第80話 い、虐めですか!
レスタール王城、応接間。
俺は、戦勝パーティーから三日後、早速レスタールへと来て謁見の予約を取りに来た。
本当は次の日に来たかったのだが、やる事が多々あった。
イケメンをユリに会わせない様に開放することとか、奈落へ行って素材回収することとか。それで結局二日も取られてしまった。
漸く今日、感謝を認めた文をルイ・フォン・ベルファストとして渡して貰えば、待ち時間無しで時間を取って貰えた。
しかし、対面テーブルに着いたはいいがとても空気が悪かった。
「ほう、よくもおめおめと一人で来られたものだな。ルイ王子よ……」
「まさか王子だったとは夢にも思いませんでした。まんまと騙されましたなぁ、陛下」
と陛下と宰相が、ぶすっとした顔でチクチク刺してきた。
「へ、陛下! 違うんですよ!
爵位を願った時は本当に知らなかったんです!
コーネリアさんを助けた辺りで知ったんですけど、ベルファストなんてもう無かったじゃないですか! 墓場まで持っていってこのまま静かに暮らそうと思ってたんです!」
精一杯の弁解を行うが表情は晴れてくれない。
「ほーう。しかし知ってて言わなかった事には変わりあるまい?」
うぐ……それはそう。
「す、すみません……」
「はぁ……それで何の用だ? 戦の応援などせぬぞ」
「いえ、それは一先ずベルファストの勝利で終わったので。
それよりもですね――――――――」
と説明を始めようと思ったのだが「待て、勝利で終わったじゃと?」と話を止められた。
「あれ……戦、監視してなかったんですか?」と疑問の声を上げた。
「流石に此方も関わる事。情報は集めさせているがその様な話は聞いておらぬ……」
「あっ、まだ終わって三日だからですかね。それよりもですね――――」
「いや待て」と再び止められる。
何があった、と。
「ええと、信じて頂けるかわからないのですけども、二万四千の内一万九千を撃破し、五千を退却させました」
「ふふふ、性質の悪い冗談だ。到底信じられんな。
もし仮にそれが事実であればルイ王子よ、わしはおぬしに頭を下げて詫びよう」
「いやいやいやいや、やめて下さいよ。そんなの俺が心苦しいだけですから!
そんな事よりもですね――――」
「まだ事実だと申すのか?」と何時までたっても話を進めさせてくれない。
「ええ。ですがそれは陛下の手の者に確認をして頂ければ。詳細をと言うのであれば勿論ご報告させて頂きますが、今の段階でもお聞きになりたいですか?」
うん。信じられないよね。最後に正面から戦ってわかった。
いくらうちの兵が強いと言っても全うに戦ったら無理だよ。あの数の差は。
結局作戦の大半は全部大成功に終わったのに最後になって状況が変わり、五百人近く死なせてしまったし。
「聞かせよ。勿論、今の段階では信じられん。
しかしおぬしの口からはしっかりと聞いて置きたい」
「あ、わかりました。では初日から―――――――」
と話はずれてしまったが、力を認めて貰うのも必要な事。
大まかな全容を伝え、地雷の事もある程度話した。
勿論、製法や運用方法、素材に触れる事は全て伏せたが。
「帝国の序列入りすらも倒したのか……
これが本当ならベルファストの力を見誤っていたとなるが……」
「あ、はい。皆さん恐ろしいくらい強かったです」
とベルファストの力を称えつつも「でも、勝てたのは陛下のお陰なんですよ」と続ければ「ほう……風鈴か、それとも情報の方か」と意味がわからない言葉が飛び出した。
首を傾げれば説明してくれた。
風鈴傭兵団に繋ぎを作ったり集めた帝国の情報を渡してくれたりしていたらしい。
ああ、親父が持っていた資料は陛下からか……
「あ、そっちも陛下のお陰なんですね。
俺としては奈落素材を半分持ち出させて貰ったのが大きかったんです。
それで、耳寄りな情報もありまして!」
奈落素材の話を出せば漸く得心が行ったと陛下は頷いた。
「ほう」と興味深い視線を向けられたので宝箱の内布がバックパック素材として使える事が判明したと伝えた。
「まだ、判明したばかりで数個しかできてないんですけどね。
使えるとわかったからには情報をお伝えせねばと思いまして」
オルダムでは用途がわからずこれをどうしろとと言われていたのでと付け加えた。
「待て、奈落の素材だというのに調べもせんかったのか?」
「ああ、いや、オルダム子爵の計らいで町のギルドにそれほどの高級品を持ち込み続けるのも問題が起こるだろうと、学院の解体場に下ろしていたんです」
「なんと……」と呆れた顔を見せる陛下。
ごめん子爵様、なんか地雷ふんだかも。
一応精一杯彼の援護をしてみたが、呆れ顔は変わらなかった。
「して、ベルファストの王子がどの様な理由でそれを伝える?」
「ええと、これは俺個人としてのお礼です」
「ほう、出す代わりを何も求めるつもりが無いと?」
あら、どうやら勘違いさせてしまった様子。
これはガチで半分持っていって良いという条件を貰ったお礼だ。
これが勝利の鍵だった。
普通国外にそれほど貴重な素材の持ち出しなんて許さない。
陛下はベルファスト返還後にその条件をくれたのだからそこに感謝が無い筈がない。
オルダム子爵と話すまでは学校に素材を提出すれば、花の魔物の倒し方を聞き出されてすべて国の物にされるだろうな、と思っていた。
自分で言うのもなんだが、金の卵を産む俺を縛り付けず応援する形で送り出してくれたというのは意外な対応だった。
ライリー殿下を助ける前からだったからあれが陛下の常なのだろう。
「はい。俺がどうしても守りたかった人を陛下のお陰で守れたんですから。
とはいえ今までは価値を見出してなかったので今はそれほど数が無いのですが、一応持って来ました。此方に卸しますか?」
「む、何処にある。供は居らぬと聞いて居るが?」
「はい、一人ですよ。あっ、収納魔法に入ってますから」
首を傾げる陛下に物を別の空間に入れて手ぶらで持ち運べる魔法だと説明した。
「な、なんだと!?」と隣でずっと、ぶすっと睨み付けていた宰相が立ち上がる。
「ええと、その宝箱の魔物が使った魔法なんですけど……出す時に見せますよ。
もし必要なら写しますか……?」
「おお! では、急ぎ場を変えるとしよう! 陛下、よろしいですな!?」
宰相は腰を上げて陛下を急かす。その時には二人とも普段の顔に戻ってくれていた。
なんか機嫌が直ったみたいでよかったよかった。
収納魔法は便利だもんね。
そうしてやって来たのはお城の中の倉庫的な大広間。
宝物庫かと少しわくわくしたが、少し豪華な調度品や家具が置いてあるだけの場所だった。
「此処でなら収まるか?」
「はい、勿論」と宝箱をポンポンと出していく。
来る前に取って来た狩りたてほやほやだ。
しかし、素材に寄っていくのは職人ばかりで二人の興味は収納魔法へ。
欲しいのだと思い、ミスリルで魔法陣の型を作って渡した。
「あ、因みに魔道具では使えません。多分ミスリルや固める素材に当たって通らないからだとは思いますが定かではありません」
「ふむ、しかし難解だのぉ、よくこれをポンポンと使うものだ」
宰相閣下は苦い顔で魔法陣を眺める。
「ベルファストで一番制御が得意な者でも十年の修行が要るだろうと言ってました。
でも国規模ならそんな人材を育成できる可能性もありますよね?」
「うむ。それができれば夢が広がるな」
顎を弄りながら、もう皮算用を始めている宰相。
意外と物欲の強い人だったみたいだ。
嫌いじゃない。だって楽しいもの、取らぬ狸の皮算用。
「それで、こちらが件の素材か」と陛下がやっと宝箱に興味を。
まあ、もう既に職人が調べに入っているから確認した後は任せちゃってもいいんだろうけど。
「はい。内布はバックパック、周りの宝石が増幅器として使えます。
バックパックは従来の五倍以上の容量で作成でき、宝石は出回っている高級品よりワンランク上だそうですよ」
「ご、五倍、だと!?」と、連れてきた職人に目を向ける陛下。
「この大きさでもし同じ効果を持つのであれば、私ならばその倍近くはいけるかと……」
確かに作る前は五倍以上って言ってたけど、新型バックパックはそれ以上優に入ったな。
奈落って本当にやばいよな。色々な意味で。
ゴーレムなんて全部ミスリルだ……し……ってやばい。
ミスリルの事言ってなかった。
後から一気に納品しようとスルーしちゃってたわ。
けど、市場に大量に売り払っちゃってる以上言わない訳にもいかない。
また怒られる……
「陛下、実はもう一つ言わなくてはならない事が……」
「なんじゃ、顔色を見るによろしく無さそうな話か?」
「ええと、はい。まあ……」と苦笑いしながらミスリルゴーレムを出した。
「これも奈落素材なんですよね」
「これは……まさか、これが全てミスリルなのか!?」
大声を上げたのは職人の方だった。
「何故、その様な顔で出した。渡せぬ物なのか?」
「いえいえいえ! その、どうしてもベルファストを守る為に必要で、優先的に持って行かせて貰ってました! その分はしっかりと納品させていただきますので!!」
どうかお許しをと頭を下げた。
「なるほど。収納魔法とやらで全て持っていっていたと……」
「すみません、すみません、すみません!」
「これは許せん、と言いたい所だが、ライリーを救ってくれた恩もある。
此度だけは許そう。だが、次は許さぬぞ」
「あっ、ありがとうございます!」
ふぅ、あぶねぇ。陛下が話のわかる人でよかったぁ。
「して、どの程度ある。出せるならこのまま出してよいぞ」
「はい、全て持ってきたので八十ほどあります。
多分ここならギリギリ出せるかと」
と奥からきっちり並べて敷き詰めていけばギリギリ収まった。
「他にはもう無いか」と問われたので一応、使い所がわからない魔物も出した。
とんでもなく美味しいので恐竜肉もどうぞと添えて。
「うむ。これはもう口にしたぞ。素晴らしいものじゃな」などと和気藹々な空気だ。
新たに数人の人が入ってきて此方をみて「そんな馬鹿な」と後ずさる。
ミスリルに驚いたのだろう。相当高価なものだしね。
ふぅ、やっとこれで本題に入れると思っていたのだが、何やら新しく入ってきた人に耳打ちされていて顔色が変わっていく陛下……
怒っていらっしゃる……?
「して、他にも隠し事があるな?」と何故か肩を捉まれた。
今度は何を理由に怒られるのだろうか、とビクビクしていれば特になんて事はない話だった。
深刻な顔してるから怒ってるのかと思ったわ。
「たった今、ベルファストへ走らせていた者が帰った。
しかしその者はルイ王子が此処に居る筈がないと言う。何故じゃ?」
「あっ、それですか。飛べるようになったので飛んできました」
長い葛藤の末「な、何…………見せよ」と陛下は飛んで見せてみろと言い出した。
しかし室内では埃や紙などが舞って大変な事になると伝え、庭園へと移動した。
とても噴水やこの世界では中々見ない綺麗な歩道。
木などもきっちり手入れされた綺麗な所だ。
そこで飛び回って見せれば二人ともしかめっ面で長考している。
あれ……絶賛されるかと思ったけど……
もう良いと言われたので近くにとことこ歩いていけば再び応接間へ。
「……これでルイ王子の言葉を信じざるを得なくなってしもうた。
本当に、ベルファストはおぬしが言った通りに勝ったのか……?」
なにやら深刻そうに目頭を押さえている。
「ええ。間違いありませんが、レスタールにとって拙いので?」
「良くは無かろう。恨んでいるであろう相手が力と大儀を手にしたのだ」
「た、確かに……でもちゃんと言いましたよ。
レスタールとは手を繋がなければ滅びるから迂闊な真似は許さないって」
意外そうな視線を向けてくるが、当然だ。
漸く此処であの話にいけるといそいそと説明を行った。
リースを持ってもらい、同盟を組み共に帝国と戦おうという話を。
「それは、帝国をレスタールに押し付けるという事ではないか。
受けられぬに決まっておろう!」
「では陛下と宰相閣下にお尋ねします。
ベルファストが滅びた後、帝国に抵抗する算段がおありですか?」
親父の持ってきた帝国の資料には目を通した。
予想を遥かに上回る戦力を有していた。
序列とやらも、あのクズやイケメンですら十本の指にも入らないと言う。
元々貴族の嫡子である者がそこまで登ったという事で持て囃されていたらしいが。
一般の兵にも酷い差がある。上級騎士の人数も桁が二つ違う程だ。
あの高速移動の魔法は上位に与えられているそうだから、少なくとも序列入りは全員が使ってくる。そうなればオーウェン先生レベルでも止めるのは難しい。
そうなれば今度はこっちが一騎当千をされてしまうのだ。
「無いな……真っ当に手を繋ぐ事も不可能だと思うておる」と予想通りの言葉が返ってきた。
「であれば、共に生き残る手立てを模索しましょう。此方の提案したやり方でなければ駄目だなんて思っていません。先ずはお互いが妥協できるラインを探す為の場をお願いします」
「なるほど。その為の素材の献上か……」と宰相が納得する。
「いいえ、違います。あれはお礼です。それを理由に譲歩する必要はありません」
「ほう、では突っ撥ねても良いと?」
「良くはありませんが、その時は受け入れようと思います。
国の利を追求しなければいけないお立場なのは理解していますので」
一応ベルファストを守る策は一つ出来ていた……
その場合、全ての倫理観を捨てベルファストを守る為に……いや、ユリを守る為に悪魔の様な行いをする必要がある。
無限に爆弾を製造し、帝国の帝都から順に全ての町の軍事施設を爆撃して全てが立ち行かない状況にまで追い込んでやるという作戦。
それがこの三日で出した決断。
民間人が居るかどうかを問わず、軍事施設と調べがついた場所は全てを吹き飛ばすという作戦だ。
一般市民を巻き込むなんて到底許される行為ではないが、帝国が侵略を続けるのなら最後の最後にはやる覚悟をした。
まあ、まずは皇居近くを吹き飛ばしいつでも殺れる事を伝え、終戦を訴えるくらいから始めるが。
それでも侵略をやめないなら仕方がない。
もう既に爆弾量産の着手はさせている。
とはいえ敵に技術を盗まれる可能性を考えると出来る限り使いたくない。
だからこそ同盟が成立して欲しい。
「場は用意しよう。そちらの出席はどうなる予定だ?」
「いえ、親父も手を結ばなきゃ終わると認めていたので賛成してくれる筈ですが……実はまだ何も」
「なんじゃ、自国も纏めずに来たのか……?」
「はい……先ずは陛下にご相談をと思いまして独断で……」
「阿呆! 逆じゃ逆!」と再び怒られた。
「しかし、こうなってしまってはせねばならぬ事が出来たな……
アルベール、人払いを。全てじゃ」
「ハッ!!」
そう言って使用人から文官まで全員がぞろぞろと退室していく。
なんだなんだ!
そんなに重大な話があるの!?
と戦々恐々と二人と向かい合う。
「ルイ・フォン・ベルファスト王子……
この度の非礼、深く、深くお詫び申し上げる! 真に申し訳なかった!」
陛下と宰相が二人して机に頭をつける勢いで頭を下げた。
「はっ……? ちょっとちょっと! 何で今更そうなるんですかぁ!
やめて下さい! 恐縮して辛いんで! やめて下さいって言ったじゃーん!!」
俺にとって国王陛下と言えばこの人が真っ先に浮かぶ。
そんな人だ。
自国では絶対に言えないが、仕方ないよね。
物心ついた時から母国だと思いながら育った国の王様なんだから。
しかしそんな人が俺に向かってガチで頭を下げている。
苦痛でしかなかった。
そうしてテンパりながらも頭を上げて貰えば、二人とも悪い顔で笑っていた。
……ちくしょう。やられた。
「い、虐めですか!」
「なんと! 誠意ある謝罪が虐めとは、異な事を」
くそぅ。わかってる癖に……
気疲れでぐったりしながら「もう良いです……」と返せば、会談はこれで終わりとなった。
こちらの話し合いを終わらせたら文を送れとの事。
王城を去りながらも怒られ続けた果てに苛められた事だけが頭に残り、ユリを連れて来なくて本当によかったと思いつつもベルファストへと帰った。
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