第17話 軍用魔力補給バックパック
授業中に行ったダンジョン攻略の作戦会議にて、ユリから近距離で当てれば銃弾を回収出来て消費量が格段に減るのではないかという提案を受けた。
幸い俺は人より魔力操作の有効距離がかなり長い。敵を貫通した向こう側に具現化させた魔力の板でも置けば貫通でもしない限り魔力を戻せるだろう。
彼女の提案通り、敵を止めて貰い近距離で撃ち殺すというのも可能な筈だ。
ただ、それはろくに戦えない俺が前に出るという事。
安全とは到底言えないものだ。
そこをどうカバーするかに悩まされた。
せめて、もう一人居ればと。
「まあ、無い物強請りしても始まらない。
少し余裕がある階層に落としてやるだけやってみるか」
「そうですね。ですがその前にルイには渡す物があります」
そう言うと彼女は「一先ず教室を出ましょう」と続けて話す場所を移した。
そこで平べったい水筒の様なものを二つ取り出した。
「うん? 水分補給用?」
ユリのお陰で魔法で作れる様になったけど、魔力節約かと思い問いかけた。
「これは軍用魔力補給バックパックです」
「はっ?」
それは俺が欲してやまないが、到底手に入る物ではないと選択肢からも外していた物だった。
国が抱える正規軍の中でもエリートしか支給されないという。そもそも売っていないはずの物である。
バックパックとは、その入れ物の中でなら魔力を保存でき補給を可能とする、魔力保管の効果を得られる魔道具だ。
「なんでユリがこんなの持ってんだ?」
「その……あまり宜しくない悪い話になりますが、貴族には抜け道や裏ルートというものがありまして。懇意にしている商人にお願いしたんです。
魔道具を作れる技師に会うついでに買ってきました」
流石にユリが伯爵令嬢とはいえ、こんなもんポンと二つも買えるはずない。
その金はどうしたんだと問えば、前に話していた能力を上昇させる魔道具を売り払ったと言う。
「おい! 俺の所為でユリの力が下がったら手を貸す意味が無くなるだろ!?」
「いいえ。それは違います。
私はルイのあの能力に賭けているんです。
それが尤も願いに近づく結果を齎すと信じているのです」
考え直せと強く言おうと思ったのだが逆に押されるほど真剣に返されてしまった。
確かに、前世の科学は物凄い力を持っていた。
俺自身も賭ける価値はあると思うからこそ長い時間をかけて銃を作り上げたのだ。
しかしこれが何処まで通用するかなんて――――――
「ユリはよくそんなに簡単に信じられるな。騙されそうで心配だよ」
「それはこっちのセリフです!!
もう! 何が魂に誓ったですか! 恥ずかしくはないのですか!?」
え?
それは好評だったじゃん!
嬉しそうにしてたじゃん!?
と、あの時のリアクションは勘違いだったのかと不安になったが、睨みながらも少しニヤついた口元を見て言い返したかっただけだということを理解した。
しかし、こんな高価な物を本当に受け取っていいのだろうか。
「返せなんて言いませんから取り合えず補充してみて下さい」
そうは言うが俺が持っている図鑑に載っていたので知っている。
これが使い回しが出来ないことを。
一度魔力を吹き込めばその人の魔力以外は受け付けない。
だからこそ希少品であり、国防に最優先とされているのだ。
「せめて片方はユリが登録しないか?」
「……知っていたのですか。でも心配要りません。私はもう既に持っていますから」
おおう。流石お嬢様。
迷っていれば早く使えとせっつかれて戦々恐々としながらもバックパックに魔力を流した。
「これ、人に見つかったら犯罪者になっちゃう感じ?」
「そんな筈がないでしょう! そんな物を強要しません!」
そう言って彼女はバックパックの底の部分を指して「ここを調べて貰えば私とルイの名前が出てくるので心配ありません」と胸を張った。
「そこまでしてくれたんだ……こりゃ本格的に役に立たなきゃ恥じだな」
そうして思いを新たにしていれば、ユリは何故か口を尖らせた。
どうしたんだ?
「……もうちょっとルイは人の気持ちを素直に受け取るべきですよ?」
いやいや、流石に高価過ぎるから。
そう思うものの、もう登録までしたのだからそう言うのも無粋だろう。
改めて、と向かい合い姿勢を正した。
「そうだな。最大限活用させて貰う。ありがとうユリシア」
「――――っ!! べ、別にいいんですよ! それくらい……」
もじもじするユリにほっこりさせられながらも、彼女が言った『魔道具を作れる技師』という話題に触れてみた。
「それで、魔道具の方は出来そうなのか?」
そう問いかければ彼女は模様の描かれた小さな玉を取り出した。
どうやらもう既に出来ているらしい。
「魔道具は問題なさそうなのですが、どうにも調整が上手くいきません。
ルイが苦戦するほどですから簡単ではないのはわかっていたのですが」
「なら、今日はそっちをやろう。
折角ならダンジョンはこれに魔力を貯めてから行った方がいいだろ?」
そう言えば彼女はぱぁっと表情を明るくさせた。
ダンジョンから外の修練場へと目的地を変更して銃身の調整を行う。
コピーしていても完全に模倣できる訳じゃない。
彼女に筒の部分を作成して貰い、俺が自分の銃で型を取った棒を入れていくと途中で突っかかった。
「ああ、これが先ず一つの原因だな。とりあえずこれを修正して試そう」
そうして形の修正をひたすら行い、漸くある程度真っ直ぐ飛ぶ様になった。
弾速も威力を見るに問題無さそうだ。
「で、出来ました!」
とはしゃぐ彼女に「いや、ここからが始まりなんだ」と少し申し訳ない気持ちになりながら訂正する。
完全にピントを合わせ、真っ直ぐ飛んで貰わないと狙いがつけられないのだ。
ずれる分スコープで調整なんて最初は考えたが、ピントがずれてると毎回別の方向へとずれるのでそこが完全に修正できないと長距離射撃は不可能だ。
落ち込むかと思っていたがユリは元気に「それでも希望は見えました」と次に何をすればいいのかと興奮した様を見せている。
次にやる事はひたすら微調整。銃身を気持ち程度いじって試射を繰り返す。
そうして感覚を掴んでいく作業が始まる。
三十メートルほど離れた木を的にして当てる為の調整を幾度も行っていく。
その間暇になった俺は魔力をバックパックに詰めてみた。
俺の予想を反していくら入れても魔力が一杯にならない。もう魔力が半分以下なのに一個すらも埋まらないんだが……
「ユリさん、これめちゃくちゃ入るんだけど?」
「そりゃそうですよ。魔石を吸収し続けた上級の兵士が使う物ですよ。
そのレベルの兵士にはこれでも全く足りていないと言われる程度ですが」
あらら。兵士ってそんなに強いんだな。
いや魔力量イコール強いって訳ではないが、それでも予想を大幅に上方修正した方がよさそうだ。
ひたすらに詰め込んでいけば、もうこれ以上使ったらやばいというラインになってもまだ入りそうだった。
マジかよ。
どう見ても一個で良かったんだが?
もう両方登録しちゃったよ?
なんて呟いていたら「そんなのどうでも良いからこっちを手伝ってくださいよ」と怒られてしまった。
俺は彼女の作った筒と弾に魔力を這わせ、ここにむらがあるとアドバイスを重ねていく。
それを繰り返していけばとうとうある程度距離のある木に当てる程度は問題なく行えるようになった。
次は丸を描いた的を用意して再調整。と思ったがかれこれ四時間近くぶっ通しだ。
「そろそろ休憩入れないか?」
「確かに少し疲れてきましたね。
成果が上がっているので休みたくない気持ちもあるのですが」
そう言いながらも聞き分けの良い彼女は銃から手を離してベンチへと向かい腰を掛ける。
俺もその隣に腰を落ち着けた。
「工程としては習得まで後どのくらいでしょうか?」
「そうだなぁ……
魔力操作は問題なさそうだし、どこまでの性能を求めるかによるな。
言い方を変えるとどこまで遠くを狙うかだ」
ユリは唸りながら考え込んで「ここからダンジョンくらいの距離は難しいですか?」と問う。
いくら近いと言っても町の外だし五百メートル以上はある。
今の俺が狙うなら余裕でいけるだろうが……
「ギリギリラインだな。俺は最初の頃はその距離は無理だった。
だけど見本がある状態だし数週間程度でイケるんじゃないか?」
その返答に安堵の吐息を漏らしたユリ。
相当に銃に希望を持っているのだろう。
だが、何処まで通じるんだろうか。
予想外にも暗殺者たちには通じたが、本来は相手の魔力で大半が打ち消されるはずなのだ。
でなければ攻撃を受けた時も同様に死んでしまうはずだ。
だが、この世界ではそうはならない。魔力による攻撃は魔力で相殺できるのだ。
とはいえ例外もある。
属性魔法の場合はその限りではない。
炎に焼かれればやけどするし水中に落とされれば窒息もする。
ただ、属性魔法から身を守る魔法も存在する。
もしその属性魔法から身を守る魔法すらも意味をなさないのであれば、銃はこの世界でもかなり脅威的な武器になるだろうな。
だが暗殺者に効いたのは恐らくは感知していない状態だったからだと思われる。
そう、攻撃を受けたことすら気付かぬままに貫かれたからだと俺は睨んでいる。
きっと意識の外からの攻撃に体の防衛本能が追いつかなかったのだろう。
その旨をユリにも伝えれば彼女も異論は無さそうだった。
「なぁ、一応可能性としての話なんだけど」
と前置きをして、無防備な状態での奇襲には使えても全方位に気を張った戦闘時には通用しないんじゃないかと問いかけた。
「それは多分その通りでしょうね。
そもそも国の正規の兵士はあの程度の存在ではありません。
魔装も分厚く作りも急所は全て隠しています」
どうやら彼女はその事に気が付いていた様子。
それ以上に魔装で急所をガードされてたら有用性がかなり損なわれると思われる。
いやまあ、急所を守るなんて当たり前だけども。
だとしたら何故そこまで銃にそこまで希望を持つのだろうか。
その疑問は直ぐに晴れた。
「私は間違いなく前線に立たせて貰えません。
ですが、離れた場所から一方的にサポート出来るのであれば話は違います。
これは、尤も私が求めていた物と言っても過言ではないんです」
そうか。元より一つの武器で全てが解決するなんて考え自体が無いのか。
何が何でも参戦したいユリとしては、この力は一番説き伏せやすいものなのか。
確かに最前線の一歩手前の陣から安全に狙い打てるのであれば……
「いや、それでも溺愛する娘は戦場に出さんだろ」
「えっ!? 何故ですか!?」
いやいや、だって最前線崩れたら危ないじゃん!
と彼女に言うが「その程度で危ないと言っていたら何もできません!」とムキになってしまった。
「いやぁ……戦争の最前線一歩手前はその程度じゃないかなぁ?」
「そ、それでも大丈夫です。お父様は挑発に弱いですから!
私が居るのに最前線崩されちゃうんですかぁ? とか言ってあげれば乗ってきます!」
おい!
戦争なんだからそんな挑発はやめて差し上げろ!
ただ、それならば最前線よりも余ほど安全と言えるのも確かだなぁ。
ユリに付いて行こうと思っている俺としても是非ともそこに収まりたい。
「それが出来るなら俺をそのポジションに出すように言ってくれよ。
長距離でしか役立たない戦闘員としてさ。それなら崩壊したら逃げられるだろ」
「ルイが出て私が出ないなど、有り得ません!
ですが一緒に出るのは有りですね。私が撤退の指示を下せますし」
そうした話で盛り上がった後、再び調整を再開すれば直ぐに日が暮れてきてその日はお開きとなった。
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