第126話 奈落、完全攻略
コーネリアさんたちを助けた時以来の階層更新に緊張を露わにしながらも聴力強化すれば、普通に歩く音が聞こえる。
音からして二足歩行の魔物だろう。
降りた先には恐らく居ない。
それがわかりながらも警戒心を最大にしてクリアリングしていく。
そうして最初の部屋に降りれば、幸いにもその部屋から伸びる通路は一つだけ。
割と距離もある。
なので防衛設備を設置後、音で呼び寄せる事に。
最初から銅鑼でやるのはやり過ぎだな。と控えめに壁を叩き音を出す。
「っ!? 近場の二匹が歩行速度を上げました」
「ああ。だが一匹は道を間違えたらしい。完璧な状況だ。
ユリとイグナートはレーザーガンで。俺はもしもの時に備えレールガンで狙いを定めておく」
そうして緊迫した状況下で待っていれば、翼を生やした悪魔と表現するのがふさわしい魔物が視界に映る。
その瞬間、二人の光線がその悪魔に突き刺さり一瞬で息絶えた。
「一先ず、倒すことはできたな……」
「ええ。これなら何の心配もいりませんね?」
「待て待て、その考えはダメだよ。最低でも相手の魔法と特性を知るまでは気を抜いちゃダメ」
「ええ。最深層攻略時はそのくらいの心構えが無いと危険ですね」
コクコクと頷いて思い改めるユリ。
そうして呼び寄せを行っていくが、全て瞬殺で相手が魔法を使う間もなく終わる。
「もう少し距離が詰まるまで待ちますか?」
魔法を使わせようということだろう。正直、奈落の魔法は高い効果を持っているものばかりなので欲しいが、危険を冒してまで欲しい訳じゃない。
でも不慮の遭遇を考えると知っておきたいものではある……
悩みどころだ。
「魔法陣構築までは待っても良いかもしれません。
数を繰り返せば殿下であれば使えるのでは?」
「あっ、それだ。それでいこう。でも当然だけど討伐優先ね。接近は絶対に許さないで」
二人が頷くのを確認して新たなポイントに移動する。
レーザーガンで倒せることがわかったので今度からは俺も参戦だ。
一応念の為でどちらの準備もしてあるが。
「しかし聴力強化魔法がここまで有効とは。
これも私が知っている中で上位の有用性を持つ魔法ですね」
「だろうな。あっ、ちょっと待ってろ」
とミスリルを出してイヤホンの様な物を作りイグナートに渡す。
「ほい。これ付けてみ」
「っ!? これが……ですが聞き分けが大変だ」
「ああ、最初はな。俺もユリ程は無理だが、だいぶ慣れた」
なんて言いながらも「次やるぞ」と声を掛け、音を鳴らす。
集まってくる悪魔をサクサクと細切れにしていく。
ある程度近づいても魔法陣を構築する個体は無く討伐が終わる。
「使ってこなかったな……」
「しぃ!!」
ユリの声に俺は強化を全開にして身構える。
とっとっとっと軽快に走る音が近づいてくる。
「ユリは中段を、俺は顔の辺りでいく!」
「では私は足を!」
と、三人でレーザーガンを放てば、何もない所から突如出て来た悪魔が転がった。
幸い、全員の攻撃が当たり細切れになっているが、距離は十数メートルの所まで来ていた。
「透明化か……ヤバいな」
「ええ。とても厄介です」
「そう、ですか? 奇襲する知能はありませんし、種が割れればゴーレムよりも断然優しい気がしますけど」
いや、姿が見えないんだよ?
と言いつつも驚いた顔でユリを見れば「逆にこれだけ音を立ててるのですから察知は楽ですよ?」と首を傾げられた。
「では、次行ってみましょう。大丈夫です。消えているのが居れば私が討ちますから」
彼女はこういう所でハッタリを言う様な事はしない。
であれば、彼女を信じ俺も聞き取る力を磨くべきかと呼び寄せるポイントを移動していく。
そうして続けてみれば、彼女の言っていた通り前もって意識していれば俺でもわかるくらいに居場所を掴めた。
そうして殲滅はすぐに終わり、下に伸びる階段を見つけた。
しかし、その階段はいつもと違う作りになっていた。
「螺旋階段、ですか……深層にこの様なものがあるとは」
博識のイグナートですら予想外の事態らしく目を見開いていた。
俺は望遠鏡を三つ作り二人に手渡す。
手分けして下の様子を確認しようと。
「っ!? 何ですかあれは……」
「ボス、でしょうね」
「めっちゃでけぇな」
結構距離があるので正確にはわからんがお屋敷くらいあるんじゃないだろうか。
形は一応人型と言って良いのだろうか。
トロールの様な外見の魔物だ。螺旋階段の外周をぐるぐるとゆっくりと歩き続けている。
本当にゆっくりだ。ズンズンと音を立ててゆっくりと歩いている。
こちらに気付いた様子は無い。
暫く様子を伺ったが上を見上げる事すらしないので今の所は安全そうだ。
「ど、どうする? 一発ぶちかましてみるか?」
直接戦うなんてまっぴらごめんだが、上から一発狙い撃ちを試してみるくらいならと提案してみた。
「そう、ですね。しくじっても上に上がってしまえば追えないでしょうし」
そうと決まれば、とレールガンを巨大サイズで作成していく。
このサイズだと衝撃もヤバいので根を張る様に固定の足を伸ばしていけば、禍々しい物が出来上がってしまった。
「こちらの魔道具はどうしますか?」
と、レーザーガンを見せるイグナートだが、流石に小さすぎる。
というか全力のレールガンでダメなら素直に引いた方が良い。
下手に粘るのは危険だろうとこっちだけで行くと伝えた。
「魔石を狙って割れなければ引く。魔力を使って全力で。いいな?」
二人が頷くのを確認してから狙いを定めた。
その後、魔法障壁を張りそのまま起動すれば、予想通り地を揺るがすほどの爆発と同時に巨大な弾丸が発射された。
その後すぐに三人で望遠鏡を覗き込み、結果を確認する。
「や、やりました! ちゃんと割れています!」
「はい。片方が落ちているのでもう動かないでしょう」
「よし! んじゃ一応警戒しながら階段を降りようか」
と、俺たちは階段を降りながらも今まで死角になっていた場所を確認しつつ下に降りていく。
「……通路がありませんね。もしかして、最下層を攻略しちゃったのでしょうか」
あ、そう言えば初代の言葉に最下層は攻略しちゃダメって言葉が書いてあったな。
と、冷や汗を掻きつつも降りていく。
「何か、拙いのですか?」と問いかけるイグナートにその理由を伝えた。
「なるほど。ですが恐らくは大丈夫でしょう。
原理的に魔素が溜まり魔物が湧いてその分魔素が薄まっていくのは変わりませんから。
推測ですが、これほど強大な魔物となると戦闘でダンジョンが壊される事になるだろうと想定してではないでしょうか」
ああ、なるほどな。
そう言われればそうだわ。
あの大きさの魔物が全力で暴れたらダンジョンが崩落する可能性の方が高い。
そう考えたらゾッとした。
お試しで一発なんてやるべきじゃなかったと。
うん。今後は足を踏み入れるのを止めよう。
と言っても恐らく年単位で沸かないだろうけど。
そんな雑談をしていればボスの前まで辿り付いた。
「でけぇ……収納入るかな」
「立っていれば入りそうですが、寝ていると厳しそうですねぇ」
「えっ、立っていればこれが入るのですか……」
ああ、そう言えばお屋敷の収納はカイと行ったんだっけ。
出す時もダンジョン調査とかでイグナートは見て無いのかな。
そんな事を考えつつも、解体を試みようと足に剣を振り下ろしたが、ガキンと変な音がして剣が折れた。
「えっ……いや、金属なの?」と突っ込みを入れながらもハンマーの形態にして叩いてみればガンガンと音がする。
「これを切り落とすのは大変そうですね……」
「立たせた方が早いか……」
と螺旋階段の上に上り、魔装で作ったフック付きロープで引っ掛け、巻き取り式の仕組みを三つ作り組み立てる。
ギアを大きくして歩みは遅いが力は乗る様にしてやれば強化全開で普通に回せた。
頑張って三人で吊らせた後、俺だけが下に降りて収納を起動し、その後卸して貰えばギリギリ収納できた。
そして残るは超が付くほどの巨大魔石。
抱きついても手が後ろに回るかどうかという代物だ。
「これ、どうする?」
「ルイが吸収すればいいんじゃないですか?」
首を傾げるユリにイグナートが「いえ、残して置いた方が良いでしょう」と返した。
魔道具に使う場合、魔石の大きさで出せる最大出力が変わるので、巨大魔石は保持魔力量以上に高価になるのだとか。
そして二つに割れた程度なら最大出力は変わらないのだとか。
「恐らく、これであれば常人には使えぬ大魔法もポンポン打てる事でしょう」
「おお、じゃあ村の防衛に使えるな」
「いえ、国の防衛に使えます」
……いや、うん。そうだけどさ。
でもどっちに使ったっていいじゃん。
と少し顔が赤くなりながらも、二つに割れた魔石を拾う。
収納に入れてしまっては出す時に割れてしまいそうなのでリュックを魔装で作りイグナートに持って貰った。
そして花の魔物の時みたく落ちていないかと軽く周囲を見て回ったが、流石に巨大魔石が落ちているなんてことは無かった。
まあ、あれは猿と喧嘩になって討伐されるからだもんな。
と、帰る事を考え始めた頃、ユリが意外過ぎる物を発見した。
下に続く隠し階段だ。
長い事誰も使っていなかったからだろう。完全に埋まっていた。
上を通った時の感覚で気が付いたのだそうだ。
しかも中は、スライムゼリーの様なものでコーティングされている。
博識で余り動じないイグナートも明らかなる人工物の出現に目を見開いて固まっている。
「ダンジョンって昔の人が作ったもんなのかな?」
「神が与えたもうたとは聞きますが、神と称された偉人だったということでしょうか……?」
三人で下へ続く階段を眺めているとユリは「行ってみますか?」とこちらに視線を送る。
流石に迷うところだ。この先に行く事に意味はあるのか、と。
「殿下、もしこのまま引き返すのでしたら、私が奥を見て来てからでもよろしいでしょうか……」
彼はこの先を知りたいみたいだ。
「危ないかもしれないぞ?」
「はい。ですがこのダンジョンというものが何なのか、私は知りたい」
彼の声に頷き、ユリに視線を向ければ「行きましょう」と彼女も頷く。
そうして俺たちは警戒を最大にして降りたのだが、暫く降り続けた先には何もなく、行き止まりであった。
「肩透かしかよ……ってこれは……」
「明らかに一度抜いた跡ですね」
ここまで来たならば、と俺は魔装を駆使して再びその壁をくり抜いた。
力任せに引っ張りぬいてやれば、ズズズと綺麗に抜けてその奥には意外過ぎる空間が広がっていた。
「なんだ……これは……」イグナートが放心して立ち尽くす。
俺たちも同様に言葉が出ない。
だが、俺は、俺だけはその奥にある光景を見たことがあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます