第64話 開戦準備
数日が経ち、昨日は叔父さんと二度目の奈落へ行ってきた。
十階層以上攻略するサイクルなので一日掛かりだ。
正直俺も強くなりたいのでゴーレム以外全て叔父さんに狩らせるのは不服だが、生き延びて貰わないと困るのだから致し方ない。
この数日で五十個の爆弾が完成した。
金属と魔道具で作られた物なので頑張って貰っているがこれが限度。
鍛冶師には雛形だけ俺が作ったやつを渡して、銃の弾も平行して作って貰ってるからこれ以上のペースは厳しい。
新たな完成品を三度ほど試し、全て良い結果を残している。
難点は威力が凄すぎて砦へのダメージがある事だったが、爆弾の中に込める弾を小さくし飛距離を調節することでクリアした。
そんなこんなでやってきましたフォンデール砦。
ベルファスト王国開祖フォンデール王が残し、今日まで手を加えられながら国を守り続けた名の知られた要塞。
作りは簡素だが、この世界では珍しい円形の要塞。
石造りで古く傷だらけの砦だが実用性が高く、堀も深く掘られ至る所から魔法が打ち出せる隙間が開けられていて、外壁の上には大型弩弓が点々と設置されている。
堀の更に下を潜る退避用の隠し通路なども作られていて森の中の洞穴に繋がっているのだとか。
そこで地雷設置工事が今日から行われる。
工期予定時間は大凡二日。
一日で終わるかと思っていたが、ミスリル線を地中に通す作業に時間が取られるそうだ。
試した結果、地表だと他の爆発で線が切れてしまう可能性があるとのこと。
工事にはこの砦での戦争経験のある貴族数人に集まって貰った。
今までの傾向からどの辺に陣を築くか。それによって設置する場所が大きく変わってくるからだ。
現地を見ながら顔を突き合わせ地図をにらめっこする。
「何時もの布陣でしたらこの範囲かと……」と地図に駒を置くドーラ子爵。
「そこから部隊を分け、囲む様に広がり射程ギリギリからロックバレットを撃ってくるのが常ですな」
「しかし今回は数が多い。強気に前に出してくる可能性は高いぞ」
「であれば、もう少し範囲を広げ、このラインかの……」
子爵の声にどんどんと補足が入っていく。
その声を拾い「では、ここからこのラインで均等に埋めるとして」と地図に線を引く。
「悪いんだけど、距離図りながら……いや、俺がやるか」
兵士たちに頼もうかと思ったが、彼らは有効範囲を良く知らない。
それに余りに地面を荒らしては罠が丸わかりだ。
有効範囲が半径五十メートル程度。設置の密接限界が二十メートル程度なので四十メートル離して魔装で必要な分の穴をあけていった。
あの威力のが五十もあればと思っていたが、ちょっと甘かったかもしれない。
場所が完全に予測できるなら十分だが、使いそうな範囲全てをカバーするのであれば全然足りない。
一応、今までの配置傾向から濃厚な場所は埋まったので、そこから工事を始めて貰う。
「一応聞きますけど、ここを抜けられたらやっぱりこの街道を?」
敵が進行する方向を尋ねれば「ええ、勿論」という言葉が返ってきたので街道への設置も考えることにした。
森の中が使えないと言うのであれば密集率は高い。
街道が穴だらけになるが後始末が大変だと言ってる場合じゃないしな。
しかし問題もある。どこで誰が点火するかという話だ。百メートル近くは離れないと危ないが、森の中でその距離だと全くとは言わないが碌に確認できない。
迂闊に近づいてバレたら終わりだし。
と色々疑問に思ったがすぐに解決した。
聴力強化持ちなら大丈夫だと。
しかし、森の中も数を入れないだけで使わない訳ではないそうだ。
危険な役になるだろうと言う。
「じゃあ、俺がやるか」と呟けば全員に大反対された。
良く考えたら今のところ余分な爆弾も無いし街道は保留だな。
まだ時間はある。そっちは爆弾がもっと完成してからでいいか。
そんなこんなで砦から戻り、会議室へ。
五十を越える席は全て埋まり、立って壁に控える人たちも大勢居た。
どうやらコーネリアさんとユノンさんの奮闘で人が戻ってきているみたいだ。
「殿下!」
「おお、あのお方が!」
「ロイス陛下……見ておられますか……」
席に座ろうと奥まで歩いていくと、キラキラした視線を向けられたり中には拝んでいる者さえ居た。
うおおい。なんだよこの空気。
入りづらいな。
「ただいま戻りました。お待たせしてすみません」
「とんでもない!
殿下にばかり仕事をさせてしまい恐縮するばかりで御座います」
コナー伯が立ち上がり胸に手を当てると皆それに続く。
「あの、普通になさってください。コーネリア様、ちょっといいですか?」
「あら、何ですかルイ様?」
ちょっと……嬉しそうにしてるけど俺怒ってるからね?
人が多い方が都合が良いと「次期国王は貴方でしょ?」と声を大にして告げる。
「そうは申されますが、ルイ様でなければこの窮地に人が付いて来ませんの。
勿論、ここにいる方々は関係無しに立ち上がってくださいましたが……」
一同目を瞑って『不甲斐ない奴らだ』とこの場に居ない面々に遺憾を示す。
そう言われましてもと視線を彷徨わせれば、ユノンさんが腕を組んで強い視線をこちらに向けていた。
「戦争が終わるまでは我慢しなさい。私が何でもしてあげるから」
「女の子が何でもするとか言っちゃいけません!
でも、そうかぁ……とりあえずでも正当後継者が就く方が戦力が集まるのかぁ。
けどさ、王がやる仕事なんて俺にはできないよ?」
困り顔で彼女を見詰めたのだが、何故か顔を赤くするユノンさん。
「馬鹿っ! 何でもするって王の仕事の方よ! もうっ!」
いや、そんなツンデレ女子みたいな反応されましても。
「じゃあ、今回は名前だけ貸すということで。それはそれとして……本日の議題は?」
「はい。残念ながら、悪い知らせとなります。
本日緊急招集させて貰ったのはダールトン軍が動き出したことを伝える為です」
えっ……まだ二週間だよ。
早過ぎない?
「勿論全軍じゃないのよ。半分の一万。
恐らく明日には進軍を始めるだろうとのことよ。早ければ明後日辺りに開戦ね」
開戦が明後日なの!?
ヤバいヤバいヤバい!
フォンデール砦は設置を始めたけどオルドール砦は全くの手付かずなのに!
一応、フォンデールで足止め出来れば少しくらい設置できるだろうけど、明後日じゃ製作が追いつかない。
正直頼みの綱が無くなる勢いのヤバさなんですけど!?
いや、ちょっと待て。
皆不安を押して来ているんだからここで不安を煽るのは駄目だろ。
「へぇ、一万ね。その程度なら追い返せるだろ」
「ええ、殿下の宝刀が炸裂すれば木っ端微塵でしょう。あれは本当に凄い」
「然り然り。私も見学させて貰ったが、史上最強の魔法と言えような」
いや、伝家ね?
コナー伯とアーベイン候が気楽にそう言っているが内心は俺と一緒だろうな。
盛り上げて士気を上げる為だ。
ならば良い話になりそうな話題を繋げよう。
「そう言えば、皮装備はどれ程できましたか?」
一着出来て運用方法を確立した後はノータッチだった。
「ふふふ、九十五着ほどです。開戦には丁度百ってところでしょうか。
あれも凄いですよ。不死鳥部隊と名づけました」
な、何故不死鳥?
と、コナー伯に問えば何されても死なず、炎の中から蘇ってくるからだと言う。
いや、無敵ではないから。死にます。それは勘違いです。
奈落装備の耐性は確かに色々と凄いが、打撃の耐性は流石に無いから普通に強者から攻撃されればダメージを受ける。
ああ、でも強者が装備する前提となると確かに……
皮で火耐性、風耐性、斬撃耐性。魔装の方で性質変化をレクチャーし、ゴムと金属の二層にして打撃耐性も持たせたので防御力は高い。
それをベルファストで上位百人に着させるのだから敵からしたら不死身に感じるかも。
そんなコナー伯との会話を聞いて居た他の者が沸き立つ。
「それで、今現在ってベルファスト軍は総勢何名ですかね?」
「水増しで増やした人員を抜くと二千三百八十よ。これが限界だった。ごめん」
「申し訳ございません……」
頭を下げる二人に「いや、いけるでしょ」と軽く返す。
このトップ層が集まった会議でマイナスな言葉を吐きたくないのもあるが、俺は本当にこの世界の戦は数じゃないと考えている。
オーウェン先生の強さを見た時に思ったのだ。
あの人が上級兵士だけ相手にして戦場を駆ければ多分一人で数百人は殺る。その上で普通に生き残るだろう。
そしてこの国にはあの人と同格が結構居ると言う。
後はその人たちが死なない采配を心がけてやればいい。
その目論見はコナー伯が命名した不死鳥部隊であれば成してくれると考えている。
「さて、じゃあフォンデール砦に配属する人を決めましょうか……」
青い顔した若い貴族だろう青年が「死地……ですよね?」とボソッと口にした。
「んな訳無いじゃないですか、死地なら行きませんよ。俺死にたくないもん」
「へっ……殿下が自ら砦へ!?」
「当然じゃないですか」と希望者が全然居なくても困るので胸を張って言う。
「当たり前ですが勝つつもりで居ます。それも目指すは圧勝で。
犠牲が一々出ていたらすぐに潰されてしまいますから連れて行くのは上級騎士をメインとします。異論はありますか?」
「勝てそう……なのですか……?」
「貴様、殿下のお言葉を聞いていなかったのか!!」と渇が入るがそれを止め言葉を返す。
「勝てそう、じゃない。絶対に勝つ。
皆その気概で事に当たってきている。
安心しろ。俺がそれを現実のモノとする。絶対にだ!
俺に……任せろ!」
彼の前まで歩いて行き、胸をこぶしで軽く突く。
これはパフォーマンスだ。世の中絶対なんてない。
それがわかっている所為で途中で気概とか不確かな方向に行きそうになったが、何とか軌道修正した。
「わ、私も立候補致します!!」と青年は叫ぶ。
すまん。気持ちは嬉しいけど多分キミは無理。
死なせない為にも今回は上級騎士だけだもの。
そう言葉を返す間もなく「殿下が出るなら私も参ります!」と続々と声が続く。
「言っただろ。生き残れる奴だけだって。誰一人として死んで貰っては困るんだよ」
調子に乗って強い言葉を使ってしまった所為で敬語に戻すことも出来ず、視線を逸らしそわそわしちゃいながらも平静を装う。
「何名必要でしょうか……?」
特に熱くなる訳でもなく冷静に問うルーズベルトさん。
「あの砦は何時までも守る気が無いから常駐兵以外だと二百……でいいかな」
「たった二百、ですか? 一万ですよ?」
「おう。それだけいりゃ十分だ!」
勝ち気に笑って返せば「へ、陛下……」とまた俺を陛下と呼び出す彼。
敬語やめた仕返しかと眉をひそめるが「確かに……」と周囲から良くわからない納得の声が飛ぶ。
声を聞いていればどうやらさっきの言葉が親父そっくりだったらしい。
口調が似るくらい他人だってあるじゃんね。
親子なら普通でしょ。そんなに驚かなくても……
そんな中、ずっと腕を組んで目を瞑っていたラズベル将軍が立ち上がる。
「殿下、私は共に参ります。宜しいですか?」
「ええ、勿論。
ただ、あそこでの作戦を色々組み立ててあるので指揮権だけは頂きたく……」
「勿論で御座います。殿下の号令があれば何時でも敵を蹴散らしましょう」
「おお、流石は将軍殿」と称える声がいくつも飛ぶ。
俺としても本当にありがたい。
上級騎士が強いとはいえ、それは敵にも当然居る話。
死なせないように動かす為には現場の最前線で指示を出せる指揮官が必要だ。
それが将軍ってのは役者が勝ちすぎてしまっているが、敵軍に特攻とかを頼むつもりは毛頭無いので大丈夫だろう。
そう思っていたら、アーベイン侯、ドーラ子爵、コナー伯など、自分も当然付いていくと言い出した。
コナー伯を除いて上級騎士だ。それも二人は歴戦の猛者。
コナー伯は作戦立案から携わっているから自分も役に立てると有用性を示す。
いや、あそこではそんなに仕事は無いんだけどな……
だって銃を撃たせながら誘導して爆発で吹き飛ばすのがメインだし。
んで、爆弾使い終わったら様子を見つつも危なそうならそのまま撤退予定だ。
まあ、出来そうなら時間稼ぎしてもう一つの砦にも爆弾仕掛けるけど。
俺は前世で学んだことがある。
戦場で一番怖いのは大量の負傷者を抱えることだって。
多分それでかなりの時間が稼げるんじゃないかと睨んでいる。
その間にまた爆弾を追加して貰えばかなりの数減らせるだろ。多分。
こうして将軍たちお貴族様方四人と騎士二百人を連れて砦へと向かうことが決まり、会議は終了となった。
後は……第三の奴らを家に帰すくらいか。
ああ、ヒロキたちがちゃんと帰ったかも確認したいところだな。
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