第63話 我が名を以って命じる!



 魔道具での爆弾製作がかなり上手くいってしまって熱が入り、三日もコナー伯とそれだけに打ち込んでしまった。

 ユリシアの事は捜索していない。状況が変わったのだ。

 どうやら、情報を収集する流れで旧ベルファスト兵はレスタール王都方面に行っているとの情報が新たに入った。

 ユリシアが将軍の娘だと知った村の者が追加情報を届けてくれたそうだ。

 レスタールに居るならば一先ずは命の危険は無い。

 なので俺は安心して戦争の準備に打ち込めた。


 今日は他の魔道具関連にも手を付けようと息巻いていた時だった。

 ルド叔父さんから話があると城の中庭に呼び出された。


 何故ここ? と疑問に思いつつも叔父さんの話を聞いていけば俺の力を見せて欲しいというものだった。

 叔父さんに勝てなければ参戦は無しだとも。


「叔父さんもそれ言うの。ユリにも言われたよ」

「そうか。勝ったのか?」

「いや、負けたよ」

「そうか……」


 そうして始まった模擬戦だったが、叔父さんは思ったよりも全然強くなくて普通に勝ってしまった。

 騎士と聞いて居たから上級騎士のつもりで居たのだが、上級兵レベルだった。

 ぶっちゃけオルダムの騎士よりも弱い。

 凄い落ち込んでいて思い詰めた顔をしてしまっている。

 どうしよう……と困っていたら叔父さんは独白を始めた。

 どうやら、俺の親父に俺を頼まれてから、魔物と戦う機会が無くなってしまったのだそうだ。

 叔父さんの年齢から言って大凡二十歳辺りで俺を頼まれたのだろう。

 その年齢からほぼほぼダンジョンに行ってないのなら然う然う強いはずがない。

 いくら技術が拙いとはいえ奈落で馬鹿みたいに狩りしている俺が勝つのは必然だった。


「その、俺、奈落でずっとズルイやり方で魔物を倒してるからね……」

「なんだそのズルイやり方って……」


 虚ろな目で聞き返すルド叔父さん。


「いや、攻撃できないめっちゃ遠い所に居る魔物をこの魔道具で倒すの」


 とレーザーガンを出してピカピカと光らせる。


「ダンジョンでも長い直線通路あるでしょ?

 音を鳴らして呼んでこれをピッピと当てるだけ。簡単でしょ?」

「それで……強くなるのか?」

「うん。技術は上がらないけど強くはなったよ。叔父さんもやってみる?」


 余りにしょんぼりするものだから、つい誘ってしまった。

 生き残ってほしいのだから必要だという想いもあるが、本当にあんな所に連れて行っていいのだろうかという不安もある。


「俺なんかが行って大丈夫なのか?」

「いや、だから安全なんだって。最初はやり方を編み出せずに死にかけたけど。

 あそこで同じやり方すれば誰でもすぐに強くなれるよ。

 まあ俺も使いたいから大勢に教える気はないけど」

「すぐに強くなれる、だと……ルイ! 頼む! そこに連れて行ってくれ!!」


 いきなり復活した叔父さんに少し圧倒されつつも、了承して行く準備を整えた。

 新たに増幅器もつけて魔道具化して貰った風魔法の魔道具もある。

 これなら二人でも飛んで行けるだろうと叔父さんを魔装で包む。


「お、おい、ルイ?」

「ああ、うん。飛んでいくから暫く姿勢変えられないけど我慢して」


「いや待て」と静止するが説明するより実際に経験した方が早い。

 じゃあ行くよと声を掛けてお城の中庭から垂直に飛び上がる。


「うおおおお!」

「しっ! 静かに! 騒ぎになるじゃん!」

「馬鹿、危険だ! これは危険だぞ!?」

「大丈夫だって!」


 やーやー言い合いながらもある程度上がった所でオルダムの方向へと向けて加速する。


「おお! 流石増幅器をふんだんに使った魔道具。二人で飛んでも更に速くなってるじゃん!」

「あばばばばば」

「あっ!? 叔父さんごめん!!」


 と強風に煽られて苦しそうにしている叔父さんに即座にフルフェイスを作り被せる。


「ルイ! お前、殺す気か!」

「ごめんて……人乗せるの初めてだからさ」

「お前……これ今回が初めてじゃないのか!?」

「いや、最初から人乗せるほど無鉄砲じゃないよ?」


 そうじゃない、そうじゃないぞ、と会話が噛み合わない話をしている間に目的地が見えてきた。

 町を避けて大きく旋回してダンジョンの裏手にある森の中へと着地。


「さあ着いたよ。

 けど大人があそこのダンジョン入ると目立つから荷車に乗って貰っていい?」

「それは構わんが……本気で、もうオルダムに着いたと言うのか……?」

「いや、空から見えてたじゃん。

 まあ世の中やりようで恐ろしいほど効率が変わるからね。

 本当に恐ろしいほどね。奈落もその一つだから覚悟してよね」


 ゴクリと行きを飲む叔父さんを荷車に乗せてダンジョンの中へと移動。

 一応学生専用ダンジョンなので荷車に蓋を付けて完全に隠れてもらった。

 猛ダッシュで十一階層まで降りて叔父さんを荷車に乗せたまま穴底にダイブ。


「おいー? ルイー? お前何をしたぁぁぁぁ!!」

「大丈夫大丈夫。奈落の穴に入っただけ。

 もう少し落ちてからじゃないと時間掛かるからもう少ししたら落下緩めるから」


 そう告げつつ、荷車を魔力に戻し、魔装で叔父さんと体を繋ぐ。

 叔父さんは物凄い速度で落下していることに気が付いたが、すぐに騒ぐのを止めた。


 暫くして下が近くなった所で傘を広げ減速させた後、壁へと張り付いた。

 あれから六日、余裕で沸いている日数だが、落下地点には居ない模様。

 だが、油断はしないと魔装で音を鳴らしつつ聴力を強化する。

 どうやら通路にも居ない様だと、地面に降り立つ。


「ここからは準備が出来るまで大声は無しね。

 聴力強化使って索敵はしてるけど一応ね」

「ああ、わかっているさ。しかし、聴力の強化までできるのか……まあ、それは俺も使えるが」


 あら、ラズベル家の秘術って訳でも無さそうだな。

 ベルファストの秘術って感じか?

 まあそんな事より『ハイこれ』とレーザーガンを渡して試し打ちをして貰う。


「失敗しても俺が魔法陣の方で消し飛ばすから気楽にで大丈夫だからね」と、大きな銅鑼を用意し打ち鳴らす。


「ば、馬鹿っ!」と押し殺した声を上げるが銅鑼に掻き消された。


 ゴーンゴーンと壁が振動するほどだろう音を響かせ続ければすぐに猿は大量にやってくる。


「さっ、そろそろ来るよ。最初は撃ちっぱで光で追い詰めて行く感じがいいかも」

「もう……めちゃくちゃだ……やるだけやるが、知らんぞ俺は……」

「だから大丈夫だって。ちょっとは息子を信じろぉ!」


 こぶしを天に突き上げてユメが良くやる感じに言い返してみたが、ぐっ、と歯を食いしばり強い視線をこちらに向けるルド叔父さん。どうやら俺がやるのは駄目らしい。

 だがすぐに視線を前に戻し、猿が到達する少し手前で魔道具を起動した。

 言った通りにしてくれたのでスパスパと猿の魔物が切り裂かれていく。

 次々と恐ろしい速度で走ってくるが、元々狙いをつけているのだ。少し横に引くだけで全てが終わる。

 猿の魔物イエティは殲滅されるまで何度も何度も視界に入った直後に倒れ続けた。


「ね? これなら危険は無いでしょ?」

「あ、ああ……」

「ここに降りる時に部屋だけじゃなく通路にも居ないかだけチェックすれば今の流れで普通にやれるよ」


 説明しながらも素材を回収して、次のポイントへ移動。

 直線通路が長く、一方通行の場所だ。

 再び銅鑼で呼び寄せて殲滅。ついでに階段を下りて宝箱も殲滅。

 当然上の階層の恐竜も殲滅。

 そうしてやってきました最難関。ミスリルゴーレムの階層。


「ここはその魔道具じゃ無理だから俺がやるね」

「何っ!? これでは無理なのに危険は無いのか?」

「大丈夫。消費はでかいけどね」


 と大砲を作り出し、部屋の入り口ギリギリまで魔力を持っていく。


「うん。ここには居ないみたい」と言いつつ、ここの魔物の特性を説明した。

 魔石以外は何をしてもほぼ無駄でめちゃくちゃ速く接近されたらもう終わりだと思ってと。


「待て、対峙しただけで死ねるほどヤバイなら安全ではないだろう!!」

「いや、さっきの猿も宝箱もぜーんぶそうだよ?

 まともに対峙したら死ぬけど、安全にやれたでしょ。あれで死ぬと思う?」

「それはそうだが……確かにあれが常なら失敗は無いだろうが……」


 何かが間違っていると真剣に悩む叔父さん。

 一緒に歩きながらも考える叔父さんの返答を待つ。


「これが言っていたやり方次第で怖ろしいほどに変わるというやつか」

「うん。学生がこんなに力つけるなんてありえないでしょ。叔父さんなら信じてくれると思うけど、俺、鍛え始めて一年程度だよ?」

「そう、だな。だからこそルイが強いだなんて信じられなかった」


 雑談しながらも部屋の中のゴーレムの魔石を撃って撃退していく。


「このやり方を得られたのが俺を奈落に落としたリストルのお陰ってんだから世の中何が利になるかわからないよねぇ」

「そいつだけは許せん! 俺の手で討ちたかった……」

「いや、俺も許せなかったよ。本当に。

 ここに落ちてもう死ぬしかないって状況で七日も過ごしたんだから」


 そこで叔父さんが戦い方を教えなかったことを申し訳無さそうに謝罪を始めたので、それを止めて「それのお陰でこの苦境で抗う力を得たんだよ」と続けた。

 そう、仮に俺が最初から強ければ落ちる事態には陥っていなかっただろう。

 自らこんな深い階層に来ることなんて絶対に無かった。


「それが無ければ戦争で勝つ見込みなんて一分も無かったと思わない?

 多分これから皆で死のうって状況だよ。叔母さんも、下手したらユメも。結果論だけどさ、今になってはこれでよかったんじゃないかって思うんだよね……」


 正直まだまだ全然危ないのだが、爆弾の作成や猿皮の防具など、魔法の増幅器、銃弾も作らせている。

 もろもろが完成すれば魔法戦はかなり有利な状況を作れるだろうと考えている。

 絶対に負ける戦いから、かなり分の悪い戦いにまでは引き上がったと思う。


「そう……だな……ルイの資金提供や王女殿下の奮闘もとても大きな結果を出している」


 よしよし。いい流れだ。

 本当はゴーレムは他の階層ほどは安全ではない。

 それをごまかす為に会話を続けながらも作業をこなすが、とうとう死角に居て起動してしまうゴーレムが現れた。


 大砲をズドーン、ズドーンと打ち鳴らし、突っ込んでくるゴーレムの行動を阻害する為に狙い打つ。当たると同時に光魔法を照射した。

 大きく魔法陣を描いた光魔法はほぼほぼ全面照射なので外れることは無い。

 大砲は念のため一度体勢を崩す目的だ。

 威力増幅していないから一瞬で魔石蒸発とはならないので一応やっておくに越したことはないという理由で撃っている。

 案の定今回もゴーレムは魔石が溶ける短時間の間に結構な距離を進んでいた。


 魔石が溶けても推進力は消せない。


 魔石が消失し力を失い慣性に任せてこちらに滑ってくるゴーレムに、滑り台の要領で上に滑らせ天井にぶつけると、天井が砕かれ地に落ち床を少し砕いた。

 叔父さんは唖然とした顔でこちらをみて数秒沈黙を守る。


「馬鹿っ! これは安全ではない!」

「あ、やっぱり……けどミスリル必要じゃん?」


 怒り出した叔父さんにそう返しつつも先に進み、部屋の中のゴーレムを駆除しながら、これ以上の安全策がまだ見つかってないんだよねと雑談を続けた。


「ならば止めて帰ろう。ここまででも十分だろう?」

「何言ってるの。勝つならまだまだ足りてないよ。

 ルド叔父さんは今回だけで終わりじゃないのをちゃんと理解してる?

 バックに居る帝国も相手にするんだよ。レスタールでも負ける相手がミルドラドと組んで攻めて来てるの。普通にやっても詰むだけなのは子供でもわかることだよ」

「ならばこれは俺がやる! ルイが死ぬ危険を冒す必要なんてない!」


 そう言い出した叔父さんに向き直り足を止める。


「ルド叔父さん、もういい加減そういうのやめようか。

 大切だから守りたいのは俺も一緒。

 気持ちは嬉しいよ。けどルド叔父さんは戦場にも出るだろうから俺の秘中の秘であるここに連れてきてやり方まで教えてるの。

 それはね、一方的に守って貰う為じゃない。

 ユリシア、メアリ叔母さん、ユメを二人で守る為。

 家族の男手として一緒に家を守る為に戦おうって意味で連れて来てるんだよ」


 偽りの無い気持ちだ。直接は言えないが叔父さんはこのまま戦場に出たら死ぬ。

 流石に一月程度で強さが得られるほど甘くない。

 半年以上は余裕でやってる俺でも近接戦闘では先生たちの域には到底達していない。

 だから俺から見ても叔父さんには戦場に出て欲しくないという気持ちがある。

 だが、絶対に出なければならない立ち位置に居るし、仮に俺が強権を使って出さないと言い出しても受け入れないだろう。

 ならばできるだけ近い場所に居て貰って魔道具とかで安全に敵兵を倒す方向で行かないとならない。だからせめて動体視力が追い付く程度の力は得て欲しかった。

 そんな時に、叔父さんが非協力的では死ぬ確立が跳ね上がってしまう。


「ルイの気持ちは凄く嬉しいんだ……俺もそう言ってくれるルイと共に戦いたい気持ちは強く持っている。だが、陛下との約束を思うとな……」

「状況が状況なんだから逆だよ逆。それじゃ約束に背いてるよ?

 俺が逃げないで戦うと決めている以上、負ければ死ぬもん。

 俺にとってのユリシアは叔父さんにとってのメアリ叔母さんとユメだから絶対に引かないよ?」


「そ、それは……しかし……」

「まだ思い改めてくれないかぁ……わかった。じゃあもう禁じ手使うわ」


 精神的に疲れる事をしなくては成らなくなったと「ふぅぅ」と大きく息を吐く。

 さて、どのパワーワードを引っ張ってくるかと記憶を探る。

 イメージは強制的に言う事を聞かせる魔眼を持ってしまった王子が出てくるアニメ。


「ベルファスト王家、第一王子ルイの名を持って騎士ルドルフに命じる!!

 共に戦いベルファストを救うと誓え!!

 死んだ親父にではないっ!! 今を生きている俺とだ!!

 それともお前は、転ぶまで後ろを向いて歩くつもりか!?

 覚悟を決めろ!! 貴様もベルファストの騎士だろうが!!」

「――――っ!!」


 何かに頭を撃たれたかの様に少し体を逸らし、一歩、二歩と後ろに下がる。

 ゆっくりと体を丸める様にしゃがみ、片膝を付く。


「ハッ!! このルドルフ、心を入れ替え、殿下と共に戦うと誓います!」


 目を細め、感銘を受けたと言わんばかりに膝を突き涙を溜めた瞳で見上げてくる叔父さん。


「足を引っ張っただけ、か……姫殿下の言葉の意味がやっとわかったよ」と涙を溜めながらも微笑む。


 ごめんね叔父さん。これ、ただの演技なんだ。

 でも漸く想い改めてくれた様子。

 んじゃもう気を抜いて大丈夫かな。


「ふぅぅ、疲れた。叔父さん、忘れないでよ。こんな小芝居もうやらないからね?」


 と何時もの調子に戻れば叔父さんは納得がいかないという視線をこちらに向け続けた。


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