第141話 謝りに来た王女


 あれからステルス機で古代種の監視を行っていたが、帝国は上手くやっている様子で高級料理や酒を用意し、普通に雑談を交わしている。


 まあ古代種が酒に酔い、楽しそうに色々話しているのが大半だが。


 どうやらこの古代種、ヴァヴェルという名前らしい。

 千年前の戦争で他の日本人の勢力がこの大陸を捨てて別の大陸に移り住んでいたらしく、その者たちとこの古代種が出会い友好関係を結んだそうだ。


 話を深く聞いて行けば最初は箱舟の子機により攻撃されたそうだが、子機を破壊したら戦意を喪失したらしい。

 その時に美味しそうな匂いがして彼らを放置して彼らの料理を食べたら嵌ってしまい、長い月日を掛けて料理を作らせ続けている内に言葉を学び、そこから真の友好を結んだ様子。


 その過程で他の古代種から守る事や、相当な不快な行為をしない限りは手を出さない約束をしたのだそうだ。

 しかし、彼が半年ほどその場を留守にしたら戻った時には滅んでいたそうだ。

 その犯人は未だに見つかっていないらしく、見つけたら必ず殺すと初めて怒気を見せた。


 人と過ごした五十年が忘れられず、何か楽しいことは無いかと五百年ほど各地を転々としていて偶々この地を見つけたのだと陽気に語る。

 彼の物言いや態度を見るに本当に人と仲良くやりたいという想いを持っていると感じた。

 それは見ていた者たち全員感じた様で即襲われることは無いだろうと安堵の息を漸く吐けた。


 そんなこんなで日も落ちてきて「監視は兵に任せ、一先ず解散と致しましょうか」とファストール公が口に出した時だった。

 兵士から「会談中失礼致します。殿下に急ぎのご報告がございます」との声が扉の向こう側から響いた。

 この場で聞いていいのかな、と視線を向ければお爺ちゃんが頷いたので彼を通して報告を聞く。


「失礼致します!

 レーベンから伝令の兵が来まして、殿下のご友人が参っているそうで詳しくはこちらの手紙に書いてある言っておりました。

 必ず手紙に目を通してからどうするかを決めて頂きたいとの事です!」


 兵士から受け取り、早速コナー伯からの手紙にユリと一緒に目を通せばそこには何故かヒロキたちだけじゃなくレスタールの姫君も居ると書いてあった。


 なるほど。

 ヒロキたちが来たってだけで急ぎの報告ってのに違和感があったがこれか。

 さっと読み終えて手紙をお爺ちゃんに手渡しつつ思考に耽る。


 どうやら姫は謝罪してこいと怒られた様で、ヒロキたちの枠に入りスムーズに俺の所へ来たかったらしい。

 そういう事なら別に会うくらいは構わない。

 とはいえ、流石に姫はこの村には入れられない。

 東京勢力と帝国の民が居るから普通に無理だ。


 入れることは出来ないけど都合はいいかも……と俺に続いて手紙を読み終えたお爺ちゃんに視線を向ける。


「ふむ、レーベンで会うなら構わんでしょう。

 姫からの方が話が早く通るでしょうし、下手な勘繰りの心配が無くなります」


 うん。少しでも早い方がいいよね。

 まあ、リースに居るランドール侯爵たちには将軍たちがそれとなく伝えてくれただろうから何かするってのは有り得ないとは思うけども、それでも人類を脅かす出来事だ。

 レスタール王から伝えておくに越したことは無い。


「大至急だもんね。一刻も早くリースに伝令出して貰わないと……ってうちもじゃん!」

「そちらは問題ありません。ドローンの設置が終わっておりますので通信を繋げられます。

 確認は取りますが、恐らくは陛下の方から伝えてくれている筈です」


 あ、そうか。親父とここから話せるんだから将軍たちとも話せるか。


「申し訳ない」と少し困り顔で言う総理。

 どうやら前回俺とユリが説明の為にリースへ赴いた時は俺が行く事にも意味があるのだろうと口を出さなかったが、一応行かなくても秘密裏に伝えられると親父に説明したのだそうだ。


「あー、そっか。リースへの伝令もそれが無いと早くて五日とかか……

 大丈夫だとは思うけどちょっと怖いね」


 そんな事は気にしてないよ、と話を流しそのまま総理に懸念点を告げた。


「であれば飛空艇を数機貸し出しては如何ですか?

 友好国と聞いておりますしメイの作った飛空艇であれば箱舟とのリンクもありますから、もしもの時はメイに一言頼めば戻せます」

「なんと!? あれ程の物を無償で渡してしまうのですか?

 いやしかし神の園の技術を考えればほんの一端。分解しようとも真似などできぬと考えれば失うものはありませぬが……それでも強い交渉のカードになる。

 大変に惜しいが、言っている場合でもない……か。

 ……であれば気前が良すぎる殿下からというのは後々楽ではあるな」


 え、どういうこと?

 なんで俺からだと楽なの?


 と問いかけるが「では殿下、宜しくお願いしますぞ」と彼はいつものスマイルで言うだけにとどめた。


「じゃあ、行こっか」

「はい。ヒロキさんたちとはシーレンスの活性期以来ですね。

 あれからどうなったのか、私、気になります!」


 ああ、確かに。

 一度ジョージさんに依頼キャンセルを告げに一度行ったから無事殲滅できたのはわかってるけど、詳細は一切聞いていない。


「飛空艇の準備はしておきますので、メイに一声掛けてください」

「殿下、こんな状況下です。念の為イグナート卿をお連れくだされ」


 二人に了解と返しイグナートとカイに声を掛けに行けば、ナタリアさんが付いて行くと言い珍しく彼は動揺した様を見せる。


「リアは待っていてくれ。遅い時間だ。私一人で行くよ」

「あら、一人ってカイも行くのでしょう? それにレーベンなら何の問題も無いじゃない。

 そもそも、魔物討伐に付き合ったのだからもう私結構強い筈よね?」

「いや、ほら、他国の姫が居るだろう。心配なんだ……」

「なぁにぃ? 私が礼儀知らずのお馬鹿さんだとでも言いたいの!?」


 ……いや、それは事実なんじゃ。

 俺も人の事は言えないから言わんけども。

 と二人を見守れば、いつもの通りイグナートが負けてナタリアさんの参加が決まった。


「カイ、今回は護衛って名目だから宜しく頼むな」

「わかりました。

 本来王子様が護衛も無しに婚約者と二人で飛び回るというのが異常ですものね」


 そうだね。でも実力的には要らんから普段から付ける気にはならんのよね。

 今の俺とユリを落とすなら帝国の将軍を連れてこいと言えるくらいにこの一週間、アホみたいに魔物を狩った。

 と言ってもユリと雑談しながら魔道具に魔力を送り続けただけだけども。

 簡単すぎるが故に、どうせなら限界までやっておこうと、大陸各地の山を回る程に倒してきた。

 その枠にはイグナート、カイも入っていて、途中からはナタリアさんも混じっていた。




 三人を連れて飛行船にてリースへと飛び、レーベンの領主邸へと降り立てば強い警戒を示した兵士たちに囲まれてしまったので、直ぐに出て危険は無いと伝えるとコナー伯を連れて来てくれた。

 

「これが、その……神の力ですか」

「いや、神じゃないんだけど……うん。これでもほんの一端だね」


 言葉に反応し権限があるものが指示を出せば勝手に飛んで連れて行ってくれる、と説明すれば唖然とした様を見せるコナー伯。

 そんな彼に現状を説明し、レナ姫に上手い事伝えて貰う計画を伝える。


「確かにこれほど技術を突如隣国が有したとなれば、レスタールからしたら大問題でしょう。

 殿下のお力もありますし、彼らはもっと活発に動かざるをえなくなりますね……」


 伯爵は、これほどの差となると比較的理性的なレスタールでも技術を盗むための間者を出さざるを得ないでしょう、と語る。


 そう言われてみるとオルダムのダンジョンからだと伝えてはいけない理由がよくわかる。


「そっか。オルダムからだとバレると相当強く自国の民を返せと言ってくるだろうね」

「はい、ですがそれだけでは終わりません。こちらも引き渡すなんてことはできませんから」


 そうなれば強引な調査、強引な接触、移住に賛同しなければ拉致まであり得ると言う。

 その過程でうちの兵との争いになるだろう。

 それが起こってしまえばそれはもう戦争だ。

 

「なるほど。先ずは非公式にぼかして伝え相手の出方を見るのですね。わかりました」


 では、レナ姫の元までご案内致します。と彼は踵を返す。

 彼の後ろに付いて勝手知ったる昔の我が家に足を踏み入れたが、大きく様変わりしていて素直に驚いた。


 なるほど。権威を示す為にこういう風に飾るのね、と調度品を見渡しつつも二階の客室へと向かった。

 コナー伯がノックをして扉の向こうへ声を掛ける。


「殿下がご到着なされました。宜しいですか?」


 姫の返事と共にメイドが扉を開け伯に頭を下げる。

 ヒロキたちは別の部屋に居る様で、姫とリアーナさんが対面テーブルのソファーに座っていて、御付きや護衛が壁際に立っていた。

 そんな中、俺とユリは同じ席に着く。何故かナタリアさんもユリの隣に座った。

 イグナートとカイは立っているのに。


「ルイ殿下、ご足労頂き誠にありがとうございます。手紙でもお伝えした通り、先日の無礼を謝罪しに参りました。

 私に出来る事なら何でも致します。どうかお許し頂けないでしょうか?」


 と、上目遣いでこちらを見上げる姫。前回とは全く違う神妙な態度だ。

 陛下に相当絞られたのだろう。

『ん……今何でもするって言ったよね』とか言いたい所だがそんなネタは誰も知らない。ユリに勘違いされたら危険だと言葉を飲みこみつつも言葉を返す。


「ご理解下さったのであればそれで構いません。

 先日もお伝えした通り、気にしておりませんから」

「あの、ルイさん……本当は気にして居らっしゃいます?」


 と、姫の隣に座るリアーナさんが恐る恐る問いかけた。

 こちらも神妙に言葉を返したら勘違いされてしまったらしい。


「いや、マジで全然気にしてないよ。なぁ、シュペル様?」


「で、殿下!?」と、イグナートは口元に人差し指を当て、ナタリアさんの表情を覗き見る。


「なあに? シュペルが関係あるの?」

「「――っ!?」」


 彼女にニコリと笑って「私たちが話に入っていい状況ではないよ」と返すイグナート。

 そんな様を見て姫たち二人は何かに気が付いた様子を見せた。


「なるほど。ルイさんはこれを見て諦めろということなのね……」

「い、いえ、もしかしたら話し合えということかもしれません。どうなのですか!?」


 無駄に深読みをする二人。

 ナタリアさんは遊びに行きたくて強引に付いてきただけなのだが。


「いや、ナタリアさんはマジで勝手に付いてきただけ。

 そんな事よりも別でマジな話があるんだけど……」

「は、はい。勿論最優先にお伺いさせて頂きますが、後にシュペル様の事を伺っても?」


 どうやらイグナートを諦める訳ではなさそうだ。

 そりゃそうか。本気で惚れたら簡単には諦められないよな。

 まあ、気持ちはわかるし普通に話し合いをするだけなら別に構わんのだけど、もう振られてる状況なんだよなぁ……


 疚しい事は無いのに何故かナタリアさんにバレることを恐れているイグナートを覗き見る。


「殿下、今回の一件は世界滅亡の危機と言える事態。

 その話をこの場でするのは不適切かと……」


 と、イグナートからの声に落胆を見せる姫だが、ここで強力な助っ人が現れた。


「あら、シュペルの事なら私も気になるわ。大事な話が終わった後ならいいじゃない」


 明らかに恋敵であろうナタリアさんから援護を受けた姫は感謝を示しつつも負けないぞという気概を見せる。


「あの、その話はこれで一先ずいいとして、世界滅亡とか聞こえたんですけど?」


 イグナートの声にギョッとした表情を見せていたリアーナさんの声で本題へと移る。


「えっと、この星最強クラスの知性を持った魔物が現れたんだ。帝国にだけど……

 そいつは一撃で……本当に一瞬で王都レベルの町を消滅させる力を持ってる」

「「――っ!?」」


 イグナートを気にしていた姫でも流石に看過できない話。こちらに意識を集中させた。


「けど、そんな情報どこで……ルイさんが飛んで見て来たの?」

「いや、そこなんだけどね……」


 と、ダンジョンの場所だけを伏せて日本人救出の話をした。

 一度は技術品全てをダンジョンから出土した物にするかという話も出たが、すぐにバレる上にイメージが悪いということでオルダムからという所だけを伏せることになった。

 主に積極的に聞きたがるリアーナさんへと説明を行う。


「超技術を有し過ぎていて神と崇められた他の星の人間が帝国側にも居て戦争を主導していた、という事……?」

「そうだね。要約するとそんな感じ。その超技術で遠くの映像とかも見れるんだ」


 と、先日の映像を見せる。

 巨大な立体映像のなぎら王が出て来た辺りからだ。


「あの、ルイ王子? この恐ろしいほどに大きなご老人は自らを神だと仰っているのですが?」

「いや、違うよ。力に溺れて奢っちゃった人だね。ほら、その証拠に……」


 丁度俺の立体映像の場面になったので「道具で大きく見せてるだけ」と指を差せば、映像の中の俺もなぎら王は人だということを伝えている。


「えっと……このご老人、ルイさんも神だと言っているのですけど……」

「あはは、そんな訳ないじゃん。俺が神に見える?」

「いいえ、全く」

「うん。だよね。本当に違うから勘違いさせないでね?」


 何故か帝国では俺が神だと信じられ始めているので念を押した。

 そうして映像を見せ終わった後、本題に入る。


「この魔物を下手に刺激すれば人類が滅ぼされる、というのはわかってくれたと思う。だから最低でもこちらから手を出すようなことが無いようにしなければならないでしょ?」


 その問いかけにはずっと黙って視線だけを向けていたレナ姫が頷く。 


「確かに、その通達は急務ですね……それはわかりましたわ。

 でも、これからあの古代種にずっと怯えて生きていかなきゃならないのでしょうか……?」


 ちゃんと話を聞いてくれていた様で姫もすべきことを理解して居て、一先ず安堵した。


「かもしれない。けど、今は出来ることをやる他ないじゃん?」

「ルイさんの魔法でどうにかなりませんの? あのレーザーガンとか……」


 それでどうにかできれば不安は無いんだけど……

 ブラッディベアーですら一瞬での討伐とはならないのだ。

 あれほど強い化け物に当て続けることがそもそも不可能。

 いや、そこはメイに頼めば行けるのか……?


『先ず前提として魔力による現象は未だ未知のものが多く、精度の落ちる予測となります。

 マイマスターの推察通り、恐らく光の魔法でも討伐は失敗に終わるでしょう。

 魔力の性質変化が出来るのであれば、反射出来る素材に変えれば防がれます。

 それに気が付かなかったとしても、不意を突かなければ軽く避けられると予測します。

 勝率は低いでしょう』


 ああ、そっか。

 ミスリルゴーレムだって魔素から出来てるんだよな。

 魔力から性質を変化させた物も光魔法を弾くか。

 てかそれができるなら俺もやりたい。今度試そう。


 けど、前回の時その事は言わんかったよね。何故に?


『マイマスターの命を最優先に考えて伝えるべきではないと判断しました。

 公の場でお伝えすれば逃げるという選択肢を失う可能性が高くなるでしょう。

 私は今も一緒に宇宙に逃げて欲しいと切に願っております』


 おおう、そういう事か。ありがとな。

 一応確認だけど、それって反射させて光を集めて火力を上げた攻撃を想定してるんだよね?


『はい。マスターが保有するミスリルを全て使い、一つ一つに有力者が魔力を送り、一点に集中させて放つことを想定しての事です』


 あ、そこまでの想定をした話なんだ……

 それでも一発で消滅させるのは無理なの?


『難しいかと。運よく古代種が耐性を持っていなければゼロコンマ何秒かでの消滅は可能かと思われますが、尋常じゃない身体能力を持っていると思われますので、消滅までは至らないかと』


 まあ、そうだよな。

 力があって遅い魔物も居たが、あれは見た目からスピードタイプだ。

 虚を突いて一発目を当てたとしても殺す前に効果範囲から出て、その後は完全に避けるんだろうな。

 空中の移動すら消えたと錯覚するほどだったもの。

 

「リアーナ様、お気持ちはわかりますが無理ですわ。

 ルイでも不可能なことはあるんです……」


 俺がメイと話リアーナさんの問いへの間が空き過ぎていた所為か、ユリか代わりに応えてくれていた。

 これで一先ずは彼女たちに状況を理解して貰った筈だと話を先に進める。

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