第75話 再会



 あのエストックとかいう男が私を追うのを確認した直後、森の奥へ奥へと走った。

 もう少しで頭を貫けたのですが、あの絶好の一撃は外れてしまった。

 であれば今は引き離す。時間稼ぎが最善だと信じて。


 これできっと大丈夫。ルイのお父様は無事国軍と合流はできました。

 後はもうルイを追いかけてもいいですかね……


 そう考えた直後、後ろに気配を感じ振り返れば、あの男の姿が在った。

 気持ち悪い軽薄な笑みを浮かべる男。


「さっきのおいたはちょっとやそっとじゃ許してやれないなぁ?」


 ロイス様を危機から救うため、渾身のタイミングで放った一撃。

 それにより彼の頬は大きく裂かれていた。


「貴方が優先順位を理解できない愚か者で助かりました。

 後は時間を稼げばこちらの勝ちです」

「あははぁ、現実見えてる? その時にはお前はもうこの世に居ないけど?」

「ふ、本望です。残念でしたね」


 こちらの言葉を理解できない様子を見せている彼に、銃口を向けた。

 すぐにやられる訳にもいかないと、撃つと同時に距離を取る。


「そんなくだらない玩具がいつまでも通用すると思うなよ」


 はい……?

 ルイの残した銃が玩具?


 あまりにふざけた言動に、思わず異常な速度で追ってきた彼の間合いに自ら飛び込みながら銃を乱射していた。

 しかし、撃った瞬間にはもうその場に居なかった。


「学習できないガキだなぁ。

 捨て身になれば一矢報いることができるとでも思ったの?」

「――っ!?」


 聞こえた声の方向へと防御姿勢を取れば、斬撃により吹き飛ばされていた。

 何とかダメージは軽減できたが銃を叩き壊され、爆発の魔道具が転がって行ってしまった。


 わかっていたけれど強い。

 魔道具を失った以上、銃は作れません。


 仕方がないといつもの武装に切り替え、剣を構える。


「はは、無駄無駄。もう遊ぶつもりは無いから。許してやらないって言ったろ?」

「頭、大丈夫ですか。甚振り殺すしか能の無い男の許しに何か少しでも価値があると本気で思っているのですか?」


 疑問を投げかければ彼は黙り武器を構えた。


「返す言葉が無くなったので戦闘再開するしか無いんですね。わかります」

「あはは、いいよ? 時間を少しだけ取ってやるよ。

 死の苦しみの中で同じことが言えるかな?」


 なんと釣られ易い男でしょうか……

 これで痛みに耐えれば耐えるだけ時間が稼げます。


 それでも一矢報いてやりたいという想いはありますね。

 一の太刀、奥義……今なら使えるでしょうか?


「では同じ事を言って見せましょう。それで貴方を喜ばせない結果になるならば」

「そうやって調子に乗る奴は多いけど、覆さなかった奴は居なかったよ。

 けど、今回は時間が無いから適当に刻んで終わりにするけどねぇ。

 あはは、あったね? 俺の許しに意味。時間稼ぎ、できなくなっちゃったぁ」


 この問答でもう既に時間を稼いでいるのですが……口にするのはやめましょう。

 少しでも時間を稼ぐために。


「仕方がありません。どうぞ」

「そう? じゃあ遠慮なく」


 そう言った瞬間、足元が再び光る。あれは移動速度が跳ね上がる時の合図。

 受け身に回るしかない状態なら三の太刀、円技。

 前回、通用しなかったもの。でもそれしか私は知らない。

 

 だから予測するしかない。この男は相手を屈服させたいという願望を強く持っているは間違いない。

 定番である重量武器で、円技そのものを潰す方向では動かない筈。

 であれば、関節の切り落としを狙ってくるでしょう。


 その考えの元、瞬時に狙い易い側へ剣を盾代わりに関節へと這わせたが、その瞬間強い衝撃に再び飛ばされていた。

 やはり膂力が違い過ぎて円技では一矢報いるのは不可能だと理解させられた。


 では、やりますか。

 実践では使ったこともありませんが……


 跳ね起き正眼に構えれば、今度は普通に追撃に走ってきていた。

 予備動作がしっかり見れるならまだ可能性はあります。


 全身に魔力を這わせ、それがすべて繋がっているイメージ。

 攻撃による力は風のように、水のように、行き場がある場所へと流れる。

 その行き場を逃げ口を操作し敵の力を自らの太刀に乗せる。


 追撃に真っ直ぐ走り寄っただけの上段から雑な振り下ろし。

 恐らくこれはフェイクでしょう。

 この男はプライドが高そうですから、先ほど防がれたのにこれは少し雑過ぎます。


 案の定、足元を光らせて振り下ろす振りをしながらも回転し横薙ぎの攻撃へと無理やり変動させました。


 さて、ある程度力を吸収させるとはいえ、この速度の攻撃を食らってはこちらも致命傷です。

 一の太刀に防御性能は皆無ですからね。

 篭手を厚くすれば腕一本で済むでしょうか……


 不思議と凪いだ気分のまま、正眼に構えた剣を片手で掲げ、腕を斬撃の前に差し出した。


 当然、私の腕は切り裂かれ、宙を舞う。

 しかし、こちらの攻撃を止める術もあちらには無い。

 身の丈に合わぬ力を這わせたお陰で、自分の体が振り回される勢いで上段から振り下ろしが地面に突き刺さった。


 やってみるものですね。まさかこれほどに上手くいくとは――――――――

 あれ……居ない……?


 真上から振り下ろしたのだ。飛ばされはしない。

 瞬時に理解した。当たらなかったと。

 また、ダメだったのか……

 そう思った時、声が聞こえた。


「……何だ今のは。十二将並みの一撃だったが」


 失意のまま顔を上げれば、魔装を切り裂かれ焦りの表情を見せた男の姿があった。

 どうやら傷口を見るに薄皮一枚程度。魔力で相殺されたらしい。

 こちらは腕を失い、血がどんどん流れ出てしまっている。

 無駄ではなかったが、代償は余りに大きい。


「あれすらも避けられてはお手上げですね……」


 どうやら、すぐに攻撃してくる様子は無い。

 ならばとハンカチを使い止血する。


「そういう事を聞いてんじゃない!

 雑魚が出せる一撃じゃねぇだろって言ってんだよ!

 まあいいや……警戒心を持ってれば避けられないほどじゃない」


 それから彼は速度を活かす方向へと切り替えた。

 すれ違いざまの一撃離脱。視界に捉えるのも厳しいほどの速度で小回りされては成す術も無く、一方的に切り刻まれた。

 幸い、力の入った一撃ではない。

 力を逃がし、ギリギリ致命傷を避け続けることはできていた。

 しかし、すぐに終わるだろう。魔装を剥がれ、体を切り裂かれ続けているのだから。

 痛みと失血の眩暈により、とうとう足がもつれた。


「――っ! あっ……」


 唐突に終わりは訪れた。

 完全に隙を晒してしまった。

 男が目の前で止まり、突きの体勢に入っている。

 これは、間に合わない……

 ゆっくりと喉元に迫りくる切っ先がやたらとゆっくり見えた。


 ああ、これでルイの元へと逝ける。

 もう、会いたくて会えない苦しさや、失った悲しみに暮れる必要が無くなる。


 そう思ってゆっくりと目を閉じようとした時、真っ白な光に包まれた。

 驚き、意識を覚醒させ目を見開けば、光が止むと同時に翼を生やしたルイが私の前に降り立った。


 えっ……?

 どうしてルイが、こっちに居るの?


 後ろ姿だけでもわかる。天使になったルイが助けに来てくれていた。

 いいえ、夢ですよね。こんな都合の良い事が起こる筈が……

 でも、ルイならば、もしかしたらそんな無茶も可能にしてくれるかも。


 ううん。夢でもなんでも構わない。

 ずっと、会いたかった。会えるだけでよかったの。


 ずっと謝りたかった。

 私が、あの終わり果てている男ジュリアン・リストルを殺さなかったから、ルイを巻き込んでしまったことを。


「ルイ……ごめんなさい。私、また貴方を巻き込んで……」


 伸ばそうとした方の腕の先が無い事を思い出し、隠そうとしたところで急激に強い眩暈に襲われた。


 どうして。どうしていつも私はこんなにも間が悪いの。

 徹夜なんかで、血が少し流れたくらいで……

 動いて、お願い!!

 ここで、こんな時に、意識を失う訳には……


 薄れゆく意識の中でルイの背に視線を向けていれば、彼が大き過ぎる巨大な銃を作り出し、数十の魔法陣を軽々と宙に浮かべていた。

 ああ、間違いなくルイだ。

 そう思うと強い安堵に包まれ、気の緩みに釣られ強制的に意識が落ちた。








 人をこっちへ寄越すべきだった。

 そう思いながらも森の中を駆け、魔法と銃を撃ちまくりながら奥へと進んでいく。

 まだここは戦えている。人の流れを見るにもっと奥へ、敵の密度が高い場所へと応援に行くべきだと敵陣の奥へと駆け抜けた。


 そして、救援光が上がった場所を少し過ぎると侯爵たちの一団が見えた。

 何か揉めている声が聞こえ聴力を強化した。


「そんな時間はねぇんだよ! 離せ! ユリシアの嬢ちゃんがあぶねぇんだ!

 あいつは、ルイの……ルイの守りたかったものなんだよ!!」

「ならば我らで行きます! 兵が来るまでは、それまではお待ちを!」


 その声を聴き、俺は背筋が凍った。

 ユリが……危ない?

 待て、俺は今まで何をしていた!?

 俺は今まで何の為にここに居た?

 ち、違う! 今はそうじゃねぇ!!


「ユリは何処にいる!!! 俺が行く!! 方角を教えろ!!!」


 男は一目こちらを見た後、アーベイン侯爵たちに押さえつけられながらも森の奥を指した。

 その方角へと飛び上がり、全力で風の魔道具を噴射した。


 バチバチと木の枝に叩かれながらも、もっともっととスピードを上げれば、地が叩かれる衝撃音が響いてそちらの方向へと軌道修正すれば、すぐにユリの姿が見えた。


 体の至る所から血を流し、腕を失うほどの重傷を負っていた。

 その姿を見た瞬間、全身の血が沸騰するのを感じた。


「あ、ああああああああああああああああああああああああああああ」


 今、再び傷つけられようとしているのに距離が遠すぎた。

 間に合わない。


 今、今できる手は!?

 ユリを殺させない為の手段は!?

 クソっ! 確実性の無い光魔法くらいしかねぇ!


 即座に羽を変形させて無理やり急激に静止して動きを止め、光魔法をユリに向けた。魔法陣が出来上がり次第再び飛びユリに近づく。

 案の定、ユリを殺そうとしているクソ野郎は足元を光らせた。

 その瞬間、待機させていた光魔法を起動する。


 一時的に魔装を奪ってもこのままユリが攻撃されないなんて確証は無い。

 急げ! あのクソ野郎の動きが止まっているうちに!!


 躍起になり全力で飛んで駆け付ければ、距離を取る選択をしていた様でこれ以上ユリが傷つけられずに済んだ。

 だが、ここで目を離して俺がやられてしまっては意味が無い。


 ここは一度ユリを連れて飛んで逃げるか?


 いや、飛び上がるまでの時間、放っておく筈が無い。

 イグナートって野郎も恐ろしく速かった。さっきのこいつの動きを見る限り無理だ。


 いや、その前に……こんなゴミ野郎を放置していていいのか?

 とりあえずで殺すべきだよな……

 ユリをこんなにも傷つけやがって……

 絶対に許さない。殺す。


 ダメだ、冷静に活路を見出すべきなんだけど、怒りで頭がおかしくなりそうだ……


 ああ、簡単な話か。

 あのクソ野郎を速攻で殺せばいい。

 そうだ、何逃げるなんて日和ってんだ。

 俺は腹の中にもエリクサーを仕込んでるんだから自殺特攻だってできる。

 簡単に殺せるじゃねぇか……


 だったら一刻も早く、ユリの安全を確保する為にも即座に殺さねぇとな。


「ルイ……ごめんなさい。私、また貴方を巻き込んで……」

 

 後ろからずっと求めていた声色が聴こえ思わず振り返りそうになるが、今はユリの安全の確保が最優先だ。

 敵に隙を晒す訳にはいかない。

 先ずは魔装で彼女の体を包み、魔力操作で体を起こしエリクサーを飲ませた。


「大丈夫。絶対に、絶対に守るから少し待っててな」


 伝えると同時に巨大な銃を作り出し、地に光魔法を待機させ、宙に雷魔法を点々と浮かべた。


「どうしてお前がこっち側に居る……ああ、その傷と顔を見るに逃げて来たのか。

 良いの? きっと今頃イグナート卿がベルファスト目指して侵攻してるけど?」

「……あのクソイケメンならとっくに倒したっての。

 なんにしても、ユリを傷つけたお前が楽に死ねると思うなよ?」


 怒りからか、恐怖は一つも無かった。

 感情の高ぶりで勝手に周囲の魔力が可視化されているが制御に不具合は無さそうだ。


 少し視界が滲むが制御が問題なければどうとでもなると、純粋な不可視の魔力を前面に伸ばしテリトリーを広げた。

 これで一瞬で雷魔法の落下地点を弄れる。


「イグナート卿を倒しただと……!?」

「うるせぇ、ゴミ。そんなことはどうでもいいんだよ。早く死ね」


 取り合えず、先制攻撃をと大砲ばりの銃をぶっ放す。


「それはもう見た――っ!? なにっ!?」


 剣で受け、たたらを踏んだので都合が良いと雷魔法を起動させたが、ギリギリの所で避けられた。

 またあの移動魔法か。厄介な魔法だ。

 だが、もう大体わかった。

 あのイケメンよりも魔力制御が下手なお陰で、発動時間が少し長い。

 本当ならばもう少し調べてから使いたいところだが、発動させるくらいならできるだろう。


 いや、同時進行でコピーもやっとくべきだな。

 と、銃を魔力に戻しレーザーガンを取り出した。


 雷魔法を起動させて魔法を使わせ、足元の魔法陣をレーザーガンで外枠を傷付けた。

 回避が遅れ半分喰らっていたので更に追撃を行う。


「くっ、どれだけ秘術を隠し持っているんだ……一度引いた方が良さそうだな」

「あ? この期に及んでお前を逃がす訳ねぇだろ」


 後ろから追い詰める様に雷を落とせば再び移動魔法を使い、今度は接近してきた。


「あはははは、引っ掛かったな馬鹿め! 近接戦まで持っていけば僕の勝ちだ!」

「……お前、足元すら見えてねぇのか?」


 剣を振るわれるのを無視して待機させていた光魔法を起動し、力のままにゴミ野郎を殴りつければ、範囲の外に転がっていく。


「ふ、ふざけるな! 何故これだけの魔法を使って魔法陣が残ったままになってやがる!

 有り得ないだろ! ――っ!? 魔力が……もうこれだけなのか!?」


 光魔法に消された魔装を作り直しバックパックに手を伸ばしていたが、どうやらそちらも切れたらしい。

 それは好都合とレーザーガンで魔装を切り刻んでやれば、焦って逃げようと走り出したが、こいつを逃がす訳にはいかない。

 こいつだけは絶対に殺す。

 しかしユリとも離れる訳にもいかない。

 ならばとアースウォールを数十ずつ連発させて石の壁で自分ごと囲んだ。


「っ!? ば、化け物め!!」

「化け物ねぇ……お前には俺が化け物クラスに見える訳だ。

 ああ、いいねぇ。どうあっても殺したいお前にそう評されるなら悪くないわ。

 できるだけ、絶望して死ね」


 全力フル強化からの移動魔法にも魔力を全力で送り、最高速で接近してボディブローをかませば吹き飛びアースウォールにめり込んだ。

 そのまま追撃で蹴りつければアースウォールが弾け、血をふきながら転がっていく。

 起き上がりすぐに足元を光らせるが光魔法で阻止し、こちらが移動魔法を使い距離を詰め再び蹴り上げる。


 ああ、ダメだ。

 早く終わらすべきなのにもっと嬲り殺しにしたい。

 油断を生む無駄な行為だとはわかっている。

 けど、抑えきれない……


 その時、人の気配を感じた。

 どうやら、侯爵たちがこちらを見ているらしい。


 ああ、ならもうあっちは平気なんだな……


「な、何故、お前が帝国の秘術を……」

「お前が馬鹿みたいにポンポン使ってるからコピーしたんだよ。

 帝国の奴らに会ったら言っとくわ。お前が教えてくれたってよ」

「そんな、そんな馬鹿な話が……不可能だ。嘘に決まってる!」

「現実逃避か。なら死ぬまでやってろ」


 その言葉を最後に移動魔法を駆使して殴り続けた。


 動かなくなれば魔装に張り付け、ウォーターウォールで溺れさせ意識を覚醒させながら完全に死ぬまで止まらず延々と殴り続けた。


 暫くして、もう死んでいると理解すれば急に我に返った。


 早くユリの所へ行かなければ。

 すぐにアースウォールを消しユリの所へと走る。


 強く抱き寄せ、心音と息を確認して不安を打ち消し、彼女の目が覚めるのを切に願いながらあどけない顔を見つめていれば、彼女の顔にポタリポタリと雫が落ちていることに気がついた。


 どうやらずっと泣いていたらしい。服に濡れた後が点々と付いていた。


 ぽたりと彼女の瞼に雫が落ちたとき、彼女の瞳がゆっくりと開いた。


 よかった……

 ちゃんと目を覚ましてくれてよかったぁ……


「ごめん。遅くなってごめん……」


 後悔の念が溢れて、言いたい事は沢山あるのに謝罪しか出てこなかった。


「ルイ……良かった。まだ、居てくれたのですね。

 私はいつも助けられてばかりです……ごめんなさい。

 私、結局何もできませんでした……」


 何も出来なかったのは俺の方だと否定したが、いいえ私がと涙を流すユリシア。

 変わらぬ彼女の言葉にただただ涙が溢れ出た。

 彼女が居てくれている事を強く実感できて。


「ずっと……ずっと、会いたかった」


 やっと一番言いたかった言葉が言えた。


「それは私の台詞です。

 貴方を愛しています。ルイ……」


 そんなの俺もだよ……

 えっ……!?

 あい、あい、あい……愛っ!?!?


「――――っ!? お、俺もだ!!

 頑張って強くなったし、ちょっとはお金持ちにもなった。

 次こそは絶対に守るし、優しくする! 権力も財力も必要なら手に入れるからっ!

 だから……だから俺と付き合ってくれ!」


 少し前まで当たって砕けろなんて思っていたが、実際目の前にすると砕けたら耐えられないという思いが強くなり、無駄に不恰好に口走っていた。

 幻滅されてないかと不安が走るがユリの柔らかい表情を見て心に暖かさが満ちていく。


「ふふ、そんな条件まだ覚えてたんですか。

 でも、嬉しい……

 ああ、なんて都合の良い夢の世界なんですか。

 夢なのに眠くなるなんてズルい……もっと一緒に居たいのに。

 折角だから夢が終わる前に全力で甘えたいな……夢の中ならいいですよね?

 えへへ、ルイ、チュウしてくださいっ」


 優しい笑みを向けてくれていたユリがゆっくりと目を閉じると、少し顎を上げ唇を差し出した。


 っ!?

 ほ、本当にしていいのか? するぞ?

 夢の中という言葉に少し不安に思いながらも、ゆっくりと顔を近づけ唇を合わせた。

 口付け。

 それはどんな味だとか気持ちいいとか言われるが、まず第一に感じたのは心からのやすらぎと純粋な幸せだった。

 ずっとこうして居たいと暫く続けていれば、彼女は寝息を立てていた。




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