第45話 宝箱の中から……
討伐祭が終わり、叔父さんからカミングアウトを受けて一月、特にこれと問題は起こらず平和な時を過ごした。
まあ、完全に平和とは言い切れないか。
命の危険は一切なかったというだけだな。
ラクが従魔試験に受かったり、ポーションのストックが大量に出来たり、大討伐で失った猿皮の黒いコートと同じのを新調したり、討伐祭で倒した魔物の代金が結構な額だったりとそこら辺は良かったのだ。
しかし、討伐祭の一件でパーティーを組もうと群がってくる奴が多すぎたり、どうにか利用してやろうって輩がしつこく付き纏うという難題もあった。
原因はあの光の魔道具を複数作ってヒロキたちに貸し出したからというのもある。
そのお陰でみんなの狩る階層がぐんぐん降下していき、それが噂となって出回った結果だ。
まあ、リアーナさんたちやキョウコちゃんを混ぜたとはいえ、二十五階層まで行けているのだから彼らの成長はとても早い。
最近はオーウェン先生に稽古をつけて貰っているらしいので更に成長しそうな兆しを見せている。
俺もそれに触発されより一層精力的にダンジョンに篭った一ヶ月だった。
穴の底の階層も安定し恐竜と猿だけじゃ物足りなくなってきたが、ゴーレムは狩り方的に相性が悪すぎるので更に下に降りることにした。
勿論万全な態勢だ。
魔力はバックパックを含めても全て満タン。
魔道具やポーションも準備万端。
レーザーガンがあれば怖い物無しだ。
魔物なら何にでも効くというわけではないが、大半は特攻効果が付いていると決め付けたいくらいにはダメージが通る。
ゴーレムの体には効かなかったのだが、魔石なら一発だった。
ちなみに光魔法は人体を傷つけないということが発覚した。
ただ、完全に無事という訳ではなく、魔力を持っていかれる。
対人で相手を殺すことは出来ないが、殺さず無力化するのであれば有用性はかなり高い。
そんな魔物特化のレーザーガンを構え一歩、また一歩、と階段を降りていく。
下からの音は一切無い。
まるでゴーレムの階層と同じだ。
これが今まで降りる気になれなかった理由でもある。
だが、せめて諦めるにしても一匹確認したい。
音で寄ってくるならやりようはあるし。
そんな思いを込め、部屋の中をクリアリングしていく。
部屋の奥に通路があり、その手前に大きな宝箱の様な物が置いてある。
その箱の見た目は如何にもと言わんばかりに宝石の散りばめられた豪華な宝箱である。
中央に付いている鍵穴の下には真っ黒い宝石が付いている。
「おおう。絶対罠やん……てかあれ魔石だし……」
取りあえず、打ち込んでみるか。倒せるかの確認が第一だ。
当然接近するまでに殺せるように大砲も準備してあるし、防壁も作った。
準備に不足は無い筈。
と、遠くからレーザーガンで箱を切り裂く。
レーザーガンの場合、霧散させてしまうので出来れば魔石は狙いたくない。
安全を最優先にするならば先ずは魔石を狙うべきだが、魔石が取れないのであれば来る必要性が激減する。
だから限界まで離れて箱の部分を狙う事にした。
そんな一抹の不安を覚えながらの一刀だったが、ちゃんと効いてくれた様子。
流石はオーガキングすらも切り裂いた魔法。
一撃で真っ二つになったその瞬間、箱がパカパカと暴れだす。
やっぱり魔物だよなと思いつつも防壁を全力で作り警戒を露にしたのだが、のた打ち回っているだけで暫くすると動かなくなった。
「死んだ、のか?」
そう思って確認しようと前に出た瞬間、箱の魔物の下に魔方陣が輝いた。
恐ろしく複雑で凄い効果を持っていると一目でわかる魔法陣だ。
地面から上に向けてのもので距離もあるのだが、効果がわからない以上安全の保障はない。
「やべぇっ!!」
と、冷や汗を流し再び大きく後ろに飛び距離を取るが、攻撃は来なかった。
だが何も起こらなかった訳じゃない。
箱の周辺に突如、猿の魔物の死体や、岩や壊れた箱の残骸などが散乱したのだ。
「はは、箱だけに収納魔法ってか?」
周囲の状態を見て導き出される答えはそれくらいだが、これが事実なら凄い魔法だ。
もし予想通りなら是非とも欲しい。
欲しすぎる……
くそぉ、さっきのしっかり見ておけば良かった。
この一匹だけなんて事はないだろうな。
そう思って通路の方へと振り向いた時だった。
通路の先の方でカタンと音を立てて歩いていた箱が止まった。
そう。箱がコミカルにテーブルの様な足を伸ばして歩いていたのだ。
通路の先なのでかなり距離があるが間違いなく動いていた。
「いや、待て待て。見たからな?」
サッとレーザーガンを向けて擬態に気が付いている事を伝えたが、相手は言葉が通じない魔物。
当然の様に擬態を続けている。
いや、うん。ありがたい限りだと再び箱を切り裂いた。
バタバタと暴れ動きが止まると、再び箱の下で魔方陣が赤い光を発した。
急いで近づけば今度は少し模倣できた。
あと数回見て、微調整すればコピー完了だと、意気揚々と箱を切り裂き魔法陣をコピーしていく。
予想以上に複雑で陣の上に魔物が乗っているので見辛く、七度目で漸く完全に模倣できた。
これなら発動はするだろうと起動させ、魔方陣に箱の残骸を放り込む。
だが、特に何も起こることはない。
「あれ……どこか間違えたか?」
そう思い、確かめようと新たに魔物を探して歩く。
そして見つけて倒す度に確認したが、何処も間違っては居ない。
人には使えない魔法なのだろうか?
いや、発動はしてるんだからそんな事ないと思うんだけど……
ん、ちょっと待てよ。
あの魔方陣からは物が出てくる所しか見てないよな。
魔法は基本一つの動作しか出来ないし、この魔法は仕舞った物が出てくるものなんじゃないか?
入れる用の魔方陣が必要な可能性もあるな。
そう考えて、猿の死体を箱の近くに投げてから遠くに離れ望遠鏡で覗く。
何でもかんでも仕舞っている感じだったのでこれでも見れる可能性ありと踏んだのだ。
死体を投げつけたら襲ってくるんじゃないかという不安もあったが、当たってないからか動く事はなかった。
そのまま暫く待つと案の定、これまた難易度の高い魔方陣が現れ、猿の魔物が飲み込まれていく。
その魔方陣は死んだ時に出るのとは少し違うものだ。
もう少し見たいと何度か物を近くに投げ込み、魔法陣をしっかりとコピーする。
半分近くは同じなので割とすんなり習得できた。
これで出来なければもうわからんが、その前に持ち帰りたい素材を……と今度は試しに銃で魔石だけを打ち抜き、箱が無事な状態で倒した。
すると毎度の如く魔方陣が現れたが、今回は少し挙動が違った。
箱がパカっと開いて、如何にも倒した景品ですみたいな状態になったのだ。
逆に怪しすぎて近づけない。
これ、罠じゃないのか?
そんな疑念が抜けず、伸ばした棒で叩いたり突いたりしたが、ただの箱でしかなかった。
なんてふざけた魔物だと思いながらも魔方陣を猿の死体で試してみると、今回はしっかりと収納できた様だ。
すっと地面に落ちるように猿は消えていった。
今度は放出できるかだと死亡時に出す魔法陣を出現させれば、入れた猿の死体がちゃんと出てきた。
これまたヤバい魔法だ。
もう荷車なんて要らなくなってしまった。
使った感じ、出し入れの時に魔力を使うだけっぽいし大した消費量ではない。
それに、多分時間経過もしないっぽい。
その理由は再び討伐した宝箱の中身を見てしまったことで知った。
とても最悪な形で……
中身がまだ死んで間もないであろう数名の少女の死体だったのだ。
学院生なら討伐祭で見知っている筈。
そもそも未だ血が滴っているという状況はあり得ない。
それにしても……討伐された意趣返しだろうか。
開いた宝箱の中身がそれとは胸糞悪いにも程がある。
その中でも一人の女性はかなり高貴な身分だと見受けられた。
あからさまに高価そうな装飾品。貴族のボンボンたちよりも上等だろう衣服。
恐らくは王族か高位貴族の令嬢だろう。
そんな人が自らこんな所に来る筈がない。
恐らく穴に落とされたか落ちたかしたのだろう。
この若さで銃も無しにここまで辿り着いているのだから花の魔物が沸いていた可能性が高い。
花弁を使って比較的安全だと思ったこの階層に来たのだと思われる。
上は恐竜だし。
皆綺麗にお腹から体が真っ二つだからこれが箱の魔物のやり方なのだろう。
そして死んだ瞬間、魔法陣に収納したと……
待てよ……死んだ瞬間……?
時間が止まっていたならまだ可能性あるのか?
魔物がとはいえ頭ぶち抜かれても生きてる程やばい物だし……
そう思ってポーションを取り出してお姫様であろう少女の口に流し込んだ。
案の定、体が再生されていく。
下半身がすっぽんぽんだが、そんな事を言っている場合ではない。
他の人たちにも急いで飲ませていく。
そして飲ませ終わり、彼女らの体が再生したのはいいのだが、誰一人として息をしていないことに気が付いた。
そうか……やっぱり収納魔法のお約束は顕在か。
死んだから収納されたんだよな。
そう思って脱力しそうに成ったが、まだ一応やれることはあると人工呼吸と心臓マッサージを行った。
一人にしかできないので一番最後まで生きていた可能性が高い姫様っぽい少女に。
人工呼吸をして心臓マッサージを交互に行う。
どうせ骨折しようがポーションで治るので加減は余り考えず、できるだけ刺激を与える方向で蘇生を試みた。
数分後、お姫様の心臓は再び自発的な鼓動を始めた。
それを確認して再び少しポーションを飲ませ、急いで他の護衛騎士であろう女性にも心肺蘇生を行う。
そして数十分後、俺はそれ以上蘇生を試みるのをやめた。
助かったのは四人中二人。
いや、それも脳への酸素が止まってどれだけ経ったかもわからない。
いくらファンタジー世界だと言え、無事じゃない可能性の方が高いだろう。
今はまだ心臓が動いて息をしているだけだ。
できればちゃんと記憶が残った状態で意識が戻って欲しい。
流石に植物状態や赤ん坊状態では俺も面倒を見切れないので不安で仕方がない。
「いやぁぁぁぁぁぁっ!!!」
上の空で考え事をしていれば、突如叫び声が聞こえ、飛び跳ねるように顔を上げレーザーガンを構えた。
聴力を強化しても魔物の動く音は感じられない。
その事に安堵して武器を下ろし少女へと視線を向けるが、彼女は何も穿いてない下半身を隠しながら殺意の篭った目でこちらを見ていた。
やはり護衛騎士なのだろう。
魔装を出現させようとしたが、どうやら魔力が足りないらしい。
急いで俺はコートを脱いで投げ渡す。
「先ずは話を聞いて欲しい。キミはここがどこだかわかってる?」
格好に羞恥を感じて居たのだから記憶は大丈夫な筈……そう願いを込めて彼女を見据える。
急いでコートを上から掛けて、後ずさった彼女はゆっくりと頷く。
「やっぱり、あの穴から落ちたの?」
「あっ……貴方も……奈落へ落とされたのですか……?」
「あぁ、うん。最初は落とされて此処に来たね……」
そう返せば彼女は周囲を再び確認するとある一点を見て動きを止めた。
「い、い、いやぁぁぁぁぁっ!!!」
漸く聞けた彼女の声に大きく安堵したが、再び彼女の大きな叫び声にビクンと肩が跳ねた。
驚いちゃうからやめて欲しいと視線を向ければ、彼女はとても慌てた様子で高貴な身分だろう女の子の下半身を隠そうとしていた。
「あ、貴方は、何故この状況で平然としているのですか!!」
「待った。先ずは今のキミの状況を説明させてくれ」
俺が渡したコートを姫様っぽい子に掛け、再び手で前を隠した彼女に、魔装でスカートを作り装着してもらった。
そして少し落ち着きを取り戻した彼女に、亡くなっている二人の事や、全員が下半身を失っていた状態だったことを話した。
魔物に襲われた記憶があることや花の魔物の効果を知っていたらしく、あり得ない事ではないと納得してくれた。
「そんな訳で裸だなんだってことを気にしてる状況ではなかったんだよ。
あのグロい下半身から脱がせる度胸もないしね」
「うぐ……あれ、私が取らなきゃいけないんでしょうか……」
「取るならそりゃそうでしょ。俺が触るなんて持っての他だろ。
てかその前に了承を得ても正直嫌だ」
と正直に答えれば「ですよね」と彼女は少し表情を崩した。
自分たちがあのグロい状態だったと知り、変な目を向けられる様な状況ではなかったと気が付いたのだろう。
「それで、キミたちは何処の誰なの?
この学校のダンジョンに入ってるんだからハンター学院の学生だよね?」
と問いかけているものの、絶対に違うという確信がある。
格好から何から明らかに違うと感じるから。
格好を見るに片や高貴なお嬢様、片や軍服だ。
「私はベルファスト王国、士官候補生、チナツと申します。
私のことは呼び捨てて頂いて結構です。貴方のお名前をお伺いしても?」
「ええと、俺はルイ。オルダム出身だけども……やっぱり時代が違うっぽいな」
「えっ、時代が違うとは?」
これは推測だけどと魔物の魔法から説明し、ベルファストなんて国は十年以上前に無くなっている事を伝えた。
「い、いくら命の恩人とはいえ冗談が過ぎます!
ベルファストは領土は狭くとも名の知れた強国ですよ!?
仮に本当に時が過ぎていようと滅びるなんてありえません!!」
再び大声を出すチナツに『そこら辺は自分で調べてくれ。俺が知っている情報を伝えただけだ』と騙そうとする意思はないと告げた。
「どうやって調べるんですか……ここで朽ち果てるのを待つだけなのに」
「ああ、出る方法はあるよ。自力で編み出したから。
そっちの彼女が目を覚ましたら外に出ようぜ」
「う、嘘……私たち、助かるの……?」
うーん。助かるって言っていいものかどうか。
ベルファストが強国と言われるほど栄華を誇っていた時代なんて聴いた事もない。
相当に時が経ってしまって居そうだと思いながらも確認を取ればそれほどでもなかった。
彼女の言が正しければ二十数年と言ったところだ。
「姫殿下! どうか、目を覚まして下さいまし! 助かるかもしれないのです!」
ああ、上等な衣服や装飾だとは思っていたけど、お姫様なのね……
これ出た後どうしたらいいんだろ。
オルダム子爵に相談した方がいいのか?
いや、そもそもそんな事言われても信じられないよな。
でもなぁ。ダンジョンの外に出たからってそこで放り出すのも悲惨過ぎる気がする。
てか彼女たち、町入れるのかね?
いや、あそこのチェックはザルだし魔装の荷車に隠せば簡単に通れるだろうけども。
そうしたらそうしたで後々俺の責任に成る。というか流石にそれは犯罪だからダメだ。
どうするにしても彼女たちと話して考えるしかないか。
って言ってももう一人が起きない事には……と、視線を向ければとっくに起きていた様で、チナツとこそこそと相談していた。
「目が覚めてたんだな。一先ず、無事なようで何よりだ」
「外に出れると聞いたのですが、一先ず……なのですか?」
「ああ。ダンジョンから出るのは任せてくれ。だけどその後の事は正直わからん」
話は聞いてないのかとチナツに視線を向けるが姫様の方から聞いていると返事が返ってきた。
「その話が本当ならば、時が流れすぎていてわたくしが捕らえられる事は無さそうですが?」
「そりゃ、捕らえられる事は多分無いと思うけどさ。
身分証も無いだろ。町に入れるのかねって話。
誰かを頼るにもラズベルまでは行かないと厳しいんじゃないか?」
と言ったものの良くわかってない様子なので併合後にベルファストはラズベルと名前を変えた事を伝えた。
「なるほど。今のベルファストはラズベルと……そうですか。将軍家が……」
ベルファストが併合された今、そもそもそんな人が居るのかどうか。
「そう……ですね。では、気味が悪いなどと言っては居られませんね。
チナツ、皆の衣服を脱がせて集めなさい。
町に入れぬ場合、これから先私と貴方で着回さねばなりません」
「畏まりました」
少し青い顔をしながらも彼女は衣服を集めて回った。
死体を運ぼうかと提案したのだが、此処に置いていくと言われ少し面食らった。
だが「話が本当ならば私たちに弔える地などありませんから」と言われてしまって気が付いた。
俺にもそんな場所を用意してやることはできないと。
「その……蘇生したのは迷惑だったか……?」
「いいえ。此処から出られないのであればそう思った事でしょうが、ここから出して下さるのであれば貴方は大恩人ですわ」
「うーん……じゃあ取り合えず出ようか」
どこまで面倒を見たものか、気持ちを決めきらぬままに彼女たち二人を連れて上の階層へと上がり、穴底の部屋まで訪れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます