第3話 最強になれるってさ
朝起きて荷物を纏め、学校の寮へと向う。
そう今日は入寮の日だ。
寮は学校のすぐ隣にあり、巨大なマンションの様な四角い集合住宅の建物が二棟建っている。
貰った案内の紙に目を通せば、ここが男子寮の場所だった。
「これが寮だったのか……マジかよ」
登校時に見えては居たが、ここに住まわせて貰えるとは思ってもみなかった。
真新しく、普通にこのレベルの住まいを借りたら結構な額が取られそうな外観だった。
恐る恐る男子寮へと入りロビーを見渡す。
概観と比べれば少し簡素な作りだが、そもそもが学校の寮なのだからこれでもかなり綺麗な方だろう。
特に誰何する空気もないので守衛だと思われるおじさんに声を掛けた。
「ここ、学院の男子寮であってます……よね?」
「ああ。キミは新入生かい?
ならまず証明できるものと自分の魔獣を連れて来るんだ」
そう問われたのでラクを連れてきて、おじさんに合格の証書を見せた。
部屋に魔獣入れていいのかと疑問に思って聞いてみたら、ある程度大きくなるまでは出来るだけ一緒に居ないといけないらしい。
部屋にケージがあるらしく、そこに入れて管理する様に言いつけられた。
丁寧に説明してくれたおじさんにお礼を言って自分の部屋へと向う。
「えーと、新入生の部屋は三階だから……ああ、ここだ。三階の一番奥だ」
どうやら学年ごとに階が分けられている様だ。
お目当ての部屋へと辿り着き、ワクワクしながら玄関の戸を開けた。
「おお。なんの落ちもなく、綺麗な所じゃねぇか」
学校の施設なのだから前回の使用者も子供だろう。中に入ったら汚いなんて事は普通に有り得ると思っていたが、綺麗だった。
良くみれば小さな傷などは見受けられるが、一つも気にならないレベルだ。
俺も綺麗に使わなければとラクを抱きながらも気を引きしめた。
間取りは十二畳程度の一間とキッチントイレ風呂が付いている。
家具は四人がゆったりと食事を取れるほどのテーブルに椅子、衣類をしまうだろうクローゼット、綺麗でふかふかそうなベッド、獣魔を置いておく場所だろう囲いの付いたベビーベッドのようなものがあった。
キッチンを見れば調理器具から食器、その他には調味料なども置いてある。
身一つで来ても、そのまま住める状態になっていた。
余りの好待遇に部屋を間違えたりしてないよなと少し不安になりつつも辺りを見回す。
するとテーブルの上に一枚の用紙が乗っている事に気が付いた。
手に取って目を通す。
『ようこそ、新入生諸君。
キミ達は今部屋を見てがっかりしている者と、喜んでいる者に分かれていることだろう。
部屋割りはクラス別でグレードが変わってくる仕様となっている。
Aクラスともなれば、部屋も広く風呂付きでベットから食器に至るまで高い水準のものを取り揃えている。
食材こそ自腹だが、調味料なども好きに使ってしまって構わない。
Bクラス以下の者は不満があればAクラスを目指すと良いだろう。
Aクラスの者も、努力をせずにその部屋が使い続けられるものとは思わない方がいい。
皆、精々訓練に励む事だ。
因みに、どのクラスであろうと備品や家具を壊してしまえば、弁償させそれなりの罰を受けて貰うことになるので心して扱うように』
なるほど。そういえば、一階に浴場っぽい場所あったもんな。
風呂付きなのは特別なんだな。
ただ、どう見ても食堂は無かった。飯は自腹でって事なのか?
そう考えると仕送りもない俺は金策を考えなくてはいけないから笑い事じゃないな。
いやいや、飯も出るって話しだったよな?
もしかしてガチで自腹なのか?
っと、あまりだらだらしてるとユリを待たせることになっちまうな。
取り合えず衣類は全部クローゼットにぶち込んで、小物は必要なかったものが大半だし端に寄せておけばいいか。
「よし、んじゃラク、行くぞ」
既に抱きかかえているのだが、目を合わせて声を掛ける。
ラクは返事のつもりなのか「はぐっ」と手を甘噛みしてペロペロと舐めた。
男子寮を出てすぐ隣にある女子寮の方へと足を向ける。
あまりに近寄るのも何か怖いので中間地点にあるベンチに腰を掛けて彼女が出てくるのを待った。
その後、ほんの数分ほど待てば獣魔を抱えてパタパタと走ってくるユリの姿が見受けられた。
「ご、ごめんなさい。その、荷物が一杯あって……急いで準備したんですけど……」
「いや、俺も今来た所だよ。割りといい部屋でビックリして結構見回しちゃったよ」
あまりに恐縮する彼女に、こちらもだからと伝えると気を取り直せた様だ。
「じゃあ、室内訓練場へと向ってしまってかまいませんか?」
「へぇ、室内か。休みの日でも使わせてくれる場所があるんだ?」
そう問い掛ければ、問題無く使える場所があると女子寮の寮監さんに教えて貰ったと彼女は言葉を返した。
そもそも今日は休みなわけではなく新入生は入寮の準備の為に授業は無しとしているだけらしい。
学校の校舎、寮、の他にも建物が立っている。
グラウンドの脇にある倉庫らしきもの、体育館だろう出入り口の扉が大きな建物。
不思議な事に小さなお屋敷みたいのも数軒見受けられた。
俺たちのお目当ての修練場はこの体育館のような建物だ。
思わず見渡して「おおぉ」声を上げてしまう程に大きい。
正面の入り口に辿り着き大扉から中に入り、正面受付を見て思わず首を傾げた。
何故かそこは、普通の雑貨屋だった。
「いらっしゃい。ああ、この時間に来たなら新入生だね。入寮早々に特訓かい?」
「え、ええ。それはそうなのですが、これらは生徒に向けて売っているのですか?」
「あっはっは、当たり前だろう? 教師だけに売ってたんじゃ潰れちまうよ」
恰幅の良いおばちゃんは笑い声をあげた後、商品の説明だけでなく訓練場の利用に付いても色々教えてくれた。
話しを聞いてみれば手続きはこの商店で請け負っているそうで、ルールが割と細かく決まっていた。
訓練場の中は十二の小部屋と四つの中部屋と一つの大部屋に分かれていて、大部屋は共有スペースとなっていて誰もが自由に使っていい訓練場となる。
小部屋はBクラスよりも上の生徒が申請をして借りられる部屋で、中部屋がAクラス専用となる。
小部屋や中部屋は申請をすれば鍵を掛けて個人で使用することも出来る様だ。
早い者勝ちであり、連続した予約は出来ないそうだ。
一応Aクラスに入れた訳だし、開いているなら中部屋をと頼んでみた。
「ああ、中部屋だと後二時間程度なら開いてるよ。小部屋でいいならいくらでも使えるよ。どうする?」
チラリとユリに視線を向けると彼女はちょいちょいと小さく指をさして小部屋の方を指した。確かに時間制限は無いほうがありがたい。
二時間じゃどういう訓練か軽く試す程度で終わってしまうだろうからな。
商店のおばちゃんに「小部屋でお願いします」と告げて鍵を貰った。
「はいよ。もし午後になって全部埋まったら使用時間が制限される場合もあるからね。その場合は前もってアナウンスが流れるからそれに従いな。
まあ、埋まったら普通は大部屋に流れていくから早々無いがね」
なるほど。待ってでも使いたい人ってのが出てこなければ問題ないのか。
まあ、正直俺は個室でなくともいいのだけれども。
それから俺たちは大部屋を一度覗いてから小部屋へと向った。
「小部屋と言われていた割には広いですね」
「だな。二人で使うなら十分過ぎる広さだ」
テニスコートくらいの広さがある。寮といい訓練施設といい、かなり金が掛かっているな。
魔獣ってそんなに高く売れんのか?
そんな感想を思い浮かべ見回している間に、ユリが魔装を身に纏っていた。
公式武装の西洋甲冑スタイル。顔の部分は視界確保の為か全体を覆うようにはなっていない。
頭部に関しては公式でも定められてはいるが個人で作るのが主流で基本的に頭部だけは己で考えて作る部位となる。
ユリは綺麗な装飾の付いた額当ての様な頭装備を選んでいた。
髪の毛がヘアバンドをしたかのように上げられて、顔が良く見える状態になっている。
特に気にした様子も無いので首を傾げそうになったが、額当てで眉毛が隠れているからなのかな?
堂々と立つ彼女の手には顔に似合わずゴッツイ両手剣が握られている。
俺は……どっちにしよう。公式でもいいけど先を見て訓練するなら自分専用の方で鍛えたいよな。
「なぁ、公式武装じゃなきゃダメか?」
「え? いえ、別に決まりはありませんが……もう専用装備作ってあるんですか?」
「いや、そんな大層なもんじゃないんだけど……」
そう言いつつも、西洋甲冑と比べてかなり角ばった作りの全身武装を纏った。
元ネタはアニメや漫画からのものだ。
武器は腰に刀が差してある。
丸ノコとかチェーンソーとか銃とか色々あるが、流石に訓練で使うものじゃない。
訓練で銃突きつけるとか大人気ないにも程があるので自重した。
「き、綺麗……」
「おっ、わかるか? これな、ここがな、こうなっててな―――――――」
自分が好きな物を褒められて気を良くした俺は彼女に機能性に関しても中々悪くない事をアピールしていく。
関節の部分がむき出しにならないようにゴムのような性質を魔力で作り、そこに鎖帷子の様な魔鉄を通してあると説明する。
公式と比べ変換時の魔力消費は激しいが、一度変換させてしまえば維持消費は変わらない。
機能性はこちらの方が断然上だ。どうしても関節を守ろうと普通に覆うと機動性が阻害されるので公式武装は俺には使いづらいのだ。
彼女は「ふんふん。ふわぁぁぁ」っと目の色を輝かせて俺の説明を聞いてくれた。
満足してそろそろ訓練に移ろうかと思い「じゃあ、そろそろ」と話を振ってみたのだが……
「後ろも見せてくださいっ!」
「お、おう……」
後ろを向けば膝の裏を突かれたり、太ももの内側で空いた部分をスリスリされてくすぐったくて声が出そうになったが何とか耐えた。
やっと興奮が収まってきた彼女に「そろそろいいか?」と声をかけた。
「ご、ごめんなさい。私、武装見るのが好きでつい……
で、では、やりましょー」
彼女はごつい両手剣を構えて魔力を通し、更に巨大化させた。
魔装で作った武器は自分で扱う場合に限るが重量をかなり軽く出来る。
そこら辺も魔力操作技能が関わってくるので俺も結構軽くすることが可能だ。
なので安定して操れる範囲までは武器を伸ばすのが普通だ。
ただ、制御する能力が低いのに伸ばし過ぎてしまうとガス漏れの様に黒いもやが吹き出して、戻せるはずの魔力がどんどん霧散していってしまう。
科学チートとかが出来ないかと散々装備を作り変えてとやりまくった俺は、この魔力を制御する技術だけは自信がある。
とはいえ対人戦だし部屋の中だしで、ひたすら大きくすればいいってもんじゃない。
気兼ねなく振れるギリギリまで
その長さを見てユリが頷き、笑みを作った。それに応えるようにこちらも剣を構え一つ頷く。
その瞬間、ユリの姿が掻き消えた。
「え?」と声を上げた瞬間、強い衝撃を受けて壁に叩きつけられた。
薄れ行く意識の中で彼女が口をパッカリ空けて唖然としている姿が見えた。
くっそう……俺、情けねぇ……
そんな事を考えたのが最後に意識を手放した。
「ルイさん、ルイさん……」
肩を揺さぶられて、目が覚めた。
自分が倒れた原因まで記憶が繋がると一瞬で覚醒した。
訓練場の中で壁際で横になっていた体を起こし座りなおす。
「あの……大丈夫ですか?」
半泣きで申し訳無さそうに表情を歪めて顔を覗き見られ、とっさに声を上げる。
「だ、大丈夫。てか、ユリ強いんだな……
正直、全然動きが見えなかったんだけど……」
情けないが、これから訓練しようって相手に嘘を付いても仕方が無いので正直に伝えた。
「ごめんなさい。身体能力強化の魔法を使っていたんです。
魔力制御の錬度の高さからルイさんも使っているのだろうと勝手に思っちゃって……」
ユリは俯き、沈んだ声を出した。
なるほど。あるとは思っていたが、やっぱりあるのか強化魔法。
魔力で肉体を強化してたなら、そりゃつえーわけだ。
もしかして他の奴らも皆使えるからあんな異常な速さで動けるのか!?
マジかよ……けど魔道書なんて絶対買えないだろうしなぁ……
「あー、えっと、あれだな。差があり過ぎるとユリの訓練にならないし、訓練方法を教えてくれよ。俺、全部独学だからさ。
いや、だから学校に来た訳だし教えるのが無理なら一人でなんとかするから大丈夫だけど」
教えてくれと言ったのもの、彼女に何のメリットも無い事を思い出し断っても構わないと告げたのだが、彼女は何かに気が付いた様に頭を上げた。
「ど、独学!? という事は……その装備の設計も一から自分で……?」
「おう。って別にそこはそれほど凄くはなくない?」
食いつく様に問い掛けると彼女は大きく首を横に振った。
「いいえ。刃物とか体にフィットした形は簡単に形成出来るものではありませんから、普通は公式武装を元に改良を重ねていくものなんです。
ルイさんもやりましたよね? 公式武装の型に魔力を通してコピーするのを」
ああ、やったやった。けど、その前からもう自作始めてたからなぁ。
形作るだけならそんなに難しくはないと思うのだけど……
一番苦戦したのは銃の筒と中のライフリングだ。あれだけは作って調整してを延々と繰り返して今でも完成品の筒の部分は持ち歩いている。もう無しでも作れるが、感動の品というか何というか、苦労し過ぎて崩せなくなった一品だ。
てか、そう言えば銃使っても勝てない感じだったなぁ……あんなの銃口向けて追おうとしても絶対無理だわ。当たるわけがない。
萎えるわぁ。俺、ハンターとしてやっていけるんだろうか?
「いや、形作るのだけは得意なんだ。ほれ、椅子、テーブル」
トークを続けるならと、二人分の椅子とテーブルを作成してそっちに座りなおし彼女にも勧める。
訓練場の片隅でまるでティータイムの装いで肩を並べた。
因みに、具現化は変換時に魔力を消費するが、その場で使い続ける場合にはそれ以上の魔力消費は制御が完全ならほぼない。離れてしまえば霧となって消えていくが。
色々なものを何度も何度も作りまくったおかげで、椅子やテーブルなどは作り慣れていて割りと手の込んだ意匠を凝らしてある。
作成時の魔力消費も一瞬で出来上がる為かなり少ない。
「え、ええぇぇ……ち、ちぐはぐですね。普通は身体能力強化を先に習得するものなのですが……」
「いや、俺は叔母さんの所で居候の身だからさ。
家庭教師が必要なとこらへんは全部すっ飛ばして座学と魔力制御ばっかり訓練してたんだ……」
や、やっぱり皆魔法で身体能力強化してんのか。
詠唱も無ければ魔方陣も出ないから、自力なのかと思ってた。
道理であんな動きが出来る訳だ。
だが魔導書なんて買えんぞ。学業の参考書とは桁がいくつも違う。
どうやっても普通に無理だ。
「それなら良かったです。
きっと、そこを習得して貰えればルイさんは学年で最強レベルになれます」
え? それってもしかして……俺のお嫁さんになりたい的な感じのアピール?
唖然として「さ、最強ってもしかして……」彼女をチラリチラリと伺えば、そんな意図は無いと言わんばかりにあわあわと慌てだした。
「えっ? いやっ、違います! 違いますよ!?
そ、そそそ、そういう事じゃないですっ!!
ただ、これなら私が教えられるからってだけで……」
「へっ!? 教えられるってマジで……!?
魔法って魔導書が無くても覚えられるの!?」
「は、はい。結局は魔法陣を正確に覚えて、魔力をその形にするだけですから。
魔道書は魔法陣の形が記してあり、魔力が通せる様になっているだけです。
それが覚えるのをサポートしてくれるので公式武装のコピーと同じですよ。
もちろん、魔法の特性なども細かく記してありますが」
なっ、なんだとぉぉぉ!?
それならいくらでも覚えられるじゃんか!
すっげぇ良い事聞いた。
「いい情報をありがとう」とユリの手を握り感謝の言葉を述べたのだが。
「あ、いえ、強化の魔法陣自体を人に見せる事は無いので、こうした機会が無ければ難しいですよ? 無償で教えてくれる人は少ないですし」
そうは言いながらもユリは「あっ、私が知ってる魔法は全部教えますから安心してくださいね」とはにかんだ。
「有難い。俺も何かお返し出来ればいいんだけど……」
「あっ、じゃあ、関節の部分のあれ教えてください。触った感じだと中々動きやすそうでしたし、自分で作ってみて強度チェックとかしてみたいです」
いや、そんなに強度は高くないよ? と注意しつつも、教えるのは一向に構わないので約束をした。
そして身体能力強化魔法の授業が始まった。
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