きましょうか。

 信頼の置ける正規兵は大半が戦争に出ておりますが規律が守れる兵でなければなりませんぞ」

「そうだな……レーベンから戻った兵士たちでどうだ?

 あいつらなら元々のうちの正規兵だ。信頼も出来るしそれなりに力もある」


 おおう。俺の村なのに意思はいずこに……

 いやまあ状況的に仕方ないけどさ。


 しかし先ず移動させるのからして大変そうだなぁ。

 

 まあ俺が発見してしまったんだし仕方ない。

 と、覚悟を決め、頭の中で予定を立てた。





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