第5話 俺は弱いんだ。勘違いするな!



 今日から本格的に授業が始まるので気合を入れてちょっと早めに来てみたら、割と皆同じことを考えていた様で、初日に対策会議をしたやつらと魔獣の赤ちゃんを並べての雑談と相成った。


 話していれば初めて見る女性の教師が入って来て、軽い挨拶のあと座学の授業が始まる。


 まず最初の授業は地理からだった。

 言葉だけで説明されても良く分からなかったが、それでも国とこの領地だけでなく近隣の領地の名前と大まかな地理までは覚える事が出来た。


 西に他国と隣接したラズベルという辺境伯爵家の治める領地があり、南と東は幾つかの町を越えたら深い森と山岳地帯。

 北に森を挟んでイスプールという子爵家の領地がある。

 そしてこの学校のある地、オルダムは子爵家が治めているようだ。


 元々ラズベルはベルファストという小国で十五年ほど前に名前を変えての併合となりこの国に吸収された歴史のある大きな町だ。

 ここら辺は本来王都から遠く離れた開拓が盛んな土地らしい。


 それから、周辺のダンジョンの説明が続いた授業は二時間ほどで終わり、少し早い昼食となった。

 お昼ご飯はちゃんと出るみたいだ。

 しかもパンは希望すれば大きめのが最大五個まで貰えて、必要なら夜に持ち越すために持ち帰ってもいいらしい。

 硬くて人気の無いパンらしいが、俺には慣れたもの。

 食べ方次第で美味しくなるしな。

 当然のようにパンをゲットして午後の授業に望む。


 午後の授業は担任のオーウェン先生が担当するようだ。


「さて、今日からお前達には魔物と戦って貰う事になる。

 学校の授業とはいえ命がけだ。甘い判断や舐めた行動を取ったものは容赦なくBクラスやCクラスに落とすからそのつもりでな」


 え? もう実戦なの?

 俺、昨日悶々として寝つけなくて寝不足なんだけど……


「では、これから魔獣を檻に入れてダンジョンに移動する」


 その号令と共にガタガタと立ち上がる音が響く。

 実戦という事で緊張からかざわざわと私語を交わしながらの移動となった。

 先生も一緒になって雑談しているので問題なさそうだと、俺もアキトたちと雑談しつつ移動した。


 魔獣を預かってくれる小屋に到着したが、『貴方、今なんと仰いましたの!?』と強い口調の声が聴こえた。

 何やら騒動が起こっている様子。

 中を覗き込めば、ブルジョア勢だろう二人の男子と女子が言い争いをしているみたいだ。


「今の言葉、もう一度言って貰えるかしら?」


 金色の髪を靡かせたお嬢様然とした子が目を見開いて食って掛かっていた。


「フッ、何度も聞かないでくれないか?

 キミの耳が悪いのか頭が悪いのかは知らないが、俺は魔獣の赤子など育てたくないから討伐したと言っているんだ。

 魔獣に手を舐められるなどおぞましくて思わず壁に叩き付けただけのことだ」


 応える彼も後ろの席を陣取っているブルジョワ勢の一人。

 ハンターには少し似合わないお坊ちゃま然とした容姿の少年だ。

 その彼の言葉にその場にいる大半の者が目を見開いて、驚愕を示すか眉をひそめ嫌悪を示した。

 どうやらもう一人の男子は女性側の様子。ドン引きして彼から一歩引いた。


「あー、カールスだったか?

 お前は討伐には連れて行けない。このままDクラス行きだ。

 事情は自分で話してDクラスで授業を受けろ」

「なっ! 攻撃をして来たなら殺して良いと言ったではないか!?」


 カールスは眉間にしわを寄せ、敵意が剥き出しな表情をしている。

 周囲のものがゆっくりと距離を取るとオーウェン先生が逆に距離を詰め、彼と最初に言い合いをしていた女子に声をかけた。


「リアーナ、こいつのどこがダメだか説明してみろ」

「こんな可愛い生き物を殺すなんてありえませんわ! 最低です!!」

「違う。論外だ! あぁ……じゃあびりっけつのルイ、説明しろ」


 ちょっとぉ? 何で俺なの?

 巻き込んだ上にびりっけつとかダブルパンチ止めて?

 Aクラスなんだし、学校の評価の中じゃ一応上の方だよ?

 戦力的には最弱だけど。

 ……でもまあ、このまま黙ってても仕方ないか。


「先生の指示は育成をして人に懐かせろ、ダメだった場合に殺せというものでした。

 ダメだ、と判断を下す理由に正当性が無かった……という事ですかね」

「貴様ぁ! 見窄らしい平民の癖にこの私に意見するのか!!

 攻撃をしてきたら殺せと言っていたのだ!

 噛んできて殺したのだから指示通りだろうがっ!」


 いや、それは屁理屈だろぉ……お前育てたくないからって自分で言ったじゃん。

 そもそも魔獣の赤ちゃんだってタダじゃないだろうし、学校側の評価がマイナスになるのは考えなくても分かるだろうに……

 しかも見窄らしいって酷くね?

 と、いきなり此方に向いた敵意に驚いていたら先生が間に入り彼を制した。


「待て、攻撃してきただと……

 まさかお前はこの小さな生き物からダメージを負ったとでも言うつもりなのか?

 これの甘噛みが攻撃だと言う程にひ弱なのであれば、ハンターを目指すのは今すぐ止めろ。

 対象は魔物だ。殺した事に関しては責任を問うつもりは無い。

 だが育てろという指示を無視し、学校所有の魔獣を正当性なく駄目にしたのだからマイナス評価は当たり前だ。

 本来ならクラスの移動は半年後となるが、相談もせずに与えられた課題を自ら放棄する様な奴を討伐には連れて行けん。

 Aクラスは討伐がメインだからクラスにも置いておけない。よって現在の評価値でのクラス移動をする事にした。

 なにか反論はあるか?」

「ぐっ……そもそも敵である魔獣を育てるなどという課題がおかしいのだ!」

「そこに異論があるなら昨日の時点で言うべきだ。

 受け取って殺してから言って良い言葉ではない」


 先生はもう話す事は無いと踵を返す。後に続く皆も嫌な話し聞いちゃったなといった空気で溜息がぽつりぽつりと聴こえた。

 俺の見立てでは、9割以上の生徒が魔獣の赤ちゃんにメロメロなのに、それが屁理屈で一方的に殺されたのだ。

 強い憤りを感じているが、相手は本来討伐すべき魔獣なのだから上手く言葉が出ないと言ったところだろう。

 避けるように皆が出ていく中、彼は何故か俺を睨んでいた。

 一体如何してくれるんだと俺は先生を睨む。


「先生、俺はクラスで一番かよわい存在なんですよ?

 恨まれる役を与えるのは勘弁してくださいよ」

「ふっ、何がかよわいだ。お前、実力隠してるだろ? 

 お前の入試を担当した先生が驚いてたぞ。お前の制御能力は学生の域を軽く超えているってな」


 いや、本気で隠してないんだけど……

 力が無いままにこんなイベント来られても困るんだけど! マジで!

 てか、入試で何かしたっけ? 実技はボロクソにやられただけだったよな?


 魔力制御関連だろ……

 あぁ、確かどうやっても一つも敵わなくて、周りの奴らと比べて良いところが無いから、焦ってハリネズミみたく棘を具現化させて伸ばしたっけ。

 けど、軽く弾かれて転がされて終わったんだけど……

 うーむ……先生に『お前は間違っているぞ!』と声を大にして文句を言いたい所だが、今否定してもユリのお陰で実力が急激に伸びたから隠してたっぽく見えてしまうかも。でも、ユリとの差を考えればまだまだ弱いはず……

 むむむと唸って居れば頭をポンと叩かれた。


「相談くらいは乗ってやるからこの程度の障害は乗り越えて見せろ。

 ハンターやってる奴は個性的なのが多い。

 この程度で考え込んでたらもたないぞ?」


 いやいや、これが必然性のある事がきっかけなら諦めるんだよ。

 押し付けられたのが気に入らないの。

 と思ったが、これ以上反抗しても仕方ないので心の中に留めておいた。


「カールスに目を付けられるなんてあんたも災難ね。

 あれは相当歪んでいるわよ。気をつけなさい」


 うん。さっきのを見ただけでわかるよと思いながらも、忠告をくれたナオミにお礼を言って隣を歩く。

 それに釣られるようにアキト、ヒロキ、アミも集まって来た。


 そういえば、ユリはどうしたんだ?

 と振り返ってみれば、まだ一人小屋の中でふぅちゃんとの別れを惜しんでいた。

 もうちょっと離れるだけでも駄目なくらいになってしまったらしい。これはこれで大丈夫なのだろうか?

 そろそろ見失うんじゃないかと思うくらいに離れた頃、凄いスピードで彼女は追いついてきた。

 全力疾走して来た所為で髪が後ろに流れて普通に素顔を晒しているが、教えてあげた方が良いかな?


 いや、どうやら彼女の胸中は今それどころではなさそうだ。


『くっ』っとわが子を谷底に落としてきたかの様に歯を食いしばり悔やんでいる。

 だが短い眉毛と低い身長が彼女をより幼く見せ、おままごとの様に感じてしまう。


 何この子可愛い。


「ユリ、ユリさん? 師匠? お嬢様? ……美少女戦士、ユリちゃぁぁん!」

「――――っ!?」


 ハッと我に返り「変な呼び方しないでください!」と周囲をキョロキョロと見渡す。

 彼女は昨日のグループのメンバーに囲まれていた事をやっと把握したようだ。

 

「おお、やっと戻ってきた」

「俺達の中で一番依存してるのはユリさんだね」

「でもまあ、うちのしぃちゃんが一番可愛いけどね」

「はぁ? アンの方が可愛いし!」

「いや、どれも似たり寄ったりで可愛いさは変わらないじゃないか」

「「「変わるよ(わ)!!」」」


 と、何故か仲裁に入ったアキトが責められたりしながらも歩を進め、外壁に到着した。 

 この学院は町の外壁沿いに作られていて、この門も学校の管理下に置かれているそうで何の手続きも無く、通り抜ける事が出来た。


 生まれて初めての町の外にワクワクが隠せない。

 さて、何処に行くのだろうかと先生の動向をうかがっていれば、出て直ぐの所にある頑丈そうな建物の戸を開けた。

 え? ここなの? 近すぎだろ。ワクワクを返せ。

 と思ったけど、ダンジョンも未知の領域だ。そっちを楽しめばいい。


「ここからダンジョンだ。言う事を聞かない奴は何かあっても助けず見捨てるから、それが嫌なら俺の指示を最優先に行動すること。

 ああ、自分で切り抜けられるならば思った通りに行動していいぞ。それに対するペナルティも無い。だが、何かあっても教師に助けて貰おうって考えは捨てろ」


 別行動したい奴は名乗りを上げろと挑戦的な笑みを向けつつ問い掛ける。

 それに応えたのは意外な事にユリだった。

 いや、学年トップなんだし、実力的には問題ないんだろうけど普段の性格を見てるとこうして前に出るのは予想外だった。


「先生、此処で出る魔物なら問題ありませんので別行動をさせて頂いても構いませんか?」

「ああ、勿論だ。

 全員を見てやるのは無理だし、面倒を見れるなら何人か連れて行っていいぞ?」


 その言葉を受けて彼女は俺達に視線を向けた。

 連れて行ってくれるならユリに付いて行きたい。

 正直なところ、厄介ごとを押し付けてくる先生に付いて行くよりも安心だ。

 隠してる力見せてみろなんて言われたらクソ雑魚の俺は下手したら死ぬからな。


「付いて行っても良いか?」


 そう問い掛ければユリはコクコクと頷いてくれた。

 その返事を受けて彼女の隣に移動すれば、アキトたちも一緒に付いて来た。

 不安そうな顔でアミが「本当に守りながらでもやれるの?」とユリに問いかける。


「はい。ここの魔物、低層は本当に弱いんですよ」

「って、試験官に勝っちゃったあんたに言われてもねぇ。

 私らでもやれるかが問題なのよ」


 え? 試験官を倒しちゃったのキミ……?


「別に、不安なら先生と一緒に行ってもいいですもん」


 ですもんって……

 でもまあ、信じられないなら付いてくる必要は無いわな。


「俺はいくぞ。あっちに付いて行っても戦闘を経験出来るかわかんねぇしな」

「そうだね。実戦経験は出来るだけ多い方がいい」

「……私は先生の所行こうかな。

 信じてないわけじゃないけど、見慣れるまで戦闘とかしたくないし。

 皆で固まって見てるだけがしたい」

「うーん、私も今回はパスね。戦うことに拘ってないし」


 そういうとナオミとアミは先生の輪の方に入っていった。

 

「お二人は身体能力強化は出来ますか?」


 ユリが問いかけると二人は頷いた。おかしいな、アキトの家は貧乏だって聞いた気が……出来ないの俺だけだったの?

 って、そう言えばここAクラスで皆俺より強いんだった。

 うん。何かしら優秀じゃないとこのクラスには入れないよな。

 

「では、武装して入りましょう。階層を一つ降りるまでは本当に弱い魔物しかでませんので強化しているだけで大怪我する事はありえませんから安心してください」


 ユリの声掛けに従い、俺達は魔装を纏い他の生徒達より一足先にダンジョンへと歩を進めた。

 その際、俺は皆からの注目を集めひそひそと噂される事となった。


『おい、あいつ専用武装だぜ』

『すげぇ拘ってるな、同年代であそこまで作ってる奴は初めて見た』

『そういえば先生が実力を隠してるって言ってたね』

『ふーん。まあ凄いとは思うけど、学院でまで実力を隠すなんて姑息ね』


 などといった声が聴こえてきた。

 失敗した。学校行事くらい公式武装で参加するべきだった。

 だって俺が身体強化覚えたくらいじゃ絶対こいつらに勝てないもの。

 またユリの時みたいに吹き飛ばされて転がるだけだ。

 ユリのお陰でもうさすがに一撃って事はないだろうが。


 そんな視線を浴びながら中に入ってみれば、そこは凸凹ではあるが天然ものとは言い難いくらいには整った形の洞窟だった。

 通路の広さもかなりなものだ。武器を伸ばして振り回しても余裕そうだな。

 それに灯りも無いのに普通に見える。夜に何かしたい場合は最適だな。

 いや、灯りをともせない程に貧乏ではないが、この学院に居ると自分が如何に貧乏かを思い知らされるからつい節約を考えてしまうな。


「ダンジョンの中なので過度なおふざけは無しでお願いしますね。

 先生が何度も言っていましたが、何かあった時に助けられなくなります」

「いや、あいつは助けないって言ってたぞ?」


 クラスの皆が完全に見えなくなった頃、ユリは足を止めて振り返った。

 ヒロキは先生に思う所があるのか入って来た方に視線を向け、嫌悪感を見せて言葉を返した。


「まあ、引率者というものは面倒事が起これば貧乏くじを引く立場ですからね。

 恐らく間違いが起こらない様に、きつく言いたかったのでしょう」


 自分勝手な者達が複数人居ればそれはもう大変な事になるとユリは語る。

 勝手な行動をして魔物を連れてきて、自分より弱い人に魔物を擦り付けたりと首を大きく傾げたくなる行動をするのだと。

 彼女の言葉にアキトが「あ~、あるよね」と共感の意を示した。


「うちの下の子達も興奮してるとどうしてそうなったのって心底思う様な行動をする時があるよ」

「あぁ、アミもそうだわ。あいつがテンパると思考回路がマジでおかしな事になる」


 二人とも何かを思い出しながら頬を引き攣らせている。

 何があったのか気になる所だが、今はダンジョンの中なんだから自重だな。

 一応話しの軌道修正しとこうかな。


「まあ極限状態になると人間は判断力が低下するのが普通だよな。

 だからこそ極限状態に陥らないように経験者の言う事を聞いて少しでも有利な状況を作りながら行動しようってことだろ?」

「その通りです。私も皆さんも例外ではありません。慣れない内は戦闘に関する事以外の私語は出来るだけ慎み、後方を見張る役を決めて纏まって行動する。

 その三つをキッチリ守るだけで不意打ちを喰らうことはまずなくります。

 まあ、ここは弱い魔物しか居ませんし私語は解禁としましょう。

 聞きたいことが沢山出てくるでしょうしね。

 ですが、本来は過度な私語は厳禁です。

 人によってはいきなり殴られても当たり前だと言われてしまうほどにいけない事だという事を頭に入れて置いてください」


 指を立てて少しドヤ顔で語る彼女も武装しているので素顔を晒している。

 細く華奢な彼女が甲冑を着込むというのは違和感を感じるが、堂々としているからか、これはこれでありだ。

 そんな事を思いながら彼女を見ていれば「では行きましょうか」と少し急かすように歩を進める。

 あれ? 後ろを見る役は? と思って聞いてみたが、まだ入り口から分岐してないので後方からは来ませんよと言われてしまった。確かにそうだ。

 そんな事を話していればアキトが分岐点が発生し次第自分が後ろを見ると言ってくれた。


 そして俺達は奥へ奥へと進んで行く。

 ユリはダンジョンに慣れているのか、進むペースが速い。

 競歩とまでは言わないが、曲がり角でも止まらず街中を歩いてきた時よりも早いくらいだ。


「なぁ、ダンジョン探索ってこんなにさくさく進むものなのか?」


 ヒロキの問い掛けにユリは苦笑して応える。


「いえ、明らかに弱い区域だから出来ることです。時間制限がありますし、ここで索敵してしまえば授業の妨害をしてしまいますからね」


 ユリは続けて「多分、二階層への道のりから外れれば敵と出会うと思いますが」と言う。どうやら彼女はここの道順を知っているようだ。


「ああ、後ろからクラスの皆が来てるから気を使ってたのか」

「へぇ……ユリはここの道順知ってるんだな?」


 ユリは俺達に笑顔で返事をすると懐から紙を取り出した。


「ええ。地図も持ち歩いています。頭にも入れてきたので貸しましょうか?」


 いきなり決まったダンジョン探索だというのにその用意周到さに俺達は舌を巻いて「おおぉ」と声を上げる。

 軽く全員で地図を見て現在位置を確認してみれば、丁度階段のマークが付いた場所だった。

 周りを見渡せばかなりの急勾配で斜めに穴が開いていた。


「え? ここから降りるの? 登れなくなる奴とかいるんじゃ」と、俺は素直な感想を口にした。


「いやいや、お前、このくらい強化しなくても余裕だろ? マジで言ってる?」

「確かにこのくらいなら勢いで一足飛びに上がれそうだね」


 えっ、そうなの?

 女の子とかで身体能力強化持ってなければ……

 いや、この世界の奴らは男女問わずパワフルだったな……華奢とか関係なく。


「あー、ルイさんは昨日身体能力強化の魔法を覚えたばかりですからね」


 とユリが無理やりなフォローを入れてくれたが、逆に「何でそれでAクラス入りしてんだよ」とヒロキに突っ込まれ「フッ、俺は天才らしいからな」と返し、じゃれながら地下二階層に到達した。

 そして、降りて早々にユリがぼそぼそと「あ、居ます」と小さく声を上げた。

 俺らは必死にどこからだと周囲を見渡すが見当たらない。どこだよと焦り、ユリの視線の向う先をうかがうが、その先には何もいない。


「い、居なくないか?」

「あっちから音がしましたからね。恐らく二匹以上は居ます。行ってみましょう」


 何このプロ具合。と俺達はユリを尊敬のまなざしで見つめた。

 彼女の行った方向に進み、T字を曲がった所に三匹の魔物がいた。その魔物は巨大な蝙蝠だ。天井にぶら下がっていた。

 まだ気付かれていない。どうするんだと問い掛ける様に全員の視線がユリへと向う。


「本当に弱いですから、折角ですし皆さんでやってみてください。

 もし危なければ私が即座に討伐しますから」


「「「えっ!?」」」


 マジかよとヒロキとアキトに視線をまわす。

 その戸惑いを見て取った彼女が「昨日の動きが出来ればルイさん一人でも討伐可能ですよ」と少し挑戦的な笑みを向けて問う。


 ふむ、師匠にそんな風に言われてしまったら引けないな。


 その言葉に一つ頷いて俺は一人、刀の刀身を伸ばし調節を始めた。

 それを見た二人も同様に準備を始めると、こちらを微笑ましそうに見つめるユリ。

 少し引っ込み思案な感じだと思っていたがヒロキたちにも慣れてきたようだ。


 けど、ちょっと怖いな。ここで銃作って狙撃したらダメだろうか……?

 いや、趣旨的にダメだよな。うーむ。


「よっしゃぁ! 気合だ気合!! オレは行くぜ!」


 馬鹿みたいに太い両手剣を構えたヒロキが、大きく上げた声で蝙蝠が飛び上がった。

 もうこうなったら行くしかないとヒロキに続き前に出た。


「うぉりゃぁぁっ!」


 一番最初に前に出たヒロキに我先にと襲い掛かった蝙蝠三匹。

 ヒロキは伸ばした剣で力任せに横薙ぎに切りつけた。

 その乱暴な払いに巻き込まれたのは一匹のみだ。だがその一匹は体の半分を引き裂かれて壁に激突してピクリとも動かない。


「へ、へへ、どうだぁぁぁ!」


 拳を上げて勝利宣言をするヒロキ。さすがにそれは早すぎだろうと思えば案の定「キキィー! キィー!」と残りの二匹が折り返してヒロキに爪を立て牙を剥いた。


「うぉ、ちょ! おい馬鹿やめろ!」


 後ろ前両方から引っ付かれてテンパったヒロキは剣を盾にしようと顔の前に持っていきながら怪しい宗教のお祈りの様な変な踊りを踊っている。 

 そんな彼の引き付けのお陰で俺とアキトは悠々と後ろから蝙蝠を切りつけて初めての戦闘が終了した。


「ナイス引き付け!」

「これからも頼むよ」

「バ、バカー、遅いってのバカー!」


 まるで女の子の様に叫ぶヒロキに俺達は思わす笑い声を漏らした。

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